【女性ヘルスケア市場観測】健康に良いだけでは人は「動かない」「買わない」 行動変容を促す新アプローチ続々
女性ヘルスケア市場を日々ウォッチしている編集部が、各社の新商品・サービスから、市場の新たな動きやマーケティングの最新潮流を探るコーナー「女性ヘルスケア市場観測」。
健康に良いとわかっていても行動しない、始めても続かない――。ヘルスケア市場の長年の課題を、新たなアプローチで解決しようとする試みが相次いでいる。アプローチの個別化・精緻化が進んでいるのが、昨今の特徴だ。スマートフォンの普及や検査サービス、PHRの広がりによって、従来は捉えにくかった個々の健康状態や行動を把握できるようになったことに加え、AIなどの活用で一人ひとりに合った提案や継続的な支援が可能になったことが大きい。生活者の心理や行動の背景を起点に、マーケティング施策につなげる企業向けサービスも登場。こうした新たなアプローチからは、行動変容の仕掛けが日常生活のあちこちに散りばめられる未来が見えてくる。意識して健康づくりをしなくても、日々の暮らしの中で自然と健康行動が生まれる。そんな手間いらずの未来だ。行動変容支援の最新事例を見ていこう。
目次
健康行動のきっかけを23項目に体系化、行動経済学でマーケティング支援(朝日広告社)
朝日新聞社グループの朝日広告社は、大阪大学の行動経済学研究センターとの共同研究で、人が健康行動を起こすきっかけを「ヘルスケアドライバー」として23項目に体系化。今年7月に発表した。「健康に良い商品・サービス」と伝えるだけでは行動に移してもらえないという企業側の課題に対し、ヘルスケアドライバーを活用してマーケティング施策を設計する。
ヘルスケアドライバーは、人が健康行動を起こすきっかけとなる動機を、生活者調査から抽出して類型化したもの。同社が2022年に開発した17項目は、すでに健康行動を実践している人への調査から、「なぜ行動しているのか」を探って抽出した。今回の共同研究では、この17項目を行動経済学の観点から理論的に裏付けるとともに、新たに「健康行動を実践できていない人」に着目し、1万人規模の調査を実施した。これまでの「なぜ行動しているのか」とは逆に「なぜ行動できないのか」を分析し、「面倒」「後回しにしてしまう」といった理由と、その背景にある心理や認知バイアスから行動を妨げる要因を特定。健康行動を起こすきっかけとなる6項目を新たに追加し、23項目へと再構築した。
1万人調査では、健康行動を始めるきっかけが性別や年代によって異なることもわかった。女性は、健康管理を「身だしなみ」と捉える傾向があるほか、いつもの習慣を少し変えたり、外に出なくても家でできる手軽さといった、日常の延長で無理なくできるものがきっかけになりやすい一方で、男性は、趣味など好きなことを長く続けたいといった実利や明確な目的があると、健康行動を始めやすいことがわかった。
こうした属性ごとの特徴も踏まえ、マーケティング支援では、各社のターゲット層が健康行動に移せない理由や健康状態などを分析し、適切なヘルスケアドライバーを選定する。選んだドライバーを軸に広告クリエイティブやキャッチコピーなどを開発し、生活者の健康行動と企業の商品・サービスの利用を後押しする。
検査×生活データで健康行動促進とLTV向上、食品・製薬18社とプロジェクト(ヘルスケアシステムズ)
生活者の健康行動を促すアプローチが広がる中、個々の健康状態や生活に合わせて情報や接点を設計する「個別化」も進んでいる。未病領域の郵送検査サービスを手がけるヘルスケアシステムズ(愛知・名古屋)は8月、生活者の健康行動を促す共創プロジェクト「けんこうべーす」を開始した。大手食品・製薬企業など18社が参画する。
健康情報があふれる中、生活者には「自分に合う健康情報・商品・サービスがわからない」「効果が見えづらく健康行動が続かない」という課題がある。一方の企業側には、自社の商品や情報を必要とする層へ届けにくいという課題がある。こうした双方の課題解決に向けた仕組みを構築するのが、プロジェクト発足の目的。
プロジェクトでは、生活者が自宅で採取した尿・便・唾液などから得られる「ヘルスデータ」と、アンケートなどで把握した食事や睡眠などの「ライフデータ」をもとに、一人ひとりに合った健康情報を提供する。個々に向けた情報を届けることで、健康情報への受容性が高まるかを検証する。将来的には、こうした情報を介して、生活者と参画企業の商品・サービスとの接点をつくる構想だ。

【出典】ヘルスケアシステムズ(プロジェクトが目指すゴールは、生活者と商品・サービスとの接点をつくること)
従来は、企業から生活者に向け、一律の健康情報や商品の健康価値を伝えるといったマーケティングが主流だったが、自分に合った情報だと感じられなかったり効果を実感できなければ、健康行動が続かずに離脱してしまうという課題があった。個々のデータに即した健康情報によって生活者の行動継続を促すとともに、参画企業側には、顧客との継続的な関係構築やLTVの向上につなげる狙いがある。今回の検証結果は年内に発表する予定。
普段の買い物を健康行動に、購買データから不足栄養素を分析し商品提案(シルタス)
健康行動を促すには、一人ひとりに合った情報を届けるだけでなく、日常生活の中で無理なく実践できる仕組みづくりも必要だ。購買データを起点に行動変容を支援するシルタス(東京・港)は6月、食品スーパーのマルイ(岡山・津山)の公式アプリに、同社が手掛ける健康アプリ「SIRU+」が持つ栄養分析・商品提案機能を実装した。
マルイの公式アプリを利用する買い物客は、マルイで購入した食品の購買データが自動で栄養データに変換され、自身の栄養バランスや不足している栄養素をアプリ上で確認できる。さらに、不足している栄養素を補える食品が一人ひとりに合わせて提案され、推奨商品を購入するとポイントも付与される。不足しやすい栄養素に手間なく気づける上、そのまま普段の買い物の中で対策できるため、健康行動に移しやすい。
小売側にとっても、購買データを栄養・健康の視点から活用するメリットは大きい。顧客との継続的な接点をつくるとともに、CRMや販促の高度化、価格訴求に頼らない「理由のある購買」の創出につなげる狙いがある。
保健指導を「点」から「線」へ、PHRで健康行動の継続・定着を支援(日本システム技術)
健康行動は、一度起こして終わりではない。行動を継続させ、習慣として定着させるための支援も欠かせない。医療・健診データを活用したシステムを手がける日本システム技術が、自治体や健康保険組合などの保険者向けに、保健指導に特化したPHRアプリ「TomoBe(トモビー)」の提供を今年5月に開始した。
従来の保健指導は、健診データを起点とした断続的な支援になりやすく、指導のない日常での行動を継続的に把握・支援するのが難しいことが課題だった。アプリでは、歩数や体重、食事などのライフログと健診データを蓄積し、過去の健康状態の推移から5年以内の疾病発症リスクまでを可視化。利用者は、保健指導で設定した目標や達成状況も日常的に確認できる。
オンライン面談や、利用者のPHRデータと目標達成状況を一元管理できる指導員向け機能も搭載。従来は月1~2回程度の面談時に限られがちだった支援を日常生活まで広げ、指導の「間」を埋めることで、健康行動の継続・定着につなげる。
無関心層の県民にAIでアプローチ、健康行動を個別提案(滋賀県×日本ウェルビーイングコンソーシアム)
健康への関心が低く、自ら健康情報を取りにいかない「健康無関心層」をどう動かすかも、行動変容を促す上で大きな課題だ。滋賀県と日立システムズ、インテグリティ・ヘルスケア、ANA X、沢井製薬などで構成する日本ウェルビーイングコンソーシアムは7月、PHRとAIを活用して県民の健康行動を促す事業を発表した。
滋賀県では、健康無関心層へのアプローチの難しさに加え、保健師などの人的リソースの制約や、蓄積した健康データを十分に活用できていないことが課題となっている。今回の事業では、滋賀県の「BIWA-TEKU」、沢井製薬の「SaluDi」、ANA Xの「ANA Pocket」という異なる事業者のアプリを組み合わせ、歩数、体重、血圧、睡眠、食事、移動などのPHRを収集・統合してAIで分析。一人ひとりの健康状態に応じた健康行動の提案や将来の疾病発症リスクを、県の健康アプリ「BIWA-TEKU」上に表示する。移動やチャレンジの達成に応じたポイントも付与し、外出や運動を後押しする。健康情報を届けるだけでは動きにくい層に対し、AIによる個別提案とインセンティブを組み合わせることで、健康への関心と実際の行動の双方を促す設計だ。滋賀県民1500人を対象に、10月から2027年3月末まで実施する。
女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください
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