緑地化は医療費削減につながる?

森林や灌木林が多く、緑に囲まれた環境は医療費の削減につながる可能性があることが、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のDouglas Becker氏らが行った研究で示された。全米3,103郡中3,086郡から得た2010~2014年の健康関連や環境データを分析した結果、自然豊かな郡ではメディケアの支出が抑えられていたという。研究の詳細は「Urban Forestry & Urban Greening」5月号に発表された。

この研究は、Becker氏が同大学教授のMatt Browning氏と共同で行ったもの。研究では、年齢や性、人種、世帯収入の中央値、医療へのアクセス、生活習慣などの因子で調整した上で、各郡における土地被覆の種類の平均と一人当たりのメディケアの平均支出額を比較検討した。

分析の結果、森林に覆われた土地面積の1%ごとに、メディケア医療費は一人当たり年間平均4.32ドル(約480円)削減することが分かった。また、この4.32ドルに、郡の出来高払い制のメディケア加入者の人数と森林被覆率の平均値、全米の郡の数とを掛け合わせると、国全体のメディケア支出は毎年60億ドル(約6703憶円)の削減につながることも明らかになった。

さらに、灌木林の面積を増やすことで90億ドル(約1兆54億円)もの医療費が削減されると推定された。Becker氏によれば、財政的に厳しい郡ほど自然を増やすと医療費削減によるベネフィットは大きいことが示されたという。

Becker氏は「最初はこの結果に驚いたが、低所得者が多い地域こそ、費用をかけてでも自然を増やす価値があると考えられた。緑地化を進めることでメディケア医療費はかなり削減できるはずだ」と述べている。

ただ、今回の研究結果は、自然豊かな環境が直接、医療費削減に結びつくことを証明するものではない。しかし、近年、自然が多い環境に住むと健康になるというエビデンスは増えつつあり、今回の結果もその一つに数えられるという。

Becker氏によると、これまでの研究から、うつ病や心血管疾患、身体活動レベル、外科手術後の回復といったさまざまな健康状態は自然環境と関連するものとして注目を集めてきたという。例えば、集中治療室で手術を受けた患者が、駐車場よりも緑豊かな景色を窓から眺めることでより早く回復し、合併症も少ないという研究結果が得られている。また別の研究では、森の中を散歩すると健康を増進するホルモンの数値が上昇したり、がんと闘う免疫細胞が活性化したりする可能性も報告されているという。HealthDay News 2019年4月4日)Copyright © 2019 HealthDay. All rights reserved.

 

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