【対談】訪問美容開業における課題と対策方法(ホットペッパービューティー×ウーマンズ)
2月16日東京開催のホットペッパービューティーアカデミーで訪問美容について勉強させて頂いた後、リクルートライフスタイルのビューティ&ヘルスケア統括本部執行役員の柏村美生氏と訪問美容をテーマに対談した。訪問美容に関する依頼やご相談はウーマンズも今まで度々頂いているものの、成功事例の少なさ・情報量の少なさ・事業効率・収益モデルの弱さなどから躊躇したり、結局は他のヘルスケア事業で進める決断をする企業・店舗が多い。
しかし、確実に今後ニーズは増えていくことが予想され、また新規参入をしたい企業・店舗は増えてくることは間違いない。そこで、今回は訪問美容を開始したいと思っている読者の皆さんが正に「知りたい!」「こんなことが不安!」「これが分からない!」という内容を3つの質問にまとめて、お伺いした。
非常に長文となっているが、柏村氏の知見やアドバイスはどれも非常に役立つ内容のものばかりなので約24分の対談の内容はカットせずほぼそのまままとめている。訪問美容を検討中の方には大変役立つ内容なのでぜひ最後までご覧頂きたい。
目次
本日の質問内容は3つ
- 質問1:訪問美容の広がりに伴い想定される課題は?
- 質問2:成功事例や情報が少ない中、参入の際は何を判断材料にビジネスプランをたてれば良いか?
- 質問3:訪問美容は事業収益性が一番のネック。参入を検討している方々にアドバイスを頂きたい
対談中に出てきた、訪問美容に関する課題解決キーワード
- 女性の新しい働き方
- 働き続けたいと思える業界
- 認知度の低さ
- 今後のマーケット拡大への期待
- 儲かる仕組みの確立=持続性
- 効率重視のマネジメント
- カスタマーのクオリティーオブライフ向上
- 地域包括医療
- 在宅医療
- 普通のビジネスと変わらないマーケティング
質問1:訪問美容の広がりに伴い想定される課題は?
<阿部>
ホットペッパービューティーアカデミー(以下、HPBA)の取り組みにより、今後は訪問美容の認知度が上がっていくと思います。それに伴って生まれてくる課題は様々あると思うので、その辺りのお話を伺えればと思います。
<柏村>
訪問美容を始めるにあたり課題はいろいろあります。まず、大企業や知名度の高い企業では簡単に始められることでも、中小企業や個人サロンにとっては難しいこともたくさんあります。そのような難しさがあるので、本イベントでは業界の人たちと様々な課題について一緒に考えていきたいというのが大前提で開催しています。
<阿部>
今回のイベントには若いサロンオーナーの方もたくさん集まっていますね。訪問美容というと、ちょっと特別な領域というか、未知というか、あまり認知されていないということもあり、どんな人たちが集まるのかな?と興味がありました。今日参加されている方たちを見て、今若い人たちの間でも徐々に訪問美容が認知されていっているのかな、と感じました。
<柏村>
昨年よりこのイベントを始めていますが、今全国的に訪問美容に注目しているサロンが多いと強く感じています。「マーケティング的に人口動態がこう変化して何%こうなるから、マーケットは今後広まりますよね」というような、日本全体の構造上の変化を察知して、興味を持つサロンが増えているというのももちろんありますが、そういうことよりも、スタイリストの方々やオーナー自身が、訪問美容の必要性について現場で実感するようになってきた、ということが大きく関係しているように思います。これまでサロンに通っていたお客様から、「足が悪くなって行けなくなったから、お店が終わった後に自宅まで来てくれないかしら?」「母の髪の毛を切ってあげたいから、髪の毛を切りに自宅に来て欲しい」と依頼されることが全国的に増えてきているのが実態です。ヘアサロンは基本的に「地域一番店」という大事な目標があるので、訪問美容のニーズに応えることは、その目標を達成することにもなります。そのような考えが広まってきていることが、ヘアサロン業界の中で大きな動きとして見られるようになっています。
<阿部>
超高齢社会に突入した日本において、そのようなニーズが新たに登場し、そしてそれに応えたいと考えるヘアサロンが増えてきているのは、ごくごく自然な流れなのでしょうね。ただ、華やかなイメージの強い、街中にある一般的なヘアサロンと比べると、シニア向けのサービスは決して花形とは言えず、キラキラ感がありません。シニア向けの訪問美容に興味を持つサロンや企業からウーマンズにも何度かご相談いただいたことがありますが、「訪問美容はスタッフのモチベーションが下がり、やりたがらない」という声も聞いています。人材の確保は、訪問美容を行うにあたり大きな課題となるのでしょうか?
<柏村>
それについては特別に大きな課題とは感じていません。我々は40万人近くいる休眠美容師に注目しています。休眠美容師とは、美容師の資格を持っているけれど仕事をしていない有資格者のことで、この中には、結婚や出産を機に美容師をやめた人も多い。結婚して子供が生まれたら朝から晩まで働けない、という理由から復職していないんですが、このような女性たちは実は日中の時間が空いていて、その時間をうまく活用できると考えています。
<阿部>
店舗でお客様の来店を待つというスタイルではない訪問美容は出張型なので、働く時間の調整がしやすい。サービスのスタイルと、休眠美容師のママたちの時間の使い方が合致しているんですね。
<柏村>
休眠美容師を訪問美容の担い手として確保できるわけです。実際に訪問美容を行っているサロンでは、それを働き方の選択肢の一つと考えて、ワーキングマザーに注目して積極的に雇用しているところもあります。このように、訪問美容を導入することで多様な働き方をサロンが提示できることは、人材確保に大きく貢献するのではないかと思っています。
<阿部>
働きたくても、勤務時間の問題から働けないママたちはたくさんいます。そのようなママたちにとっては嬉しい働き方ですよね。
<柏村>
そうですね。もしフルタイムで働くとなると、閉店が8時だとしてもそれから掃除をして帰れば帰宅するのは夜遅く。子育てをしながらそのような働き方は現実的ではありません。
<阿部>
訪問美容の需要と、比較的時間の調整がつきやすく自由に働ける訪問美容で働きたいというニーズのある休眠美容師のママたち。このバランスを考えると、人材確保という点では、事業主は課題と考える必要はないのかもしれませんね。そう考えると、今後、訪問美容に従事するのは男性よりも女性が多くなりますか?
<柏村>
女性の方が多いかもしれません。ですが、性別問わず「訪問美容は働きやすい」と考える人が増えていくのではないか、とも思っています。ヘアサロン業界は業界離脱者が多い業界ですが、訪問美容という新しい働き方の登場により「働き続けたい!」と思えるような業界に変わっていければいいですよね。
<阿部>
訪問美容はまだまだ未開拓な分野なので、今後このサービスの一般化により社会や人々にどのような影響を与えていくのか、未知数です。訪問美容に従事する人、サービスを受ける人やその家族、そして訪問美容事業者の存在意義など、ヘアサロン業界全体に何か大きな変化が起きそうですね。
<柏村>
ただ、現在の課題はサービスそのものの認知度と理解度がカスタマー側で低いことです。訪問美容というサービスそのものがあることを知っている人もまだまだ少ないです。
<阿部>
都会では徐々に認知度も上がっていますが、それでも、まだまだ一般的とは言えないのが実情ではないでしょうか。
<柏村>
業界全体で認知度を上げていく必要があります。これは、我々含め業界全体で考えるべき課題です。また、他の課題として感じているのは、訪問美容のイメージです。今は、「訪問美容=オシャレ」というよりも、「自宅あるいは施設で髪の毛を整えるサービス」とひとくくりにされている感があります。しかし、もっとそのイメージのバリエーションは豊かになっていっても良いのでは、と思います。通常のヘアサロンでそうであるように、訪問美容だってカット料金が安いところもあれば高いところもあるというように、事業者によって価格に幅があっても良いし、「おばぁちゃんに大人気の訪問美容カリスマトップスタイリスト!」というスタイリストが登場してきても面白いと思います。「あのスタイリストに切ってもらいたい!」とか、「あのスタイリストはショートヘアが得意だから、あの人に来てもらいたいわ!」とか。そんな話題性があると、訪問美容も盛り上がりを見せるのではないでしょうか。
質問2:成功事例や情報が少ない中、参入の際は何を判断材料にビジネスプランをたてれば良いか?
<阿部>
HPBAはシニアに関する情報も多く発信していますが、日本国内全体でみると、シニアマーケティングに活かせる情報は圧倒的に少ないというのが現状です。訪問美容の事業に参入するにあたり十分と言えるだけのマーケティング情報や成功事例をなかなか見つけられないことが壁となって「訪問美容になかなか踏み切れない」というサロンや企業が多いのも事実です。そのような現状の中で、訪問美容に参入したいサロンや企業は、いわゆる何を「ロールモデル」や「判断材料」にしてビジネスプランを立てれば良いでしょうか?
<柏村>
おっしゃる通り、まだ成功事例は多くないので、ロールモデルや判断材料を見つけるのは難しいのが現状です。訪問美容は「これから」のマーケットなので、「これからのマーケットにどう構えを取るか?」という考え方でいなくてはいけない。これは、我々HPBAも、業界の方々も共に考えていくべきことです。
<阿部>
では、参入にあたり、「絶対に外すべきではない軸となる考え方」は何でしょうか?
<柏村>
当たり前のことですが、訪問美容を行うことでサロンは儲からないといけません。「訪問美容=ボランティア」のような考え方ではなく、きちんとビジネスとして儲からないと、当然持続性がないわけで、「儲かる仕組みで訪問美容のビジネスを始める」というスタンスは絶対に大事にしなくてはいけない。その軸の部分を大事にしていくことが訪問美容の業界を盛り上げることにつながっていくので、その部分を手伝えるよう、HPBAでは訪問美容に関する調査・研究やイベント開催に取り組んでいます。
<阿部>
「儲かる仕組み」というのは、当然、様々な視点から構築していくわけですが、訪問美容においては、その中でも特にどの視点から考えるべきでしょうか?
<柏村>
「効率」です。「効率的なビジネス」を仕組みにすることがとても大事。しかし、これは美容業界の人たちが苦手としている部分なので、そのあたりは、我々がきちんとサロンの皆様を手伝っていきたいと思っています。
<阿部>
業務効率の課題を乗り越えることができれば、ビジネスとしてやっていけると?
<柏村>
そうですね、やっていけると思います。働き手の業務効率をきちんとマネージメントするということをきちんと決めてやらないといけません。訪問美容における現在の法律では、「肉体的にヘアサロンに行けない人の髪の毛を切る」と定められているので、健常者の髪の毛は切ってはいけないんですが、来年度にこの規制が緩和される予定です。これからは、障害を持った方だけではなく、介護をしている家族の髪の毛も切れるようになります。つまり、寝たきりの方の髪の毛を切りに行ったついでに、そのご家族の方の髪の毛も切れるということで、売上も上げやすくなります。一回の訪問で3〜4人の髪の毛を切れるようになれれば、とても効率的なビジネスモデルになると思います。このことは、効率を上げるのに大いに貢献します。もちろん、訪問美容に関する独特の知識の習得も必要です。例えば、認知症の方とのコミュニケーション術とか、じっとしていることが難しい障害者の方をカットする時に、体を揺らしている中でどのようにカットするか、など。訪問美容や障害者美容をやっていく中で、一定のノウハウ技術は得なければいけません。ですが、それ以外で言うと、基本的には業務効率をどのように上げて、いかに売り上げ利益を出すか、という仕組みを考えることがとても大事です。これは本当にマネージメントにかかってきます。
<阿部>
シニア向けのビジネスは、どうしてもボランティア要素が強くなりがちでビジネス要素が消えてしまう。それが、参入したいサロンや企業が躊躇してしまう理由の一つだと思うのですが、持続性のあるビジネスを確立させるためには、マネージメントの意識をきちんと持つことが重要ですね。
<柏村>
ボランティア的な考え方をしない、そして、これから新たに持つべき視点が「シニアのクオリティーオブライフの向上」です。日本は今後間違いなく在宅医療に向かっていきますが、医療だけでは人は幸せにはなれないので、食べる、オシャレ、人とのコミュニケーションなど、クオリティーオブライフの部分はさらに今後重要視されるようになると思っています。
<阿部>
老人ホームなどの施設の中では恋愛もたくさん生まれていて、そのようなことだって、クオリティーオブライフの向上につながり、それが健康力を上げる一つになっていますよね。医療以外の部分で高齢者の健康をサポートできることはたくさんあります。その一つに訪問美容が位置付けられるようになるのではないかと思います。
<柏村>
在宅医療は本人も家族も大変なので、クオリティーオブライフの向上は視野に入れていかないと、皆がアンハッピーになってしまう。お互いにつまらないし辛いですよね、ただただ介護をして介護をされるだけの毎日では。だから、介護をする人も受ける人も、それぞれが楽しみを見出せるようなそんな世の中にしていきたい。地域包括医療と連動して、私たちの取り組みを今後仕組み化していければと考えています。そのためにも、まずは訪問美容という業界を盛り上げていく必要があります。今は、まだヘアサロン業界の人ですらも訪問美容の現場を実際を見たことがない人が多いですが、今は、まさに変革期の入口。ここから3~4年かけて、「訪問美容が当たり前になっていくかどうか?」が決まってくるんじゃないかなと思います。そのためには、今、このビジネスが儲かるか儲からないか?が見えてこなくてはいけない。重要なタイミングです。
<阿部>
日本人は、成功事例があればそれに続いて一気に参入する企業が増えるという風潮がありますが、そこにたどり着くまでに時間がかかる。それを乗り越える時が、今、ですね。
<柏村>
そうですね。超高齢社会になったことで生まれたニーズの変化にきちんと美容業界が応えていけるよう、このイベントで支援していけれと思っています。
質問3:訪問美容は事業収益性が一番のネック。参入を検討している方々にアドバイスを頂きたい
<阿部>
訪問美容は出張型なので、一日にカットできる人数は限られています。事業収益性というところで頭打ちが見えるので、訪問美容のみで事業を行っていく、というのは難しいのでしょうか?
<柏村>
ビジネスモデルによります。例えば大手の介護施設と提携すれば、家賃もかからず一度にカットできる人数も多く、非常に効率的に収益を上げられます。ですがこれから日本が向かっていく、地域包括医療、在宅医療を支えていくということで言うと、やはり自宅訪問でカットすることが増えていくと考えられます。その場合、それに固執する必要はないと思います。どれくらいの利益を上げたいのか?やビジネスモデルによるので、形は様々でしょう。
<阿部>
今後訪問美容をやっていきたいがちょっと躊躇している…というサロンや企業に向けて何かアドバイスはありますか?
<柏村>
訪問美容を特別視して難しく考える方も多いですが、決して特別なことではなく、普通のビジネスと同じように考えて良いと思います。立地、ターゲットになる人はどこにどれくらい住んでいるか、抱えているスタッフにはどんな魅力や技術があるか、どんな資源を活用できるか、などなど、考えるべきことは普通のビジネスと変わりありません。あとは、そこに生産性があるのかないのか、という視点で考えることが大切です。
<阿部>
情報や成功事例が少ない故に、導入を考えているサロンや企業は必要以上に構えすぎなのかもしれませんが、ビジネスの基本的なスタンスは何も変わらないんですね。
<柏村>
また、地域によっては行政による補助金を出してくれるところもあるので、そのような調査も必要です。例えば同じ神奈川県でも、横浜市と横須賀市で条例が異なります。訪問美容を始める際は、必ず行政に問い合わせて確認ください。今は訪問美容に関して法律が複雑ですが、地域包括医療に向けて、今後、必ず、訪問美容に関する様々な規制は緩和されると踏んでいます。ですので、2023年のタイミングには、今よりももっと訪問美容をビジネスにしやすい環境が整っていると思います。そこに向けて、我々も積極的に働きかけを行っていきたいと思っています。
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