ヘルスケア業界で増える「リブランディング」 企業・ブランド事例
リブランディングにより新しく策定された各社・各ブランドの新しいブランドメッセージを読み解くと、共通しているのは「自分らしさ」「ありのまま」「しなやかさ」「ダイバーシティ」「100年時代」など現代ならではの価値観を反映している点だ。
最近の印象的なリブランディングと言えば、カネボウ化粧品。「美ではなく希望を発信するブランド」へとリブランディングし、女性の内面に強く働きかける”化粧” の力を伝えながら美のダイバーシティを表現したCMは大きな反響を呼んだ(第57回ギャラクシー賞CM部門大賞を受賞)。当社ウーマンズでもこれまでに様々な企業のリブランディングに携わり、生まれ変わる姿をいくつも見てきたが、その効果は実に大きい。リブランディングの効用を、ヘルスケア企業・ヘルスケアブランドの事例(※)を交えながら見ていこう。※本稿で取り上げる企業・ブランド「キューサイ」「ドクターシーラボ」「アスタリフト(富士フイルム)」「キシリッシュガム(明治)」「リゲイン(第一三共ヘルス)」
目次
リブランディングの意味
リブランディングとは
ブランディング(branding)とはブランドの価値を高めたり、市場での自社のポジションを明確にすることを目的とするマーケティング活動で、リブランディング(rebrandign)とは、「ブランド再生」や「ブランド再構築」のこと。すでに確立されたブランドを新たに定義し直すことを意味する。
ブランド戦略における選択肢の一つで、例えば長年続けてきたブランドイメージが市況や顧客の心理やニーズとマッチしなくなり、事業としても後退していてブランドの構築がうまくいっていないときなどに行われる。
市況も顧客の心理も常に時代とともに変化していくので、いかに有名なブランドでも、何もしないまま同じ訴求を続けていると顧客は徐々に他社へ流出してしまうもの。それを防ぐためにリブランディングを重ねながら存続しているのが、長く愛されているブランド。時代に合わせて、ロゴ、商品やサービス内容、プロモーションなどを微調整してブランドとしての鮮度を保っている。
リブランディング手法の例
リブランディングの目的は、従来のブランドを見直し、より効果的な訴求を実現することにある。そのための具体的な手法として多いのは以下。
- ブランドのロゴを時代に即したデザインに刷新する
- ブランドコンセプトを変え、より広い層の顧客、あるいはそれまでとは異なる層にアピールする
- クリエイティブ全体を時代に即した、あるいは新たなブランドコンセプトに合わせて刷新する
- キャッチフレーズの変更
など
リブランディング実施のタイミングと事例
1.企業が変化するとき
周年記念
変化が起きる時がリブランディングのタイミングになるケースは多い。例えば「周年記念」をきっかけに企業のミッションやビジョンなどコーポレートブランディングを刷新するのはわかりやすい事例。創業時の理念やブランドの持つ歴史的な価値などを伝えるのに適したタイミングだ。この時、必ずしも完全な刷新が必要なわけではない。もともと企業が持っていた企業理念やコンセプトをその時代に合わせた言葉で再定義するだけでも十分に意義はある。創業時の強さを呼び戻す手段として使える。
例えばキューサイ株式会社。2019年10月に創業55周年を迎えた同社は、それまでの「青汁だけの会社」「まず〜い、もう一杯!」というイメージを刷新すべく、ロゴとコーポレートスローガンを大きく変更した。
サプリメントやスキンケア商品の販売など、美容と健康全般に力を入れている中(ラインナップは80商品,2019年10月時点)、時代の変化や事業内容に合わせて自社を再定義する必要があったと言う。時代遅れ感を否めない印象のあった丸っこいロゴは一新され、シンプルなロゴへと生まれ変わった。
そして同社は、リブランディングのタイミングに合わせ、青汁の象徴でもあるケールの成分を入れた新スキンケアブランド「スキンケールド」を発売した(2019年10月)。これまで“キューサイ”や“青汁”とは無縁だったミレニアル世代やZ世代が振り向くような世界観で、シンプルなパッケージデザインとボタニカルな雰囲気に今時感があり目をひく。
発売以降はSNSマーケティングに力を入れており、インスタ映えする写真が女性たちから投稿されている。投稿写真を見て「(今ドキでオシャレだから)韓国コスメだと思った!」という声も上がったほど。同社はこの化粧品を「塗るケール」と表現しており、これも、ナチュラル派志向の女性を振り向かせる作戦だ。インスタには「スーパーフードは『塗る』時代へ」と表現する投稿も見れら、キャッチーな言葉作りにも成功している様子。
グローバル展開
グローバル展開を機にリブランディングするケースもある。海外の人でも発音しやすい・覚えやすいブランド名や表記に変更したり、日本らしさをアピールできるロゴデザインに変更することが多い。最近だと国内で最も人気のドクターズコスメブランド「ドクターシーラボ」が、ブランド誕生20周年を機にグローバルブランドを目指したリブランディングを実施した(2020年5月に発表)。主な施策は、化粧品のパッケージデザイン変更、ロゴデザインの変更、ドクターシーラボ初のブランドアンバサダーの採用(初代アンバサダーは、世界で活躍する栗山千明さん)。現在は海外4カ国で販売中(台湾、香港、シンガポール、韓国)。
社名変更、合併・統合
より大胆な企業変化を伝えたい場合には「社名変更」を選択するケースも。社名もロゴも一気に変えるので、インパクトが強い。また、このタイミングに合わせて経営理念そのものの見直しを行う企業も多い。また同じ「社名変更」でも、合併や統合など新企業としてのブランド再定義が必要になることもある。
その場合は、リブランディングというよりも “新たな企業ブランディングの構築” に近い。その分割くべき労力は大きくなるが、イメージの大胆な刷新を狙える。なおその際は、単なる過去のブランディング分析だけではなく、目指すべき将来像や合併・統合によるシナジーなどを明確に伝えられるようにすることが大切だ。企業が変化した時に実施するリブランディングは、顧客など対外的に大きなインパクトを与えると同時に、リブランディングの機会を活用して社員全体の目線を合わせるインナーブランディングにも役立つ。
2.市場が変化したとき
消費者の価値観やライフスタイルの変化
市場が変化した時も、リブンラィングのタイミングになる。市場に投入した当初は順調に浸透していったブランドも、時代の変化によって消費者のライフスタイルや価値観が変化し、商品やサービスが合わなくなり受け入れられなくなることがある。
消費者の価値観変化についてわかりやすい例は、ファッションモデルの多様化。以前は、体が細く・背が高く・手脚が長く・整った顔をもつ白人女性がファッション業界や化粧品モデルのトップに立ち、多くの女性がそんな完璧な女性に憧れていたが、ダイバーシティを重視する動きが見られるようになった2010年代頃より徐々に、体重も体型も年齢も肌の色も顔の造形も様々な女性がモデルとしてランウェイを闊歩するようになった。
片脚を切断した女性ヴィクトリア・モデスタさんも、その一人。彼女は「シンガーソングライター」「パフォーマンスアーティスト」「モデル」の肩書きを持ち、義足を“アート”として表現し活動している。義足を絶対的な個性だと自身で認めているので、インスタに投稿されている写真や彼女のミュージックプロモーションは、いつでも義足が主役だ。
彼女のその奇抜な姿は、これまでに人々が目にしたことのない強烈なオーラを放ち、強さと美しさに満ち溢れている。人と違うことを恐れ隠すのではなく、人と違うことを「自分の個性、生きていく強み」と認め生きていくことがどういうことなのか?ということを人々に考えさせる。彼女から放たれるこの何とも言えぬ新しい風と可能性が、多くの女性を虜にしているのだ。
以下の動画・写真が彼女の作品。左脚に注目してほしい。初めて見た人たちは、一瞬「本当に義足なの!?」と驚く。華やかでアーティスティックで、そして近未来的。
ぽっちゃり体型を武器にインスタグラマーとして国内のみならず米国でも大人気の渡辺直美さんが、米国ファッションブランドのケイト・スペード ニューヨークのグローバルアンバサダーに抜擢されたことも、世界的な消費者の価値観変化を象徴した出来事だ。
一昔前であれば、前述のヴィクトリア・モデスタさんも渡辺直美さんも、ファッションや美容業界、ポップカルチャー、アートなどの領域で国境をも超えるほどの世界的脚光を浴びることはなかっただろう。
だがダイバーシティを支持する女性が増えた今は、こういった多様な外見が「おしゃれで今時」なのだ。一方で、この消費者の価値観変化を無視した企業やブランドは、多くの顧客をがっかりさせ、そして衰退している。その例が、世界で一世を風靡した米国のヴィクトリアズ・シークレット。
最も分かりやすい例は、世界で一世を風靡し、日本女性にも大人気となった下着ブランド「ヴィクトリアズシークレット」の急速な顧客離れと業績低迷です。同ブランドは、ゴージャスでセクシーな、世界トップクラスの容姿端麗な女性をモデルに起用していることで有名です。一方で米国歌手のリアーナが手掛けた下着ブランドは、「人種も体型も顔もさまざまな女性」をモデルに採用しているのが特徴で「まさに今の時代を象徴している!」と米国女性に大絶賛されています。世界中で多様性とインクルージョンが広がっている現代において、ヴィクトリアズシークレットの「完璧な容姿の女性だけを起用する」姿勢を時代遅れだと感じる消費者は増えていて、近年の同社のPR文言や、幹部の発言は女性顧客たちの怒りを度々買っていました。例えば次のような発言です。
“同ブランドを擁するLブランズ(L BRANDS)のエド・ラゼック(Ed Razek)元チーフ・マーケティング・オフィサーが、「プラスサイズやトランスジェンダーのモデルには全く興味がない」と発言したことが物議を醸し、インスタグラムで謝罪文を発表する結果となった。(引用:WWD「「ヴィクトリアズ・シークレット」がついにプラスサイズモデルを起用 多様性の流れにあらがえず」)”
同社は近年の多様性の流れを受け、ついにプラスサイズモデルやトランスジェンダーモデルを起用はしたものの、急速な女性顧客離れに歯止めはかからず、毎年年末に行っていた大規模なショーは2019年末、初めて中止となりました。(引用:ウーマンズラボ「トレンド分析:2020年度の女性市場トレンドと消費傾向」)
上記の事例は、当社ウーマンズが展示会や全国各地で講演をする際にもよく取り上げているので、「それ、知ってる知ってる、もう聞いた」という読者の方も多いかと思う。これだけ頻繁に取り上げるのは、女性たちの価値が近年になり急速に変化していることを無視している企業が、いまだに数多く存在するからだ。
そんな企業が今知っておくべき、近年の女性たちの価値観変化を知るキーワードを以下に並べてみる。意味としてかぶりもあるが、キーワードで表現する方が理解しやすいと思うので、あしからず。
- SDGs
- ダイバーシティとインクルージョン
- ジェンダーレス
- サスティナビリティ
- 動物愛護、クルーエルティフリー
- 地球環境への配慮
- クリーンビューティ
どれも最近になりよく聞く言葉だろう。価値観変化をもたらしているこれらのキーワードをもとにリブランディングに動く企業は最近増えている。広告コピーやクリエイティブの世界観、パッケージデザインなどを見ると、上記を意識したリブランディングに取り組んでいるのか否かがわかる。ダイバーシティを意識したモデルの採用、クリーンビュティを意識した成分や原料の採用、地球環境を配慮したボトル設計などが具体例だ。
3.新しい技術が登場したとき
市場に新しい技術が登場した時にリブランディングの必要性に迫られることもある。例えば他社が先行して新技術を商品化し上市すると、自社ブランドが陳腐化し低迷する恐れがある。あるいは、自社・他社が同時に新技術の開発に着手し商品化する場合もある。このような場合にリブランディングが有効に働く。それぞれのケースで成功事例を見てみよう。
アスタリフト(富士フイルム)の成功事例
まずは、前者の「他社が先行して新技術を商品化した場合」のリブランディング成功事例から。近年は企業規模関係なく、AIを駆使したりDXに乗り出した企業が次々に登場しては業界に変革を起こしているが、このように、新興企業や同業他社による新技術の登場で自社ブランドの立ち位置が危うくなり始めた、あるいは売り上げが低迷してきたなら、リブランディングを考えるタイミング。もちろん、技術面で他社に追いついて戦うことも選択肢ではあるが、リソース面などで限界を感じるなら、自社技術を応用して新しい市場へ乗り出す方が生き残れる可能性は上がる。
その事例が富士フイルム。フイルム写真が一般的だった90年代までは「カメラのフイルム会社」として絶対的な知名度を上げていたが、外資系のコダックが開発したデジタルカメラ技術の登場で危機的状況に。そこで、富士フイルムは生き残りをかけ、自社でこれまで培ってきたフイルム技術を応用できるヘルスケア・化粧品市場に参入。そうして2007年に生まれたのが、30代以上の女性をターゲットにした、真っ赤なパッケージボトルが特徴のエイジイングケア化粧品ブランド「アスタリフト」だ(2016年以降は、ユーザー層の拡大に向け20代もターゲットにしている)。
発売当初は「カメラの会社が化粧品…?」と訝る女性の声も多かったが、今やベストコスメを数多く受賞する人気ブランドとして認知されている。2019年にはメンズ市場へ参入し、男性用スキンケアシリーズ「アスタリフト メン」の発売も開始した。
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発売開始当時のCMでは中島みゆきさんと松田聖子さんを採用。CM内では、中島みゆきさんが写真撮影をするシーンがあったり、「フジフイルムのスキンケア化粧品」というコピーを入れるなど、「カメラのフイルム会社が化粧品を開発しました」感を前面に押し出している。アスタリフトはその後、瞬く間に人気商品となり発売4年目で売上高100億円を突破。ヘルスケア業界のリブランディング事例の中でも突出した成功事例だ。
なお、既存の社名やブランドを基盤に新規市場へ乗り込む時は、競合他社との差別化はかなり重視しなくてはいけない。単なる知名度を流用して新規市場に参入するだけでは、かえってそれまで築き上げてきたブランド資産を崩してしまう危険性もある。「なぜあのブランドがこの市場に参入してきたのか?」そのストーリーをきちんと描いておく必要がある。
キシリッシュガム(明治)の成功事例
次に、「自社・他社が同時に新技術の開発に乗り出した場合」のリブランディング成功事例。キシリッシュガム発売当初のガム市場は、男性が主体で板状のガムが売上の大半を占めていたが、糖衣コーティングされた粒状のガムが徐々に浸透し始めてきていた時期でもあった。
明治は発売にあたり市場を分析していく中で、キシリトールという新しい素材が「虫歯」の原因にならないことに注目し、それまで虫歯の原因としてやり玉にあがっていたガムの立ち位置を大きく変える製品として「虫歯になりにくいガム」といった健康訴求をブランドイメージにしてガム市場に参入。しかしロッテからも同じキシリトールを使用した同様のコンセプトガム“キシリトールガム”が同時期に発売され「歯の健康」訴求だけではなかなか差別化が図れない状況が続いていた。
そこで明治は改めて市場を分析し、キシリッシュガムのリブランディング構築を検討。するとそれまでガム市場では少数派だった女性層や若年層にとって、キシリッシュガムは「ガムの難点を克服した新しい製品」として認識されていることがわかってきた。具体的には、女性にも受け入れやすいフルーティーな味、持ち歩いてもバラバラにならないパッケージデザイン、粒ガムの包み紙が大きく噛んだ後に捨てやすい、といった機能的特徴が受け入れられていたのだ。
この分析結果を受け、マーケティングデザインの方針を大きく変更した。コンセプトである「歯の健康」は、これからのガムの基本性能として維持しながら、味のバリエーションやパッケージデザイン、宣伝・広告のターゲットを若年層や女性層に集中。競合他社との差別化が明確になり、新たなガム市場の開拓に成功した。その後もパッケージ構造の見直しやロゴの微調整など細かなリブランディングを繰り返しながらブランディングの構築を強化していったのが、キシリッシュガムだ。
4.ブランドイメージが古くなったとき
顧客から見たブランドイメージが古くなった時も、リブランディングのタイミング。以前は時代に合っていたものの、パッケージや広告などのデザイン・文言がトレンドとかけ離れていると、古いと思われるようになる。
わかりやすいのは、栄養ドリンク「リゲイン(第一三共ヘルスケア)」のキャッチコピー。今30代後半以降の人なら、CMの影響で誰もが口ずさんだことがあるだろう。バブル期の1990年前後に放送された同商品のCMでは、ビジネスマンが「24時間、戦えますか。リゲイン、リゲイン、僕らのリゲイン」「ビジネスマ〜ン、ビジネスマ〜ン、ジャパニーズ・ビジネスマ〜ン」と元気に歌いながら仕事に全精力を傾ける様子が描かれている。
バブルに沸き立ち、昼夜問わず働く男性が多かったこの時代にマッチした歌詞(24時間、戦えますか)と覚えやすいメロディーで、世代を超え多くの人に知られ(当時は小学生も歌っていたものだ)、「リゲイン=24時間働き続けるための栄養ドリンク」というブランディングが確立されたが、働き方改革が進む現代もこのコピーにこだわっていたらどうだろう?間違いなく「リゲインはブラック企業を推進している!」と大炎上だ。人気ブランドであっても、時代の変化についていかなければ、消費者に古い印象を与え受け入れられなくなるということを象徴するわかりやすい事例だ。
ちなみに、その後リゲインは「女性向け」や「糖類ゼロ、カロリー控えめ」など時代に即した商品の発売を続け、2019年には「(24時間ではなく!)人生100年時代を応援する商品」として、錠剤タイプの発売を開始した(リゲイン トリプルフォース)。1988年〜2019年のリゲインの歴史はこちら。
リブランディングを実施するケースとして一番頻度が高いのは、ブランドの魅力が再度問われているケースだが、その時に必ず確認しなければならないのは、そもそも提供している商品やサービスの内容に問題がないのか?と言うこと。
品質に問題があるのであれば、リブランディングに動き出しても徒労に終わる可能性は高い。品質に問題がなく単に「見た目や、見た目が与える印象」が時代的に古くなったのであれば、新しい技術や表現方法などを活用して商品パッケージのデザインを見直すだけでも十分リブランディングの目的を達成できる。
リブランディングで企業が得るメリット
長期的なブランドの維持につながる
社会情勢や顧客の嗜好は常に変化し続けるため、リブランディングを行うことで、その時代に即したブランドイメージを提供できる。リブランディングに成功することで数十年~百年以上続いているロングセラー商品やブランドもあり、それが企業にとって長期に安定したブランド資産となる。
新規ブランドの立ち上げと比べてコストを抑えやすい
育成したブランドをリブランディングで引き継ぐことは経営的にも大きなメリット。新ブランドを立ち上げるのは、時間やコストがかかり負担が大きい。また、新ブランドの立ち上げで得られる利益・効果と、リブランディングで得られる利益・効果を比較した場合、前者は当初の想定通りにことが進まないこともあり、理想と現実の誤差が生じやすい。だがリブランディングであれば、それまでに蓄積してきたことを活かしやすく、また、それまでに投資したコストも無駄にならない。
既存の顧客を維持しやすい
言うまでもないが、ブランドを通じて顧客との関係を構築することは相当な労力が必要だ。リブランディングであれば、これまでに構築してきた顧客との関係性を引き継ぎやすい。
ただ、安易なブランドの変更や廃止によって顧客からの印象を悪化させるリスクがあることは注意しておきたい。特に顧客の中でもロイヤリティーの高い顧客の感情を無視してしまうと、それが発端となって、自社のみならず自社の他ブランドへまでも悪い影響を与え離脱される可能性がある。息の長いブランドほど全顧客に占めるロイヤルカスタマーが占める割合は高いので、リブランディングの時は、既存顧客への配慮も必要だ。
リブランディングの失敗事例
最後に、リブランディングが大失敗に終わった企業の事例を紹介。ファッション業界の事例ではあるが、ヘルスケア業界の人たちも心得ておくと、役立つはずだ。
ファストファッションは、それまで“チープな衣料”とされていた低価格帯のカテゴリーに、女性層や若年層を意識したファッション性を取り入れることで「安くてもおしゃれな普段着」のポジションを獲得することに成功している。GAPもファストファッションの有力メーカーの一つであり、SPA型運営という製造販売スタイルを確立した企業だ。
GAPは2010年に企業ロゴのリニューアルを実施した。新しいロゴは、「シンプル」「普遍的」「印象的」「多面的」「妥当性」など教科書的に見ても特に問題のあるデザインではなかった。しかし実際には公表してからわずか6日間で元のデザインに戻すこと。原因は顧客からの強い反発。新しいロゴデザインに対する不評の声が、Twitterなどに多く集まったのだ。GAP自身も、SNSなどオンラインコミュニティにおける信頼関係ができていない状態であったことを認め、結果としてロゴは元のデザインに戻すという判断に至った。
実はこの時、あるマーケティング会社がGAPの新旧2つのロゴを複数の人に見せて脳波や視点の動きを調べている。その結果、ロゴデザインの見た目の良し悪しではなく、「見慣れたものが変わってしまうことに対する拒否反応」が変更を否定する要素になっていることがわかった。事前に顧客と「変わる」ことの必然性について理解が得られていなかったため、単に「変わる」ということだけが強調され拒否反応につながってしまったのではないか?と考えさせられる内容だ。
(※)参考:TIME社「Haters Gonna Win: Gap Returns to Old Logo」/TIME社「The Science of Fail: Why the New Gap Logo Made Our Brains Angry」/ビートラックス「ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか」
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