介護分野におけるICT化の必要性と導入のメリット、活用事例(3/3)
介護分野におけるICT活用の事例
まだまだ数は少ないものの、実際に介護分野におけるICT活用は広がってきている。比較的コストが低いタブレット端末から、コストはかかるがリターンの大きい介護ロボットまで、それぞれの導入事例をチェックしながら、その導入効果について紹介。
見守り機器の導入事例
“医療・介護特化型”をコンセプトに看取りまで行っているサービス付き高齢者向け住宅「わらい〜和楽居〜」では、睡眠見守りセンサー「まもる~の」を導入。「まもる~の」はベッドのマットレス下に設置したセンサーと連携し、利用者の睡眠から離床、部屋の環境までを的確に察知。介護スタッフは別室にいながら複数人の在室状況をモニタリングできる。
- <導入結果>
・定期巡視の必要がなくなったため、スタッフの肉体的精神的負担が軽減された
・利用者による最適な介助タイミングがデータで推測できるようになり、サービスの質が向上した
・データを活用することで新しいスタッフでもベテランスタッフと同等のケアを行うことが可能になった
タブレット端末の活用事例
特別養護老人ホーム「千松の郷」は、職員の業務負担軽減策として「絆 介護情報タブレットシステム」を導入。高齢者介護システムである「絆 介護情報タブレットシステム」では、記録データの登録や介護記録情報の閲覧をいつでもどこでもタブレット上でできる。またキーボードを使わない音声入力や、介護記録に有効なカメラ入力と、タブレット機能を活かした効率的なデータ入力も可能。
- <導入結果>
・職員の労務改善につながり現場の負担が3分の1は軽減された
・業務時間が短縮したことで入居者に寄り添う時間が生まれ、サービスの質が向上した
・カメラ入力によって入居者の皮膚トラブルや拘縮の状態なども詳細に記録できるようになった
介護ロボットの活用事例
ICTの導入と合わせて介護業界でよく検討されるのが、介護支援ロボットの導入。パナソニックが提供する「リショーネPlus」は車椅子とベッドが一体となった離床アシストロボット。これまではベッドから車椅子への移乗介助は2人で利用者の身体を直接抱えて行う必要があったが、リショーネ Plusはベッドの半分が電動リクライニング型の車椅子なので、利用者を移動させる時は、車椅子になる部分をベッドから分離するだけ。ボタンひとつで車椅子が分離されるのでスタッフ一人で移乗介助できる。反対に車椅子からベッドへ移乗する際際は、車椅子をベッドに押し込むだけ。作業負担軽減だけでなく時間も大幅に短縮できる。
- <導入結果>
・スタッフ一人で移乗や離床が可能となったため、介助支援のケアスタッフを呼ぶ必要がなくなった
・以前は二人で担当していた移乗介助が一人でできるため、他の業務に充てる時間が増えた
・離床機会や時間が多くなったことで、ふさぎがちだった利用者が居室から出るようになった
・移乗や離床は大変な作業のため利用者の家族はスタッフに遠慮していたが、頼みやすくなった
ICT導入での“見える化”による新たな課題
ICT導入が広がってはいるものの、導入した先での課題もある。それは「見える化」に成功したことで、これまで気付かなかった小さな変化や異常もデータとして現れるようになったことだ。ケアスタッフは利用者の情報を事細かに知ることができるが、その情報のどこまで介入すべきかは、各事業所、さらには各スタッフに委ねられている。介護業界にICTが普及した時、それによって得た情報をどのように精査し、どこまで対応していくかが今後の課題となるかもしれない。
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