これから減る・増える、女性のライフコースは?

「人生を主体的に選択して生きる」という生き方をしやすい男性と比べ、女性の人生は、妊娠・出産・夫の転勤・親/義親の介護など外部環境に対し受動的にならざるを得ずに、ライフコースの変更を余儀なくされることが多い。

これは、女性が妊娠・出産という生物学的役割を担っていることと、歴史的に長く続いてきた性別役割分業による影響が関係しているが、生き方や価値観の多様化が進んだこの数十年ほどで、女性たちのライフコースはすっかり様変わりした。データで女性のライフコースの変遷を見ながら、これから増えるライフコースと、2大ライフコースのヘルスケアニーズを考えてみよう。

女性のライフコース変遷、1987〜2015年

厚生労働白書(令和2年,厚労省)」では、過去28年間の女性のライフコース意識の変化を確認できるデータを掲載している。18〜34歳の未婚女性に「自分がこれから歩むであろうライフコース」を聞いた結果をまとめたもので、時代の変化とともに女性が希望するライフコースが変化していることがわかる。

  • ピンク:専業主婦(結婚し子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない)
  • 水色:再就職(結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ)
  • グリーン:両立(結婚し子どもを持つが、仕事も一生続ける)
  • オレンジ:DINKs(結婚するが子どもは持たず、仕事を一生続ける)
  • 青:非婚就業(結婚せず、仕事を一生続ける)
  • グレー:その他

最初の調査年である1987年(※1)と、直近で最後の2015年(※2)では、それぞれどのライフコースが人気なのか?ランキングで見ると、時代の特徴的な変化をより理解できる。

(※1)1987年の調査結果は、現46〜62歳の女性が18〜34歳当時に回答したもの
(※2)2015年の調査結果は、現23〜39歳の女性が18〜34歳当時に回答したもの

1987年 2015年
1位 再就職 42.2% 再就職 31.9%
2位 専業主婦 23.9% 両立 28.3%
3位 両立 15.3% 非婚就業 21.0%
4位 非婚就業 7.1% 専業主婦 7.5%
5位 DINKs 1.4% DINKs 3.8%

増えた・減ったライフコース、背景と未来予測

この28年間で減ったライフコースもあれば、増えたライフコースもある。その背景を知ると、女性たちの価値観変化やクラスターサイズの未来予測ができる。

変化1:「再就職層」は減少

28年前に最も多かった「再就職層」は今も最多だが、年々減少傾向にある。これは、妊娠・出産を機に仕事を辞める女性が減り、産休・育休を活用しながら継続して就業する働き方が増えたことが大きい。実際に、いわゆる“M字カーブ問題(※3)”は解消に向かっており、近年の就業率グラフは台形に近づいている。
(※3)結婚・出産に伴う離職により、出産年齢にある30代女性の就業率が低くなること

変化2:「両立層」が増加

「再就職層」が減少する一方で徐々に増えているのが、「両立」層。育児・家事と仕事の両立は今なお容易ではなく、家庭内のワンオペ育児、職場でのマタハラやマミートラック問題、深夜勤務による流産・早産など課題は山積みだが、主体的に自分らしく生きたいと考える女性が増えていることで、「両立層」の割合は今後さらに増えていくと考えられる。

変化3:「非婚就業層」が増加

「両立層」と同様に「非婚就業」層の割合も急速に増えている。この調査は未婚の18〜34歳を対象にしたものなので、回答時点で「結婚はしない」と考えていても実際にその後は結婚している可能性もあるが、未婚率の上昇が加速しているのは他調査でも明らかになっているので、「非婚就業層」の割合が大きくなっているという傾向そのものについては間違いはない。

自身でお金を稼ぎ経済力をつけた女性が増えている今、「非婚就業層」はもはやマイノリティではない。晩婚化や生き方の多様化で、この層も今後さらに増えていくだろう。

変化4:「専業主婦層」は減少

女性の社会進出が進み、「専業主婦層」は急速に減少。「仕事で自己実現したい」「社会と繋がっていたい」「(終身雇用制度のない)夫の会社からの収入だけでは将来が不安」といった背景から、専業主婦になりたいと考える女性は減っている。

今現在専業主婦として生活している人の多くは、働く必要のない女性。夫の収入だけで十分に生活ができる家庭であったり、夫あるいは夫婦ともに定年退職をし十分な年金受給がある家庭などがそうだ。

「妻に専業主婦になってほしい」と考える男性も年々減っており、「専業主婦層」の減少は今後も続きそうだ。

変化5:「DINKs層」は微増

全体に占める割合としては小さいものの、DINKsのライフコースを希望する女性も増えている。

なお上記調査では、DINKsを「結婚するが子どもは持たず、仕事を一生続ける」と定義しているが、本来はDINKsをもう少し分解して考えると、「意図的に子を持たないと決めている夫婦」、「子を持ちたかったが、妊活をしたものの授かることができなかった夫婦」「子がいてもいなくてもどちらでもよく、結果的に子は持たなかった夫婦」の3タイプもいる。

DINKsと言っても、そのライフコースに至った背景と意識に違いがあるので、「DINKs層」を一括りに語ることはできないが、近年の晩婚化の進行を考えると「DINKs層」も微増ながら今後も増えていきそうだ。

注目の2大ライフコース、今後の女性ニーズは?

これからクラスターサイズが大きくなるのは、「両立層」と「非婚就業層」。マーケティング視点で見ると、どちらも昭和・平成で企業が重視してこなかったクラスターであるため、この市場には何かと不便・不満・不足が残っている。商品・サービスの充実はまだまだこれから。では、どんなヘルスケア悩みやニーズがあるのだろう?

両立層:ニーズは「時短」だけではない

両立層が抱える日々の最大の課題は「家事・育児(子育て)と仕事の両立」だが、自分時間を持てないことで発生する健康問題も、ワーママにとって大きな悩みのタネ。

働く女性が増えたことで、市場にはワーママをターゲットにした時短系商品・サービスが次々に登場したが、家事・育児・美容領域に集中しており、ワーママ特有の健康問題にフォーカスしたものは少ない。

当社ウーマンズが、家事・育児と仕事の両立をしているワーママを対象に調査を実施したところ、自分の時間があまりにもないために、体のあちこちに出現する不調を放置している実態が明らかになった。両立層は常に時間に追われ十分なセルフケアができないため、不調を抱えやすく健康不安が大きい。十分なケアができないことでエイジングサインも顕著になり、「鏡を見て落ち込む」という声も聞かれた。

両立層であるワーママのニーズは、家族ゴト関連の時短だけではない。「家事・育児」と「仕事」と「自分のヘルスケア」、この3つを上手にこなしていきたいというニーズが強くあり、企業サイドはここに商機を見いだせる。両立層をターゲットに据える場合は、時間貧乏による健康問題に着目して、商品・サービス・マーケティングを発想しよう。

非婚就業層:危機意識大、「非婚就業層」のニーズ

非婚就業層の増加で大きくなるヘルスケアニーズは、セルフメディケーション。夫や子がいないので、病気で体調を崩したり災害が起きた時は自分一人で対処しなくてはならず、備えに対する意識が日頃から強い。

特に老後を不安視する声が多く、自分が要介護とならないようロコモを始めとしたフレイル対策に早いうちから関心を寄せる。親が要介護になった場合、兄弟姉妹など介護シェアできる親族がいなければ自分一人で担うことになるため、親の介護の備えにも敏感だ。

人生100年時代の到来で活発に語られるようになった金融ジェロントロジーは、今、全ての人にとって関心のあるトピックだが、とりわけ必然的に世帯年収が低くなる非婚就業層で関心が強い。可能な限り何歳になっても働けるよう、エイジフレンドリーな職場を求める声も強くなるだろう。

非婚就業層においては、メンタルヘルスも着目領域。メンタル不調の改善は本人の主体的な姿勢が必要とされているものの実際は難しいため、このニーズを掘り起こすのは容易ではないが、単身者の孤立は社会問題化しているため、官民による対策が求められている。特に中高年単身者は孤立しやすく、さらに女性の場合は、更年期のタイミングでメンタル不調を悪化させやすい。

「未婚高齢者」というクラスターも、今後注目されてくるだろう。非婚化の進行で、これから2040年にかけてこのクラスターが増えることが予測されている。配偶者や子を持たない未婚高齢者の存在は新たな社会問題となる可能性をはらんでいるが、一方で新たな商機ともなり得る。

平均寿命の延伸と世帯構造の変化により、2040年には単身世帯が4割を占めるとの推計も出ており、非婚・既婚関係なく単身で生きていく人は今後確実に増えていく。単身者をターゲットに据えたマーケティングは、これからの時代に必須だ。

 

 

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