タブー感ある「子のいない人生」、生きづらさを感じる無子女性に人気のもの

LGBTQ+、障がい者、持病者、プラスサイズなど、マイノリティへの配慮が世界的に進み多様性を認め合う空気が広がってきているが、このテーマが語られるときにあまり注目されないクラスターがいる。無子の女性たちだ。「子を持たないと決めた女性」「子が欲しかったけれど、授かることができなかった女性」「結婚して子を産みたいけど結婚ができない女性」―。理由は様々だが、いずれのケースも、マイノリティな生き方であることを自覚せざるを得ない社会の中で、生きづらさを感じている。そん女性たちが支持する人気の書籍がある。自分の人生の選択に自信を与えてくれたり内容に共感できることが、人気の理由のようだ。

40代前半女性の無子割合、世界第3位

日本で無子の増加が明確になってきたのは、2000年頃。戦後生まれの男女の非婚化・晩婚化・晩産化が進み始めたことが背景にあり、国立社会保障・人口問題研究所によると(※)、この頃から無子に関する分析が行われるようになった。少し前のものになるが、無子の女性が人口に占める割合は10.61%(2010年)、男性は15.96%(2005年)という調査結果が出ている。(※)守泉理恵(2019)「日本における無子に関する研究」『人口問題研究』第75巻第1号

この数字が高いのか低いのか、その感覚は国際比較でわかる。年齢が限定的になるが、前出の研究報告の中で、2010〜2011年時点で40〜44歳であった無子の女性の割合をグラフ化している。それによると日本は世界第3位で、世界的に見て高い水準に位置している。なお日本を含め上位5カ国は、日本と同様に、出生率が低く無子割合が高い少子化国だ。

  • 1位:ドイツ(23.1%)
  • 2位:スペイン(21.6%)
  • 3位:オーストラリア(21.5%)
  • 3位:日本(21.5%)(※)
  • 5位:イタリア(21.1%)
  • 6位:イギリス(20.0%)
  • 7位:フィンランド(19.9%)
  • 8位:アイルランド(19.0%)
  • 9位:カナダ(18.9%)
  • 10位:アメリカ(18.8%)

※日本のデータは、第14回出生動向基本調査(2010年実施)の40〜44歳女性の無子割合を集計

子がいない理由と理由別の割合

「子がいない女性」というと、「子が欲しかったが、不妊で授かることができなかった女性」と「意図的に子を持たない女性」という認識が一般的だが、理由はそれだけではない。持病が理由だったり、結婚できず子を持てない、仕事を優先して結婚や妊娠を先送りしたなど、人それぞれだ。また、理由別の割合も異なる。具体的にはどのような無子の理由があり、そして、どのような理由が特に多いのか?再生産年齢の終盤にあたる45〜49歳の女性の調査結果を例に見てみよう。調査:守泉理恵(2019)「日本における無子に関する研究」『人口問題研究』第75巻第1号

1965年〜1970年生まれで、調査時点で45〜49歳の女性の無子の割合は19.4%。無子の理由別割合は以下。最も多いのは「結婚困難型」。未婚・非婚が理由のクラスターだ。これは近年急速に進んだ非婚化・晩婚化が影響していると言えるだろう。またもう一つ特筆できるのは、2番目に多い理由が「無子志向型」であること。「子を持たないことにしています」と堂々と言える空気がないこともあってか、実生活の中では少ない印象があるが、実は不妊・健康問題を理由にした無子女性より多く、2倍以上の開きがある。

  • 結婚困難型…7.9%(恋人・夫との離死別により無子。または子を希望しているが未婚のため無子)
  • 無子志向型…7.0%(未婚または既婚で、無子を希望)
  • 不妊・健康理由型…3.1%(既婚で子どもを希望しているが、不妊や健康問題が理由で無子)
  • 出産延期型…1.4%(既婚で子どもを希望しているが、現時点で無子。なお不妊の心配はないと考えている)

生きづらさを感じる無子女性に人気

反響を呼び、5版重版

今月9日、主婦の友社は、無子女性をテーマにした書籍「誰も教えてくれなかった 子どものいない人生の歩き方(くどうみやこ)」の5版重版を発表した。2017年刊行の書籍で、子どものいない人たちの生き方にスポットライトを当てて取材した内容をまとめたもの。13人の女性と2人の男性の体験談、アンケートから、様々な生き方・考え方を紹介している。

同社によると2017年当時、発売されるやいなや、新聞・雑誌・テレビ・WEBでの取材が相次ぎ、「自分も同じ思いを抱えて生きてきたが誰にも話したことがなかった」、「自分だけじゃないことがわかって気持ちが軽くなった」「子どものいない、これからをどう生きていったらいいのかの参考になった」と、多くの反響が寄せられたという。

実際に購入者レビューを見ると、子のいない人生に生きづらさや肩身の狭さを感じている女性たちからの共感の声が集まっている。

 

500人のリアルな声、漫画でコミカルに

今月15日には、小学館からも同様に無子をテーマにした書籍が発売された。「子どものいない私たちの生き方(くどうみやこ,森下えみこ)」。前述の著者と同じだが、こちらは漫画で、無子女性の心境をコミカルに描いている。本書は500人以上のリアルな声を聞き、心情や傾向を分析してまとめている。

本書には、年齢・立場が異なる6人の女性が登場する。それぞれのキャラクター概要に目を通すだけでも、様々な無子の理由、そして、それぞれ異なる生きづらさを感じていることを理解できる。

  • 【ミホ】不妊治療歴4年。望んで努力もしたのに授からなかったことを引きずっている
  • 【マユミ】40歳で結婚。まだ年齢的に子どもをもてる夫には、じんわり罪悪感が・・・
  • 【リョウコ】シングル。目の前の仕事を頑張っているうちに、婚期・産期を逃してしまった氷河期世代
  • 【ミサキ】子どもをもつよう勧められるたびにイラッ。そこには理解してもらいにくい理由が・・・
  • 【カオリ】夫に原因があると判明
  • 【グランマダネ】62歳。同じ立場の女性たちが本音で話せる会を主宰

無子はタブー視されるもの?

前述の小学館が発売した漫画本は、リリースにあたり「微妙なタブー感のある『子どものいない』女性の生き方」という表現を使っていた。言い得て妙で、子を持たない女性はとかく周囲から不思議そうに(あるいは腫れ物に触るようにして)見られることが多く、まるで子を持たない人生は“タブー”ともいわんばかりの空気が今の社会には流れている。そんな空気を敏感に察し、肩身の狭い思いを強いられたり、自身の生き方に自信を持てない無子女性たち。こういった女性たちの存在や考え方に気づかされるのが両書籍で、これ以外にも、無子女性をテーマにした書籍やメディアの記事を見かける機会は増えている。ヤフー知恵袋や発言小町などの質問サイトでも、無子の生き方に関するスレッドがたくさん立てられており、実に多様な意見が集まっている。

少子化が日本の大きな社会課題であることもあり、例え自らの意思と選択で子を持たないと決めた女性であっても、胸を張って言うのは憚られる。多様な性や多様なボディサイズがあるのと同様に、多様な人生の選択があることを誰もが認めあえる、そんな社会になってほしいものだ。

 

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