子どもヘルスケア市場に新たな需要 母親と子どもを取り巻く「5つの変化」、美容・健康・ウェルネスに商機
人口減少による市場の縮小に対応しようと、今、各業界がα世代に熱い視線を注いでいる。売り上げ創出だけでなく、幼少期からの接点づくりを通じて将来のブランド選好につなげる狙いがあるが、ヘルスケア業界には、それだけにとどまらない背景がある。親世代の健康意識の高まりと、生活環境の変化に伴う子どもの健康課題の顕在化だ。近年はさらに、親子ともに子ども向け化粧品への関心が広がっており、美容領域での事業展開も相次いでいる。
子どものヘルスケアはとりわけ母親の関心が高いことから、市場では、母親の不安や負担を軽減しながら子どもの健康習慣形成や行動変容を支援する設計の商品・サービスが目立つ。少子化が進む一方で、家庭内の子ども消費は活発化している。こうした追い風も強みに、2026年は、空白地帯だった子どものヘルスケア市場で需要の掘り起こしを図る企業の動きが加速しそうだ。※本記事における「子どものヘルスケア市場」は、健康領域を中心に、セルフケアとの関連から美容領域も含めて分析している。
目次
少子化の状況
日本人の出生数は1974年以降、一時的に増加に転じた年はあるものの、減少傾向が続いている。2016年以降は急減期というべき減少ペースが続き、24年には68万6千人と、統計開始以来初めて70万人を下回った。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も24年に1.15と過去最低を記録し、東京都では0.96と2年連続で1.0を下回った。婚姻数の減少傾向も続いており、出生数の回復は容易ではない。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、0~14歳人口は25年の約1363万人から2050年には約1041万人へと約24%減少する見込みだ。
子ども市場は堅調に推移
逆説的だが、子ども向け市場は少子化が進む中でも堅調に推移している。矢野経済研究所によると、ベビー関連のビジネス市場は2022年の4兆3537億円から24年には4兆4518億円へと拡大。保育サービスの拡大に加え、市場拡大の背景にあるのが「6ポケット」から「10ポケット」への変化だ。従来、子どもへの支出源は両親と両方の祖父母の六つだったが、晩婚化・非婚化により、収入のある独身のおじ・おばが加わり10ポケットに拡大した。これにより、子ども向けのプレゼントや体験消費など、支出の機会そのものが増えている。
少子化の進行により、子ども1人に対する支出が集中する傾向も強まっている。長期的に見ると、変化はより顕著だ。子ども(0〜18歳)の人口は1970年の約3188万人から2017年には約2034万人へと減少した一方、子ども1人当たりの年間教育費は同期間に約2万4千円から約37万1千円へと約16倍に増加している。子育て費用の総額は平均約2172万円に達するとの調査もある。こうした数字を裏付けるように、民間調査では「子どもにお金を惜しまない」と回答する母親が8割超に上る。少子化が進むほど子ども1人への投資が集中する構造が鮮明になっている。
子ども市場の拡大は世界的な潮流でもある。FortuneBusiness Insightsの調査では、グローバルベビーケア市場は25年の約2543億ドルから2034年には約4884億ドルへと拡大し、年平均成長率(CAGR)は7.67%と予測されている。このうちアジア太平洋地域が全体の3割を占め、日本企業にとっても国内と海外展開の両面で成長の機会があるといえる。こうした国内外の動向を踏まえ、共働き家庭向けの時短商品や安心・安全を訴求するプレミアム商品、見守りデバイスや育児アプリなどのベビーテック分野は、今後の成長が特に期待される。
子どものヘルスケア市場、成長を支える5つの要素
子どものヘルスケア市場においては、拡大を期待できる背景に4つの要素がある。現代特有の子どもの健康課題が表面化していることに加え、親の意識変化が根底にある。
① 親の「子どものヘルスケア」ニーズの高まり
世界的な健康志向とコロナ禍を経た免疫意識の変化により、子どもの健康に投資したいと考える親が増えている。サンスターが子育て世代を対象に実施した調査では、子どもへの健康投資をいとわない親の姿が明らかになった。0~6歳の子どもを持つ父母千人の約7割が「子どもの将来の健康のためなら、できる限りお金や時間をかけたり、さまざまな方法を試してあげたい」と回答した。
親は具体的に、どのような健康づくりに投資したいと考えているのか。「子どもの将来のために投資したいこと」を尋ねたところ、食事や口腔ケア、運動など身体面のケアが上位を占める一方、自己肯定感など心のケアへの関心も高く、心身一体でのケアを重視する意識が浮かび上がった。
親の関心が高まる背景には、子どもの健康や良好な発育に加え、親が自身への負担や影響を軽減したいというニーズも隠れている。核家族世帯の共働きが増える中、家庭内で頼れる大人は限られており、子どもが病気にかかると大きな負担になるからだ。明治が父母を対象に実施した調査では「子どもの看病」「自分の仕事」「自分の体調管理」の三つを同時に抱える負担の実態が明らかになり、子どもの体調維持にプレッシャーを感じる親は回答者の約半数に上っている。
② 共働き世帯の増加と母親に偏る子育て負担
共働きにより母親の時短ニーズが高まっている。共働き世帯は2024年に1300万世帯に達し、専業主婦世帯(508万世帯)の約2.6倍の規模となった。夫婦ともにフルタイム勤務(週35時間以上)の世帯は、14年の392万世帯が24年には496万世帯となり、10年間で100万世帯を超える増加となった。子育て期にあたる25〜44歳の女性の就業率は8割に上る。このように、仕事を持つ母親は年々増えているものの、家事や子育ての負担は依然として母親に集中している。5年ごとに実施される21年の社会生活基本調査でも、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事関連時間は、夫の1時間54分に対し、妻は7時間28分だった。時間に追われる中で、栄養に配慮した食事作りをはじめ、子どもの健康のために時間を確保することは容易ではない。こうした状況が、子どもの健康管理を効率化する商品・サービスの需要を生み出している。
③ 子育て支援策の拡充
2024年は子育て支援策が大きく前進した転換の年となった。児童手当が大幅に拡充され、所得制限の撤廃、支給対象の高校生年代までの延長、第3子以降の支給額は月3万円に引き上げられた。26年4月には、子ども・子育て支援金制度も始まった。政府の試算によると、同制度による給付改善額は、子ども1人当たり平均約146万円に上る。児童手当(平均約206万円)と合わせた累計給付額は約352万円となる。子ども医療費助成も全国的に拡大している。こども家庭庁が公表した調査結果によれば、通院費の助成対象を「18歳まで」とする市区町村は25年度、全体の90.5%にあたる1576自治体となり、高校生までの助成が事実上の全国標準となりつつある。自己負担を一切求めない自治体も全体の75.8%と4分の3を超えた。これらの政策は子育て世帯の可処分所得を押し上げる効果があり、子どもの健康づくりへの支出が広がりやすい環境を生んでいる。
④ 子どもの健康課題
子どもの健康に関する各種指標は悪化傾向にある。睡眠不足やメンタルヘルス、アレルギー疾患や発達障害、視力の低下など、さまざまな課題が浮かび上がっている。背景には、テクノロジーの進展に伴う生活環境や生活習慣の変化があり、健康課題は多様化・複雑化している。例えば、スクリーンタイムの増加による運動機会の低下や睡眠不足が、授業中の集中力低下やメンタルヘルスの悪化を引き起こすといったように、生活環境を起因とした健康課題が悪循環を形成するケースも。こうした現代特有の健康課題が問題視されるようになっていることも、親の子どもの健康づくり意識を高めている(子どもの主要な健康課題の実態と、国内外のソリューション動向・企業事例は、市場レポート『α世代が動かすヘルスケア市場、「子どもの健康習慣形成」と「親の健康投資」が新たな成長ドライバーに』に掲載)。
⑤ 子どもの美容意識の低年齢化
米国のSNSで一躍バズワードとなったSephora Kidsに代表されるように、子どもの美容市場が拡大している。SNSの普及やインフルエンサーを起点とした消費文化の浸透が背景にあり、α世代を対象にした美容商品が続々と登場している。安全性や年齢適合性をめぐる世界的な規制議論から、子どもの美容市場は「成長」と「適正化」が同時進行する局面にあるものの、美容は健康・ウェルネスとも接続する領域であり、子どもが自分の心身に向き合うセルフケア意識を育むきっかけにもなる。子どもの美容市場の拡大は、健康・ウェルネス市場の裾野を広げる役割も担っているのだ(子どもの美容市場の国内外の動向や商機、企業事例は、『α世代が動かすヘルスケア市場、「子どもの健康習慣形成」と「親の健康投資」が新たな成長ドライバーに』に掲載)。
「子どもの健康習慣形成」、ヘルスケア市場の新たな成長テーマに
子どもヘルスケア市場で起きているのは、単純な対象年齢の拡大ではない。事業機会は、従来の「病気や不調に対応する」という発想から、日常生活の中で健康をつくる「健康習慣形成」へと広がっており、新たな商品・サービス需要が生まれ始めている。
ただし、大人向けの商品・サービスをそのまま子ども向けに転用すればよいわけではない。年齢や発達段階に応じた安全性や適切性を担保した上で、「子ども自身が続けたくなること」と「親が安心して選べること」の両立が重要だ。
市場レポート『α世代が動かすヘルスケア市場、「子どもの健康習慣形成」と「親の健康投資」が新たな成長ドライバーに』では、子どもを取り巻く8つの健康課題を整理するとともに、子どもの美容市場と健康市場の最新動向を横断して分析。国内外の主要データや企業・自治体の先行事例をもとに、子どもヘルスケア市場で注目したい7つの市場領域と、今後のビジネス機会をまとめた。新規事業の企画、商品・サービス開発、マーケティング戦略の検討などに活用できる。
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