孤立による健康リスクを抑える話題のVR メインターゲットは高齢者
エンタメ業界での活用が主流のVRだが、最近はヘルスケア分野での導入が活発だ。今回紹介するのは、米国の高齢者団体AARPが開発・監修したVRアプリ「Alcove(アルコーヴ)」。高齢者の社会的孤立防止のために家族・社会のつながりを維持・促進するもので、これまでに、VR関連のアワード受賞をはじめ、英国の大手新聞紙ガーディアン(英)やForbesなど各主要メディアも取り上げている。若者向けのものが多い中、高齢者を対象にしたVRアプリはかなり珍しいが、コンテンツを知ると、VRは高齢者こそ相性が抜群であることがわかる。
50歳以上の17%が “社会的孤立”
核家族化や高齢社会の進展で、高齢者の社会的孤立や孤立死が社会問題になっているが、これは日本のみならず米国でも同様。少し前のデータになるが、AARPが「孤立」をテーマにまとめたレポート「Framework for Isolation in Adults Over 50(2012)」の推計によると、アメリカでは50歳以上の17%が孤立状態だという。孤立・孤独は、肥満や喫煙よりも健康に悪いという研究結果が出ており、特に50歳以上の人は要注意とされている。孤独が長く続くと1日に15本のタバコを吸うのと同じくらいの健康リスクがあるとの報告も。
影響は健康問題に留まらない。生きがいの低下、行政サービスを受けられず不便を強いられる、消費者契約のトラブルなどその範囲は広く、QOLは大幅に低下する。
社会的孤立を防ぐ、高齢者が対象のVR
zoomには無いVRの魅力
アルコーヴは社会的孤立そのものや孤立による健康面への悪影響を防ぐことを目的に、高齢者のユーザーをメインターゲットに据えて開発された。家族や友人と一緒に自宅内での行動や外出を楽しむことを前提にしたコンテンツ構成で、開発者であるAARPのイノベーションラボ副社長は、今、世界的にユーザーを伸ばしているビデオ会議ツールのzoomを比較対象に上げ、「ビデオチャットよりもはるかにリッチなコミュニケーションができる」と語っている。
Zoomやその他のビデオチャットは、一日の出来事をフラットに話すだけですが、一方でVRは、一緒に瞑想したり、一緒に世界を旅したり、完全に没入した状態でゲームをしたりすることができるのです(Forbes,2020,9)。
どんなことがアルコーヴの中でできるのか?ヘッドセットを装着すれば、例えば、バーチャルな自宅や自宅外でこんなことができる。実際のVRの世界も覗いてみよう(動画)。
- 家族や友人と一緒にボードゲームをする
- ガイド付きのヨガ、筋トレ、瞑想、呼吸法の練習などの運動プログラムを実践
- バーチャルペットと遊ぶ
- クラシック音楽を聴く
- バーチャル旅行をする
ユーザーの評価ポイント
メインユーザーである高齢者のメリットは、自ら体を動かしたり積極的に家族や友人と関わることで、社会的繋がりや心身の健康を維持できること。経済状況や心身の健康レベルを問わず、費用・時間・移動手段の制約を気にせずに好きなことができるのも大きな魅力だ。
高齢の親と離れて暮らす子どもにとっても安心。バーチャルの自宅内で簡単に交流ができ、一緒にバーチャル旅行を楽しむこともできる。今の時期ならコロナによる外出制限でなかなか会えない孫と交流させる人もいるはずだ。VRを通じて手軽に”見守り”ができるだけでなく、親の自律した生活が促進されることも、子どもがこのアプリに期待を込める点だろう。
実際にユーザーレビューを見ると評価は高く、VR内の快適な空間や操作性に興奮する人たちの声が多い。「家族をつなげる」というアルコーヴのコンセプトも共感されており、「高齢の母に使わせたい」という声も。
なんと言ってもVRがユーザーを惹きつける最大の強みは、圧倒的な没入感。デジタルへの苦手意識が強い高齢者でも、ひとたび使い方を覚えれば自ら体を動かしたり他者とのコミュニケーションに積極的になるなど、たちまちハマるだろう。他者の介入による複雑で面倒な行動変容テクニックは一切不要だ。
高齢者向けVRの市場チャンス
日本の単独世帯の数は今後急速に増え、2040年には全世帯の40%が単独世帯になる(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計2018年推計」) 。特に65歳以上の単独世帯の増加が顕著で、2020年の約700万世帯から2040年には900万世帯近くにまで増える見込みだ。「長生きはリスク」と言われる時代に何とも暗い気持ちにさせられる推計だが、家族や友人との交流、海外旅行、スポーツ、バーチャルペットなどVRでこれだけのことを楽しめるなら、年を重ねたり単身生活を送るのも、そう怖がる必要はないかもしれない。アルコーヴのような高齢者向けVRは、長年懸念されてきた高齢者の社会的孤立問題を瞬く間に解決に導く可能性を秘めており、今後の市場拡大が楽しみだ。
ちなみに65歳以上の単独世帯は女:男=65%:35%(2019年)で、圧倒的に女性に多い。平均寿命が男性よりも長いことが関係しているのだろう。これに加え一般的に女性は男性よりも他者とのコミュニケーションを好むので、高齢者向けのVRを開発するなら、受容性がより高い女性の方を想定するのが良いかもしれない。
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