介護予防の取り組み事例と運用する上での課題

国は団塊世代が75歳以上となる2025年を目途に、地域包括ケアシステムの構築実現に向けて各種取り組みを進めている。そのための施策の一つとして近年広く知られるようになったキーワードが「介護予防」。介護予防とは、高齢者が要介護状態になるのを予防する、または要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うもので、国、地域、企業各社がさまざまな取り組みを行っている。

介護予防とは

介護予防とは

介護予防とは、要介護の状態になる前の予防策として、健康維持・身体機能維持を図ること。要介護者の増加と急速に進む社会の高齢化を背景に、2006年4月に改定された介護保険法の中で「介護予防サービス」の項目が追加され、介護に対する考え方が「予防重視型」へと転換した。従来の介護予防の考え方と今後の考え方には以下の点が異なる。参考:厚生労働省「これからの介護予防」

従来の介護予防の考え方

  • 心身機能改善を目的とした機能回復訓練に偏りがちだった
  • 介護予防終了後の活動的な状態を維持するための“通える場”が不足していた
  • 多くの介護予防利用者は、機能回復を中心とした訓練の継続こそが有効と考えていた
  • 多くの介護予防提供者は「活動」や「参加」に焦点をあててこなかった

問題点を踏まえた、今後の介護予防の考え方

  • 介護予防は、高齢者が要介護状態になる予防または要介護状態の軽減・悪化の防止を目的として行う
  • 運動機能や栄養状態など心身機能の改善だけを目指すのではなく、生きがいや自己実現のための取組を支援し、QOL向上を目指す
  • 要介護状態になっても、生きがい・役割を持って生活できる地域の居場所づくりを目指す
  • 高齢者を生活支援サービスの担い手であると捉えることで、地域の中で新たな社会的役割を担ってもらう
  • 人と人とのつながりを通じて、通いの場が継続的に拡大する地域づくりの推進
  • 介護予防推進のために、市町村が主体的に取り組む

介護予防に取り組む目的

厚労省は介護予防の目的を「高齢者が要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止」と定義している。高齢者の心身機能の改善だけを目指すのではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促し、個々が生きがいや自己実現のための取組を支援することで、高齢者のQOL向上を目指す。参考:厚生労働省「これからの介護予防」

介護予防の取り組み

団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、介護を必要とする高齢者がさらに増えることが予想される。これを踏まえ、各自治体の地域包括支援センターや介護予防推進センター、民間団体などが介護予防事業に取り組んでいる。

地域包括支援センターとは

高齢者の総合相談、地域の支援体制づくり、介護予防に必要な援助などを行い、保健医療の向上・福祉の増進を包括的に支援することが目的。市町村が設置。参考:厚生労働省「地域包括ケアセンター」

地域介護予防推進センターとは

高齢者が介護を必要とせずに元気に暮らせるよう、介護予防全般に関わる総合的な支援を行うことを目的とした地域における介護予防の拠点。参考:社会福祉法人京都福祉サービス協会「地域介護予防推進センター」

介護予防の取り組み事例と効果

介護予防に関する取り組みの実施状況

介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況(平成29年度)に関しては、「介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況(厚生労働省)に詳細を記載。

介護予防の効果

実際に介護予防に効果はあるのか?介護予防の取り組みによる効果が、調査で明らかにされている。

  • スポーツ組織への参加割合が高い地域ほど、過去1年間に転倒した前期高齢者が少ないことがわかった
  • ボランティアグループなどの地域組織への参加割合が高い地域ほど、認知症リスクを有する後期高齢者の割合が少ないことがわかった
  • 趣味関係のグループへの参加割合が高い地域ほど、うつ得点の平均点が低かった

自治体の介護予防取り組み事例と効果

各自治体では、介護予防に向けた取り組みが行われており、気軽な社会参加の場として機能している。

【広島県・東広島市】

吉川地域の「吉川げんき塾」の事例。

  • <取り組み内容>
    ・週1回、1時間30分/1回 のペースで実施
    ・平均40名の参加
    ・まずは脈拍測定など体調チェックを行う
    ・次に「体操」「脳トレ」の2グループに分かれてプログラムに取り組む
    ・体操の内容:ストレッチ、筋トレ、エアロビクス
    ・脳トレの内容:簡単な計算、クイズ、音読、動物パズルなど
    ・最後、参加者同士の交流時間
  • <効果>
    ・握力、開眼片足立ち、TUG(Timed Up & Go Test)、かな広いテストで改善効果あり
    ・参加者全員が「とても楽しい」「楽しい」「まぁまぁ楽しい」と回答
    参考:三菱総合研究所「地域づくりによる介護予防の取組の効果検証・マニュアル策定に関する調査研究事業報告書」

【高知県・高知市】

内容は各地域により異なり、以下は一例。

  • <取り組み内容>
    ・週1~2回、1~3時間/1回 のペースで実施
    ・平均50~60名の参加
    ・「いきいき百歳体操」と「かみかみ百歳体操」の実施
    ・終了後は、片付けて解散する会場もあれば、参加者同士交流を行う会場、歌や手遊び等のレクリエーション、健康の話、手芸、ラジオ体操、尿失禁体操等、独自のメニューを行なう会場など様々
    ・他、定期的に食事会を行う会場や、保育園児との交流、高齢者の交通事故・振り込め詐欺の勉強会、認知症の勉強会、避難訓練、お花見などのイベントを実施する会場も
  • <効果>
    ・体操をきっかけに、ご近所同士の交流が活発化
    ・顔見知りの住民が声をかけることで虚弱高齢者の誘い出しに成功
    ・右膝伸展筋力は、講座開始前は平均6.9kgだったのが講座終了後は16.1kgに増加
    ・5m歩行時間は、平均7.3秒が4.6秒に短縮
    ・TUGは20.9秒が15.7秒に短縮
    ・自覚的健康感が「よい」「まあよい」の者が6人から13人に増加
    参考:厚生労働省「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」

【神奈川県・横浜市】

横浜市は「元気なうちから介護予防!」をテーマに取り組みを実施。横浜市歌に合わせたトレーニング(=ハマトレ)動画を公開。

  • <取り組み内容>
    ハマトレ
    ロコモ予防のために横浜市が開発したトレーニング「ハマトレ」は、猫背・傾きの改善、股関節の伸展、足関節の動き・バランス力向上を目指す20種の運動から構成されている。ハマトレを続けることで「姿勢が良くなる」「歩幅が広くなる」「歩行速度が速くなる」を期待できる。
    元気づくりステーション
    参加者本人、仲間、地域を元気にする自主的な活動グループで、現在約280カ所の元気づくりステーションが活動中。ハマトレ、ポールウォーキング、健康麻雀、盆踊りなどさまざまな活動を通じて健康づくりと交流を図っている。
    参考:横浜市健康福祉局「高齢者福祉の案内」

【千葉県・浦安市】

浦安市は介護予防リーダー養成講座を行っており、講座修了生を中心とした組織「浦安介護予防アカデミア」と協働で介護予防を進めている。同アカデミアは「介護予防リーダー養成講座」の修了生が中心となって設立された。運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能向上、認知症予防、閉じこもり予防、うつ予防をベースとして7班に分かれて活動中。浦安市の「市民参加型介護予防事業」は国の「地域包括ケアシステム」事例集成50選に選出されている。

介護予防 企業の取り組み事例

JAL×「早稲田イーライフ」

軽度の介護認定を受けた介護予防に取り組む高齢者の「もう一度旅に出たい」要望に応え、安心して参加できるツアー「介護予防チャーター」を、JALと、フィットネスジムのようなデイサービスを全国展開する早稲田イーライフが共同で企画(日程:2018年11月3日(土)~4日(日))。「客のペースに合わせた搭乗と出発のための専用機をチャーター」「旅行に対する不安を払拭できるよう、早稲田イーライフのスタッフが同行」「機内ではサービス介助士資格を保有する客室乗務員が添乗」「機内でエクササイズを実施」が特徴。

介護予防チャーター

出典:日本航空

セントラルスポーツ

「人生100年時代」をサポートするフィットネスプログラム『“セントラリアン”プログラム』を展開。プログラム例は以下。

  • スポーツ吹き矢教室(運動が苦手な人でもゲーム感覚で楽しめる健康増進プログラム)
  • 脳が目覚めるお絵かき教室(脳を活性化させるために開発された臨床美術を応用したアートプログラム)
  • 学びタイム(運動・栄養や防災、介護予防など生活に役立つ知識や健康に関する知識を学ぶ教室)
  • 動きタイム(健康づくりに直結する「膝痛」「筋トレ」「ウォーキング」などのテーマで実施する運動教室)
セントラリアン”プログラム

出典:セントラルスポーツ

富山県立大学

高齢者の介護予防に向けた「アクティブラーニング型健康教育」を開発。プログラムの普及に向けたモデル事業として、地域住民主体の健康づくり教室を開催(2018年8月24日~11月16日)。同プログラムでは、健康づくりに関する学習課題を参加者自ら調査し共有した上で、各自が実践する。専用のテキストを作成することで、専門家・講師を必要とせず、住民主体で実施可能な学習スタイルとしているのが特徴。「アクティブラーニング型健康教育」は、従来の「与える介護予防」ではなく、「自ら実践する力を育てる介護予防」を目指す。

介護予防

出典:富山県立大学

#介護予防

SNSには「#介護予防」で多数の投稿があり、各地の取り組みを確認できる。

介護予防の取り組みの課題

実際に介護予防に取り組んでいる自治体が挙げている課題例は以下。財政面においては「(大きな費用はかからないため)課題は特にない」としている自治体が多いが、施設面、利用者のアクセスなどに対する課題が目立つ。

  • 人材
    ⇒継続的に行政が関わることで、信頼関係につながっているため、今後も定期的な講座への訪問は継続したいと考えているが、どのくらいの頻度でどのように関わるのがよいのか、人材のやりくりを含めて要検討(岡山県津山市)
    ⇒事業の開始から7年が経過。サポーターの高齢化や代替わりが懸念点(北海道滝川市)
  • 施設、設備
    ⇒冬は室温がマイナスになることも。冬季の降雪や寒さ対策が必要(北海道滝川市)
    ⇒自治会館によっては、畳の上にイスを置いてはいけない地域がある。絨毯を敷く等の方法を提案するが実践に結びつかない。(滋賀県栗東市)
    ⇒ビデオ等の設備がない会場に対し、デッキ貸出しを検討中(大阪府島本町)
  • 利用者のアクセス
    ⇒地域偏在があるため、歩いて20分以内に教室がない地域もある。農村地区は家が点在し、徒歩20分圏内で教室を開催することが難しい。冬季になると、通いが困難となる参加者もいる(北海道滝川市)
    ⇒疾病や加齢により自力で通うことができなくなるケースがある(滋賀県栗東市)
    ⇒認知症の人で曜日が分からない場合や介助までは要らないが少し見守りが必要な人が通いやすい工夫の検討が必要(大阪府島本町)
  • 地域に馴染みにくい住民への仕掛け
    ⇒地域に馴染めない住民もいるため、そうした人たちが参加しやすい仕掛けが必要。特に60歳代をターゲットに絞った内容を検討したい(滋賀県栗東市)
  • その他
    ⇒主体的に住民自身が講座を開始するスタイルは落ち着き、最近は新規実施箇所数の伸びが低下。異なるアプローチ手法により、実施箇所を増やす取組みが急務(岡山県津山市)
    ⇒サポーターのレベル維持(大阪府島本町)
    参考:厚生労働省「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」

介護予防に関する情報を取得できるサイト・書籍など

政府資料・HP

介護予防に関する団体など

介護予防に関する書籍

完全版 介護予防マニュアル

高齢者に対する支援と介護保険制度

変わる介護予防の形

介護予防の形が「機能回復訓練」中心から、「機能回復訓練」を基本とした「QOL向上」「地域の居場所づくり」などに変化したことで、実際に高齢者らの心身の状態が良い方向へ改善している成功事例が増えている。健康寿命の延伸は、“新しい介護予防”の形により実現されるだろう。各地域からは、取り組み・運営を通して見えてきた課題も挙がっており、いずれも参考になることが多い。高齢者が心身共に健康的で幸福を感じられる地域づくりに向けて、各地域・各企業の取り組みは定期的にチェックしておきたい。

 

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