女性へのエイジズムを排除、企業の動きが本格化 製品・サービス事例

体が細く、手足が長く、五体満足で、顔の造形が整っていることが女性の美しさの基準とされてきたが、多様な体型を他者も自分自身も認める「ボディポジティブ」の概念が広がり、企業が広告や自社のウェブサイトに起用する女性の体型は、近年になり多様性が見られるようになってきた。特にグローバル企業(なかでも美容・アパレル・フェムテック業界)がリードし、例えば、女性の容姿への自信と自己肯定感を高めることを使命に掲げるダブ(ユニリーバ)は、病気や身体の欠損有無や性自認に関係なく、あらゆる女性の多様な美を讃える「#ShowUsプロジェクト」を始動。女性自身のみならずメディア関係者にも向けた問題提起とアクションの呼びかけが高く評価され、世界最大規模の広告アワード「カンヌライオンズ」で「グラスライオン賞(性差別や偏見を打ち破るクリエイティブに送られる賞,2019年)」を受賞した。国内でもようやく問題意識が浸透し、2022年にはユーキャンの新語・流行語大賞に「ルッキズム」がノミネートされた。

【出典】#ShowUsプロジェクト(ユニリーバ)

一方で未だ十分に進んでいないのが、年齢におけるダイバーシティ。いわゆる「エイジズム=年齢差別」で、男女差別を意味する「セクシズム」と、外見で人を判断する外見至上主義「ルッキズム」に並び女性を苦しめている。長寿化と同時に急速に進展する少子高齢化の対策として、高齢者のウェルビーイング向上や労働力活用を目的に、雇用における高齢者のエイジズムは国レベルで是正が進められているが、女性に対するエイジズム是正については、インフルエンサーや企業のマーケティングがその役割を担い始めている。特に人々の意識変容に多大な影響を与える企業が果たす役割は大きい。今後女性たちに共感・支持されるのは、加齢をポジティブに応援する企業・ブランド・製品・サービスだ。女性たちを年齢の呪縛から解放するマーケティングを実践しよう。

※本稿は、2023年4月に当社が発行した「女性ヘルスケア白書2023」のp.61〜67でご紹介している内容を編集してお届けします。2024年版の市場動向予測レポート「女性ヘルスケア白書2024」はコチラ

エイジズムとは?

エイジズムとは、年齢に対する固定観念や偏見を持ったり、差別をすること。一般的には他者の年齢や加齢を差別することを指すが、年齢を理由に自分自身の行動を制限することも含む。エイジズムの蔓延は、人々に「年を取ることは人間としての価値が下がること」「加齢は悪」といったネガティブなイメージをつくり出すため、特に中高年層の自己肯定感やウェルビーイングを阻害することが問題視されている。悪影響はとりわけ女性に強く及び、「若い=女性の価値」「若さ=美しい」と捉える風潮は女性の生きづらさを助長している。

女性に対するエイジズムの例

  • 年齢的若さを女性の価値と捉える
  • 男性の白髪やシワは「渋い」と称賛する一方で、女性の白髪やシワは許さない。これは「セクシズム」と「エイジズム」と「ルッキズム」、3つの視点で問題になる
  • 年齢によって女性の仕事が暗に決まってしまう。あらゆる業界で見られるが、特に日本の場合、航空業界やテレビ業界で顕著
  • 「●●歳に見えないファッション」というように、実年齢を否定するような広告表現。実際に炎上した事例がある
  • 若くして成功した女性や若い女性起業家に、集中的にスポットライトをあてる。これは成功の条件が年齢的若さであるかのような偏見が問題

高齢者に対するエイジズムの例

  • 高齢者をステレオタイプで一律に括り、「認知機能や身体能力が衰えている」「テクノロジーが苦手」「高齢者の運転は危険」などと決めつける
  • 高齢者は汚い・社会のお荷物、と批判する
  • 高齢者への心理的・身体的虐待
  • 高齢者を見下したり、子どものように扱い友達口調で話す

自分自身に対するエイジズムの例

  • 「●●歳になったからミニスカートは履けない」「●●歳になったから私には●●はできない」と、自分の行動や人生を年齢で制限する
  • 自分の年齢を嫌悪する

 

企業が生み出したエイジズム

「年を取ったら社会から求められない」「若い人が集まるエリアには行きづらい」と、高齢者に疎外感を与え意識・行動を消極的にさせたり、「シミ・シワ・たるみが怖い」「年をとるたびに女性としての価値が失われていく」と、女性たちの自己肯定感を押し下げたりーー。このように女性たちが加齢により自信を失ってしまう空気をつくり出したのは、社会への影響力が大きいマスメディアや大企業によるところが大きい。男性主導で構築された社会や組織の中では、男性目線によるマーケティングが主流だったからだ。働く女性が増えマーケティングの現場に女性目線が取り入れられるようになったり、SNSの浸透で一般女性の声がマーケティングに反映されるようになったことで、企業によるさまざまな差別(特にセクシズム、ルッキズム、エイジズム)は徐々に是正されつつあるものの、社会を見渡すとまだまだエイジズムは蔓延している。

CASE1.テレビや映画に起用される女性、若年ばかり

映画・ドラマ・ニュース・バラエティ番組などのスクリーンに起用される女性は圧倒的に若い人が多く、一方で男性の年齢は、若年〜中高年まで幅広い。中高年の男性と、一回りも二回りも年齢が離れている年下の女性を組み合わせた配役は、映画やテレビ番組では日常茶飯事だ。エンタメメディアにおける女性の年齢差別を分析したグローバル研究では、50歳以上の女性俳優は50歳以上の男性俳優よりも脇役に配されることが多く、さらには、「頑固で気難しい」「身体的魅力がない」「孤独」「不機嫌」など、中高年女性をステレオタイプで描くことが多いことを明らかにしている。(「frail frumpy and forgotten A REPORT ON THE MOVIE ROLES OF WOMEN OF AGE.」2020年,メディアでの平等なジェンダー観に取組む「Geena Davis Institute on Gender in Media」による調査。オスカー女優のジーナ・デイヴィス発足)

これは、女性たちに「社会の主役は若い女性」「中年以降は表舞台から去らなくてはいけない」「男性の恋愛対象は若い女性」と、無言の圧力を与えている点が問題になる。女性たちは、人生・仕事・恋愛に対する意欲を奪われ、加齢を恐れるようになる。

CASE2.企業が全力投球するのは、高齢者<若年

企業の多くが、若年女性をターゲットにした製品・サービス・店舗・広告・HPなどのデザインを徹底追求するが、高齢女性がターゲットの場合は手を抜き、いい加減になる。「高齢者が重視するのは機能。デザインは気にしない」「高齢者は地味な色が好き」といったステレオタイプで判断するため、デザインはひどいものばかり。そもそも企業が新製品を開発する場合、若い人を対象にするケースが多いことも、エイジズムの一種だ。

こういった企業の姿勢が垣間見えてしまうことで、女性たちは、「歳を重ねるごとに自分が欲しいものが見つからなくなる」「企業は中高年女性の声に耳を傾けてくれない」と、疎外感を感じてしまう。

CASE3.エイジングサインが無い、完璧な広告

製品パッケージや広告に起用されるのは若い女性が多く、基本的に、その女性たちにエイジングサイン(シミ・シワ・たるみ・白髪)は存在しない。それが例え中高年女性を対象に訴求するものであっても、だ。

これが問題になるのは、「エイジングサインは隠すもの」「若く見えることが重要」と、過剰な美の基準を女性たちに押し付けることになるからだ。ルッキズムにもつながる。若い時の容姿を維持する努力を標準的な価値観とするマーケティングは、女性たちにプレッシャーを与え続け、加齢に対するネガティブなイメージを強化する。エイジングサインを見つけるたびに、女性たちの自己肯定感は低下してしまう。

 

今、女性たちに支持される企業・ブランドとは?

女性たちが何歳になってもありのままの自分を受容し前向きに人生にチャレンジできるよう、まずは企業がマーケティングからエイジズムを排除していこう。今や、日本の女性人口の半数以上が50歳以上。疎外感を感じさせたり外見的若さの維持を中高年女性に強制するマーケティングを続けていたら、少々極論だが、国内の女性市場の半分を無視することにもなりかねない。美容トレンドから見ても、最近は劇的な変化や現実離れをした若づくりよりも、ナチュラルな美しさや加齢が好まれており、外見的若さを称賛するPRが必ずしも正解というわけではなくなっている。女性たちに今後支持されるのは、加齢による自己肯定感の低下を食い止め、気持ちをポジティブにしてくれる、そんな姿勢の企業・ブランド・製品・サービスだ。具体的な要素は、

  • 必要に応じて、多様な年齢の女性を適時適切にプロモーションに起用している
  • 経験、能力、人間関係、人生の選択、その時々の年齢に合うファッションやメイクなど、年齢を重ねたからこそ得られるベネフィットに着目している
  • 多様な場面で活躍する中高年女性のサクセスストーリーにスポットライトをあて、称賛する
  • 多様な美の価値観を提案している。エイジングサインを隠したい女性もいれば、そのままで良いと考える女性もいる
  • デザインからエイジズムを排除している。高齢者向け製品も、若年層向け製品と同様に機能性のみならずデザインを徹底追求している
  • 加齢や容姿の変化をネガティブに捉えない
  • ステレオタイプにとらわれることなく、高齢女性の意識変化を常にキャッチアップし、的確にニーズを捉えた製品を開発している

 

エイジズムを排除、企業事例

女性たちを苦しめるエイジズムを排除し、女性たちが心地良い人生を送れるよう、加齢をありのままに認めたり、中高年向け製品のデザインを見直す動きが、最近になり活発化している。

スタイリッシュな補聴器(シャープ)

難聴の自覚があっても補聴器を使わない人が多い理由の一つは、従来の補聴器のデザインに不満があること。そこでシャープは、ビジネスシーンでも使えるような高品位感あるデザインを重視した補聴器「メディカルリスニングプラグ」を開発。イヤホンに見えるため、周囲に補聴器と気づかれにくい。中高年層向け製品でもデザインを妥協しない点が好感度大。グッドデザインアワード2021受賞。

【出典】シャープ

 

隠さず堂々と持ち歩けるパッケージに刷新、大人用紙パンツ(エリエール)

大人用紙パンツには介護や年寄りのイメージがつきまとうことから、必要性があっても使用に抵抗を感じる人は多い。親や配偶者などの家族がプライドから使いたがらないケースもあり、その理由の一つが、年寄りじみたパッケージデザインだった。そんなネガティブな側面に着目し、エリエールは、誰もが手に取りやすいようパッケージデザインを刷新。ワコールと共同で新色も開発した。ぜひ、以下の動画でチェックを。一目でこれを「大人や高齢者用の紙パンツだ」と気づく人は、そういないだろう。

 

白髪をキレイに伸ばすTipsを紹介(ユニリーバ)

近年、女性たちの間でグレイヘアを楽しもうとする人が増えている。このトレンドに応え、ダブは白髪を健康的に見せるための適切なケア方法を提案している。女性や社会に向け美の多様性を発信し続ける同社らしい取り組み。

 

黒塗りワゴンで送迎(ラスベガス)

デイサービス「ラスベガス(日本シニアライフ)」は介護施設のネガティブなイメージや利用者の不満を徹底的に払拭。「一般的な送迎車は白地ボディに施設名が書かれているので乗りたくない。介護施設に通っていることが近所の人にバレる」という不満に着目し、黒塗りのワゴン車を採用。「これに乗りたいから通っている」という利用者も。高齢者向けの製品・サービスはデザインが年寄りじみたものが多いが、若年層同様にデザインの追求はマーケティングにおいて重要だ。高齢者に対するデザインのエイジズムを是正している好事例。

 

エイジズムのない世界、SNS

YouTube、Twitter、Instagramなどで活躍することに年齢は関係ない。SNSは年齢ではなく実力勝負の世界だ。70代のインスタグラマー「内藤朝美さん(フォロワー約10万人)や90代「Helen Ruth Elamさんフォロワー約325万人)」など、多くの人に支持されている高齢女性が国内外に大勢いる。

 

 

 

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