健康・美容業界で増える「リブランディング」 企業事例・ブランド事例を交えて有効性を考える(3/5)
2.市場が変化したとき
消費者の価値観やライフスタイルの変化
市場が変化した時も、リブンラィングのタイミングになる。市場に投入した当初は順調に浸透していったブランドも、時代の変化によって消費者のライフスタイルや価値観が変化し、商品やサービスが合わなくなり受け入れられなくなることがある。
消費者の価値観変化についてわかりやすい例は、ファッションモデルの多様化。以前は、体が細く・背が高く・手脚が長く・整った顔をもつ白人女性がファッション業界や化粧品モデルのトップに立ち、多くの女性がそんな完璧な女性に憧れていたが、ダイバーシティを重視する動きが見られるようになった2010年代頃より徐々に、体重も体型も年齢も肌の色も顔の造形も様々な女性がモデルとしてランウェイを闊歩するようになった。
片脚を切断した女性ヴィクトリア・モデスタさんも、その一人。彼女は「シンガーソングライター」「パフォーマンスアーティスト」「モデル」の肩書きを持ち、義足を“アート”として表現し活動している。義足を絶対的な個性だと自身で認めているので、インスタに投稿されている写真や彼女のミュージックプロモーションは、いつでも義足が主役だ。
彼女のその奇抜な姿は、これまでに人々が目にしたことのない強烈なオーラを放ち、強さと美しさに満ち溢れている。人と違うことを恐れ隠すのではなく、人と違うことを「自分の個性、生きていく強み」と認め生きていくことがどういうことなのか?ということを人々に考えさせる。彼女から放たれるこの何とも言えぬ新しい風と可能性が、多くの女性を虜にしているのだ。
以下の動画・写真が彼女の作品。左脚に注目してほしい。初めて見た人たちは、一瞬「本当に義足なの!?」と驚く。華やかでアーティスティックで、そして近未来的。
この投稿をInstagramで見る
この投稿をInstagramで見る
この投稿をInstagramで見る
ぽっちゃり体型を武器にインスタグラマーとして国内のみならず米国でも大人気の渡辺直美さんが、米国ファッションブランドのケイト・スペード ニューヨークのグローバルアンバサダーに抜擢されたことも、世界的な消費者の価値観変化を象徴した出来事だ。
この投稿をInstagramで見る
一昔前であれば、前述のヴィクトリア・モデスタさんも渡辺直美さんも、ファッションや美容業界、ポップカルチャー、アートなどの領域で国境をも超えるほどの世界的脚光を浴びることはなかっただろう。
だがダイバーシティを支持する女性が増えた今は、こういった多様な外見が「おしゃれで今時」なのだ。一方で、この消費者の価値観変化を無視した企業やブランドは、多くの顧客をがっかりさせ、そして衰退している。その例が、世界で一世を風靡した米国のヴィクトリアズ・シークレット。
最も分かりやすい例は、世界で一世を風靡し、日本女性にも大人気となった下着ブランド「ヴィクトリアズシークレット」の急速な顧客離れと業績低迷です。同ブランドは、ゴージャスでセクシーな、世界トップクラスの容姿端麗な女性をモデルに起用していることで有名です。一方で米国歌手のリアーナが手掛けた下着ブランドは、「人種も体型も顔もさまざまな女性」をモデルに採用しているのが特徴で「まさに今の時代を象徴している!」と米国女性に大絶賛されています。世界中で多様性とインクルージョンが広がっている現代において、ヴィクトリアズシークレットの「完璧な容姿の女性だけを起用する」姿勢を時代遅れだと感じる消費者は増えていて、近年の同社のPR文言や、幹部の発言は女性顧客たちの怒りを度々買っていました。例えば次のような発言です。
“同ブランドを擁するLブランズ(L BRANDS)のエド・ラゼック(Ed Razek)元チーフ・マーケティング・オフィサーが、「プラスサイズやトランスジェンダーのモデルには全く興味がない」と発言したことが物議を醸し、インスタグラムで謝罪文を発表する結果となった。(引用:WWD「「ヴィクトリアズ・シークレット」がついにプラスサイズモデルを起用 多様性の流れにあらがえず」)”
同社は近年の多様性の流れを受け、ついにプラスサイズモデルやトランスジェンダーモデルを起用はしたものの、急速な女性顧客離れに歯止めはかからず、毎年年末に行っていた大規模なショーは2019年末、初めて中止となりました。(引用:ウーマンズラボ「トレンド分析:2020年度の女性市場トレンドと消費傾向」)
上記の事例は、当社ウーマンズが展示会や全国各地で講演をする際にもよく取り上げているので、「それ、知ってる知ってる、もう聞いた」という読者の方も多いかと思う。これだけ頻繁に取り上げるのは、女性たちの価値が近年になり急速に変化していることを無視している企業が、いまだに数多く存在するからだ。
そんな企業が今知っておくべき、近年の女性たちの価値観変化を知るキーワードを以下に並べてみる。意味としてかぶりもあるが、キーワードで表現する方が理解しやすいと思うので、あしからず。
- SDGs
- ダイバーシティとインクルージョン
- ジェンダーレス
- サスティナビリティ
- 動物愛護、クルーエルティフリー
- 地球環境への配慮
- クリーンビューティ
どれも最近になりよく聞く言葉だろう。価値観変化をもたらしているこれらのキーワードをもとにリブランディングに動く企業は最近増えている。広告コピーやクリエイティブの世界観、パッケージデザインなどを見ると、上記を意識したリブランディングに取り組んでいるのか否かがわかる。ダイバーシティを意識したモデルの採用、クリーンビュティを意識した成分や原料の採用、地球環境を配慮したボトル設計などが具体例だ。
3.新しい技術が登場したとき
市場に新しい技術が登場した時にリブランディングの必要性に迫られることもある。例えば他社が先行して新技術を商品化し上市すると、自社ブランドが陳腐化し低迷する恐れがある。あるいは、自社・他社が同時に新技術の開発に着手し商品化する場合もある。このような場合にリブランディングが有効に働く。それぞれのケースで成功事例を見てみよう。
アスタリフト(富士フイルム)の成功事例
まずは、前者の「他社が先行して新技術を商品化した場合」のリブランディング成功事例から。近年は企業規模関係なく、AIを駆使したりDXに乗り出した企業が次々に登場しては業界に変革を起こしているが、このように、新興企業や同業他社による新技術の登場で自社ブランドの立ち位置が危うくなり始めた、あるいは売り上げが低迷してきたなら、リブランディングを考えるタイミング。もちろん、技術面で他社に追いついて戦うことも選択肢ではあるが、リソース面などで限界を感じるなら、自社技術を応用して新しい市場へ乗り出す方が生き残れる可能性は上がる。
その事例が富士フイルム。フイルム写真が一般的だった90年代までは「カメラのフイルム会社」として絶対的な知名度を上げていたが、外資系のコダックが開発したデジタルカメラ技術の登場で危機的状況に。そこで、富士フイルムは生き残りをかけ、自社でこれまで培ってきたフイルム技術を応用できるヘルスケア・化粧品市場に参入。そうして2007年に生まれたのが、30代以上の女性をターゲットにした、真っ赤なパッケージボトルが特徴のエイジイングケア化粧品ブランド「アスタリフト」だ(2016年以降は、ユーザー層の拡大に向け20代もターゲットにしている)。
この投稿をInstagramで見る
この投稿をInstagramで見る
発売当初は「カメラの会社が化粧品…?」と訝る女性の声も多かったが、今やベストコスメを数多く受賞する人気ブランドとして認知されている。2019年にはメンズ市場へ参入し、男性用スキンケアシリーズ「アスタリフト メン」の発売も開始した。
この投稿をInstagramで見る
発売開始当時のCMでは中島みゆきさんと松田聖子さんを採用。CM内では、中島みゆきさんが写真撮影をするシーンがあったり、「フジフイルムのスキンケア化粧品」というコピーを入れるなど、「カメラのフイルム会社が化粧品を開発しました」感を前面に押し出している。アスタリフトはその後、瞬く間に人気商品となり発売4年目で売上高100億円を突破。ヘルスケア業界のリブランディング事例の中でも突出した成功事例だ。
なお、既存の社名やブランドを基盤に新規市場へ乗り込む時は、競合他社との差別化はかなり重視しなくてはいけない。単なる知名度を流用して新規市場に参入するだけでは、かえってそれまで築き上げてきたブランド資産を崩してしまう危険性もある。「なぜあのブランドがこの市場に参入してきたのか?」そのストーリーをきちんと描いておく必要がある。
キシリッシュガム(明治)の成功事例
次に、「自社・他社が同時に新技術の開発に乗り出した場合」のリブランディング成功事例。
キシリッシュガム発売当初のガム市場は、男性が主体で板状のガムが売上の大半を占めていたが、糖衣コーティングされた粒状のガムが徐々に浸透し始めてきていた時期でもあった。
明治は発売にあたり市場を分析していく中で、キシリトールという新しい素材が「虫歯」の原因にならないことに注目し、それまで虫歯の原因としてやり玉にあがっていたガムの立ち位置を大きく変える製品として「虫歯になりにくいガム」といった健康訴求をブランドイメージにしてガム市場に参入。しかしロッテからも同じキシリトールを使用した同様のコンセプトガム“キシリトールガム”が同時期に発売され「歯の健康」訴求だけではなかなか差別化が図れない状況が続いていた。
そこで明治は改めて市場を分析し、キシリッシュガムのリブランディング構築を検討。するとそれまでガム市場では少数派だった女性層や若年層にとって、キシリッシュガムは「ガムの難点を克服した新しい製品」として認識されていることがわかってきた。具体的には、女性にも受け入れやすいフルーティーな味、持ち歩いてもバラバラにならないパッケージデザイン、粒ガムの包み紙が大きく噛んだ後に捨てやすい、といった機能的特徴が受け入れられていたのだ。
この分析結果を受け、マーケティングデザインの方針を大きく変更した。コンセプトである「歯の健康」は、これからのガムの基本性能として維持しながら、味のバリエーションやパッケージデザイン、宣伝・広告のターゲットを若年層や女性層に集中。競合他社との差別化が明確になり、新たなガム市場の開拓に成功した。その後もパッケージ構造の見直しやロゴの微調整など細かなリブランディングを繰り返しながらブランディングの構築を強化していったのが、キシリッシュガムだ。