博報堂に聞いた「エージェンティックコマース」の現在地、転換点2027年に向けてヘルスケア企業が今からやるべきこと

生成AIの進化により、生活者自身が商品を検索・比較して購入する従来の購買行動から、AIエージェントが生活者に代わって商品を探し、比較から購入までを担う「エージェンティックコマース」への移行が現実味を帯びている。こうした変化を見据え、博報堂DYグループは今年7月、エージェンティックコマースへの企業の対応を支援する統合ソリューション「Agentic Commerce ONE」の提供を開始した。すでに幅広い業種から相談が寄せられているという。企業の対応は今、どこまで進んでいるのか。エージェンティックコマースはいつ本格的に普及し、ヘルスケア企業は何から着手すべきなのか。博報堂コマースコンサルティング局エージェンティックコマース領域担当部長の、吉田敬氏に話を聞いた。

診断から見えてきたこと

編集部
「Agentic Commerce ONE」の提供を開始後、どのような業種・企業から相談があるのか?

吉田氏
化粧品や日用品、家電メーカーにとどまらず、小売・流通、不動産・インフラ、自動車、金融・保険に至るまで、多岐にわたる業種の企業からの相談が寄せられている。多くの企業が「AIによる購買代行」という未来像に強い関心を寄せる一方、目先の対策としては、自社ブランドや商品が現状のAI(LLM)にどのように認識・評価されているかに意識が向いている。そのため、Agentic Commerce ONEで提供している「エージェンティックコマースの対応状況を評価する診断サービス」より、「AIO(AI最適化)の状況を評価する診断サービス」を求める企業が圧倒的に多い。

編集部
各社からの相談を通じて見えてきた、企業のエージェンティックコマースまたはAIOの対応状況は?

吉田氏
AI上での自社の「見え方」に課題を抱える企業が多い。具体的には、企業名やブランド名、商品名を指定する「指名検索」ではAIに推奨されても、悩みや目的を起点とした「非指名検索」になると、競合他社に後れを取っているケースが多く見られる。こうした背景から、まずはAIに自社の情報を正しく認識させるためのサイト構造の見直し(構造化データの設計)や、AIからの推奨を獲得するための情報基盤の整備など、AIO対策に急ぎ着手しようとする企業が多い。今はいわば「エージェンティックコマース対策の黎明期」にあると言える。一方、AIOの先にある「AIによる購買代行」を見据えた事業戦略の策定や、AIエージェント開発に向けたシステム実装まで踏み込んでいる企業はまだ少なく、本格的な対応はこれからという印象がある。

博報堂:吉田様

【提供】博報堂(吉田敬氏)

 

エージェンティックコマースの普及時期と、先行する商材

編集部
国内でエージェンティックコマースの利用が本格的に広がっていく時期を、いつ頃と見ているか?

吉田氏
日本市場においては、外部AIとECサイト間で在庫確認や決済を連携するための標準プロトコル(GoogleのUCPやOpenAIのACPなど)の実装展開は2027年以降に本格化すると推察しており、ここが普及のひとつの転換点になるのではと見ている。

編集部
どのような商材で、エージェンティックコマースの利用が先行して普及すると予測しているか?

吉田氏
先行して普及しやすい領域としては、大きく2タイプある。1つ目は、コスメ、家電、旅行、保険などの「専門性商材(比較検討型商材)」。これらは、複雑なスペック比較や条件の絞り込みなど、生活者の比較・検討にかかる負荷が大きく、AIを活用するメリットが大きいため、対話型相談を通じて最適な提案・知識を得るという行動が先行して浸透すると考えている。

2つ目は、日用品や食品・飲料といった「コモディティ商材」。日常的に購入する商品は、生活者がその都度AIに相談して比較・検討する必要性が低いため、現状ではAIに推奨してもらう対象としてあまり重視されていない。しかし、将来的に外部AI上で自律購買されるようになったら、「いつもの商品」としてAIによる自動補充・代理購買をルーティン化しやすい。従って、コモディティ商材も、先行して浸透していくと考えている。

 

エージェンティックコマース普及の条件

編集部
エージェンティックコマースが本格的に普及するためには、今後どのような環境や条件が揃う必要があるか?

吉田氏
エージェンティックコマースが国内で本格的に普及するためには、大きく「技術・インフラ面」と「心理・制度面」の2つの条件が揃う必要がある。まず技術・インフラ面では、AIエージェントと各企業のECサイトや決済システムがシームレスに連携するための「標準プロトコルの整備」が不可欠だ。現在、米国等ではAIが在庫確認やカート作成、注文処理を自動で行うための規格(Googleが主導するUCPや、OpenAIが推進するACPなど)の策定が進んでいるが、日本市場での本格展開はまだこれから。さらに、生活者がAIに対して「〇〇円までなら決済して良い」と、安全に権限を委任できるようになるための新たな認証・決済基盤の普及も求められる。

心理・制度面では、生活者が「自分の代わりに決済まで任せられる」というAIに対する強い信頼の醸成が鍵となる。AIのハルシネーション(もっともらしい嘘)を防ぐ回答精度の向上はもちろんのこと、AIが生活者の意図と異なる誤発注をしてしまった際のキャンセルや返品に関する法的なルール整備、およびプライバシー保護の基準確立などが社会全体で進む必要がある。2027年以降に、これらの技術・インフラと、ルール・信頼の環境が徐々に整っていけば、本格的な普及フェーズに入っていくだろう。

 

企業が今から着手すべきこと

編集部
Agentic Commerce ONEの発表資料では、今後どのようなエージェンティックコマースの形が定着するかは、現時点では不透明との見解を示している。そうした中、企業が今から取り組んでおくべきことは?

吉田氏
どのような実装パターンが主流になるにせよ、企業が今すぐ取り組むべきことは、足元の「AIへの最適化(AIOに向けたオウンドサイト改善とデータエンリッチメント)」と、中長期の「エージェンティックコマース実行戦略の策定」の2段階のアプローチになる。

まず足元の必須課題として、AIからの露出・推奨を獲得するための「オウンドサイトの改善」が必要だ。AIが情報を正しくクロールし解釈できるよう、サイトの構造化データを整備したり、ユーザーの悩みや目的に応えるFAQ等のコンテンツを拡充したりといったAIO対策が求められる。さらに、それに連携する形で「商品データのリッチ化(データエンリッチメント)」も重要だ。単なるスペック情報の羅列ではなく、具体的な利用シーンや生活者にもたらす体験価値などの文脈情報を付加し、「AIフレンドリー」な状態へと整備することが急務となる。同時に、その先のステップとして、AIエージェントによる自動化の進展(AIによるカート生成、代理決済、自律購買など)を見越した戦略策定に今から着手しておくべきだ。

AIが新たな購買チャネルとなる時代において、自社のマーケティング、商品開発、価格・在庫管理、さらには物流(サプライチェーン)に至るまでのバリューチェーン全体を「AI起点」でどう再設計し、どのような顧客体験(CX)を提供するのか。単なるシステム対応にとどまらず、事業・組織を横断したグランドデザインを描いておくことが、本格普及期における競争優位性となる。

 

ヘルスケア企業特有の課題と対策

編集部
AIが商品の探索・比較だけでなく、購入・決済まで生活者に代わって行うようになることで、ヘルスケア領域の企業には、どのような特有の課題が生じると予測するか?

吉田氏
AIによる購買が広がることで生じる課題は、大きく2つ考えられる。1つ目は、ヘルスケア領域特有の課題で、「パーソナライズに伴う健康・法務リスク」。ヘルスケア領域は、個人の体質への適合が極めて重要な領域であるため、AIが商品の効能を誤って解釈・誇張し、体質に合わない商品を代理購入してしまうリスクや、推奨の過程で薬機法等に抵触する表現が生成されるリスクが生じる。

2つ目は、AIに参照される商品情報をSNS上の口コミ(UGC)に依存することのリスク。昨今は、主要なSNSプラットフォームがAIの学習用クローラーを制限しているため、ChatGPTやGeminiがSNS上の口コミをクローリングし、商品の利用シーンや、生活者が商品によって解決できた課題などを学習して推奨することができなくなっている。そのため今後は、自社サイトでは、顧客視点での商品体験価値をしっかり記載するほか、FAQを充実させ、掲示板機能などを通じてUGCを蓄積することも重要になる。加えて、クローリングが制限されていない外部媒体への対策も必要になってくる。

編集部
ヘルスケア企業が今から着手すべきことは?

吉田氏
企業自らが、「AIにとって正しく安全な情報源」となることだ。具体的には、自社のオウンドサイト上に成分の正しい効能や、どのような悩みを持つ人に合うかといった商品特性や適合性に関する情報を拡充し、AIが誤解なく参照できるように構造化データを整備するなどの「AIO(AI最適化)対策」が足元の急務となる。

編集部
ありがとうございました。

 

 

女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート

2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版  市場動向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート(PC)

 

 

【編集部おすすめ記事】
■AIで購買行動はどこまで変わった? 商品の探索・比較・選択・購入で広がる利用
■AIで購買行動はどうなる?世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く「10の予測」前編
■AIで購買行動はどうなる?世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く「10の予測」後編
■AI時代、企業・ブランドはどう選ばれる? 最新の支援事例に見るマーケティングの新常識
■女性ヘルスケア白書 市場動向予測2026 健康トレンド・業界動向・女性ニーズ

 

 

PAGE TOP
×