まだプラスチック使ってるの?消費者意識と商品事例から見る、ヘルスケア業界の”脱プラマーケ”
プラスチック消費大国ニッポン。日本の一人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量は世界第2位と米国に次いで多く(※1)、海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、近年、世界各国が官民一体となって取り組みを進めている。槍玉にあげられてきた日本でもようやく動きが加速。レジ袋の有料化が始まり、SDGsの浸透も後押しとなり、生活者レベルで本格的に脱プラ意識が高まってきた。
ヘルスケア業界でもこの動きは急加速しているが、生産・販売・販促の各過程であまりにもプラスチックが多用されているため、何から優先的に着手すべきか迷う企業もいれば、脱プラ実現に向け多額の投資が必要になるため躊躇してしまう、あるいは実現困難…と焦る企業も。生活者の意識調査と企業事例ををヒントに、”脱プラマーケ”を練ってみよう。(※1)UNEP「Single-use plastics: A roadmap for sustainability,2018」
目次
実は「過剰」と思われているプラスチック商品・サービス
内閣府が実施した環境問題に関する世論調査(2019.8)で、「プラスチックを使用した様々な商品やサービスの中で、過剰だと思うものは?」と聞いたところ、次の結果となった。
- 1位:お弁当で使う使い捨て小分け用容器や飾り(50.3%)
- 2位:レジ袋(50.1%)
- 3位:通販などで使用される包装、緩衝材(45.8%)
- 4位:飲み物と一緒に提供されるストロー・かき混ぜ棒(44.8%)
- 5位: 食べ物と一緒に提供されるスプーンなどの食器や、おしぼり(36.9%)
- 6位:イベントで配布されるうちわ(35.0%)
- 7位:ペットボトルのラベル(34.7%)
- 8位:スーパーなどのレジの近くに置いてあるロール状のポリ袋(30.2%)
- 9位:ペットボトル(27.0%)
- 10位:その他(0.2%)
- 11位:特にない(5.6%)
- 12位:わからない(0.8%)
これはレジ袋有料化以前に実施された調査なので、現時点で実施したら2位の「レジ袋」の順位は落ちるであろうが、着目したいのは、1位「お弁当の飾り」、4位「飲み物と一緒に提供されるストローやかき混ぜ棒」、5位「食べ物と一緒に提供されるスプーンやおしぼり」、8位「スーパーのレジ近くに置いてあるロール状のポリ袋」など。
企業サイドとしては「良かれ」と思って実施してきたサービスも、時代が変われば「過剰サービス」に括られてしまうのだ。むしろ、こういった”過剰プラスチック”を感じさせる企業は、SDGsの推進に取り組まない企業としてネガティブな印象さえ持たれてしまう。
一部のグローバル企業のように「サプライチェーン全体で脱プラに配慮する」というダイナミックな構想をすぐには実現できなくても、まずは調査結果を参考に、「これって過剰サービスになってるかも?」と思うことから引き算してみてはどうだろう?過剰と思われているなら、引き算したところで顧客に不満を抱かせることはない上に、むしろ「環境に優しい先進的な企業」と太鼓判を押してもらえる。
ヘルスケア企業の脱プラ事例
脱プラに向けた具体的な取り組みを始める動きは、ヘルスケア業界でも活発。様々な切り口から企業事例を見てみよう。
客室のアメニティを脱プラ(ホテルオークラ神戸)
ホテルオークラ神戸では、客室アメニティに使用しているプラスチック製品を一部廃止し、紙製品に変更。髪留めクリップをヘアゴムに変更するなどして、プラスチックゴミの削減に貢献。これにより、年間約1.5tのプラスチックごみの削減を見込めるという。
女性としては、宿泊中に髪を一時的に留められるヘアアイテムがあれば、プラスチックであろうとヘアゴムであろうとどちらでも構わない。ヘアゴムで縛ると髪の毛に跡がつくので嫌がる女性もいるが、そもそも、客室のアメニティのアイテム数は各施設によって異なるので、どこかに宿泊することになれば、女性はヘアセットやメイクセットは持参するもの。よって、コームや髪留めなどのプラスチック製アメニティが無かったとしても不便はないので、問題はないだろう。むしろ、「髪留めクリップ、コーム、歯ブラシなどのアメニティは、たった一回で使い捨てされると思うと使いづらい(だからアメニティは使わない)」と言う女性もいるので、プラスチック製アメニティは、逆に女性に「使えない・使いづらい」不便を感じさている可能性も。アメニティの積極的な脱プラ推進で、逆に、顧客満足度のさらなる向上を図れるかもしれない。
プラ製ストローの添付を全廃(フルッタフルッタ)
株式会社フルッタフルッタは、アサイードリンクの「フルッタアサイーシリーズ」の195g入り商品に添付していたプラスチック製ストローを、2020年4月に全廃。代わりに容器を直接飲用できる形状に変更した。
コロナの感染不安がある中、今は直接飲用に抵抗を感じる女性もいるだろうが、そもそも缶タイプの飲料はストローがないのが当たり前なので、ストローが全廃になったところで違和感は無い。飲み口の衛生面が気になるなら、飲む前に洗うか、除菌シートで拭くか、コップに注いで飲むか、個々がそれぞれに選択すれば良いだけだ。今は紙パック飲料のストロー添付は一般的だが、あと数年もすれば、直接飲用が当たり前になっているだろう。
食品用ラップ代替品の手作りキット
普段の生活の中で、女性が使用に抵抗を感じやすい物の一つが食品用ラップ。その罪悪感や健康不安を払拭する代替品を、株式会社KAWAGUCHIが発売した(グッドデザイン賞2020年度受賞)。布と蜜蝋で作る自作ラップのキットで、手作りできる上に手洗いできるので、何度も使えるのが特徴。食品用ラップの健康被害が気になる女性も安心して使える。
手作りをするワクワクや、自分好みのデザインで仕上げられる楽しみもあることから、「地球環境への配慮」の意識がない女性層も引き込める点が、社会貢献度をさらに押し上げている。
ラベルレスボトル
ラベルレスボトルの事例が最近増えている。ブランド名、社名、産地など様々な情報を記載したフィルムを貼り付けずに販売する形態で、サントリーは今年11月にラベルレスの水とお茶の発売を開始(対象はECチャネル)、アサヒ飲料は2018年に発売を開始(ケース販売専用/今年4月にリニューアル発売)している。ラベルを削減することで、廃棄物量削減による環境負荷の低減を目指している。ラベルレスボトルで特に人気なのは、ロハコが2018年に発売を開始したLOHACO Water。ラベルレスでありながらも、ペットボトルそのものにはさりげないデザインが施されている。「置いているだけでおしゃれ」「シンプルデザインがおしゃれ」「かわいい」など、購入者の評価ポイントは外観に向けられている。
脱プラマーケ、できることからコツコツと
SDGsの浸透により、今各企業に求められているのは海洋プラスチックごみ問題に止まらない。多様性、ジェンダー、水危機など、様々なことに目を向けなくてはならないため、あれもこれもと考えるとマーケティングが錯綜してしまう。まずは女性生活者が反応しやすいポイントを見極め、優先順位を決めて、順に・地道に取り組みを進めるのが良さそうだ。
プラスチック問題については、今回見てきた調査結果や他社の事例が参考になるだろう。2018年10月に環境省が国内で立ち上げた「プラスチック・スマートキャンペーン」のサイトに、各自治体や企業の取り組みが掲載されているので、要チェック。
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