科学的介護とは?官民の取り組み事例(1/3)

超高齢社会で介護現場の人手不足が深刻化し、層の厚い団塊世代が後期高齢者となる2025年問題への懸念が高まる中、最新技術を用いた新しい介護サービス「科学的介護」が注目されている。最新AIや緻密なデータベースの運用によって回復や機能の向上を目指すことのできる介護だ。科学的介護は現在の介護現場や要介護者にとってどのような恩恵をもたらすのか。その効果や実践例と、科学的介護の持つ可能性を探っていきたい。

科学的介護とは?

科学的介護とは

自立支援・重度化防止の効果が科学的に裏付けられた介護のこと。個々の状態に合わせた効果的な介護サービスを提供することで、要介護状態からの悪化防止・改善を目的としている。介護予防や、要介護状態からの悪化を防止・改善させるための先進的な取り組みをしている地域やサービスを提供している事業者はあるものの、狙った結果がどの程度得られているのか、あるいはどのようなリスクがあるかなどについて科学的な検証に裏付けられた情報は乏しい。

そこで、科学的介護の実現に向けてまずは「どのような状態に対してどのような支援をすれば自立につながるか」を明らかにするエビデンスの蓄積が必要とされている。

CHASE 2020年度より導入

このエビデンスの蓄積を目指して厚生労働省により構想されたデータベースが「CHASE」。2020年度からの本格的な運用を目標に介護現場に導入される。介護DBやVISITなど既存のデータベースとともに、その二つが関与していない介護領域をカバーして介護現場の体系的な情報収集を図る。

  • 介護DB(介護保険総合データベース)
    介護保険法に基づき平成25年度より厚生労働省の管理下で運用が開始される。要介護認定データや介護レセプトデータを保有している
  • VISIT(通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業によるデータベース)
    質の高いリハビリテーションの提供を目指して行われるリハビリテーションマネジメントの情報を格納している。計画書やプロセス管理表が中心

科学的介護がもたらす効果

1.介護技術の標準化

確立されたデータが少なくこれまで経験と感覚で行われてきた介護サービスは、エビデンスのもと治療選択を行う医療分野とは異なり、一定レベルの介護サービスを行うための標準化がなされていなかった。しかしデータベースによるエビデンスの蓄積と、最新AI技術を駆使した介護技術の可視化が行われることで、介護技術の標準化が達成できると考えられている。

2.介護現場の負担軽減

介護技術の可視化によって個々に合わせた対応が可能となる。科学的裏付けに基づく介護は、認知症などの行動・心理症状に対するケアプログラムとしても活用され、症状の視覚化が行われる。それらデータから症状の根幹に潜む背景や要因が判明するため、より効果的で効率的な対策を練ることができる。介護現場の負担軽減につながることが期待される。

3.介護費用の削減

社会医学分野の研究者、筒井孝子教授は科学的介護についてこう述べている。

「科学的に裏付けられた介護」とは、「利用者の状態像ごとの標準的な心身機能の変化」 よりも、機能の維持・向上を図ることのできる介護(=パフォーマンスの高い介護)のこと。引用:兵庫県立大学大学院 経営研究科「「科学的に裏付けられた介護」 を基盤とした 介護サービスの適正化」p.4

心身機能の変化よりも機能の維持・向上を目指す科学的介護は、要介護レベルの維持または引き下げにも繋がり、結果的に介護費用の削減につなげることが可能となる。

4.自立支援の促進

政府による未来投資会議で提示された「自立支援介護」が本格的に目指されることになる。科学的介護のもと収集されたエビデンスの活用により、まだ要介護レベルの低い要介護者の自立支援を促進できる。



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