女性ヘルスケアトレンド
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医療・美容・食分野で進むエピジェネティクス研究、“遺伝子のスイッチ” が体質や健康に影響する仕組みを解説

親から受け継いだ遺伝子で体質や病気のリスクがすべて決まるわけではない。生活習慣や環境によって遺伝子情報の働き方を変えられるーー。こうした「遺伝子のスイッチ」の仕組みを解明する研究分野が「エピジェネティクス」です。現在、医療・創薬・美容・食分野で研究が進んでいます。そもそも、遺伝とは? エピジェネティクスとは? エピジェネティクスの研究を進める原料メーカーの株式会社アミノアップが解説します。

遺伝とは?

「透き通るような白い肌は、お母さん譲りだね」「若いときから血圧が高めで、父と体質がそっくりなんです。遺伝ですね」ーー。

髪や肌の色、体形、病気、体質、病になりやすいかどうかなどには、遺伝が関わっています。そもそも遺伝とは、何なのでしょうか。少しおさらいになりますが、私たちの体の中には「DNA」という設計図があります。DNAとは二重らせん構造をした長いひもで、細胞の核の中に存在しています。DNAは親から受け継ぐもので、子どもはお父さんから半分、お母さんから半分を受け継いで生まれます。

DNAを構成するのは、4つの塩基、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)です。この4つの塩基の配列が遺伝情報を構成します。そして、この遺伝子情報によって顔や身長などの体形や、病気のかかりやすさなどの体質が決まります。子どもが親に似る(いわゆる“遺伝する”)のは、この遺伝子情報によるものです。

アミノアップ様

【画像】アミノアップ作成(遺伝情報は親から受け継いだDNAに書かれている。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの塩基で構成されており、それらの配列が遺伝子情報を構成する)

 

では、親から受け継いで生まれ持った遺伝子で全てが決まってしまうのかというと、必ずしもそうではありません。それが「エピジェネティクス」です。

 

エピジェネティクスとは?

実は、遺伝子情報は全てが使われるとは限りません。つまり、あなたのDNAには親から受け継いだ遺伝子情報が書かれていても、「その情報が使われるか?使われないか?」であなたの体形や体質が変わるということです。

「どの遺伝子情報をオンにするか?オフにするか?」を決める仕組みを研究するのが、エピジェネティクスという研究分野です。エピジェネティクスは、後成遺伝学(こうせいいでんがく)とも呼ばれます。「エピ」はギリシャ語で「その上に」、「ジェネティクス」は英語で「遺伝学」を意味します。もともとの遺伝子情報があることを前提に、その情報が使われるか(または使われないか)を研究する分野です。

親から受け継ぐDNAは、あなたの意志では選べません。しかし、DNAに書かれた遺伝子情報のスイッチをオンにするか・オフにするかは、あなたがコントロールできる可能性があるのです。

 

生まれつきの女王バチはいない

同じ遺伝子を持って生まれた双子でも、勉強が得意な子とスポーツが得意な子の違いが生まれることがあります。また、同じ遺伝子情報をもった双子でも、病気になるか・ならないかに差が出ることがあります。これらは、生まれた後の環境の中で、それぞれの遺伝子情報のスイッチオン・オフの状況が異なることから発生する事象です。

女王バチの誕生も、エピジェネティクスで説明できます。働きバチと女王バチの幼虫は、同じ遺伝子をもって生まれます。しかし、ローヤルゼリー(働き蜂が花粉や蜂蜜を食べ、体内で分解・合成して分泌する栄養を豊富に含んだクリーム状の物質)を食べた幼虫だけが女王バチになります。つまり、女王バチとは、遺伝によって生まれつき女王バチなのではなく、ローヤルゼリーを食べることで女王バチになっているのです。「生まれ」ではなく「育ち」で遺伝子情報のスイッチのオン・オフが決まる例です。

アミノアップ様

【画像】アミノアップ作成(生まれつきの女王バチはいない。女王バチと働きバチは同じ遺伝子をもって生まれるが、遺伝子情報のスイッチのオン・オフで女王バチになるかどうかが決まる) 

 

何が遺伝子のスイッチを動かすのか

女王バチの例のように、食べるもので遺伝子情報のスイッチのオン・オフが決まることもありますが、それだけではありません。運動、ストレス、喫煙やアルコール、睡眠など、生活習慣とエピジェネティクスには深い関わりがあることがわかっています。つまり、あなた自身の生活習慣によって遺伝子情報のスイッチのオン・オフはコントロールできる可能性があるのです。遺伝子情報のエピジェネティックな変化に影響をあたえる仕組みとしては、代表的なものとして2つがわかっています。

① DNAメチル化、脱メチル化

DNAメチル化とは、DNAの塩基(主にシトシン)にメチル基(-CH3)という目印が付くことです。DNAにメチル基がつくと、メチル基が遺伝子情報を使うかどうかのサインとなって、その遺伝子の働きが調整されます。DNAの複製は、その情報を写し取るRNAの合成を開始する領域(プロモーター領域)でスタートします。例えば、このプロモーター領域がメチル化されると、RNAをつくって遺伝子情報を読み取る反応が起こりにくくなり、その遺伝子情報は使われなくなります。反対に、脱メチル化といってメチル基がはずれると、遺伝子が活発化します。メチル化は、細胞の分化やがんの発生に深く関わります。

② ヒストン修飾

ヒストン修飾とは、DNAが巻き付いているヒストンタンパク質が化学修飾(※)されて、DNAの巻き付き方が調整されることです。ヒストンの化学修飾には、アセチル基 (-COCH3)がつく「アセチル化」や、メチル基(-CH3)がつく「メチル化」など、数種類が知られています。DNAは二重らせんの長いひも状になっていますが、そのままだと長すぎるので、ヒストンというたんぱく質に巻き付いて収納されています。このDNAの巻き付き方のゆるさ・きつさで遺伝子情報の読まれやすさ・読まれにくさが調整されます。

例えばヒストンにアセチル基がつくと、DNAとヒストンの結びつきが緩んで遺伝子情報が読み取りやすくなり、その遺伝子情報が使われる=オンになる状態になります。一方、メチル基がつくとDNAとヒストンの結びつきがきつくなり、遺伝子情報が読み取りにくくなり、遺伝子情報が使われにくくなる=オフになる場合があります。

この他、一部のエピジェネティックな変化は、親から子に伝わる可能性があることもわかってきました。しかし、すべてが遺伝するわけではなく、まだ研究中の分野です。

(※)ある物質を化学的に変化させることで、性質や機能を変化させること

ミノアップ様

【画像】アミノアップ作成(DNAは長いひも状をしており、ヒストンタンパク質に巻き付いて収納されている)

 

各分野で広がるエピジェネティクス

医療・創薬分野:がん領域などで進むエピジェネティック治療

医療や創薬では、エピジェネティック治療、エピゲノム創薬といった分野が注目を集めています。特に進んでいるのは、がんの研究です。いずれも、上述のDNAメチル化・脱メチル化や、ヒストン修飾の仕組みを応用しています。骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)など、骨髄系腫瘍の治療に用いられる「DNAメチル化阻害薬」は、がん抑制遺伝子の機能を回復させるエピゲノム治療薬です。がん細胞は、DNAメチル化によりがん細胞抑制遺伝子が働かない状態になり、どんどん増殖していきます。そこでDNAのメチル化を解除(脱メチル化)し、がん抑制遺伝子の機能回復を狙います。

一方、悪性リンパ腫など血液がんの治療に用いられる「ヒストン修飾薬(ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)」は、DNAが巻き付いているヒストンの構造を変化させます。がん細胞では、本来働くべき抑制遺伝子がオフになってしまい増殖を繰り返しています。そこで、遺伝子発現を正常化させるためにヒストンをアセチル化し、ヒストンの結びつきを緩くして制御遺伝子を読み取りやすくし、制御遺伝子をオンにします。

また、がん予防の観点では身近な例としてピロリ菌と胃がんの研究が挙げられます。ピロリ菌感染からがんに至る過程では、エピジェネティックな異常が起きています。その仕組みを解明して抑制できれば、がんを予防できる可能性があります。

美容分野:大手ブランドがエピジェネティクス研究を応用した化粧品を開発

美容分野も研究段階ですが、エピジェネティクスへの注目が集まっています。例えば資生堂は、遺伝子レベルで始まる早期のシミ発生要因について研究しています。シミは、表皮基底層にあるメラノサイトでのメラニン過剰生成が主な要因と考えられていますが、資生堂の研究によると、後天的な変化によって、表皮にあるmTOR(エムトア)タンパク質の活性化がシミ発生要因である可能性が示唆されています。肌の表面にシミが発生する前に、内部ではどのような遺伝子レベルの変化が起きているかをつきとめ、その変化をエピジェネティックにコントロールできれば、シミの発生を抑制することができるかもしれません。資生堂の他にも、エスティローダー、シャネル、ポーラなどの大手化粧品ブランドが、それぞれにエピジェネティクス研究の知見を応用した化粧品を発売しています。

食分野:サプリが遺伝子情報をコントロールする可能性が明らかに

食は私たちの毎日のくらしで最も身近な分野のひとつです。遺伝子情報のスイッチを良い方向に作動させるものとしては、野菜や果物に含まれるビタミン類や葉酸等が挙げられます。反対に、脂っこい食事や甘いものの取り過ぎはスイッチを悪い方向に作動させることがあります。また、サプリメントで遺伝子情報のオン・オフをコントロールできる可能性も示唆されています。例えば当社の研究では、妊娠中のマウスがサプリメントを摂取することで仔世代のマウスのがんリスクが下がる可能性が示されました。この研究では妊娠中のマウスを2つの群に分け、一群にはサプリメントを与え、もう一群にはサプリメントを与えませんでした。サプリメントを与えなかった親マウスから生まれた仔マウスではがん抑制遺伝子がオフになっていてがんリスクが高まったのに対し、サプリメントを与えた親マウスから生まれた仔マウスではがん抑制遺伝子がオンになっていてがんリスクが下がっていました。

 

遺伝子情報のオン・オフは、生活習慣次第

お父さんとお母さんから半分ずつ受け継いだDNAは、あなたの設計図です。しかし、その設計図に書かれた遺伝子情報を使うか・使わないか=エピジェネティックな変化をどう起こすかは、あなたの生活習慣で変えることができます。「生まれ」ではなく「育ち」ーー食事、運動、環境などであなたの遺伝子情報のスイッチのオン・オフをコントロールできる可能性があります。

<まとめ>

  • 親から受け継いだDNAに書かれた遺伝子情報は変わらない
  • エピジェネティクス = 遺伝子情報のスイッチのオン・オフを決める仕組み
  • 体質や成長の研究においてエピジェネティクスは重要な役割を果たす
  • 生活習慣は遺伝子情報のスイッチのオン・オフに影響する

参考文献
Allis, C. D., Jenuwein, T., Reinberg, D.Epigenetics. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2015.National Institutes of Health (NIH)What is epigenetics?/Alberts et al.Molecular/Biology of the Cell, 6th ed., Garland Science, 2015./産総研マガジン「エピジェネティクスとは?科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由」/Suraweera, A., O’Byrne, K.J. & Richard, D.J. Epigenetic drugs in cancer therapy. Cancer Metastasis Rev 44, 37 (2025). /星薬科大学エピゲノム創薬研究室/Korda, Z., Koulousakis, P., Pishva, E., van den Hove, D.L.A. (2024). Epigenetics in Drug Discovery: Achievements and Challenges. In: Schreiber, R. (eds) Modern CNS Drug Discovery. Springer, Cham. /資生堂「資生堂、早期のシミ発生要因をエピジェネティクス研究で発見」/エスティローダー「エスティローダーの革新的、エピジェネティクスの新発見」/Skinner M Epigenetic biomarkers for disease susceptibility and preventative medicine Cell Metabolism, 2024; 36, 263-277

【提供元】 株式会社アミノアップ

 

1984 年設立以来、北海道を拠点に機能性食品と農業資材を研究開発し、世界47カ国に展開するメーカーです。「AHCC®」や、バイオスティミュラント「Dr. アミノアップ」などの独自素材を開発し、特許取得と論文発表を重視しています。社内に医学・薬学・農学・理学・獣医学など多分野の研究員を擁し、世界 100 以上の医療機関・大学との共同研究にも取り組んでいます。ICNIMを通じた国際的な研究ネットワーク形成に加え、環境負荷削減にも注力し、製品の製造 1トン当たりの製造時 CO2 排出量を 10 年前比40%削減。2025年にはEcoVadisのサステナビリティ調査で、世界各国の評価対象13万社の上位15%にあたるシルバー評価を獲得しました。

 

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