その「女性理解」、古くない? 企業のマーケティングと女性生活者の「ズレ」を見直す9つの視点
女性向けの商品・サービスを展開しているのに、思うように購入や利用につながらない。健康課題を抱えていることが分かっていても、対策行動には結びつかない。そんなとき、商品や販促施策を変える前に見直したいのが、企業側が捉えている「女性生活者像」と「実態」のズレだ。女性の支出意欲の向かう先や潜在ニーズ、健康との向き合い方に加え、情報収集や商品を選ぶプロセスも変化している。従来の女性理解を前提にしたマーケティングでは、こうした変化を捉えきれず、生活者の実態と施策の間に少しずつズレが生まれてしまう。9つの視点から、女性生活者の捉え方とマーケティングをアップデートしよう。
目次
女性は何にお金を使いたい? 支出意欲からニーズを捉える
女性向けの商品・サービスのマーケティング施策を考えるとき、まず押さえておきたいのが「女性は今、何にお金を使いたいのか」。健康や美容への関心が高いからといって、必ずしも支出意欲が高いとは限らない。
ネオマーケティングが10〜70代に実施した調査では、女性の支出意欲は年代によって大きく異なった。10〜20代では「衣類・ファッション(39.7%)」と「趣味・推し活(38.2%)」が上位となった一方、「美容」は28.2%。30〜60代では「食料品・飲料」「旅行」「預貯金」などが上位に入り、「運動・健康」への支出意欲は10〜60代で1〜2割程度にとどまった。一方、70代では「運動・健康」が40.0%に上昇している。
「健康に関心がある女性」をそのまま顧客として捉えるのではなく、年代ごとに何への支出を優先しているのかを把握する視点が重要だ。自社の商品をどう売るかを考える前に、ターゲット女性の支出意欲を捉えることで、適切な接点や訴求のヒントが見えてくる。支出意欲の高いカテゴリーと、自社の技術・商品・サービスを掛け合わせた事業開発やキャンペーンも、マーケティング施策の一案になるかもしれない。
その訴求、本当に女性の「購買スイッチ」を押している?
商品の機能や品質、価格などの強みをしっかり伝えているのに、なぜか女性に響かない。そんなときは、企業が伝えたい価値と、女性が商品を選ぶときに重視する価値にズレがないかを見直したい。
女性視点マーケティングを手がけるハー・ストーリィが、2008〜2025年の17年間、男女約7万人の購買行動を分析したところ、男性はスペックや価格などを比較して合理的に判断する傾向が強い一方、女性は「商品・サービスが自分の日常をどれだけ幸せにしてくれるか」を評価基準とする傾向が見られた。商品そのものの機能や品質だけでなく、「誰と」「どこで」「どう使うか」といった利用シーンや、「気分が上がる」「心地よい」といった感情価値も選択に影響するという。


【出典】ハー・ストーリィ(男女の購買決定プロセスのイメージ)
女性に商品の魅力を伝えるなら、スペックや機能といった「商品の良さ」を並べるだけではなく、その商品によって生活がどう変わるのか、どのような気持ちや体験を得られるのかまで伝える視点が必要だ。自社が訴求したい価値と、ターゲット女性が求める価値が一致しているか。商品そのものだけでなく、伝え方にも「ズレ」がないかを、今一度確認してみよう。
「困っている人=顧客」とは限らない
健康課題を抱える人の全てが、対策商品・サービスを利用するわけではない。ヘルスケア事業に携わる人にとっては周知のことだろう。では、症状を自覚しながらも対処しない人は、何を考え、どこで行動を止めているのか。潜在層の利用や購買を促すには、「未対処」の背景をさらに細かく捉える必要がある。
インテージヘルスケアが40〜59歳女性8851人を対象に実施した調査では、82%が過去1年以内に何らかの更年期症状を経験していた一方、医療機関の受診や市販薬・サプリメントの利用など、何らかの対処をしている人は全体の22%にとどまった。症状を自覚しながらも対処していない「未対処者」は24%で、約4人に1人に上る。対処しない理由には、「年齢的な症状として受け入れている」「我慢できる」「お金をかけたくない」「いつかは改善すると思う」などがあり、その背景には、症状と更年期を結びつける知識不足や情報過多による選択疲れなどがあることが分かった。
この調査から見えてくるのは、「未対処者」を一括りに捉えないことの重要性だ。同じように対処していなくても、「まだ困っていない」「自然に改善すると思っている」「何を選べばいいか分からない」「費用をかけたくない」など、理由によって必要なアプローチは変わってくる。潜在層の利用や購買を促すには、症状の有無や程度だけでセグメントするのではなく、「なぜ対処していないのか」まで解像度を上げることで、商品設計や情報提供、訴求、接点づくりを見直すヒントが見えてくる。
市場が停滞している時は、女性の変化を捉え直す時
市場の成長が鈍化したり、従来の商品が売れにくくなったりしたとき、「ニーズがなくなった」とすぐさま判断するのは早計だ。市場規模や売上の変化だけでなく、生活者が商品・サービスに求める価値そのものが変わっている可能性にも目を向けると、突破口が見つかるかもしれない。
その一例がフェムケア市場だ。TPCマーケティングリサーチによると、2023年のフェムケア市場(健康食品、OTC医薬品・医薬部外品、一般食品・飲料)は前年比0.8%増の368億円。過去10年で約1.7倍に拡大したものの、直近では成長が鈍化している。しかし消費者調査からは、市場の成長鈍化とは裏腹に、女性の健康ニーズが新たな方向へ広がっている様子が見えている。不調があらわれる前に自らコンディションを整える意識や、将来を見据えて早い段階から健康に投資する意識が高まっていることがわかった。例えば、「プレ更年期からの予防的なケアが、更年期以降の健康や美容に差をつける」という考えには、40〜50代女性の67.7%が共感している。ニーズの変化は、女性たちが求めている商品にも表れている。特定の不調に対応した商品や、特定成分を訴求する商品だけでなく、栄養、睡眠、疲労、体力など日々のコンディションを横断的に支える商品への期待が高まっており、健康管理を日常習慣に取り込む動きも見られる。
市場の伸びが鈍ったときこそ、女性たちが「何に価値を感じるようになったのか」を捉え直す視点が重要だ。市場の数字の裏側にあるニーズの“質”の変化に目を向けることで、次の商機が見えてくるかもしれない。
「バズれば売れる」、今も通用する?
SNSで話題になり、インフルエンサーが紹介することでヒットにつながる「バズ消費」。特にZ世代をターゲットにしたマーケティングでは定番の手法だが、「バズ=購買」という構図に変化の兆しが見えている。
その変化が顕著なのが美容市場だ。アイスタイルが今年5月に発表した美容トレンドでは、「バズ離れ」を指摘。「バズっている」だけでは商品は選ばれず、「自分に合うか」「投資する価値があるか」を見極める消費へシフトしていると分析した。同社が4月に実施した調査では、「SNSやYouTube・TikTokで、話題・人気・バズっている化粧品を購入したい」と回答した割合が、10代で22年比7.2ポイント減、20代で6.3ポイント減となり、「バズ=購買」の構図が崩れ始めている様子がうかがえる。
ただ、女性たちがSNSそのものから離れているわけではない。商品の認知や情報収集には引き続きSNSが活用されており、バズをきっかけに商品を知り、その後、自分に合うかを吟味する購買行動へと変化していると捉えるのが適切だ。
バズやインフルエンサーが購買に与える影響の変化は、別の調査からも見えてくる。20代女性が美容商品の購入で重視するのは、1位「コスパ・価格」、2位「口コミ・レビュー」、3位「効果の実感」で、話題性やインフルエンサーの影響は少数にとどまった。インフルエンサーは商品を知るきっかけとして一定の影響力を持つものの、購入判断で参考にする口コミでは、インフルエンサーより一般人の投稿が優位との調査結果もある。
SNSマーケティングでは、「バズらせる」ことをゴールにするのではなく、その先の比較・検討を経て購買に至るまでを一連の導線として設計する視点が、これまで以上に重要になりそうだ。認知後に「自分に合う」「価格に見合う」「効果を期待できる」と納得してもらうために、どのような情報や接点を用意するか。バズの役割を捉え直すことが、若年女性とのズレを埋めるヒントになるかもしれない。
AIで変わる購買プロセス、「選ばれ方」の変化に備える
GoogleやSNSで商品を探し、口コミやECサイトを見ながら比較し、購入する。これまで一般的だった購買プロセスにも変化が起き始めている。生成AI(以下、AI)が、商品の比較や候補の絞り込みなど、商品選びにも使われ始めているためだ。
博報堂買物研究所が20〜69歳の男女2万人を対象に実施した調査では、買い物でAIを利用している人は24.6%と、約4人に1人。利用者の約9割が「欲しい商品の情報収集」をAIに任せたいと回答し、候補の絞り込みでは約8割、最終的な商品決定でも6割が、程度の差はあれAIに任せたいと考えていることがわかった。
国内外の研究からは、AIの介在によって商品選びそのものが変わる可能性も示されている。AIによる推薦が、これまで知らなかったブランドとの出会いを生む一方、似た選択肢に収れんする「選択の同質化」を招く可能性も指摘されている。また、AIにどこまで商品選びを任せるかによって、購買体験や商品への愛着が変化することを示す研究もある。「自分で探し、比較して選ぶ」ことを前提としてきた購買行動は、すでに再構築の途上にあるのだ。
詳細
同時に、今後は企業の「選ばれ方」も劇的に変化する。AIの普及により、従来のSEO対策やSNS、広告などのマーケティング施策にも変化が求められるほか、AIが自社の商品やブランドをどう認識し、回答の中でどう説明・推薦するかも、新たなマーケティング課題になり始めている。生活者の購買行動だけでなく、AIを介した商品・ブランドとの接点も捉え直す必要がある。
こうした購買行動の変化を、新たなモデルとして捉える動きも始まっている。電通グループ4社は今年9月に、AI時代の購買行動モデル「AIJES」を発表した。従来の「AISAS」の発展版で、生活者がAIに問いを立て、その回答を参考にしながら意思決定する購買行動を「蓄積」「問答」「判断」「参加」「評価」の5段階で整理したものだ。購買行動の過渡期にはAISASとAIJESが並走するとしており、企業側にも、AIが介在する新たな購買プロセスを前提としたマーケティング設計が求められ始めている。

【出典】電通
「健康」を訴求した施策設計にとらわれない
健康への関心を高め、健康行動を促し、商品・サービスの利用につなげる。ヘルスケアマーケティングでは王道のアプローチだが、必ずしも「健康」を入口にする必要はない。生活者がすでに強い関心や熱量を持っているものと健康を掛け合わせることで、新たな接点をつくる方法もある。
その一例が「推し活」だ。タニタが推しのいる15〜69歳の男女1000人を対象に実施した調査では、推し活を始めてから「健康を意識するようになった」が43.4%、「ダイエットを始めた」が26.6%、「外出する機会が増えた」が47.4%に上った。「健康になりたい」から健康行動を始めるわけではなく、「推しに会いたい」「イベントを楽しみたい」「聖地を巡りたい」といった“好き”の感情が、結果的に運動や食生活の見直し、外出などの健康行動につながっているのだ。

【出典】タニタ
企業もこうしたモチベーションに着目し始めている。推し活中の歩数や活動量を記録できるアプリや、人気キャラクターと女性向けセルフケア商品を組み合わせた企画など、「推し活×ヘルスケア」の商品・サービスが登場している。単に人気キャラクターを起用するのではなく、“好き”という感情を行動のきっかけとして設計している点が特徴だ。
健康行動を促す施策を考える時は、「どうすれば健康に関心を持ってもらえるか」に加え、「何なら動きたくなるのか」という視点からも発想してみよう。健康とは異なる領域にあるモチベーションを取り込むことで、これまで接点を持ちにくかった層にもアプローチできる可能性がある。
「伝える」から「仕組みづくり」へ、行動を促すアプローチを進化させる
健康の重要性や商品・サービスのメリットを伝えても、必ずしも行動につながるとは限らない。こうしたヘルスケア市場の長年の課題に対し、近年は生活者が行動しやすい仕組みそのものをつくるアプローチが広がっている。
例えば朝日広告社は、1万人規模の調査から健康行動を妨げる心理や認知バイアスを分析し、行動を起こすきっかけを23項目に体系化。ヘルスケアシステムズは、自宅でのセルフ検査で得たヘルスデータと食事・睡眠などのライフデータを組み合わせ、一人ひとりに合った健康情報を提供する取り組みを始めた。シルタスは購買データから不足栄養素を分析し、普段の買い物の中で対策商品を提案。日本システム技術はPHRを活用し、健康行動の継続・定着を支援している。

【出典】朝日広告社
健康への関心が低い層へのアプローチも高度化している。滋賀県などによる事業では、健康情報を自ら取りにいかない「健康無関心層」に対し、PHRとAIを使って個々に適した健康行動を提案。ポイントなどのインセンティブも組み合わせ、行動を後押ししている。
共通するのは、心理や健康状態、日常行動に合わせて、行動しやすい接点や環境を設計していることだ。「正しい情報を届ければ動く」という前提から離れ、行動を阻む要因まで捉えて仕組みを設計することで、ヘルスケアマーケティングの精度をさらに高められるかもしれない。
女性マーケターの感性は重要、でも「女性ならわかる」とは限らない
女性の価値観やライフスタイル、消費行動が多様化する中、数値データや顕在化したニーズだけでは捉えきれない女性の心理や、日常に潜む「不」をどう見つけるかも重要になっている。そこで力を発揮するのが、女性としての生活経験や感覚を持つ女性マーケターだ。
女性マーケティングの専門企業、女ゴコロマーケティング研究所は、女性マーケターは自身の感性や体験を通じて、女性の価値観やニーズをより細やかに捉えられると指摘する。実際、女性マーケターが手がけたヒット商品には、自身が感じていた不便や、友人など身近な人の困り事を起点に開発されたものも多いという。意思決定層の多くを男性が占める企業も多い中、こうした女性の生活実感を企画や商品開発に取り込むことには大きな意味がある。

【出典】『ゼロからはじめる できるマーケターになるための最強レッスン』木田理恵著
一方で、「女性なら女性ニーズがわかる」と考えるのも危うい。同社は、男性中心の組織で働く女性自身も組織の価値観に影響され、発想が均質化する可能性を指摘している。また、自身の体験や感性に頼りすぎれば、視野が狭くなったり、独りよがりになったりすることもある。
女性マーケターに必要なのは、自身の体験や感性を生かした「体感共感型」のアプローチと、データや市場情報から生活者を分析する「情報収集型」のアプローチの両方だと同社は提唱している。さらに、得られた気づきを事業につなげるには、論理性や戦略的思考も欠かせない。女性の感性を生かしながらも、それだけに頼らないことが、女性ニーズをより深く捉えることにつながる。
女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください
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