【特集】世界の健康啓発に学ぶ、無関心を突破するクリエイティブ ブラックユーモアで1.5億回再生、イケメン起用でアプリDL7万件
健康の重要性を繰り返し伝えても、必ずしも人の関心を引き、行動を促せるとは限らない。では、健康への関心が薄い人を振り向かせるには、どうすればいいのか。そのヒントになりそうなのが、人の感情を揺さぶる「クリエイティブ」だ。世界には、笑ってしまうもの、ゾッとするもの、意外な結末に胸を打たれるものなど、従来の啓発のイメージを覆すユニークな啓発動画が数多くある。前回の特集第1回では、乳がん検診の受診行動を分析し、強い動機づけだけが人を動かす方法ではないことを見てきた。続く第2回では、乳がん啓発にとどまらず、禁煙や飲酒運転防止、鉄道事故防止など、世界の啓発動画7本をご紹介。動画が扱うテーマは違えど、「無関心な人をどう振り向かせるか」という課題は共通している。人の心を動かす「伝え方・見せ方」の工夫から、女性の健康啓発にも応用できるヒントを探っていこう。
特集!全4回でお届けする「健康啓発×デザイン」
- ■なぜ、これだけ啓発しても女性は動かない? 乳がん検診から見る行動変容の壁
- ■どうすれば関心を持ってもらえる?世界の啓発に学ぶ無関心を突破するクリエイティブ(◀︎今回はココ)
- ■「知っている」で終わらせない 乳がん啓発に学ぶ、健康・予防行動を日常に組み込む仕掛け
- ■健康との接点は「デザイン」で変えられる? モノ・空間・情報から考える新しいアプローチ
目次
- 健康啓発の事例
- ピクサー級のクリエイティブで健康啓発をエンタメに、”意志”を邪魔するのは誰? (欧州・2026年)
- かわいいキャラクターが次々と悲惨な最期、ブラックユーモアで事故防止を啓発 再生回数は1.5億回(豪州・2012年)
- イケメンたちが呼びかける、セクシー&ユーモアな乳がん啓発 アプリDL7万件につなげる(カナダ・2011年)
- トイレの鏡に突然、血まみれの顔が出現 恐怖のドッキリで飲酒運転防止を啓発(英国・2013年)
- ジャムを塗る、車を洗う、髪を乾かす 日常の動作を乳房チェックの合図に(豪州・2008年)
- 母親が息子に家事を猛特訓、その理由に胸を打たれる乳がん啓発(シンガポール・2022年)
- たばこを吸う大人に子どもが一言、痛烈な問いかけで禁煙を促す(タイ・2012年)
- 健康啓発に、もっと遊び心を
- 女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
健康啓発の事例
ピクサー級のクリエイティブで健康啓発をエンタメに、”意志”を邪魔するのは誰? (欧州・2026年)
健康的に暮らしたいのに、なぜかうまくいかない。その原因は、身の回りに潜む「妨害者」たちかも――。欧州25カ国で展開された啓発キャンペーン「The Saboteurs」は、食生活や運動、飲酒、喫煙など、健康的な選択を邪魔する存在をユーモラスなキャラクターで表現。細部でクスッと笑えるストーリー展開と映像のクオリティは、ピクサー級。 誰もが身に覚えのある誘惑をコミカルに描きながら、健康的な生活を送るには、本人の意志だけでなく、周囲の環境も重要であることを痛感させる(Healthy living is about more than willpower)。
かわいいキャラクターが次々と悲惨な最期、ブラックユーモアで事故防止を啓発 再生回数は1.5億回(豪州・2012年)
かわいらしいキャラクターたちが、次々と「バカげた」理由で命を落としていく。毒ヘビをペットにしたり、自分の髪に火をつけたり、凶暴なクマを棒でつついたり、宇宙空間でヘルメットを脱いだり。軽快な音楽に乗せて繰り広げられるシュールな光景は、思わず見入ってしまう。オーストラリアの鉄道会社メトロ・トレインズが制作した「Dumb Ways to Die」は、鉄道事故防止を呼びかける啓発動画。最後は駅や線路での危険行為へと話がつながり、笑える映像が一転して命を守るメッセージに。少々刺激の強い描写もあるが、親しみやすいキャラクターと、大人も楽しめるブラックユーモアが絶妙に融合。子どもから大人まで、幅広い世代に響くクリエイティブだ。一度聞いたら耳から離れない、妙にクセになる音楽も秀逸。
ちなみに、この動画のキャンペーンソングは、公開から24時間でiTunesのチャートでトップ10入りを果たし、わずか48時間後には世界のiTunesチャートのシンガーソングライター部門で6位にランクイン。動画の再生回数はその後、1億5000万回を超え、シェア数は480万件に達した。多くの人の心をとらえたようだ(Dumb Ways To Die Case Study)。
イケメンたちが呼びかける、セクシー&ユーモアな乳がん啓発 アプリDL7万件につなげる(カナダ・2011年)
白衣姿の男性が真面目に乳がんについて語り始めたかと思えば、突然、筋肉質なイケメン男性が登場。胸元をはだけながら、女性たちに乳房の変化を確認するよう呼びかける。カナダの乳がん支援団体Rethink Breast Cancerが制作した「Your Man Reminder」は、20〜40代女性に乳がんへの関心を持ってもらうための啓発動画。好みのイケメン男性6人から1人を選ぶと、定期的に乳房チェックを促してくれる無料スマホアプリと連動した企画だ。アプリにはリマインダー機能や乳がんの兆候・症状に関する情報も掲載。乳房に触れる、見た目の変化を確認する、異常があれば医師に相談するという「TLC(Touch・Look・Check)」を呼びかけた。動画は200万回以上再生され、アプリのダウンロード数も7万件を突破した(ABC News)。病気への不安をあおるのではなく、セクシーさとユーモアで関心を引き、日常的な健康行動につなげようとする、遊び心たっぷりのクリエイティブだ(They’re Here! Hot Men Invade the App Store as the “Your Man Reminder” Free App Launches for National Breast Cancer Awareness Month)。
トイレの鏡に突然、血まみれの顔が出現 恐怖のドッキリで飲酒運転防止を啓発(英国・2013年)
パブのトイレで鏡を見ていると、突然、血まみれの顔がガラスを突き破って出現。あまりの衝撃に、男性たちは思わず飛びのく。英国運輸省が展開した飲酒運転防止キャンペーン「Pub Loo Shocker」は、トイレの鏡に仕掛けたドッキリで、交通事故の恐怖を疑似体験させる企画。実は、血まみれの顔は人形で、驚く男性たちは俳優。ただし、驚いた反応は本物だという。飲酒運転の危険性を言葉で説明するのではなく、強烈な恐怖で印象づける大胆なクリエイティブ。公開後1週間でYouTube再生回数は500万回を超え、関連するX(旧Twitter)の投稿も7000件以上に達した(Leo Burnett’s Pub Loo Shocker for THINK!)(Think you are sober enough to drive? Take a look in the mirror.)。
ジャムを塗る、車を洗う、髪を乾かす 日常の動作を乳房チェックの合図に(豪州・2008年)
トーストにジャムを塗ったり、車を洗ったり、ドライヤーで髪を乾かしたり。何げない日常の動作が、いつの間にか乳房チェックを思い出すきっかけに。オーストラリアの乳がん啓発キャンペーン「Cheeky Check-Ups」は、身近な行動と乳房の健康をユーモラスに結びつけたアニメーション動画。少々無理がある気もするが、ジャムを塗る手の動きなどを乳房に触れる動作になぞらえ、乳房の変化を意識するよう促す。特別な時間を設けて健康管理を続けるのではなく、毎日の暮らしの中に健康を思い出す瞬間をつくる。行動のきっかけを日常に埋め込むことを呼びかける、軽やかなクリエイティブだ。
母親が息子に家事を猛特訓、その理由に胸を打たれる乳がん啓発(シンガポール・2022年)
料理に洗濯、掃除。母親が幼い息子に、次々と家事を教え込んでいく。まだ子どもなのに、なぜここまで厳しく教えるのか。戸惑いながらも懸命に取り組む息子と、どこか切迫した様子の母親。物語が進むにつれ、母親が息子の将来を案じていることが伝わってくる。シンガポールの乳がん支援団体Breast Cancer Foundationが制作した「Ahead of Time」は、乳がんの早期発見の重要性を訴える啓発動画。母親の行動の背景には、乳がんによって息子と過ごす時間を失うかもしれないという不安があった。病気の説明や統計データを前面に出さず、親子の物語と終盤で明かされる母親の真意を通じて、乳がんを自分ごととして考えさせる。見終わった後に余韻が残る、感情に訴えるクリエイティブ。
たばこを吸う大人に子どもが一言、痛烈な問いかけで禁煙を促す(タイ・2012年)
路上でたばこを吸っている大人に、幼い子どもたちが「火を貸して」と声をかける。驚いた大人たちは、「たばこは体に悪い」と、次々に喫煙の危険性を説き始める。子どもたちは「体に悪いと知っているのに、どうして吸っているの?」と問い返し、禁煙を促すリーフレットを手渡す。タイ健康増進財団が展開した禁煙キャンペーン「Smoking Kid」は、喫煙者自身にたばこの害を語らせるという逆転の発想が特徴。子どもを心配する大人の言葉が、そのまま自分自身への問いかけとなる。禁煙を一方的に説教するのではなく、自分の言動の矛盾に気づかせ、行動を促す。思わずハッとさせられる、心理を巧みに突いたクリエイティブだ。
健康啓発に、もっと遊び心を
かわいいキャラクターにイケメン、恐怖のドッキリに泣ける物語。世界の啓発動画を見渡すと、健康啓発の表現は実に自由だ。共通するのは、健康に関心がない人でも、思わず見たくなる仕掛けやストーリー展開。もっとも、話題になることと、実際に健康行動が変わることは別の話。関心を引いた先に、どう行動のきっかけをつくるかは、企画側の腕の見せどころだ。その点で秀逸なのは、カナダの「Your Man Reminder」。動画で関心を引くだけでなく、日常的な乳房チェックを促すまでの導線設計のもと、7万件のアプリDLにまでつなげた点が巧みだ。健康啓発というと、とかく正しい知識を伝えることに注力しがちだが、もっと遊び心を取り入れてみてはどうだろう。次回の第3回では、国内に目を向け、日常生活の中に健康への気づきを仕込んだ取り組みを見ていく。
女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください
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