女性は50歳を超えたら社会の脇役? SATC続編ドラマ、話題沸騰の裏で起きている年齢差別
米国のドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」の続編「And Just Like That…」の放送が12月に始まる(HBO Max配信)。SATCは1998年から2004年に放送されるや否や、たちまち世界各国で一大旋風を巻き起こした大ヒットドラマ。続編には当時と同じキャストが出演することから公開を心待ちにしているファンは多く、日本でも今年に入ってから女性誌のVOGUE、ELLE、Harper’s BAZAARなどが度々紹介し話題を集めている。
一方で、別の側面からもこの続編が注目されているのをご存知だろうか?年齢を重ね50代に突入した女性キャストに対する年齢差別(エイジズム)だ。世界中が大きな期待を寄せるドラマの裏側で、社会問題が浮き彫りにー。
SATC、世界中の女性のロールモデルに
SATCはニューヨークに住む仲良し4人組の30〜40代独身女性をコミカルに描いたドラマ。4人の友情・恋愛・セックス・仕事・生き方が赤裸々に語られていくストーリー展開で、リアルなガールズトークや華やかなファッションが、世界中の女性を魅了し共感を呼んだ。「一定の年齢になったら女性は結婚をするもの」というそれまでの画一的な生き方や結婚観にこだわることなく恋愛やキャリアを自由奔放に楽しみニューヨークを闊歩する4人の姿は、当時の若い女性たちにとってまばゆい存在。新しい生き方を示すロールモデルとなったことも、このドラマが評価される際によく特筆される点だ。
そのドラマの続編が発表されたのが今年始めで、以来、米国はもとより日本を含め各国で話題沸騰。SATCに馴染みのない現10〜20代の若者は「中年女性が主役のドラマが、どうしてこんなに話題なの?」と不思議がるだろうが、20年前のドラマ放送当時や10年ほど前に続編として公開された映画(SATC the movie, SATC2 the movie)を楽しんでいた現30〜50代の女性にとっては、今年のエンターテインメント最大のビッグニュースだろう。
続編では仲良し4人組のうち3人が登場。50代を迎えた彼女たちの生き方や人間関係など、中年女性のリアルな様子を描き出す。
50代の女性キャストに向けられた年齢差別
続編を心待ちにするファンの声が各国で上がった一方で、辛辣な声も。各メディアで続編の公開が報じられると、リブート版でキャストの若返りを図らなかった点を評価する声が上がったものの、キャスト3人の容姿に起きた変化を批評するコメントもあった。シワや白髪などのエイジングサインを悲観するもので、メインキャストの1人であるキャリー役のサラ・ジェシカ・パーカー氏は、「私たちに対しては女性蔑視的なコメントがたくさんあった。そのようなコメントは決して男性に対しては起きない」と、加齢における女性蔑視=女性に向けられた年齢差別があることをVOGUE(US版)のインタビューで語っている(2021.11.7)。詳細はVOGUE日本版にも掲載(サラ・ジェシカ・パーカーが年齢差別にNO。「SATC」が訴える、歳を重ねる素晴らしさ)。
50歳以上の女性に対する年齢差別(グローバル研究)
男性俳優であれば、加齢によりシワや白髪が出現したり顔がたるんでも「渋くなった」「貫禄が出た」「カッコ良くなった」などポジティブに受け取られることも多く、年齢的若さで俳優の価値を判断されることはないが、女性俳優の加齢については厳しい目を向けられる。ドラマや映画では女性は常に若く美しい存在であることが求められるため(※)、中高年女性が主役になったり主役男性の恋愛対象になることは滅多にない。(※)社会が求めているというよりは、映画やテレビ業界が男性社会であるため、製作者サイドにいる男性陣や男性視聴者が女性俳優に若さと美しさを求めている、という言い方の方が正しいだろう
これは決して女性側の被害妄想ではなく事実だ。エンタメメディアにおける女性の年齢差別を研究したレポート(※)がある。50歳以上の女性に焦点をあてて高齢者の表現を体系的に分析した初めてのグローバル研究で、ドイツ・フランス・英国・米国における2019年の興行成績上位作品の中で、高齢女性を登場させていなかったり高齢女性をステレオタイプ的に表現していないか?を調べた。(※)2020年公表。メディアでの平等なジェンダー観に取組む「Geena Davis Institute on Gender in Media」による調査。オスカー女優のジーナ・デイヴィス発足
エンタメメディアは影響力が大きいため、メディアによる年齢差別的な表現は社会にエイジズムを蔓延させる要因となる。これを防ぐには社会全体が年齢差別と闘う必要があると、同レポートは訴えている。
エイジズムと闘うことは、社会が高齢化しているため、決定的に重要です。2017年の世界の60歳以上の人口は 約9億6,200万人で、1980年の2倍となっています。2030年には、高齢者の数が10歳未満の子どもの数を上回り 、2050年には高齢者の数が10歳から24歳までの青年や新成人の数を上回ると予想されています。
エイジズムは、高齢者の健康や福祉に悪影響を及ぼすため、エイジズムと闘うことも重要です。エイジズムは、年齢に基づく偏見の結果、雇用差別や医療の質の低下に直面します。例えば、高齢者に対して否定的な固定観念を持っている人は、自分の加齢経験から悪い結果を期待しがちです。このようなステレオタイプの内面 化は、ステレオタイプの具体化と呼ばれています。ステレオタイプの具体化は、生活満足度、身体的健康と機 能、身体活動、さらには死亡率にまで影響を及ぼすことが示されています。この研究は、エイジズムがアクテ ィブ・エイジングを阻害することを明らかにしています。
(中略)本研究では、メディアによる表現が高齢者に対する有害なステレオタイプを強化する役割を果たしているかど うかを理解することを目的としています。このテーマに関する数少ない先行研究によると、メディアがエイジズ ムを助長するのは、主に2つの方法であることがわかっています。それは、高齢者を消し去ることと、ステレオ タイプで表現することです。以下では、この2つのエイジズムに関する調査結果を紹介します。(引用:frail-frumpy-and-forgotten-report)
さて、本題に戻ろう。4カ国の映画における年齢差別の状況はどうだったのか?やはり年齢差別は明らかに女性俳優に多いようで、50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優よりも脇役に配されることが多く、そしてステレオタイプ(頑固で気難しい、身体的魅力がない、孤独、不機嫌など)に描かれることが多いことがわかった。以下は主なファインディングス。
- 50歳以上の俳優の4人に3人は男性で、4人に1人は女性俳優。つまり観客がスクリーン上で高齢者を見る場合、圧倒的に男性俳優が多いということ
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べて、老衰しているように描かれる割合が4倍高い。例えばある女性俳優は、家に閉じこもり精神的に不安定で自分の身の回りのことができないように描かれていた
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べて、身体的に魅力がないとされている割合が2倍以上高い。例えばある女性俳優は、髪の毛や顎に生えているヒゲを手入れをしていないように描かれ、そして、パジャマを着ている姿しか映っていなかった
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優よりも病的に描かれることが多い。例えば深刻なリーダーシップを発揮していたある女性俳優は、最後まで生き延びることができないほど弱く描かれていた
- 50歳以上の女性俳優は男性俳優に比べて約4倍も弱々しく描かれている。 例えばある女性俳優は、精神的に余裕がなく、ペットに操られているように描かれていた
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べて、寂しそうに描かれることが多い。例えばある女性俳優は、独り言を言うほど寂しがり屋だと描かれていた
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べて、約4倍の割合で「フリンジ」と表現されている。例えば年配の女性俳優は、ぶかぶかの服、パジャマ、似合わない帽子、 不揃いの服などを着ていた
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べておしゃれに描かれない。例えば50歳以上の男性俳優の多くは、髪を束ねたカッチリとした服を着ているのに対し 、高齢の女性俳優は、普通の服や不恰好な服を着ていることが多かった
- 50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優に比べて、身体活動をしていないように描かれている割合が2倍高い。例えば50歳以上の男性俳優は映画の中で動き回っているように描かれていることが多いのに対し、高齢の女性俳優は家に閉じこもり、ほとんど体を動かさないように描かれていることが多かった
- 50歳以上の男性俳優は50歳以上の女性俳優に比べて、リーダーとして描かれることが多い
- 50歳以上の女性俳優は、50歳以上の男性俳優に比べて老けているように描かれる割合が4倍高い
- 50歳以上の俳優では、男性俳優の方が女性俳優よりも1人以上の性的パートナーがいる割合が高い
レポートは年齢差別における男女差に主眼を置いているが、男女共通の年齢差別についてもファインディングスを公開している。男女ともにオーバー50とアンダー50では主役に抜擢される割合やセックスシーンに登場する割合に明確な差があることや、役柄やジェンダーに多様性がないことを明らかにしている。
レポートを見ると、年齢差別とはどういうことなのか?高齢者のステレオタイプとは何なのか?男女間でどのような年齢差別の違いがあるのか?を理解できるので、ぜひ一読を。なおレポートの最後には、年齢差別を蔓延させないための提言(以下4項目)がエンタメメディア製作者に向けてまとめられているが、企業のプロモーションやマーケティングでも心得るべき内容なので、そちらも目通しを。
- 50歳以上の女性の登場を増やすこと
- 高齢者のキャラクターを多様化させること
- 高齢者のキャラクターをステレオタイプで表現しないこと
- 高齢者のキャラクターに性的要素を持たせること
さらにひどい日本の年齢差別
上記は欧米のエンタメメディアに関する研究だが、男女格差が激しい日本の映画も研究対象になれば、さらにひどい結果が明らかにされたことだろう。日本のドラマ・映画・CM・バラエティ番組を見れば一目瞭然。50代以上の女性が主役あるいは重要な役に配されたものは実に少ない。政治や医療など実際は中高年女性の活躍が多いはずの設定シーンであっても、不自然に若い人ばかりでキャスティングされることが多い。中高年女性の役割と言えば若い主人公を支える親や同僚・上司など脇役ばかり。「メインキャストも視聴者も中高年層女性」を想定したドラマ・映画もほぼ皆無、と言ってよいほどに少ない。中高年人口が圧倒的に多いにも関わらず、日本のエンタメメディア業界はまるで中高年層の存在を無視している。
エンタメメディア業界に限らず、ルックスを売りにしていることが明白な職業においても年齢差別ははびこっている。キャビンアテンダント、テレビ番組のアナウンサー、企業の受付係などがそのわかりやすい例だ。欧米では中高年の女性キャビンアテンダントや女性アナウンサーが多く活躍しているが、日本ではそう見かけることはない。
残念ながら日本は年齢差別がよりひどい状況だが、ダイバーシティの浸透やセクシズム・エイジズム・ルッキズムが世界的に社会問題化している昨今、そんなことを続けているエンタメメディアや企業はやがて確実に干され、そして生活者から見向きもされなくなる。それを加速させることになるのが「And Just Like That…」。かつてSATCが世界中の若い女性たちに新しい生き方を指南したのと同様に、今度は、中高年女性に多大なる影響を与えるだろう。中高年女性の自己肯定感が上がり、そして、中高年女性に対する社会の見方が、ここから大きく転換していく予感だ。
「中高年になったからといって社会の脇役になる必要なんてないのよ!年齢に関係なく社会の主役とし生きるべき!」。キャリーたちからのそんなメッセージを感じながら、この冬、続編を楽しんでみては?
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