「フェムケア市場は停滞している」は本当か? 女性の「主体性」と「未来投資」から読み解く、次の商機と勝ち筋

フェムケア市場は拡大を続けてきた一方、近年は成長の鈍化や競争の激化から「停滞している」との声が聞かれるようになりました。しかし消費者データからは、新たな商機が見えているといいます。市場の停滞感は、次のステージへと移行した女性たちの意識・行動を企業側が十分に捉えきれず、従来の価値提案から抜け出せていないことに起因しているのかもしれません。女性の健康・美容領域の市場調査を手がけるTPCマーケティングリサーチが、最新のデータをもとに、市場の現在地と次の勝ち筋を示します。

フェムケア市場は「ブーム」から「定着・淘汰」のフェーズへ

「フェムケア市場は停滞している」——ここ1、2年、業界の中でそんな声を耳にする機会が増えました。2020年のフェムテック元年以降、大手メーカーや異業種、小売の参入が相次いだことで市場は急速に拡大し、「フェムケア」という言葉自体の認知も大きく広がりました。

しかし新規参入が一巡した今、成長の鈍化と競争の激化が同時に進んでいます。当社の調査によると、2023年のフェムケア市場の規模(※対象:健康食品、OTC医薬品・医薬部外品、一般食品・飲料)は、前年比0.8%増の368億円。過去10年で約1.7倍に拡大した一方、直近の伸び率は明らかに鈍化しています。商品・サービスの選択肢が増え、「フェムケアであること」自体が選ばれる理由になる時代は終わりつつあると言えるでしょう。

ただし、これは市場の成長そのものが終わったことを意味しません。継続的な消費者データを追っていくと、女性たちの健康との向き合い方そのものが、次のステージへ移りつつある様子が見えてきます。市場は「普及・定着」のフェーズを終え、生活者が商品を見極め、必要なものをシビアに選び取る「成熟期」に入った——。競争の焦点は、カテゴリー認知の獲得から、選ばれ続ける理由の設計へとシフトしています。

本稿では、最新の消費者調査データをもとに、この停滞感の正体と、その先にある商機・勝ち筋を読み解きます。

 

最新データが示す女性たちの意識変化

フェムケアに関して消費者調査から浮かび上がるのは、2019年から2026年にかけての大きく2つの意識変化です。

意識変化①:「不調に振り回される」から「コントロールする」へ

これまで女性の健康課題は「不調への対処」「不足を補う」という文脈で語られ、ケアの目的はマイナスをゼロに戻すこと(症状緩和)が中心でした。しかし現在は不調の解消にとどまらず、自らコンディションを整え、主体的に健康をマネジメントしようという意識が広がっています。

■「赤ちゃんのため」から「母体自身のため」へ
例えば、妊産婦を対象にした当社の調査では、サプリ・健康食品を摂る理由(図1)として「母体の健康のため」を挙げた人が、2019年の30.8%から2026年には37.5%へ増加。ケアの目的が「赤ちゃんのため」だけでなく、「母体自身のコンディション維持」にも広がっていることがわかります。期待する効果(図2)でも「免疫力向上」が11.4ポイント、「睡眠の質向上」が12.9ポイント上昇しており、母親自身の日常的なコンディションを保とうとする意識の高まりがうかがえます。

①TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

 

②TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

 

■「プレ更年期ケア」に7割が共感、広がる予防意識
また、更年期に関する調査でも同様の傾向が見られます。「プレ更年期からの予防的なケアが、更年期以降の健康や美容に差をつける」という考えへの共感は40〜50代女性の67.7%にのぼり、2022年の前回調査から2.3ポイント上昇。特に働く女性(キャリアタイプ)では「更年期に負けないカラダ作り」への魅力を51.3%が感じており、全体を12.3ポイント上回っています。

このように、女性たちは身体や健康を「不調に振り回されるもの」から「自らコントロールするもの」へと捉え直しつつあるのです。

意識変化②:「場当たり的なケア」から「未来を見据えた投資」へ

かつての女性の健康管理は、妊娠や更年期などのライフイベントをきっかけに初めて意識するような、場当たり的なものが一般的でした。しかし現在は、備えを始めるタイミングが前倒しされ、特定のライフイベントに限らず日常の習慣として取り入れる動きが広がっています。

先ほどの妊産婦を対象にした調査では、妊娠に関係なく普段から自分のために鉄やたんぱく質、ビタミン類を意識的に摂取している人の割合が継続的に上昇しています(図3)。また、サプリの摂取開始時期(図4)についても「妊娠に関係なく摂っていた」という層が2019年の6.4%から2026年には8.9%に増加しており、妊娠という契機を待たず、日頃から自分のために栄養を摂る人が増えていることが読み取れます。

③ TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

 

➃TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

 

こうした変化は社会全体の動きとも重なります。こども家庭庁が推進する「プレコンセプションケア」は、将来設計と健康を結びつける考え方を普及させており、東京海上日動やテルモ、大成建設といった企業でも、女性の健康を「人的資本への投資」と捉えた社員教育が進んでいます。女性たちは、現在の不調改善だけでなく、未来の自分を見据えた「健康投資」を行うようになっているのです。

 

停滞感を打破する次なる商機

こうした意識変化は、企業にとってどんな商機を示しているのでしょうか。これまでのフェムケア市場は、「葉酸」や「エクオール」など特定の悩みに対応する“一点突破型”の成分訴求が主流でした。しかし、当社の妊産婦調査(図5)が示しているように、近年は「葉酸以外の成分も充実している」「これだけで必要な栄養が摂れる」といった総合的な栄養補給を評価する声が一貫して増加しています。つまり、単一の症状・成分に対応する「点」の商品ではなく、栄養・睡眠・疲労・体力など日々のコンディションを横断的に支える「面」の商品が求められているのです。また、健康管理の時間軸が未来へ広がったことで、「今困っていない人」に向けた提案余地も生まれています。「治す・補う」を競うだけでなく、「備える・育てる・維持する」という価値を提示し、ゼロをプラスへ変える自己投資型の市場を育てていくことが、次の成長の鍵となりそうです。

⑤TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 妊婦・授乳期の栄養ニーズ(第3弾)」

 

停滞期を抜け出す、フェムケア市場3つの勝ち筋

ここまで見てきた消費者の意識変化を踏まえ、成熟した市場で選ばれ続けるための3つの勝ち筋を提言します。

勝ち筋①:ターゲット像の再定義、「受け身のケア」から「主体的な自己投資」へ

女性を「不調や悩みを抱える存在」としてのみ捉え、救済を提案するコミュニケーションはもはや通用しません。調査が示す通り、女性たちは自ら健康をマネジメントし、主体的に投資する生活者へと変わりつつあります。「守ってあげる」というメッセージへの共感は薄れ、商品を「あなたらしいパフォーマンスを最大化し、人生の主導権を握るためのツール」として位置づけ直すことが、ブランドづくりの第一歩となります。

勝ち筋②:「フェムケア」から、生活に溶け込む伴走型の「日常ケア」へ

前述の意識変化②で見た通り、女性の健康管理は”特別なイベント対応”から”日常の習慣”へと重心を移しています。この傾向をいち早く先取りしているのが、次の2つの事例です。

例えば、ヘルスケア領域のD2C事業を手掛けるMEJが提供する粉末状の美容健康コーヒー「C COFFEE EQUOL & ISOFLAVONES」は、更年期世代向け成分を配合しながらも「いつものコーヒーを置き換える」という発想で、日常のコーヒー習慣に健康管理を溶け込ませています。また、花王の「ロリエ デリケート泡ウォッシュ」も、デリケートゾーンケアという専門領域を「毎日使うボディケア・洗浄習慣」として提案し、歯磨きや洗顔と同じ日常の身だしなみへと位置づけました。あえて「フェムケア」を強調せず、一般的な生活習慣に溶け込ませる設計こそ、調査データが示す意識変化に対応した勝ち筋と言えるでしょう。

勝ち筋③:「点」から「線」へ、世代を超えた提供価値の拡張

もう一つ重要なのが、ライフステージの変化に合わせて長期的に女性の健康を支える視点です。当社が行った更年期に関する調査(2025年 女性更年期対策の実態と商品ニーズ<第2弾>)で、認知度・摂取率が大きく上昇したブランドの一つが、大塚製薬の「エクエル」です。

同ブランドは、前回(2022年)調査比で認知率は18ポイント、摂取経験率は6.5ポイント、現在摂取率は5.1ポイント上昇しました。大塚製薬は近年、更年期の症状緩和にとどまらず、「エクエル」を「女性のための基礎サプリメント」として位置づけ、提供価値を拡張しています。さらに月経前のコンディションを支える「トコエル」も展開し、月ごとの変化からライフステージ全体までを連続的にカバーしています。

一つの悩みや年代で関係を終わらせず、女性の変化に寄り添い続けるこの発想は、意識変化①で見た「主体的な健康マネジメント」への支持を追い風に、顧客接点を「点」から「線」へ拡張する好例と言えるでしょう。

 

市場の停滞感の正体は「競争軸の転換」、コミュニケーションのアップデートを

フェムケア市場に見える停滞感の正体は、縮小ではなく、成熟に伴う競争軸の転換です。市場は一過性のブームを終え、「不調が起きたときの特別なケア」から「日常的に将来へ備える健康投資」へと重心を移しています。女性たちは不調への対処にとどまらず、自らのコンディションや将来に対して主体的に投資を始めています。「不調の緩和」から「人生設計のサポート」へ——。この変化を捉え、商品やコミュニケーションをアップデートできた企業だけが、停滞の波を抜け出し、次の成長市場を制することになるでしょう。

TPCマーケティングリサーチ

【提供元】 TPCマーケティングリサーチ株式会社

 

TPCマーケティングリサーチは企業理念に「リサ・リューション(Resear-lution)」を掲げ、創業から30年以上にわたり、「食品」「化粧品」「医薬品」「化学」の4つの業界に特化した調査を一貫して手がけてきました。業界に精通し、顧客の課題に応じて最適な調査設計を行う「業界×リサーチのプロ」が、市場規模や競合動向だけでなく、生活者ニーズ、商品・技術トレンド、企業戦略まで多角的に分析します。調査結果をただ報告するのではなく、そこから見えてくる「次に何をすべきか」まで導き出し、商品開発や事業戦略における確かな意思決定と、その先のアクションにつなげます。

 

【編集部おすすめ記事】
■フェムテック・フェムケア市場 ブームは一巡も803億円へ拡大 カテゴリー別動向
■フェムケアトレンドで女性の漢方市場が伸長、新発想の製品・サービスも続々
■「フェムテック」の役割一区切り迎える 展示会「Fem+(フェムプラス)」名称変更を発表
■フェムケア市場で進む“睡眠×PMS”の提案 機能性表示食品発売 井藤漢方製薬
■女性の健康意識・健康行動・ヘルスリテラシーがわかる調査記事、63選

PAGE TOP
×