【男女の違いVol.45】広がる性差分析、医療・ヘルスケア領域のニュース深掘り5選

フェムテックの興隆を契機に、業界や社会全体で性差に着目する動きが広がっている。男女の違いを明らかにすることで、これまで見過ごされてきた様々な問題を発見・解決し、女性も男性も心地良く生きることができる社会を目指す「ジェンダード・イノベーション」の概念の浸透が背景にあり、特に医療・ヘルスケア領域で先行している。病気の起こり方や症状、体の発達、健康リスクにおける性差が次々に明らかにされている他、健康ニーズの性差分析も進み、女性の健康問題のみならず、男性の健康問題にもフォーカスする企業の動きが目立ってきた。生活者も、「男女の違い」に興味津々。ソーシャルリスニングを行ったところ、性差にまつわるニュースへの反応は高く、病気や健康の性差に驚きや共感の声を上げる投稿が数多く見られた。

性差について、どんなことが明らかになってきたのか?性差に着目して、企業はどんな取り組みをしているのか?マスメディアを中心に直近1年間で報じられた、性差に関するニュースを編集部がリサーチ。特に話題になったニュースを選定し深掘りした。※本稿で紹介する生活者の声は、SNSを始めネット上に投稿された文章を文意が変わらない程度に編集しています

 

病気の起こり方、症状、薬の副作用に性差

NHKスペシャルは今年4月、性差をテーマにした特集番組を放送した“男性目線”変えてみた 第1回  性差医療の最前線 ~同じ病でも男女に違い!?~。女性と男性では病気の起こり方、症状、薬の効き方や副作用が違うことを、狭心症、大腸がん、認知症などの事例とともに解説した。番組の反響は大きく、NHKスペシャルの他の回の放送よりもTwitter上でのリツイートや「いいね」は多く、性差の概念に対する共感や驚きの声が投稿された。男女の違いから健康問題を捉える方が自分ごと化しやすく、関心を持ちやすいようだ。

  • 興味深い番組だった
  • 性差医学が広まり、手遅れになる女性が減って欲しい
  • 薬の副作用や起こる病気は、男女、人種、筋力の差などで違うとは。私の副作用がひどい理由も納得した
  • たしかに、女性の痛風ってほとんど見たことないかも
  • うつ病は男性に多いイメージだったので驚いた
  • 性差医学が広まり、手遅れになる女性が減って欲しい
  • 病気や健康を生物学的な性差で見ることは、男女を差別することでは全くない。多様な性があるなかで性を2区分することに反対する声もあるが、これは必要な概念だ
  • 男性がかかりやすい病気は生活習慣病、女性の喘息やうつはだいたいが環境からくるのか。おもしろい
  • 女性が気をつけなくてはいけない病気がある。こまめに受診、検診を受けようと思った

 

 

 

男女不平等が女性の脳の発達に悪影響

男女不平等の度合いが大きい国ほど女性の大脳皮質の厚みが男性より薄くなることを、京都大などの国際チームが発表し各紙が報じた(2023年5月上旬)。大脳皮質が薄かったりこの領域の体積が小さいことは、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者にも見られることから、日常生活における男女不平等は女性のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があるという。ネット上には、研究結果に納得の声が。

  • だから女性の方がうつ病が多いんだ
  • ストレスが脳にネガティブな影響を与えるのは、考えてみれば確かに間違いない
  • 男性たちの自信満々ぶりと比較して女性が自責思考で自己肯定感が低くて情緒不安定なのは実生活の中で感じてきたけど、大脳皮質の発達に起因しているのかな…
  • 男女不平等は社会的に問題があるだけでなく、直接脳にも影響するなんて驚き
  • 人種、食生活、文化、宗教などによっても違うと思う。人種や国別のデータも見てみたい

 

 

 

異性への関心を失うと早死に、女性より男性にリスク

「恋をすると女性はキレイになる」とよく言うが、男性の場合は「恋をすると長生きする」ようだ。異性への関心が低いと男性は早死にする傾向があることを、各紙や週刊誌などが報じた(2023年1月〜4月)。山形大学医学部看護学科の桜田香教授の研究チームが、約2万人の追跡調査をもとに異性への関心の有無と死亡リスクの関連について調べたもので、女性にはその関連性は見られなかったとのこと。ちなみに女性については、極端に笑う頻度が低いと死亡リスクが高まるというから、男女ともに健康に長生きするためには、さまざまな人や物事に関心を持ったり、コミュニケーションをとることが重要なようだ。

  • 当てはまりやすいのは男性で女性には影響が見られない、というのがおもしろい
  • 異性への関心だけでなく、さまざまな人や物事に関心を持って交流の機会を持つ事も大事とのこと。生きがいを持たないことが寿命に関わるのは怖い
  • 恋愛に限らず、セルフケアや人との交流など、広い意味での社交性の問題なのでは?
  • 「異性への関心」って何だろう。性欲のこと?心通う人としての繋がり?

 

 

 

男性特有の悩みに着目、広がるサニタリーボックスの設置

最近増えているニュースが、屋外の男性トイレへのサニタリーボックス設置。自治体の庁舎、ホテル、店舗、スーパー、地下鉄などに設置する動きが全国的に広がっており、各紙が昨年から今年にかけて報じている。前立腺がんや膀胱がんの治療中の人、高齢者、男性用トイレを利用するLGBTQの人が、尿漏れパッドや大人用おむつ、生理用品を外出中に捨てられるようにするための取り組み。企業ではヤマダデンキ(2022年末に849店舗に設置完了)、ホテル日航大阪、総合スーパーの平和堂などが取り組んでいる。

 

【画像】ヤマダホールディングス(849店舗の男性トイレに設置されたサニタリーボックス。案内POPには「尿漏れパッドやオムツを使用する方のためのサニタリーボックスです。ペーパーに包んで捨てていただきますようご協力お願いします」と記載)

 

各紙の報道によれば「店舗や自治体庁舎の利用客からの要望があり設置に至った」とのことだが、近年全国的に広がった生理やフェムケアブームの影響も考えられる。これまでタブー視されてきた生理にまつわる悩みが社会でシェアされ、加えて、商業施設など女性トイレでの生理用ナプキン設置や無償配布が進んだことで、尿取りパッドや大人用おむつを使う男性のトイレ悩みも顕在化。社会が男性トイレにまつわる問題にも真摯に向き合うようになったことが、昨今の広がりの背景にありそうだ。LGBTQの人たちの生理やトイレ利用に関する問題が、以前よりも広く議論されるようになったことも関係しているだろう。

日本トイレ協会の調査によれば(2022年)、尿もれパッドやおむつを使用している男性の7割が、「トイレで捨てる場所がなくて困ったことがある」と回答。続いて、サニタリーボックスがなかった場合にどう処理したかを聞いた質問では、最多は「家に持って帰った」で6割。他、「トイレに備え付けの大きなゴミ箱に入れた」「施設内の他のゴミ箱に入れた」「個室の中にそのまま放置してしまった」という回答があったという。

男性のサニタリーボックス設置が進められていることを「声をあげた人スゴイよ。こういう取り組みはもっともっと広がれ」とつぶやいた介護福祉士の「のぶさん@nobu_fukushi」の投稿も、1.6万の「いいね」を集めて話題に。これを取り上げた「まいどなニュース」の記事がYahoo!ニュースに掲載されると、共感の声や設置の重要性を訴える当事者の声が寄せられた。

 

・トイレ清掃の仕事していた事ありますけど、現場で仕事してた人は結構前から言ってたと思いますよ。使用済みの介護オムツやパット、個室トイレのフタの上に放置されたり掃除道具入れの所に投げ捨てられてたりしていましたもん。ただ、言ってもそこの会社の方が若い健康な人だとピンとこないみたいで、設置してもらえなかったですけど。ニュースになって広まってくれるといいな。

・たぶん否定する方は、実際にこの病気になって大変だということを知らないからだと思います。私は長年、腸の病気で、痔に悩まされており、今でも恥ずかしいのですが、生理用ナプキンが無いと、モレがあるためにトイレに出ると、行く前に苦労しています。サニタリーボックスは欲しいですね。最近は、腎炎になってから、尿が膀胱から出にくいために大変です。男女に関係なく、偏見な考えをやめて欲しいです。生理用ナプキンは女性だけではなく、男性の人も使えるので、医薬部外品になっているのは、そのためでしょ。私は病人として言いたい。(引用:Yahoo! ニュース)

 

 

 

性差分析の結果、性差が見られないことも

病気、健康、ニーズに関する性差分析が進み男女の違いが次々に明らかにされているが、一方で、性差分析の結果、性差が見られなかったというニュースもあった「消化器外科医の手術成績に性差なし」時々メディカル,2022.10.3。消化器外科医の手術成績を性差分析したところ、女性医師と男性医師で成績に有意な差は見られなかったという京都大学による性差分析。だが、性差分析を進める過程で女性医師と男性医師の間に多様な格差が存在することを明らかにした点は興味深い。

これまで見えなかった問題や不を顕在化させることで、より良い製品・サービス開発や、より精度の高い個々の健康管理を実現ーー。性差分析は今後さらに加速しそうだ。

 

 

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