ライフコースとは? 女性マーケティングの基本分類

結婚、妊娠、出産、育児・子育て、夫の転勤、家族の介護など、女性は男性と比べて人生に変化を及ぼすライフイベントの到来が多い。そして各ライフイベントはそれまでの価値観を一変させ、ライフスタイル・所属コミュニティ・行動範囲・消費行動・購入基準など、消費活動に関わるあらゆるコトを大きく変える。そんな流動的な女性たちを捉えるのに役立つのが、「ライフコース」。女性をターゲットにしたビジネスをしているなら必須の概念だ。

ターゲット女性のペルソナ設定に、コンセプト策定のヒントに、プロモーションで刺さる世界観や広告コピーを発想するヒントの発見に、今回は女性特有のライフコースについて理解を深めよう。

ライフコースとは?

女性マーケティングの基本は、ライフコース視点による分類で女性をとらえること。生き方や価値観が多様化しマスマーケティングが通用しなくなった近年は、one to oneマーケティングが重視されているが、その前段階の作業で取り入れたい概念。one to one の施策に入る前に、まずは、自社の女性客がどのライフコースにあてはまるのか?を見極めよう。

ライフコースの定義

ライフコース(Life course)とは、「個々の人生の道筋」という意味。人の人生は、就学、就業、結婚、出産、子の独立、家族の介護、家族との死別といった様々なライフイベントをきっかけに枝分かれてしていく。ライフコースはその道筋を線で捉えたもので、例えば子どものいる30代専業主婦のこれまでの人生を紐解くと、彼女のライフコースは、「就学→就業→結婚→妊娠→退職→出産・育児」ということになる。

ライフコースの誕生と、国内での浸透

ライフコースの概念は1970年代にアメリカで誕生し、主に社会学で用いられてきた。日本で研究が進み各所からライフコースに関する文献が登場したのは1980年代で(ウーマンズ調べ)、その内容は、高齢化社会、寿命延伸、女性の高学歴化、女性の社会進出、核家族化による世帯構造変化など、社会変化が個々のライフコースに及ぼす影響についてまとめたものが主。

当初は社会学の視点で人々のライフコースを研究・予測するというアカデミックな扱われ方がされていたが、女性の社会進出による生き方の多様化が顕著になってきた2000年代頃から、ライフコースの概念を企業のマーケティング活動に活かそうとする動きが広まり始めた。

この動きを牽引した代表的書籍が、消費者行動分析を専門分野とする青木幸弘氏(現学習院大学経済学部教授)による「ライフコース・マーケティング(2008年)」。10年以上も前に書かれたものだが、ライフコースの基本的な考え方を理解するのに今でも役立つ。


ライフコース・マーケティング

女性のライフコースが男性より多様な理由

一般的に男性は人生を主体的に選択できる生き方がしやすく、「就業→結婚→定年退職」という画一的なライフコースをたどる。一方で女性は女性特有の様々なライフイベントが発生するため、個々が多様なライフコースを歩んでいく。

これは女性が性差による生物学的役割(妊娠・出産)を担っていることに加えて、「夫は仕事・妻は家庭(あるいは妻が家庭ゴトを主導)」という性別役割分業意識が関係しており(※)、例えば、次のようなライフイベントが女性のライフコースを変更・確定していく。

  • 妊活で不妊外来へ通院するため、時間の都合がつきやすい仕事に転職
  • 育児に専念するため、出産を機に退職
  • 家事育児・仕事の両立のため、働き方を変える(正社員からパートタイマーに)
  • 夫の転勤先についていくため、退職しフリーランスに転向
  • 親・義親の介護が必要になったため、退職(あるいは働き方や職場を変える)
  • 予期せぬ妊娠・出産で大学を自主退学し就職を諦める
  • 離婚(または夫との死別)による収入減を補うため実家に引っ越す

このように女性は、男性と比べると外部環境に対し受動的にならざるを得ない状況に直面することが多く、人生の中で、ライフコースの変更を余儀なくされたり選択を迫られる場面が度々訪れる。そのため女性は、男性よりも様々な生き方をしている人が多い。

※もちろん全ての家庭・夫婦に当てはまるわけではなく、また、近年はその傾向が徐々に薄らいでいるが、ここでは一般的に多いケースとして解説している。

 

ライフコース分類と各特徴(4分類8種)

近年の女性のライフコース分類は、各専門家やシンクタンク、マーケティング企業など各所が行なっているが、およそ以下に分類されるのが一般的(以下はウーマンズによる4分類8種)

  • ワーキングシングル(過渡型パラサイト/過渡型独立)
  • DINKs(過渡型/確定型)
  • DEWKs(継続就業型/再就職型)
  • 専業主婦(過渡型/確定型)

ワーキングシングル

ワーキングシングルは、仕事をしている独身女性のこと。基本的には日常的な制約は仕事くらいで、時間もお金もほぼ全てを自分に使える時間リッチ&お金リッチ。自由な生き方ができる環境にいるので、結婚、転職、移住、何でもほぼ自分の決断で実行できることが人生の強み。全ライフコースの中でも特に、今後のライフコース変化が続いていくクラスター。

ワーキングシングルは2タイプに分類でき、親元で生活をしている「過渡型パラサイト」と、一人暮らしをしている「過渡型独立」。

現時点では未婚だが、「いつかは結婚したいが今はしたくない」「積極的に婚活中」「積極的に婚活していないが、いい人が見つかれば結婚する意思はある」「離婚をしたが、いずれ再婚するかも」「結婚をしないと決めてはいないが、この先、誰もいなければずっと独身でいる」など、ワーキングシングルは結婚に対する考えがまちまちで、生涯未婚でいることが絶対的に確定しているわけではない。よって、ワーキングシングルは「生涯未婚が確定している」と考えるよりは、「過渡型」と捉えておく方が現実的。

DINKs

DINKs(Double Income No Kids)は、子のいない共働き夫婦を指す言葉。DINKs女性はシングル女性に次いで時間リッチ&お金リッチ。子がいない分、仕事以外の時間的制約・経済的制約が少ないので、食、趣味、スポーツ、旅行、投資などの消費に意欲的で、夫婦一緒に行動する機会も多い。

なお消費行動やニーズは、「いずれ子を持ちたい」と考えている「過渡型」か、「子がいない(※)」ことが確定している「確定型」によって異なる。確定型はこの先もDINKsのライフコースを歩んでいくが、過渡型は、妊娠・出産のライフイベントを機にDEWKsまたは専業主婦のライフコースへ移行していく。

(※)「子がいない」ことが確定している女性には、主に3つの背景がある。1.意図的に子を持たないと決めた夫婦、2.子を持ちたく妊活をしたものの、授かることができなかった夫婦、3.子がいてもいなくてもどちらでもよく、結果的に子がいない夫婦

DEWKs

DEWKs(Double Employed With Kids)は、子のいる共働き夫婦を指す言葉。DEWKs女性は、妊娠・出産時の仕事継続有無の選択によって、「継続就業型」と「再就職型」に分類できる。継続就業型は、産休・育休後に職場復帰するクラスター。再就職型は、妊娠・出産を機に退職し専業主婦になった後、子どもが大きくなってから再度働き始めたクラスター。

共働きなので世帯年収は十分にあるが、DEWKs女性(ワーキングマザー)は家事・育児(子育て)と仕事の両立で、毎日が時間との戦い。全ライフコースの中で最も時間貧乏で、節約したいのはお金よりも時間。家族関連の消費はもちろん、時短系商品・サービスの消費が活発。DEWKsの中でも特に、手のかかる小さい子どもがいると女性は大忙し。未子の年齢によって消費行動・ニーズ・ライフスタイル・働き方は大きく異なるので、ワーキングマザーをターゲットにしている場合は、未子の年齢も考慮してマーケティングを考える必要がある。また、近年の晩婚化・晩産化により、「育児と介護」、「育児と更年期」、「育児と介護と更年期」が同時にやってくる女性が増えているので、その点も考慮が必要。

消費行動やニーズは高額消費が落ち着いた後に特に変化するので、末子の独立時期は、DEWKs女性の消費意識・行動が変わる境界線となる。

専業主婦

専業主婦は、結婚後または妊娠・出産を機に退職し、家事や子育てをしている女性。働く必要性がない、あるいは今は働く意思はない「確定型」と、子どもに手がかからなくなったら再就職する意思・可能性のある「過渡型」に分類される。

前者は、夫の収入だけで十分に生活できるセレブ専業主婦だけでなく、「夫の収入は少ないが家事・育児に専念するために節約に努めている女性」や「年金で生活できているので働いていない高齢女性」なども含まれる。

後者の過渡型が再就職すると、DEWKs(再就職型)のライフコースへ移行する。

 

今後減る・増えるライフコースは?

ライフコースの分類がわかったところで、次に、各ライフコースの割合について見ていこう。「厚生労働白書(令和2年,厚労省)」が、参考になるデータを掲載している。

18〜34歳の未婚女性を対象に「自分がこれから歩むであろうライフコース」を聞いた結果をまとめたもので、1987年〜2015年の意識の変遷がわかる。これはあくまで「どんなライフコースを歩みたいか?」という質問に対する結果で、「今現在のライフコース」を示したものではないが、女性たちが希望するライフコースが明らかに変化していることがわかる。

  • ピンク:専業主婦(確定型)
  • 水色:DEWKs(再就職型)
  • グリーン:DEWKs(継続就業型)
  • オレンジ:DINKs(確定型)
  • 青:ワーキングシングル
  • グレー:その他

上記データから読み取ると、今後減る・増えるライフコースは以下と言えるだろう。

  • 【減少】専業主婦(確定型)
  • 【減少】DEWKs(再就職型)
  • 【微増】DINKs(確定型)
  • 【増加】DEWKs(継続就業型)

女性のライフコースの変遷に関する調査結果詳細は、以下記事に掲載。

 

ライフコースで異なる女性の意識・行動

結婚を機に退職し専業主婦になるのが一般的だった昭和中期〜後期は、女性のライフコースは「就業→結婚→退職→出産」と画一的で、価値観や消費意識・行動もおよそ画一的で捉えやすかった。だが経済の急速な発展・女性の高学歴化・女性の社会進出・寿命の延伸などを背景に生き方が多様化したことで、昭和後期から女性のライフコースは急速に多様化。それに伴い、価値観・消費意識・行動も多様性が見られるようになった。

例えば30代女性の休日の過ごし方を考えてみよう。未就学児のいるDEWKs女性であれば、遊園地や職業体験イベントなど「子どものニーズ」を優先して行動・消費をする。一方ワーキングシングルの女性は、カフェで読書、フィットネスジムでトレーニング、温泉でリフレッシュなど「自分ニーズ」を優先して行動・消費する。このように同年代であっても、ライフコースが異なることであらゆる場面で行動の違いが見られる。そうなると当然、日常的に接触する媒体も刺さる広告コピーも変わってくる。これが、ライコース視点でのマーケティング発想が必要な理由だ。

なおこのライフコース視点は、ヘルスケアマーケティングにおいてももちろん重要。出産経験の有無によって発症・悪化のリスクが高まる子宮内膜症はわかりやすい例で、ライフコースごとに特有の健康リスクや健康ニーズがある。ライフコースや年齢によって異なる健康問題については、以下記事に掲載。

 

ライフコース視点で、精度高い女マケを

ライフコース視点での女性の分類は、いわゆる「スモールマス」の考えに準じたマーケティングを発想したい時に役立つ。価値観が急速に多様化する近年、前述した以外にももちろん多様なタイプの女性が存在するが、ひとまずこの4分類8種類をベースに考えると、ターゲット女性のより現実的な価値観や関心ゴト、ニーズをイメージできる。リサーチ時のスクリーニングにも役立つので、精度の高いアンケート調査なども実施できるようになる。女性マーケティングでうまく施策が進まない時は、ぜひ、ライフコース視点で見直しを。

 

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