【特集】AI時代、企業・ブランドはどう選ばれる? 最新の支援事例に見るマーケティングの新常識

生成AI(以下、AI)を使って商品を探し、比較し、選ぶ――。「AIと買い物」をする行動が広がる中、企業やブランドは、生活者だけでなくAIにどう認識され、どう表示されるかも意識する必要が出てきた。こうした変化を見据え、情報発信や広告、店舗集客、エージェンティックコマースなど、さまざまな領域で企業向けの新たな支援サービスが登場している。本特集の最終回では、AI時代のマーケティング支援を始めた5社の最新事例を横断。AIが購買プロセスに入り込むことで、企業のマーケティングに何が起き始めているのか? ヘルスケア企業固有の課題とは? AI時代に企業が押さえるべき新たなマーケティングの視点を探った。

最新のAIマーケティング支援

AIから自社はどう見えてる? AI上の引用・言及状況を可視化(Faber Company)

AIを使った商品探索が広がる中、企業にとって新たな課題となるのが、AIから自社や商品がどう見えているのかを把握することだ。Faber Companyは今年1月、AI検索対策ツール「ミエルカGEO」の提供を開始した。

Googleの検索結果上部に、AIが検索内容に応じた回答を生成して表示する「Google AI Overviews」で、自社サイトが引用されているか、どのような文脈で紹介されているかを可視化し、競合との比較から、AIに選ばれるために不足しているトピックを特定する。ChatGPTやGeminiで、自社ブランドや商品名がどの程度言及されているかも把握できる。こうした分析を、コンテンツや情報発信の改善につなげる。従来の検索では「自社サイトが何位に表示されるか」が重要な指標の一つだったが、AIを使った商品探索が広がれば、「AIが自社や商品をどう認識し、生活者にどう提示しているか」の把握も重要になる。同社は、これまで培ってきたSEOの知見を生かし、AI検索時代の新たなマーケティング課題への対応を支援する。

【出典】Faber Company

 

AIに選ばれるカギは「第三者メディア」での露出? AI回答との関係を分析(電通デジタル×電通PRコンサルティング)

AIから自社がどう見えているかを把握したら、次に考えるべきことは、AIに自社や商品の情報をどう認識してもらうかだ。その際のAIにとっての情報源の一つとして「メディア露出」に着目したのが、電通デジタルと電通PRコンサルティング。メディア露出とAIの回答との関係性を分析し、AI時代の情報発信を支援するGEO研究プロジェクトを今年8月に発足した。自社と競合のメディア露出状況と、主要な生成AI上での自社商品の言及状況を把握し、どのようなメディア露出がAIの情報源として引用・参照されやすいかを分析。得られた知見をもとに、AIに自社を正しく理解されるための文脈やストーリーを設計し、自社サイトやオウンドメディアを含めた情報発信全体の最適化につなげる。

さらに、従来のメディア露出量などの指標に加え、AI上での言及率や、自社情報がどのように認識・参照されているかを捉える新たな効果測定指標も開発する。PR活動がAI上での企業・商品の認知や理解にどう結びつくのかを可視化し、継続的な施策改善に活用する。

【出典】電通デジタル

 

ChatGPTやGeminiでの広告普及を見据え、AI時代の広告運用を支援(サイバーエージェント)

PRや自社サイトの情報整備だけでなく、AI時代を見据えた「広告」のあり方も変わり始めている。生活者の商品探索が従来の検索エンジンからAIへ広がれば、企業にとって、どこで生活者と接点をつくり広告を届けるかも新たな課題になる。サイバーエージェントは今年6月、AI時代の検索マーケティングを支援する専門組織「AI Search マーケティング事業本部(AIS)」を新設した。GeminiやChatGPTなどAI上での広告配信を見据え、各AIプラットフォームの特性を踏まえた戦略設計から運用改善までを一貫して支援する。背景にあるのは、生活者の検索行動そのものの変化だ。同社の3月の調査では、AIを活用した検索行動の国内利用率は37.0%に達し、20代では過半数となった。AI検索が普及すれば、AI上で生活者との接点をつくることは、企業にとって新たなマーケティング機会となる。

AISではこのほか、Google広告やLINEヤフー広告、Microsoft広告など従来の検索連動型広告の運用に加え、Google AI OverviewsやAIモードを見据えた検索戦略、GEO・LLMO施策の設計・実行・モニタリングにも対応。従来の検索広告とAI上の広告を横断し、AI時代の検索マーケティング全体を支援する。

 

AI検索から実店舗への集客へ、店舗事業者のマーケティングを支援(GMO TECH)

AI検索を新たな顧客接点と捉え、実店舗への集客につなげる動きも始まっている。GMO TECHは今年8月、店舗・地域事業者に特化したAI検索コンサルティングサービス「Local GEO Dash! byGMO」の提供を開始した。ChatGPTやGeminiなどの回答で店舗が引用・言及されやすくなるよう、Googleビジネスプロフィール(店舗の住所や営業時間などをGoogle検索やGoogleマップに表示させるGoogleの無料サービス)を中心とした情報の整備や、AIが参照しやすいWebサイト、コンテンツの改善などを支援する。同社への取材によると、サービスの提供開始から約1.5ヶ月で、過去に立ち上げた新規事業の中で最も高い受注ペースで推移しており、店舗事業者の関心は高いという。

【出典】GMO TECH

 

AIはどのような情報をもとに、回答に挙げる店舗を選んでいるのか。同社が21業種を対象に、Google検索の「AIモード」で店舗を探し、AIが回答の参考にした情報を調べたところ、Google上に登録された店名や所在地などの店舗情報が使われる割合は、今年5月の38.0%から7月には48.8%へ上昇し、約半数に達した。Googleビジネスプロフィールなどを通じてGoogle上の店舗情報を正しく整備することが、AIに店舗を認識してもらうための重要な土台になっていると同社はみている。

このほか、AIは公式サイトや第三者サイトなども参照しており、例えば飲食領域においては『食べログ』、宿泊では『じゃらん』など、業種によって参照先に違いがみられたという。

同社は、AIに店舗を正しく理解してもらい、回答の選択肢に入る上で必要なポイントとして、以下3点を挙げている。

①情報を一致させる
公式サイトやGoogleビジネスプロフィール、ポータルサイトなどに掲載する営業時間・料金・サービス内容などの情報を一致させる。掲載先によって内容が食い違っていると、AIが古い情報や誤った情報を引用する原因になる。

②「選ばれる理由」を言語化する
同社が37医院を展開する医療法人についてAIで調べたところ、駅名を含む質問では医院名が挙がった一方、症状や年代などを条件に医院を探す質問では、一度も名前が挙がらなかった。AIに所在地を認識してもらうだけでなく、「どんな悩みを持つ人に適しているのか」「何を強みとするのか」まで理解してもらえるよう、「選ばれる理由」を明確に言語化することが重要になる。

③自社以外のサイトでの言及
AIは、公式サイトなど自社が発信する情報だけでなく、比較記事や地域メディア、口コミなど、第三者サイトに掲載された具体的な紹介や言及も参照している。自社サイトだけで情報発信を完結させず、AIが参照する外部サイトにおいて、自社の特徴や「選ばれる理由」が具体的に説明されていることも重要になる。

ただ、こうした対策によってAIの回答に店舗名が挙がっても、実際の来店や利用につながるとは限らない。クリニックや整体、フィットネス、エステ・リラクゼーションサロンなど、ヘルスケア関連のサービスは、体に関わる上に料金も高くなりやすいため、生活者はAIによる提案だけで決めることはせず、Googleマップや予約サイトなどでも情報を確認する傾向が強いからだと同社は説明する。こういった各所で確認する営業時間や休診日、料金、予約方法などの情報が古かったり、公式サイトで掲載している内容と食い違っていたりすれば、最終的な選択にはつながりにくい。

もっとも、店舗情報を、Webサイト上の全掲載場所で正しく記載し内容を一致させること自体は、従来の店舗集客における情報整備と変わらない。AI検索が新たな入口となる中では、生活者だけでなく、AIにも店舗の特徴や「選ばれる理由」を正しく理解してもらう視点が、新たに求められるとしている。

 

AIによる商品探索から購入・決済まで、企業のエージェンティックコマース対応を支援(博報堂)

AIの利用が今後広く浸透すれば、生活者自身が商品探しに活用するだけでなく、AIエージェントが生活者に代わって商品の探索・比較から購入・決済まで担うようになる。こうした「エージェンティックコマース」の普及を見据えた企業支援も始まっている。

博報堂は今年7月、エージェンティックコマース領域のソリューション「Agentic Commerce ONE」の提供開始を発表した。博報堂DYグループ11社と提携企業が連携し、企業の戦略策定からブランド体験の設計、データ基盤やAIエージェントの実装、運用までを一気通貫で支援する。第一弾として、ブランド戦略や運用体制などのビジネス面と、データ基盤やAI連携などのテクノロジー面から、企業のエージェンティックコマースの対応状況を評価する「エージェンティックコマース診断」を開始した。

【出典】博報堂

 

エージェンティックコマースの本格普及は、まだこれからだ。現状、企業はどこまで対応を進めているのか。同社への取材によると、7月の提供開始以降、化粧品や日用品、家電メーカーのほか、小売・流通、不動産・インフラ、自動車、金融・保険など幅広い業種から相談を受けており、多くの企業が「AIによる買い物」という未来像に強い関心を寄せているという。ただ、企業が目下重視しているのは、AIによる購買代行そのものよりも、「自社ブランドや商品がAIにどう認識・評価されているか」。現時点では、エージェンティックコマース全般よりAIO(AI最適化)に特化した診断ニーズの方が圧倒的に強いという。

企業の対応はまだ初期段階にあるが、エージェンティックコマースの普及に向けた環境整備は着実に具体化している。米国などでは、GoogleのUCPやOpenAIのACPといった、外部AIとECサイトをつなぐ標準プロトコルの策定が進む。同社は、国内での実装展開は2027年以降に本格化すると予測しており、同年をエージェンティックコマース普及に向けた一つの転換点と見ている。

こうした将来を見据え、まず企業に求められるのが、AIが自社や商品を正しく理解できるようサイトや商品情報を整備する「AIO」だという。AIが情報を読み取りやすいようサイトの構造化データを整備したり、生活者の悩みや目的に応えるFAQを拡充し、商品情報にも利用シーンや体験価値などを加える。その上で、AIによる代理決済や自律購買を見据えた戦略策定にも着手することを推奨しており、同社は、この「足元」と「中長期」の2段階で準備を進める必要性を指摘する。

ヘルスケア領域では、さらに固有の課題もあるという。AIが商品の効能を誤って解釈・誇張したり、体質に合わない商品を代理購入したりする健康上のリスクに加え、AIが生成する推奨表現が薬機法などに抵触する可能性がある。こうしたリスクに備えるため同社は、企業自らが「AIのための正しく安全な情報源」となることの重要性を挙げる。AIに選ばれるためだけでなく、商品情報を正しく理解してもらえるよう、自社から正確な情報を発信・整備することが、とりわけヘルスケア事業者には強く求められそうだ。

 

「AIと買い物」の時代、マーケティングはどう変わる?

AIが購買プロセスに入り込むことで、企業に求められる新たな対応が、情報発信やメディア露出、広告設計、店舗集客、EC・決済まで、購買をめぐるさまざまな場面に広がっていくことが、5社の支援事例から見えてきた。一つの施策だけで「AIに選ばれる」状態をつくることは難しく、購買プロセスのさまざまな接点で、AIを意識した対応が必要になるということだ。

全4回の本特集では、AIによって実際の購買行動がどこまで変わったのかを起点に、未来の購買行動予測と、企業向け支援サービスから見える新たなマーケティングの姿までを追ってきた。AIが単なる商品の検索ツールにとどまらず、企業と生活者の間に入り、情報を集め、比較し、評価し、選択を助ける存在となれば、マーケティングの前提は大きく変わる。従来、生活者を中心に設計してきたマーケティングに、これからは「AIを介して生活者にどう届けるか」という新たな視点が加わる。生活者に選ばれるためのマーケティングから、AIを介しても選ばれるためのマーケティングへ――。企業には、そんな発想の転換が求められそうだ。

 

【編集部おすすめ記事】
【特集】AIで購買行動はどこまで変わった? 商品の探索・選択・購入で広がる利用
【特集】AI×購買行動 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く10の予測(前編)
【特集】AI×購買行動 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く10の予測(後編)
始まる争奪戦、生活者の健康を新たに握るのは?AI・小売・家電が狙う「健康管理のハブ」
女性ヘルスケア白書 市場動向予測2026 健康トレンド・業界動向・女性ニーズ

 

PAGE TOP
×