【特集】AIで未来の購買行動はどうなる? 世界の研究と女性マーケティング視点で読み解く10の予測(後編)

生成AI(以下、AI)によって変わり始めた、生活者の購買行動を追う本特集。第1回では、商品探索や比較、購入判断など、買い物のさまざまな場面で広がるAIの活用実態を、国内の最新調査から見てきた。続く第2回では、その少し先の未来へ。2025~2026年に発表された世界の研究報告を手がかりに、AIによってこれから広がる可能性のある「10の購買行動」を予測した。前編では、人間の意思決定のクセや購買プロセスの簡素化、AIによる推薦やパーソナライズなどを背景にした、5つの購買行動の変化をみてきた。後編となる今回は、残る5つの未来予測を見ていこう。

特集!全4回でお届けする「AI×消費」

 

【予測6】AIに「全て任せる」より「任せる範囲を選ぶ」買い物へ

AIが商品を探し、比較し、購入まで代行する「AIエージェント」が普及しても、生活者がすべての買い物をAIに丸投げするようになるとは限らない。商品探索は任せる、比較も任せる、候補を3つまで絞ってもらう、でも最後は自分で決める――。そんなふうに、「何をどこまで任せるか」を使い分ける買い物が広がっていきそうだ。

その可能性を考える上で興味深い研究が2026年に発表された。デンマーク・オーフス大学のDarius-Aurel Frank氏らは、米国・英国の消費者約2000人を対象に、1つのフィールド実験と4つのオンライン実験を実施。AIが商品を提案するものの最終的な購入は本人が行う「低自律AI」と、条件に合う商品を見つけると自動的に購入まで行う「高自律AI」に対する反応を調べたConsumer Acceptance of High-Autonomy AI Assistants Is Driven by Perceived Benefits in Online Shopping Settings Characterized by Scarcity

研究では、低自律AIを「利用してもよい」と答えた人は86.0%だったのに対し、高自律AIでは52.3%にとどまった。ところが、この傾向は買い物の状況によって変わることがわかった。スマートフォンを購入する場面を設定した実験では、在庫が十分にあり、急いで購入する必要がない状況で高自律AIを選んだ人は4.3%だったが、「品薄」「すぐに売り切れる」といった状況では11.7%に増えた。さらに研究では、品薄などで購入を急ぐ必要がある状況では、AIに購入まで任せることに魅力を感じやすくなり、それが高自律AIの選択につながることも示された。

つまり生活者は、常に「自分で決めたい」わけでも、反対に「全部AIに任せたい」わけでもないということだ。例えば普段のコスメ選びなら「候補を絞るところまでAI、最後は自分」としながら、数量限定品や人気商品の購入においては「条件に合えば購入まで任せる」ということになるだろう。AI時代は、商品や購入条件によって「どこまでAIに任せるか」を使い分けるといった買い物が広がりそうだ。

 

【予測7】自分の意志で決める余地があるカスタマイズ商品が選ばれる

好きな色や素材、デザインを選んでつくるスニーカー、好みに合わせて成分や香りを選ぶ化粧品――。自分仕様の商品をつくる「カスタマイズ」にAIが入り込めば、膨大な選択肢から本当に自分に最適な組み合わせを提案してくれるようになるだろう。だがAIに任せすぎると、購買意向は低下してしまう。

マレーシア工科大学のYixuan Wu氏らが2026年に発表した研究では、AIを使って消費者自身が商品づくりに参加する「共創」に着目。AIがどこまで自律的にデザインを決めるかによって、完成した商品への評価がどう変わるのかを4つの実験で検証したWhen high-autonomy generative AI undermines “This is mine”: Psychological ownership in consumer co-creation

その結果、AIの自律性が高く、商品デザインの意思決定をAIが多く担うと、「これは自分のものだ」と感じる心理的所有感が低下し、購買意向が低くなることがわかった。注目すべきは、「AIがつくった商品は品質が低い」といった評価が原因ではない点だ。購買意向を低下させていたのは、AIが多くを決めたことで、自分自身が商品づくりに関わったという感覚が薄れてしまったことだった。一方、生活者自身が商品づくりに深く関与すると、高自律AIによる悪影響は弱まった。さらに、自分らしさや個性を表現する商品ほど、AIに多くを任せることで「自分のもの」という感覚が薄れ、購買意向が低下しやすいことも確認された。

これは、AI時代の商品開発に重要な示唆となる。例えば、自分仕様のハンドクリームをつくるカスタマイズサービスで考えてみよう。AIが肌状態や好みを分析して「あなたにはこれが最適です」と全てを決めてしまうより、「どんな香りが好き?」「仕上がりはどうしたい?」と、本人が選択できる余地を残しておく方が、“これは私のための商品”という感覚を持ってもらいやすく、結果的に購買意向を高めやすくなるということだ。

AI時代にカスタマイズサービスを提供するなら、企業は、「どこまでAIに任せれば、生活者の利便性を上げられるか?」だけでなく、「どこに生活者が関与する余地を残すか?」までを考える必要が出てくる。そして、生活者にとってカスタマイズの価値は、「私に最適な商品であること」と「自分でつくったと感じられる体験」、その両方になっていくだろう。

 

【予測8】無名ブランドやニッチな商品も選択肢に入る

AIによる商品推薦が広がると、ブランドの知名度が商品選びに与える影響は小さくなる可能性がある。生活者が求める条件に合っていれば、これまで知られていなかった無名ブランドやニッチな商品もAIに拾われ、新たな選択肢となるからだ。

そんな未来を考えるヒントになる研究が2026年に発表された。韓国・漢陽大学のHyeonyeong Shim氏らは、音楽配信サービスSpotifyに「AI Playlist」が導入された前後のデータを分析し、音楽の聴かれ方がどう変わったのかを調べたBeyond the top hits: How generative AI recommendations reshape consumer choice in music streaming services

AI Playlistは、その日の気分や場面、好みなどを入力すると、その意図に合わせてAIが楽曲を選び、自動でプレイリストを生成する機能。分析の結果、AI PlaylistがSpotifyに導入された後は、人気上位の楽曲のストリームが減少する一方、ランキング下位の楽曲は増加した。さらに、それまで聴かれていなかった楽曲が新たに聴かれるようになり、一度聴かれ始めると、その後も聴かれ続けやすくなった。研究チームは、AIによる推薦が、一部のヒット曲に集中していた人々の注意を、より幅広い楽曲へ分散させたとみている。

もちろん、音楽と商品購入をそのまま同じように考えることはできない。しかし同様の現象が起きるなら、これまで検索結果やECランキングではなかなか目に留まらなかった無名ブランドやニッチな商品にも、新たなチャンスが巡ってくる。AIによる推薦を通じて、多くの人の目に留まる可能性がある。

企業にとってこれから重要になるのは、ブランドや商品の知名度を上げることだけではない。「誰の、どんな条件に合うブランド・商品なのか」を、AIが適切に理解できる形で情報を発信することが、より多くの見込み客と出会うカギになる。

 

【予測9】一方でAIが薦める商品は均質化、選ばれる商品は似たり寄ったりに

予測8では、AIが媒介者となって、生活者と、これまで知らなかった商品との新たな出会いを生み出す未来を示した。しかし、その真逆の未来もあり得る。AIの性質が裏目に出て、生活者の選択が均質化していく未来だ。予測8と9は相反する未来で、AIによる商品推薦が人々の選択を「多様化させるのか」「均質化させるのか」は、現時点では未知数だ。

そのリスクを考えるヒントになるのが、国立台湾大学のMing-Hui Huang氏らが2025年に発表した論文だThe GenAI Future of Consumer Research。著者らは、AIの利用拡大によって起こり得るものとして「Average Trap(平均の罠)」と呼ばれる問題を指摘している。

現在のAIの基盤となる大規模言語モデルは、大量のデータをもとに、統計的に可能性の高い次の言葉を予測しながら回答を生成する。著者らは、大規模言語モデルのこうした仕組みが、AIの回答を一般的・平均的なパターンへ収斂させ、一人ひとりの細かな違いを捉えにくくする可能性があると指摘している。つまりAIは、多数派のニーズや行動に沿った回答をつくりやすい一方で、少数派のニーズや珍しい消費行動を回答に反映しづらいということだ。例えば「私の体質に合う美容サプリは?」とAIに尋ねても、AIが平均的なニーズをもとに回答をつくるなら、似たような質問をした人たちに対しては似たような商品を一様に薦めてしまう。一人ひとりの嗜好や生活習慣などに合わせてAIが商品を選んでいるように見えても、実は多くの人を“平均的な消費者”として捉え、個々の嗜好や細かなニーズを十分に反映しないまま、似通った商品を提示するのだ。

ここに、AI時代の商品探索の興味深い二面性がある。予測8で見たように、AIには人気ランキング外にあるようなニッチな商品を発見する力がある一方で、平均的な回答へ収斂する性質によって、選択肢を均質化させる可能性もある。

AIはこれまで知らなかった商品との出会いを広げるのか、それとも多くの人を似たような商品へ導くのか。その行方は、AIが多様な商品や一人ひとりの細かな違いを、どこまで推薦に反映するかに左右されそうだ。

 

【予測10】「AIがどう説明するか」が商品選びを左右する

ここまでの予測ですでに見えてきたように、AI時代の商品選びでは、単純に「AIにどの商品を薦められたか」だけでなく、「その商品についてどう説明されたか」も、生活者の選択に影響するようになる。AIは商品を何番目に提示するのか、どの特徴を取り上げるのか、どんな人に向いていると説明するのか、口コミをどう要約するのか――。同じ商品でも、AIの視点や説明の仕方によって、生活者が受け取る印象は容易に変わり得る。

これまで生活者は、広告や店頭、商品パッケージ、ECサイト、SNS、口コミ、家族や友人との会話など、さまざまな情報を自ら見聞きしながら商品を比較・選択してきた。しかし今後は、AIに依存しながら買い物を済ませる場面は着実に増えていくだろう。「AIに何を薦められたか」と同じくらい、「その商品についてどう説明されたか」が、商品選びの重要な判断材料になっていく。

 

AI時代の買い物、カギは「利便性」と「人の余白」の両立

前編・後編にわたって見てきた10の予測から浮かび上がるのは、AIが生活者の買い物にもたらす価値は、単純に利便性だけではないということだ。商品探索や比較をAIに任せれば買い物の効率は大幅に上がり、これまで知らなかった商品と出会える可能性が大きく広がる。一方で、一人ひとりの嗜好や状況に合わせたパーソナライズは、行き過ぎれば「不気味」と受け取られ、カスタマイズもAIに任せすぎれば、「自分のもの」という感覚が薄れて購買意向が弱まってしまうというから、厄介だ。AIによる利便性や最適化を追求すればするほど、生活者に歓迎されるとは限らないのだ。

企業にとっては、AI特有の情報探索行動が生活者の間で広がる中で、「どう見つけてもらい、どう伝えるか」に加え、生活者とのほどよい距離感や、どこまでAIに任せ、どこに生活者が関わる余白を残すのかを考える必要も出てくる。課題は山積みだ。さて、こんな激変の時代に、企業はどう対応していけば良いのか。最終回となる次回は、視点を企業側へ。マーケティング支援の最新事例から、AI時代におけるマーケティングの新常識を探っていこう。

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