性差医療・医学とは? 同じ病気や不調でも男女に違い 今後の新潮流に
ヘルスケア業界では、女性特有の健康問題への関心がかつてないほどに高まり、特に生理・妊娠・出産・更年期・セクシャルなど生殖系ビジネスに該当するフェムテックに商機を見出す動きが活発化している。一方で海外に目を向けると生殖系ビジネスの興隆は落ち着き始め、それ以外の女性特有の健康問題に着目したフェムテックに期待が寄せられている。骨粗鬆症、摂食障害、うつ病、生活習慣病関連など、男女共通の疾患における病態・予後・リスク・発症率の性差に着目したフェムテックだ。この流れは遅かれ早かれ日本にもー。生殖に限らずもっと広い範囲で女性特有の健康問題解決を目指したフェムテックが登場する。
そんなフェムテックビジネスを発想する際に役立つ概念が「性差医療・性差医学」。今後「フェムテック」という言葉そのもののブームは落ち着いたとしても、フェムテック本来の概念とも言える「性差医療・性差医学」の考え方は残っていく。この時流に乗り遅れることのないよう、学びを深めておこう。
性差医療・性差医学とは?
「性差医療」とは男女の違いに基づき発生する疾患・病態の違いを念頭に行う医療のことで、その差異を研究する学問を「性差医学」と呼ぶ。始まりは1957年の米国と言われており、1960〜1970年代に起きたサリドマイド薬害、心血管疾患死亡数における男女差、1985年のNIH(アメリカ国立衛生研究所)による女性特有の病態に関する研究などを背景にしながら医療界で性差が注目されるようになり、研究が進展。やがて日本でもこの概念が注目され、2000年に入り医療の現場で導入が始まった。以下は性差医学・性差医療の歴史を簡略的にまとめたもの(参考:「性差医学・医療の進歩と臨床展開」医歯薬出版,2018)。
- 1957年:【米】女性ジャーナリストが女性の健康を守る社会運動を起こす
- 1975年:【米】「全国女性の健康ネットワーク」が創設される
- 1994年:【米】FDAが「薬剤の治験の際には女性を半分含めることを推奨」と通達(医療業界に性別の意識が高まるきっかけになる)
- 2001年:【日本】鹿児島大学に日本初の「女性専用外来」が創設される
- 2004年:【日本】「性差医療・性差医学研究会」が創設される
- 2008年:【日本】「性差医療・性差医学研究会」が「日本性差医学・医療学会」へ発展
医療における性差の事例
医療やヘルスケアにおける性差というと、女性のみが有するもの(生理、妊娠、出産、更年期、女性特有がんなど)に対し、男性のみが有するもの(精巣、前立腺など)といった、どちらか一方の性が有するものを思い浮かべがちだが、男女共通で発症する疾患における性差や薬力の性差もある。医療の現場で確認されている性差の事例をいくつか見てみよう。(参考:「性差医学・医療の進歩と臨床展開」医歯薬出版,2018)。
- <虚血性心疾患の自覚症状>
女性:顎や咽頭痛、腹部症状(嘔気・嘔吐・食欲不振・腹痛)、背部痛、肩痛
男性:胸痛 - <虚血性心疾患の予後>
女性は男性より発症率は低いが、一度発症すると予後は不良 - <がんの発症>
女性喫煙者は男性喫煙者よりも肺がんを発症しやすい - <がんの治療>
薬剤の有効性・安全性は性差がある(具体的な報告内容は同書pp.119-123) - <認知症の症状>
女性:妄想状態の頻度が高い
男性:介護者に対する攻撃や暴力が問題になりやすい - <認知症の身体合併症>
女性:骨粗鬆症や関節炎などADLを低下させる合併症が多い
男性:心疾患、脳血管障害など生命を脅かす合併症が多い
性差医学・性差医療を理解できる書籍
性差医学に関する情報は未だ不十分で、専門書も少ない。国内では1990年代頃より性差に着目した書籍が登場しているが、その多くは脳・思考の性差をテーマにした一般向けのもので、医療やヘルスケアにおける性差を網羅的に解説したものは数えるほどしか見当たらない(編集部調べ)。社会全体が女性の健康問題に関心を寄せてこなかったせいだろう、国内で性差医学の概念が登場した当初はいくつか専門書が出たものの、その後はさっぱり。
唯一ヘルスケア業界人が参考にできる比較的新しい書籍がこちら。医療の専門的な話が多いが、前述の事例を見てきた通り、医療・ヘルスケアにおける性差は実に多様であることを理解できる。女性ヘルスケア/フェムテックビジネスの発想に役立つ内容なので、ぜひ一読してみては?
性差ヘルスケアは期待市場
国内における性差医学・性差医療の歴史は実に浅く、始まったばかり。そして、ヘルスケア業界を始め民間企業や行政にも広くこの概念が広まり始めるのが、フェムテックブームが到来したまさに今で、今後の急速な発展が見込まれる期待市場だ。性差に着目した医療が「性差医療」と定義されているなら、性差に着目したヘルスケア商品・サービスは「性差ヘルスケア」に分類されると言えよう。これを女性ヘルスケア業界の合言葉に、この分野の盛り上がりに期待したい。
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