女性ヘルスケアトレンド
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WHOも推進するエピジェネティクス研究、食による遺伝子のオン・オフが新たな予防医療に  国内外の動向

親から受け継いだ遺伝子を変えることはできませんが、生活習慣や環境によって遺伝子情報の働き方を変えられる可能性があることがわかってきました。それが「エピジェネティクス」。その基本的な仕組みや、医療・創薬・美容・食分野での応用について解説した前回の連載に続き今回は、食分野を掘り下げます。なぜWHOのがん専門機関もエピジェネティクスに注目するのか。国内外の研究はどこまで進んでいるのか。食分野におけるエピジェネティクスの最新動向について、同研究を進める原料メーカーの株式会社アミノアップが解説します。

エピジェネティクスとは「遺伝子スイッチのオン・オフに関する研究」

わたしたちの体形や体質、病気のなりやすさは、親から受け継いだ遺伝子情報と深い関わりがあります。私たちの体の中には「DNA」という遺伝子情報が書き込まれた設計図があります。DNAはお父さんから半分、お母さんから半分を受け継いで生まれます。しかし、そこに書き込まれた遺伝子情報は、全てが使われるとは限りません。その情報がオンになるか、オフになるかであなたの体形や体質が変わります。「どの遺伝子情報をオンにするか・オフにするか」を決めるしくみを研究するのが、エピジェネティクスという研究分野です。

 

 

親から受け継ぐDNAは、あなたの意志では選べません。しかし、DNAに書かれた遺伝子情報のスイッチをオンにするか、オフにするかは、あなたがコントロールできる可能性があります。では、一体どうやって遺伝子情報のスイッチのオン・オフをコントロールできるのでしょうか。一般的には、環境、運動、食事といった要素が遺伝子のスイッチをコントロールすると言われています。

 

エピジェネティクス研究、世界の動向

WHO(世界保健機関:World Health Organization)は、1948年に設立された国連の専門機関です。1965年、WHOはその傘下にがんを専門に研究する組織である「国際がん研究機関(IARC)」を設立しました。IARCの目的は、がんの原因となる要因の特定や、がんのメカニズム解明・制御のための戦略的な研究を行うことです。つまり、ひとはなぜがんになるのか?どうやったらがんにならずに生活できるのか?を専門的に研究しているのです。そのIARCが注目している分野のひとつが「エピジェネティクス」です。

WHOエピジェネティクスチームのトップが語る研究の意義

WHOのIARCでエピジェネティクス・メカニズム部門長を務めるZdenko Herceg氏は、エピジェネティクスに注目することになった経緯について、次のように語っています。

「がん発症の根底にあるメカニズムを研究するうち、遺伝子研究だけでは限界があると感じました。遺伝子解読プロジェクトの成果は画期的でしたが、それだけでは多くの疑問に対する答えは得られませんでした。特に、環境要因や生活習慣ががん発生に及ぼす影響に関しては、遺伝子解読だけでは明らかにすることができなかったのです。そこで、エピジェネティクスにがん研究の焦点を移したのです」

Herceg氏は、WHO/IARCで20年間にわたりエピジェネティクスをテーマに研究を牽引してきました。

「わたしたちは、環境要因(放射線、汚染物質、内分泌かく乱化学物質など)による発がんとがん予防の研究をしました。それらの環境要因が引き起こすエピジェネティックな変化は、発がん初期に生じるだけでなく、バイオマーカー(病気の早期診断や進行・治療状況を客観的に測定し評価する指標)にもなり得ることが実証されたのです」

エピジェネティックな変化を追いかけることで、戦略的にがんと向き合えるとHerceg氏は言います。

「小児がん、成人がんでエピジェネティックな変化を見つけだせば、がんを早期に診断して治療することができます。現在、生活習慣の改善や、予防効果が認められる天然物または合成化合物の使用が、発がんリスクの低減やがん再発の可能性を減少させるかどうかを評価しています。これらの研究は、実験レベルから実際のヒトのがん発症リスク低減、生存率向上のための実践的な方法を開発する上で極めて重要です」

注目したいのは、わたしたちの体質や病気のなりやすさを左右するエピジェネティックな変化は、「可逆的(元に戻せる)」であるという点です。Herceg氏は「エピジェネティックな変化が本質的に可逆的であるという特徴は、革新的な戦略を開発する類の無い機会を提供する」と強調します。

食とエピジェネティクス、アフリカを舞台に行われた研究

タンザニア北東部にあるアフリカ大陸最高峰の山、キリマンジャロ。赤道付近にありながら山頂には氷河を抱く世界自然遺産です。そのキリマンジャロを臨むアフリカの地で、食とエピジェネティクスに関する研究が行われ、Radboud大学(オランダ)のQuirijn de Mast氏らがその結果を2022年に論文として発表しました。

Quirijn de Mast氏らは、アフリカのブルキナファソで、暮らしが「農村」から「都市」へ変わると、食べ物と健康がどう変わるかを調べました。昔ながらの農村部では、穀物や豆、野菜を中心とした食物繊維の多い食事が主流で、バナナを発酵した伝統的な飲み物も飲んでいました。一方、都市部では、生活が便利で豊かになると同時に、肉、油、砂糖を多く使った西洋型の食事が増えています。その結果、都市部では体重が増えて肥満になりやすくなり、糖尿病や心臓病などの生活習慣病が増えていました。さらに重要なのは、こうした体の変化が、がんの起こりやすさとも深く関係している点です。

アフリカでの研究からさかのぼること数年前、Quirijn de Mast氏らは動物実験で、普段の食事が、体の免疫のはたらき方を変えてしまう可能性があることを確認していました。実験では、脂肪や糖分の多い餌を動物に与えると、体の中で炎症を起こしやすい免疫状態がつくられました。驚くことに、食事を元に戻しても、その影響が免疫細胞の“記憶”として残ることがわかりました。食事パターンそのものが免疫細胞にエピジェネティックな変化を起こし、「がんが起こりやすい体の状態」を作る可能性を、分子レベルで説明したのです。

脂肪や糖の多い食事が続くと、体の中で弱い炎症が長く続きます。炎症状態が常態化すると、がんが育ちやすい環境をつくることが知られています。Quirijn de Mas氏は、「伝統的な食事の中には免疫調節作用を持つ植物や発酵食品などがあります」とし、「医療による介入」以前に、伝統的な「日常の食事」の良さをどう守るかが、将来の健康を左右する鍵となることを示しました。

 

エピジェネティクス研究、日本の動向

ここまで世界のエピジェネティクスの研究動向を見てきましたが、日本ではどのような研究が進んでいるのでしょうか。日本のエピジェネティクス研究は特に基礎研究が強い傾向があり、国際的に高く評価されています。

がんが発症する“前”をとらえられるか? 基礎研究の重要性

星薬科大学の牛島俊和学長は、「がんの予防効果の指標を、がんが何%の人に発症したとかという『がん発症』から、がんの発症危険度を示す『エピジェネティックな発がんの素地の程度』へと移行することで、がん予防を目的とした食品や手法の効果評価に要するコストと時間を大幅に削減できる」と語ります。

牛島学長によると、発がんに関わる情報が得られる「エピジェネティックな発がんの素地」は、外見上は一見正常に見える組織にも存在しており、特に胃、肝臓、子宮頸部などで顕著だといいます。エピジェネティックな発がんの素地の存在は、次世代シーケンス(数百万から数十億のDNA分子を超高速で解読する装置)の技術利用によって実証されました。牛島学長はこれまでに、エピジェネティックな発がんの素地の程度を測定することで、胃がんリスクを予測できることを示しています。

また2026年には理化学研究所から、世代を超えるエピゲノムに関する研究発表がありました。卵細胞に刻まれたヒストン修飾(※1)が、次世代の発生や胎盤形成に影響するというメカニズムを明らかにしたものです。遺伝子配列は変わらなくても、遺伝子情報の使い方が記憶として次世代に伝わることを示した研究です。(※1)DNAが巻き付いているヒストンというタンパク質が変化して、DNAの巻き付き方のきつさ・ゆるさが調整されること

アミノアップ作成(遺伝子情報が書かれたDNAは長いひも状をしており、ヒストンに巻き付いて収納されている)

【画像】アミノアップ作成(遺伝子情報が書かれたDNAは長いひも状をしており、ヒストンに巻き付いて収納されている)

 

日本では、栄養がエピジェネティクスを通じて体質を決めるという研究も長年積み重ねられています。葉酸、ビタミンB群 、タンパク質の摂取量、過栄養・低栄養が、DNAメチル化(※2)やヒストン修飾をどう変えるかといった研究がされています。(※2)DNAを構成する塩基の一部にメチル基という目印が付いて、その遺伝子情報を使うかどうかを調整すること

ユネスコ無形文化遺産「和食」とエピジェネティクス

栄養とエピジェネティクスの関係は、実は日本人の日常生活の中に連綿と続いています。それは、わたしたちが日々口にする「和食」です。2013年、「和食(日本人の伝統的な食文化)」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。和食の4つの特徴として以下が挙げられています。

  1. 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
  2. 健康的な食生活を支える栄養バランス
  3. 自然の美しさや季節の移ろいの表現
  4. 正月などの年中行事との密接な関わり

注目したいのは、ユネスコ無形文化遺産になったのは、和食という料理そのものだけではなく、和食文化が生み出す健康にまで及んでいる点です。一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは、理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。

和食には、次の特徴があります。

  • 植物性食品中心(野菜・海藻・豆類)
  • 魚介類が主要なたんぱく源
  • 発酵食品(味噌・醤油・納豆・漬物)
  • 精製糖・動物性脂肪が少ない
  • 食物繊維・ミネラルが豊富

これらはすべて、エピジェネティックな遺伝子コントロールに関わります。葉酸(野菜・海藻)、ビタミンB6・B12(魚介・発酵食品)、ベタイン・コリン(大豆・魚)といった栄養素が DNAメチル化の材料 となり、遺伝子のオン・オフを安定的にコントロールします。

サプリメント領域の動向

日々の食生活に加えて、手軽に継続できるサプリメントを使ったエピジェネティックな遺伝子コントロールも研究されています。当社でも近年はAHCCとエピジェネティクスの研究を進めています。当社が開発したサプリメント素材の「AHCC」は、1989年の発売以来、37年にわたり世界中で使われてきました。AHCCとは、担子菌(キノコ)の菌糸体(一般的に食されるかさ状の部分ではなく、⼟中や⽊質などの培地に広がって存在する糸状の部分)を大型タンクで長期間にわたり液体培養して得られるものです。

アミノアップ作成(アミノアップが開発したサプリメント素材「AHCC」は、キノコの菌糸体を長期液体培養してつくられる。)

【画像】アミノアップ作成(アミノアップが開発したサプリメント素材「AHCC」は、キノコの菌糸体を長期液体培養してつくられる。)

 

このAHCCを用いて、次のようなエピジェネティクス分野の研究が進んでいます。

  • 母親の食生活が子どもの将来の体質にどのような影響を与えるか
  • 腸内環境を整えることで遺伝子のスイッチのオン・オフに影響を与えることはできるか
  • 遺伝子レベルで病気の発症を予防する体づくりができるか

また、当社が後援する統合医療機能性食品国際学会(ICNM:International Congress on Nutrition and Integrative Medicine)の年会もエピジェネティクスを取り上げています。同学会では、エピジェネティクスについて広く一般市民にも知ってもらおうと、「がんとエピジェネティクス(2024年)」、「毎日のくらしでできる遺伝子レベルのがん予防(2025年)」をテーマにした公開シンポジウムを開催しています。

 

食事やサプリメントで遺伝子情報のオン・オフをコントロールする

エピジェネティクスとは、遺伝子そのものではなく「遺伝子の働き方(=スイッチのオン・オフ)」が変わる仕組みです。WHOの国際がん研究機関(IARC)や国内外の大学もエピジェネティクス研究に注目しており、がん予防や早期診断への応用などが期待されています。

<まとめ>

  • エピジェネティックな変化を見つけだせば、病気を早期に診断して治療することができる
  • 脂肪や糖が多い西洋型の食事は、体内の炎症状態を常態化させ、がんが育ちやすい環境をつくる
  • 発酵食品などの伝統食や栄養バランスの良い和食は、遺伝子のオン・オフを安定的にコントロールする
  • 「AHCC」などのサプリメントを通じたエピジェネティックな予防的アプローチが注目されている

参考文献
統合医療機能性食品国際学会 統合医療機能性食品国際学会 第31回年会./統合医療機能性食品国際学会 統合医療機能性食品国際学会 第32回年会./統合医療機能性食品国際学会 統合医療機能性食品国際学会 第33回年会./統合医療機能性食品国際学会 統合医療機能性食品国際学会 Annual Report 2025./Anette, C., et al. Western Diet Triggers NLRP3-Dependent Innate Immune Reprogramming. Cell, 172(1–2), 162–175.e14 (2018)./Casari, S., et al. Changing Dietary Habits: The Impact of Urbanization and Rising Socio-Economic Status in Families from Burkina Faso in Sub-Saharan Africa. Nutrients (2022). /理化学研究所.プレスリリース(2026年4月14日)/日野信次朗.栄養環境適応におけるエピジェネティクス制御機構.基礎老化研究, 45(3), 19–24 (2021)./農林水産省.食文化に関する施策.

 

【提供元】 株式会社アミノアップ

 

1984 年設立以来、北海道を拠点に機能性食品と農業資材を研究開発し、世界47カ国に展開するメーカーです。「AHCC®」や、バイオスティミュラント「Dr. アミノアップ」などの独自素材を開発し、特許取得と論文発表を重視しています。社内に医学・薬学・農学・理学・獣医学など多分野の研究員を擁し、世界 100 以上の医療機関・大学との共同研究にも取り組んでいます。ICNIMを通じた国際的な研究ネットワーク形成に加え、環境負荷削減にも注力し、製品の製造 1トン当たりの製造時 CO2 排出量を 10 年前比40%削減。2025年にはEcoVadisのサステナビリティ調査で、世界各国の評価対象13万社の上位15%にあたるシルバー評価を獲得しました。

 

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