アニマルセラピーの健康効果 医療・介護・福祉分野で広がる活用(2/2)
アニマルセラピーの課題
可能性が広がるアニマルセラピーだが課題もある。動物を介した諸活動において、接触は避けられないものであり衛生面のリスクは依然として存在する。また、人間への効果は報告が重ねられつつあるが、動物側に立った視点の研究は未だ少ない。
アニマルセラピーに携わる動物たちのストレス指数や寿命への影響、肉体的にも精神的にも疲労を蓄積させないための取り組みが行われるべきといえる。またアニマルセラピーで活躍する動物の多くはペットとして飼うことができるため、安易に動物飼育をアニマルセラピーと直結させてしまう危険性もある。アニマルセラピーの専門性を広く周知することも課題の一つといえるだろう。アニマルセラピーの主要課題は4つ。
- 動物へのストレスや負担
- 感染症リスクの不透明さ
- 動物視点での評価
- 医療関係者のアニマルセラピーへの理解度の差異
アニマルセラピー実施団体と資格
アニマルセラピーを実施している団体では、アニマルセラピストやセラピー犬の養成、認定資格までを提供しているところもある。ペットのしつけや受託サービスなど動物を専門とした団体ならではのさまざまなサービスを提供している。
アニマルセラピー協会(広島)
地域密着型で活動するアニマルセラピー協会は、アニマルセラピーの訪問サービス、セラピー犬の養成、ドッグトレーニングを提供。
日本アニマルセラピー協会(神奈川)
日本アニマルセラピー協会では出張型のアニマルセラピーや飼い犬のドッグトレーニングなどを行っている。「アニマルセラピスト認定資格」「セラピー犬認定資格」「ドッグトレーナー認定資格」の取得が可能。
ドッグセラピージャパン(福岡)
ドッグセラピージャパンはドッグセラピー活動の一環として各種福祉施設や教育施設への訪問を行っている。また気軽に動物の癒し体験を堪能できる「いぬカフェ」も経営。メディア掲載多数。
国際セラピードッグ協会(東京)
国際セラピードッグ協会の特徴は、殺処分されるはずだった犬や諸事情により保護された犬をセラピードッグとして再育成する「殺処分ゼロ」の精神のもとでアニマルセラピーの活動を行っていること。東日本大震災の際は、多くの保護犬がセラピー犬として生まれ変わった。
アニマルセラピーwithワン(千葉)
アニマルセラピーwithワンは、問い合わせに応じて高齢者施設や障がい者施設から個人宅まで訪問活動を行っている。またセラピードッグの体験活動として「街頭セラピー」も行っている。
アニマルセラピーの理解を深める研究論文・本
動物介在療法の研究は広く進められており、その数値的な結果はアニマルセラピーの有用性を確認できるものばかりだ。
アニマルセラピーに関する研究論文
人と犬、双方に幸せホルモン増加
アニマルセラピーを通じた高齢者とセラピー犬の双方に「オキシトシン」の分泌量の増加が確認された。オキシトシンとは幸せな状態を示すホルモンであり、アニマルセラピーが両者にとって幸福度を与えたことになる(ユニチャーム「産学連携で人と犬の触れ合いによる効果を研究し実証」)。
統合失調症とアニマルセラピー
統合失調症の患者に対して週三回の大型犬二匹によるアニマルセラピーを行ったところ、精神症状や生活機能障害の改善が見られ、またQOLの向上によるストレス対処能力の改善が認められた。(日本精神神経学会「統合失調症とアニマルセラピー」)
認知症高齢者に対する、犬による動物介在療法
認知症高齢者に対して犬による動物介在療法を行った結果、精神ストレスが低下しうつ状態に大きな改善が見られた。身体の活動量は対象者の約9割が上昇したが日常生活自由度やQOLの改善にまでは至らなかった。(川崎医療福祉学会誌「認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用」)
小児精神・神経疾患に対する、イルカによる動物介在療法
イルカによる動物介在療法はDATと呼ばれる。発達障害や発達遅滞、脳性麻痺の子どもにDATを施したこの事例では、実施後の追跡調査において「感情表現」「アイコンタクト回数」「子どもから親へ話しかける回数」「発言回数」に半数以上増加が認められた。しかし一方で「注意持続時間」や「精神的不安定」には変化があまり見られなかった。(小児保健研究:「小児精神・神経疾患に対する、イルカによる動物介在療法」)
動物介在療法学研究所(東京農業大学)
東京農業大学では農学部のバイオセラピー学科において動物介在療法の専門研究所が存在する。福祉・教育・医療分野への動物利用の探究が行われており、特にまだ実用例の少ない馬の介在療法についての啓発運動と研究の促進を掲げている。(東京農業大学「動物介在療法学研究所」)
アニマルセラピーに関する書籍
アニマルセラピーの可能性
本稿ではアニマルセラピーの事例と活動団体について取り上げたが、まだその輪は大きくない。しかし「医療・福祉・予防医療・健康維持増進の面で貢献度が高いこと」「エビデンスが蓄積され始めていること」「『治療=西洋医学一辺倒』ではなくなってきていること」などを背景に、アニマルセラピーの活躍の場は今後拡大していくことが予想される。アニマルセラピーのもつ可能性はまだまだ発展途上ではあるが、将来を支える社会福祉の柱の一つとなる日は近いかもしれない。
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