【特集】AIで未来の購買行動はどうなる? 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く10の予測(前編)
生成AI(以下、AI)によって変わり始めた生活者の購買行動を追う本特集。第1回目では、商品探索や比較、購入判断など、買い物のさまざまな場面で広がるAIの活用実態を、国内の最新調査から見てきた。第2回となる今回は、その少し先の未来に目を向けていこう。
AIが商品探索や比較、購入判断に入り込むことで、これから人々の「買い方」はどう変わっていくのか。AIが好みや購買履歴を学習して提案を高度化する「パーソナライズの深化」や、AIエージェントが商品選びから購入までを代行する未来は、すでに広く語られている。だが、変化はそれだけではない。世界では今、AIが購買行動に与える影響を検証する研究が相次いでいる。AIが最初に薦めた商品は選ばれやすいのか、AIに選択を任せることで「自分で選びたい」という欲求はどうなるのか、AIによる商品推薦は、食品や化粧品、家電など商品カテゴリーによって効果が異なるのか、パーソナライズは、どこまで進むと逆効果になるのか――。研究からは、生成AIによって生まれる新たな購買心理や意思決定の特徴が見え始めている。
本稿では、2025~2026年に国内外で発表された最新の研究報告を横断。研究で確認された人々の心理・行動変化を手がかりに、これから広がる可能性のある「10の購買行動」を編集部が徹底予測した。今回は、その前編となる5つを見ていこう。
特集!全4回でお届けする「AI×消費」
- ■AIで購買行動はどこまで変わった? 商品の探索・比較・選択・購入で広がる利用
- ■AIで未来の購買行動はどうなる? 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く「10の予測」前編(◀︎今回はココ)
- ■AIで未来の購買行動はどうなる? 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く「10の予測」後編
- ■企業・ブランドはどう選ばれる? 最新の支援事例に見る、マーケティングの新常識
目次
【予測1】AIが「最初に薦める商品」が選ばれる
スーパーの棚やECサイトでは、商品が「どこに置かれているか」が売れ行きを左右する。では、商品を探す場所がAIへと移っていった時、AIの回答の中でも同じようなことが起きるのだろうか?
人は複数の選択肢を順番に提示されると、最初に提示されたものを選ぶ傾向があることが知られている。検索エンジンやレコメンドシステムでも、上位に表示されたものほど選ばれやすい「位置効果」が、これまでの研究でも確認されてきた。人間にもともとあるこうした意思決定のクセは、どうやらAIによる商品選択の場面でも現れるようだ。韓国・韓東グローバル大学のSuji Hong氏らが2026年に発表した研究では、ChatGPTが提示する選択肢の順番が、人の選択にどのような影響を与えるかを3つの実験で検証した(Heuristic or systematic? understanding consumer information processing of ChatGPT recommendations)。
実験では、ワイヤレスイヤホンの購入や旅行先の選択といった場面を設定し、ChatGPTが提示する複数の候補の並び順を入れ替えたり、番号による順位表示をなくしたりして、参加者がどれを選ぶかを調べた。その結果、3つの実験を通じて、最初に提示された選択肢が選ばれやすい傾向が確認された。さらに3つ目の実験では、先頭に客観的な誤りを含む選択肢を置いたにもかかわらず、先頭を選ぶ傾向が見られた。
興味深いのは、その傾向が、単に「AIが1位と評価したから」に起因しているわけではない点だ。研究チームは、参加者がすべての情報を詳しく比較するのではなく、「最初に出てきたもの=最良」と捉える「first-is-best(最初=最良)」のヒューリスティックな情報処理が起きていると考察している。人間にもともとある意思決定のクセが、AIによる商品選びでも現れているのだ。ここで注目したいのが、「先頭に表示されること」の意味が、Googleなどの検索エンジンとは異なる点だ。従来の検索においては「上位に表示されるほど、自分が探している情報との関連性が高い」という認識が社会に広く定着している。一方、AIによる商品推薦では、何を基準に商品の順番が決まり、先頭の商品がどのような意味で最初に提示されているのかは、まだ広く理解されていない。それにもかかわらず、今回の研究では、順位を示す番号をなくしても先頭の商品が選ばれやすかった。「AIが1位と評価したから」ではなく、単に「最初に出てきた」という理由だけで、選択が左右され得るということだ。
AIが商品探索の入口として定着していけば、この傾向が実際の買い物にも影響を及ぼす可能性は大きい。AIに「私に合う化粧水を教えて」「この条件に合う健康家電を探して」と伝えた時、最初に提示された商品が、そのまま有力な購入候補になる。そんな選び方が広がるかもしれない。
これまでリアル店舗では、目につきやすい棚や売り場で販売することが競争優位性となり、検索エンジンでは上位に表示されることが大きな価値を持ってきた。それと同じように、AIに最初に薦められることが、勝ち筋の一つとなっていくだろう。人間の古くからある選択心理と、AIという新たな商品探索手段が組み合わさることで、新しい購買行動が広がる未来が見えてくる。
【予測2】商品を「たくさん見てから選ぶ」買い物が減る
欲しいものがある時、Googleで検索して、いくつもの商品ページを開き、口コミを読み、比較サイトを見て、また検索に戻る――。ネットショッピングではこれまで、多くの商品や情報を自分で見比べながら候補を絞っていくのが一般的だった。AIの利用が広がれば、こうした「たくさん見て選ぶ」買い方は減っていく可能性がある。
その兆しを示す研究が2026年に発表された(Frontiers: ChatGPT Referrals to E-Commerce Websites: How Do LLMs Compare Against Traditional Channels?)。ドイツ・ハンブルク大学のMaximilian Kaiser氏とフランクフルト・スクール・オブ・ファイナンス&マネジメントのChristian Schulze氏らは、973のECサイトを対象に、1億6400万件を超える従来チャネル経由の購入と、5万件を超えるChatGPT経由の購入を分析した。そこで見えてきたのが、ChatGPTを経由してECサイトを訪れた人の特徴だ。ChatGPT経由では、ECサイト内で見るページ数が多くの従来チャネルより少なく、検索経由やメール経由と比べて、滞在時間も短い傾向が見られた。なぜなのか。考えられる理由は、ECサイトへ行く前の段階で、すでにAIを使って情報を集めていることだ。従来なら複数のECサイトを回りながら自分で商品探索や比較を行っていたが、今は、これらの作業はAIとの会話の中である程度済ませられるため、候補を絞ってからECサイトへ向かうだけで事足りる。訪問したECサイトで改めて多くの商品を見る必要はなくなるのだ。実際に研究チームも、AIが商品比較や情報整理を支援し、購入前の意思決定を助けている可能性に触れている。
別の研究からも、同様の変化が見え始めている。米コロラド大学ボルダー校のChris J. Vargo氏らは2026年、587人の3360件の購買ジャーニー、計291万7655件のウェブやアプリ上の行動ログを分析した(LLM exposure and funnel erosion in consumer journeys: measuring journey compression and reordering in passive behavioral logs)。その結果、ChatGPTやGemini、Claude、PerplexityなどのAIを利用した人では、商品探索や比較の一部がAIとの会話の中で済ませられている可能性が示された。つまり、AIを使うことで商品を比較しなくなる未来がやってくるのではなく、比較の仕方が「自分自身でたくさんの商品を見る」から、「AIにたくさんの商品を調べさせた後に、絞られた候補だけを見る」へ変わっていくということだ。
化粧水を例に考えてみよう。これまでは「敏感肌 化粧水 おすすめ」などと検索し、ランキングや口コミ、ECサイトを行き来しながら10商品、20商品と目にしていた人が、AIに自分の肌質や予算、求める機能を伝え、提案された3商品だけを公式サイトやECサイトで詳しく確認する、という流れだ。
こうした買い方は購買プロセスの一部をAIに任せることになるため、人が実際に目にする商品や情報は少なくなっていく可能性がある。そうなれば、従来の「検索結果やECサイトを眺める中で、知らなかった商品を偶然見つける機会」というものは大きく減っていくだろう。生活者にとっては商品選びが効率的になる一方、企業にとっては、AIが絞り込む候補に入らなければ、そもそも商品を知ってもらう機会がなくなるという新たな課題が生まれる。
商品を「たくさん見て選ぶ」買い物から、「AIに絞ってもらってから選ぶ」買い物へ。AIは、生活者が購入までに接する商品の数を減らすだけでなく、新しい商品と出会う機会そのものも減らしていくのかもしれない。

【予測3】商品選びで「AIに聞く」「人に聞く」の使い分けが進む
商品選びでAIを頼る人が増えても、あらゆる商品においてAIに推薦してもらいたいと思うとは限らない。これからは、「AIに選んでほしい商品」と「人の意見を聞いて選びたい商品」の分化が進んでいくだろう。
その違いを示したのが、イタリア・ルイス・ビジネス・スクールのMarco Francesco Mazzù氏らが2025年に発表した研究だ(The impact of humans vs. AI recommendation on consumer reactions to products exposure)。研究では、購入前にスペックや機能などから品質を判断しやすい「探索財」と、実際に使ったり体験したりしないと品質を判断しにくい「経験財」に分け、AIと人間の専門家による商品推薦に対する消費者の反応を3つの実験で比較した。
1つ目の実験で使われたのは、「探索財」であるノートPCと、「経験財」となるVRヘッドセット。参加者を、AIから商品を薦められるグループと、人間の専門家から商品を薦められるグループに分け、それぞれからの推薦をどの程度信頼できると感じるか、また、その推薦に従いたいと思うかなどを調べた。その結果、ノートPCは、人間による推薦よりもAIによる推薦の方が透明性や信頼性が高いと評価され、推薦に従いたいという意向も高かった。一方、実際に体験してみなければ品質がわかりづらいVRヘッドセットは、AIによる推薦と人間による推薦に対する評価に有意差は見られなかった。
2つ目の実験では、比較する人間を「超専門家(30年以上の経験があり、資格や受賞歴を持つ、その分野で高く評価されている専門家)」に変更した。すると、「探索財」ではAIと超専門家による推薦に従う意向に有意な差はみられなかった一方、「経験財」では超専門家による推薦に従う意向の方が高かった。
3つ目の実験では、「AI+超専門家」というハイブリッド型の推薦を検証した。すると探索財では、AIと人間の知見を組み合わせることで評価が高まることはなく、むしろ、超専門家だけによる推薦の場合より透明性や信頼性が低く評価され、AIだけの場合より推薦に従いたいという意向も低かった。一方、経験財では「AIによる推薦」「超専門家による推薦」「ハイブリッド型の推薦」の間に明確な差は見られず、AIと人を組み合わせた推薦がより信頼されるわけではないことがわかった。
つまり、消費者が「誰に選んでもらいたいか」は、商品によって変わる可能性があるということだ。さらに、AIと人間の知見を組み合わせれば必ず評価が高まるわけでもない。スペック、機能、価格など、購入前にデータで比較しやすい商品においてはAIによる推薦が受け入れられやすいものの、味や香り、肌触り、着心地、使用感といった感覚や感情も購入の決め手となる商品においては、実際に体験した人の感想や専門家の知見など、「人の体験に基づく情報」が判断材料として重みを持つと言えそうだ。
女性の買い物に置き換えると、この違いはよりイメージしやすい。例えば美容家電。価格やサイズ、重量、搭載機能などを比較して候補を絞る場面では、AIに選んでもらう機会が増えていくだろう。一方、化粧品の香りやテクスチャー、ファンデーションの肌なじみ、食品のおいしさなど、スペックや機能の情報だけでは購入を決められないものについては、AIの推薦だけで完結するとは考えにくい。「実際に使った人はどう感じたのか」「美容の専門家はどう評価しているのか」といった人の体験や評価も確認してから、購入を決断するだろう。
もちろん、一つの商品を単純に「AI向き」「人向き」と分けられるわけではない。化粧品でも、価格や成分、容量の比較はAIが得意な一方、香りや使用感は人の体験の方が参考にしやすい。同じ商品でも、「何」を基準に購入を判断するかによって、AIに任せる部分と人を頼る部分が分かれていくと考えるのがよさそうだ。
この変化は、企業の商品情報のつくり方にも影響する。スペックや機能で比較される商品では、AIが理解・比較できる情報をAIにしっかり伝える重要性が高まる。一方、体験価値が購買を左右する商品の場合は、AIに適したAIへの情報提供だけでは施策は十分ではない。店頭で試す機会をつくったりサンプルを配布したり、利用者の口コミや専門家による評価など、「人が実際に体験したからこそ伝えられる情報」をどう生み出していくかが、これまで以上に求められるようになるかもしれない。
AIが商品選びに深く入り込んでも、すべての買い物がAIだけで完結する未来になるとは限らない。AIの普及によって、「AIに任せたい判断」と「人の経験に頼りたい判断」の境界がくっきりと線引きされる未来の方が、実像に近いもしれない。
【予測4】口コミは「自分で読む」から「AIが編集」へ
商品を買う前に口コミを確認する、といった行動自体は、AI時代になってもなくならないだろう。ただ「口コミとの接し方」は大きく変わる可能性がある。数十件、数百件の口コミを自分で読み比べるのではなく、AIに大量の口コミを読み込ませ、「良い評価で多いのは?」「悪い口コミでは何が指摘されている?」「乾燥肌の人の評価だけまとめて」と、自分が知りたい情報に編集してもらうーー。口コミは、「自分で読むもの」から「AIに編集してもらって、欲しい情報だけを受け取るもの」へと変わっていくだろう。
実際、ECや旅行予約サイトでは、大量の口コミをAIが要約して提示する仕組みが導入され始めている。身近なところでは、Yahoo!ニュースの「ヤフコメ」でも、生成AIが大量のコメントを要約したり、複数の論点や意見の傾向を整理したりする機能が提供されている。大量にある人の声を一つずつ読むのではなく、AIに整理してもらって全体像をつかむという情報の受け取り方は、すでに始まっているのだ。2026年に発表された研究では、こうした「AIによる口コミ要約」が、人々の商品選びにどのような影響を与えるのかが検証された。
サウジアラビア・カシム大学のFatma Alkhofaily氏らの研究チームは、オンラインショッピング利用者450人を対象に、AIが生成した口コミ要約が商品選びに与える影響を調べた(How AI-generated review summary transparency shapes online purchase intention: The dual mediating roles of perceived diagnosticity and algorithm trust)。その結果、AIが生成した口コミ要約について、どのように作られたものなのかを理解しやすいと感じた人ほど、その情報が商品選びに役立つと評価し、AIへの信頼や購入意向も高い傾向が確認された。AIによる口コミ要約が購入を後押しする可能性がある、ということだ。しかし一方で、大量にある口コミからAIが「どの口コミを拾い」「どの口コミを省き」「どうまとめるか」によって、商品の印象そのものが変わる可能性が指摘されている。
そのリスクを示したのが、2026年に発表された別の研究だ。中国・ハルビン工業大学のYujie Wang氏らの研究チームは、旅行予約サイト「Ctrip」でAIによる口コミ要約機能が地域ごとに順次導入されたことに着目し、導入前後で旅行者の評価がどう変化したのかを分析した(Too concise to decide? The impact of AI-generated review summaries on tourist decision satisfaction)。その結果、AIによる口コミ要約が導入された後は、宿泊後のホテル評価が低下し、評価のばらつきも大きくなっていた。なぜ、口コミを分かりやすくまとめる便利な機能が、結果として旅行者の満足度低下につながったのか。研究チームが注目したのが、AIによる要約の「ポジティブな偏り」だ。追加の実験では、肯定的な情報に偏ったAI要約を見た人ほど宿泊前の期待が高くなることが確認された。AIによって整理された口コミが実際以上に良い印象を与えれば、利用前の期待値が上がり、実際に体験した時に「思っていたほどではなかった」というギャップが生まれやすくなる。これが、満足度を必要以上に下げた可能性がある。
女性の普段の買い物でも同様のことは起こり得る。たとえば健康食品を選ぶ時に、「50代女性の評価をまとめて」「味や飲みやすさへの不満を教えて」とAIに尋ねれば、必要な情報を短時間で把握できる。一方で、同じ口コミ群でも、AIがどの口コミを拾うかによって、商品の受け止め方や購入判断は簡単に変わり得る。
これは、企業にとって新たな課題になる。これまでは、良い口コミを増やすことやレビュー数を蓄積することが重視されてきたが、今後は、「どんな口コミがどれだけ集まっているか」だけでなく、「AIが口コミを要約した時、自社の商品はどのように説明されるのか」までを意識する必要が出てくる。
AIの普及によって、口コミそのものがなくなるわけではない。人のリアルな体験は、AI時代にも重要な判断材料となるため、口コミの価値や購入検討者にとっての有用性は引き続き変わることはないだろう。変わるのは、口コミを参考にするまでのプロセスだ。生活者と大量の口コミの間にAIが入り、口コミが「自分で読むもの」から「AIに編集してもらって、欲しい情報だけを受け取るもの」へと変わることで、生活者の商品選びだけでなく、企業の口コミマーケティングの常識も変わっていきそうだ。

【予測5】「究極のパーソナライズ」は不気味、「ちょうどいいパーソナライズ」が競争になる
「私のことを分かってくれている」。AIによる商品提案が高度になるほど、そんな感覚を持つ場面は増えていくだろう。購買履歴や好み、予算、生活習慣などをAIが理解すれば、自分に合う商品を探す精度は格段に上がる。だが、パーソナライズは、その精度が高ければ高いほど喜ばれるとは限らない。「なぜ、私のことをそこまで知っているの?」と感じた瞬間、便利さは不気味さに変わることもあるのだ。
その二面性を示したのが、サウジアラビアのイマーム・ムハンマド・イブン・サウード・イスラーム大学のAlwia Saeed Osman Zobair氏らが2026年に発表した研究だ(When AI advice backfires: Field experimental evidence on personalization, intrusiveness, and purchase behavior)。研究チームは46人へのインタビューに続き、米国の小売現場で409人を対象にランダム化フィールド実験を実施。AIによる商品推薦を、利用者に合わせて伝え方を変える「パーソナライズ型」と、ユーモアを取り入れた「ユーモア型」に分け、実際の購買行動を比較した。その結果、パーソナライズ型の方が商品を購入する確率が高かった。パーソナライズによって「AIが自分を助けようとしている」と感じる度合いが強まり、購買を後押ししていた。一方で、「自分の領域に踏み込まれている」と感じる侵入感も高まり、購買へのプラス効果を一部打ち消していたこともわかった。パーソナライズは役立つ一方で侵入感も生む、「両刃の剣」だったのだ。さらに、企業との関係性によっても反応は変わった。顧客と企業との関係が強い人ほど、パーソナライズされたメッセージを「自分のニーズに応えようとしている」と受け止めやすく、侵入感も弱かった。
女性の買い物で考えてみよう。普段利用しているECサイトから、過去の購入履歴や今回の希望を踏まえた商品を提案されれば、「私に合った商品を探してくれた」と便利に感じる人は多いはずだ。だが、初めて利用するECサイトから突然、「最近眠れていないようなので、このサプリがおすすめです」「そろそろ更年期が気になる年代なので、この商品はいかがですか」と提案されたら、どうだろう。「初めて使うECサイトなのに、なぜ私のことを知っているの?」という恐怖心や不気味さの方が先に立つかもしれない。
こうした「便利さ」と「侵入感」のせめぎ合いの背景にあるのが、パーソナライズとプライバシーの相反する関係だ。米ボストン大学のChi B. Vu氏らは2026年、AIを活用したECにおける信頼やプライバシー、パーソナライズの関係を分析(Navigating trust and the personalization-privacy paradox in AI-driven e-commerce: A consumer pathway framework)。その結果、人々は、自分に合った提案を受けられるというパーソナライズのメリットを享受したい一方で、そのために自分のデータが利用されることに対して抵抗を感じるという、「パーソナライゼーション・プライバシー・パラドックス」と呼ばれる相反関係が示された。さらに、企業によるデータ利用の透明性や、消費者自身がデータの利用をコントロールできることなどが、AIへの信頼に関わることも示された。
AIがどんどん高度化しても、技術的に可能なことが、必ずしも生活者に気持ちよく受け入れられるわけではない。どこまで自分を理解してくれたら「便利だ」と思ってもらえるのか。反対に、どこまで踏み込むと「知りすぎている」と不快を感じさせてしまうのか。AI時代のパーソナライズ競争で問われるのは、「どこまで細かく個人を理解できるか」という精度の高さだけではなく、生活者との適度な「距離感」を見極めることになるかもしれない。究極のパーソナライズより、ちょうど良いパーソナライズ。その距離感を見極められる企業が、AI時代には選ばれていきそうだ。
AIで変わる購買行動、見えてきた10の未来
AIが買い物に入り込むことで起きる変化は、生活者にとって単に商品探しが便利になることだけではない。商品との新たな出会いや、多様な口コミに触れる機会が減ることで、商品選びに偏りが生まれる可能性もあり、企業にとっては新たな課題となる。生活者にとっても、利便性が高まる一方で選択肢が狭まり、かえって自分の心身に適したヘルスケア商品に出会いにくくなる可能性もある。今回取り上げた研究から見えてきたのは、AIが生活者と商品の間に入ることで、商品との出会い方や比べ方、選び方そのものが変わっていく可能性だ。では、この先、生活者はAIにどこまで買い物を任せるようになるのか。そしてAIは、これまで知らなかった商品やブランドとの新たな出会いを生み出すのか。次回は、今回とは異なる視点から、AI時代の購買行動をめぐる残り5つの未来予測を見ていこう。
「AI×消費」をテーマにした特集は、全4回でお届け中。全文を読みたい方、記事を受け取りたい方は、ぜひニュースレター登録を!
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