フェムテックもステルス化、行動変容不要の最新のヘルスケア事例3選
ただのテーブルだと思ったら実はテーブルの形をした冷蔵庫ーー。一見すると家電には見えない「ステルス家電」が昨年話題を集めたが、同様にヘルスケア領域でも、本人のヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」という“ヘルスケアのステルス化”が進んでいる。女性たちの健康意識や行動をあの手この手で変えるのが難しいなら、製品・サービスをステルス化するのも一案。
※本稿は、2023年4月に発行した「女性ヘルスケア白書2023」のp.42〜45でご紹介している内容の一部に、新しい情報を加筆してお届けします。
目次
行動変容の限界、なぜ6割の女性が健康行動を起こさない?
ヘルスケア事業に関わる企業なら、ターゲット女性の行動変容を促進する難しさを誰もが痛感しているはず。自社製品を知ってもらい、他社と比較検討され、選んでもらうーー。これだけでも多大なるエネルギーとコストを必要とするのに、ヘルスケア製品・サービスにおいては、消費者のヘルスリテラシーや行動変容促進までをも考慮する必要があるから大変だ。
そんなヘルスケア業界のマーケティングの鉄則と言えば、関心層に絞り込んだアプローチや、あるいは、関心層と無関心層でアプローチを変えるというもの。いわゆる「行動変容ステージモデル」に則った考え方で、健康への関心・行動レベルによってマーケティング施策を変える。業界ではよく知られているが、複雑な人間の心理を操るのは容易ではなく、実際は、無関心層は言うまでもなく、関心層であっても健康行動を継続させるのは難しい。厚労省の調査によると、6割もの女性が健康行動に取り組んでいないことがわかっている。これだけ健康情報・製品・サービスが世の中に溢れ健康を意識する人が増えているとは言え、結局のところ、健康行動者率は半分にも満たないのが現実だ。なぜなのか?各主要データを分析したところ、考えられる理由は次の8つ。
- 仕事・家事・育児で忙しいから
- 自分も身近な人も健康だから危機意識がない
- お金がないから
- 環境が整っていないから
- 楽しくないから
- ヘルスリテラシーが低いから
- 考えるのも 、決断も面倒だから
- 性格
ただしこれらは、「健康行動を“自らの意思”で起こさない理由」というよりは、「健康行動を起こしたくても起こせない理由」「健康行動を起こす気になれない理由」「健康行動を妨げているもの」という捉え方をする方が正確かもしれない。時間や経済面での制約や、周囲の環境などが背景にあるからだ。
生活必需品や贅沢品とは違ってヘルスケアマーケティングの場合は、ターゲットの購買行動促進の前に健康行動促進の壁が立ちはだかる。ヘルスケアビジネスの最も難しいところだ。多様な要因の排除やアプローチが必要になるため、健康行動と健康消費を起こすのは一筋縄ではいかない。
行動変容促進に変わる手法、ヘルスケアのステルス化
各社が見込み客や顧客の行動変容促進に苦戦するなかで近年注目を集めているのが、本人のヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要としないヘルスケア。健康関心レベルやヘルスリテラシーの高低に関係なく、日々の生活の中で意識することなく自然とヘルスケアができるものが出てきた。ユーザーのベネフィットは何と言っても、健康行動を起こす決断やモチベーションの維持といったストレスから解放されること。子どもや夫・親など、家族の健康管理を担うことが多い女性にとっても心強い。
ステルス化されたヘルスケア、事例3選
ヘルスケア領域でのステルス化の代表格は、スマートホーム。例えばパナソニックや芙蓉ディベロップメント(福岡)などが、「住んでいるだけで健康管理・維持・増進」ができる住宅の開発に乗り出している。仕事をしながらリフレッシュしたり健康習慣が身に付く健康経営オフィスも同様だ。最近は女性の健康などフェムテック領域でのステルス化も話題だ。
自宅トイレでホルモンを測定、排卵・生理周期の特定にも(Withings)
健康機器メーカーの仏Withingsが今年のCES2023(世界最大規模のテクノロジーの展示会)で発表したのは、自宅のトイレで尿検査できるIoT機器「U-Scan(ユースキャン)」。コンパクトのようなデバイスを便器内に取り付けるだけ。日々の尿からバイタルマーカーを検出し、栄養状態や水分補給などを分析。結果は専用アプリに送信、健康増進に向けたアドバイスも提案する。黄体形成ホルモンの測定も可能で、生理周期や排卵期を特定できる。生理周期の段階に応じた健康アクションも提案。
通常は、自分の排卵日や生理サイクルを把握するには基礎体温を毎朝測る必要があるが、これがあれば毎朝の面倒から解放される。計測をうっかり忘れてしまうこともない。同社は「女性の精神的負担を軽減するのに役立つ」と語っている。
経血量を測定できる吸水ショーツ(ベアジャパン×ミツフジ)
吸収型サニタリーショーツブランドを展開するベアジャパン(東京・渋谷)と、ウェアラブルソリューションを開発するミツフジ(京都・相楽)が開発を進めているのは、穿くだけで経血量を測定できるショーツ。電気を通す糸をショーツに組み込み、電気抵抗値から経血量を測定し、専用アプリに自動記録するというもの。毎月測定することで過少月経・過多月経などの変化に気づける。2社は「婦人科系疾患の早期予測・早期発見・適切な治療へつなげたい」とのこと。
住宅内で健康データを自動収集(凸版印刷)
住宅内に溶け込ませたテクノロジーで健康管理の習慣化をサポートする、「cheercle(チアクル)」。例えば手洗いや歯磨き時に洗面台に立つだけで、鏡が肌温度などを自動で取得。同時に、床に埋め込まれた体組成計は体重・体脂肪率・BMIを自動測定する。取得されたデータはタッチパネル式のミラーに表示され、情報はスマホでも確認可能。生活動線上の自然な動作の中でデータが収集されていくため、健康行動を自らの意思で起こす必要がなく面倒や負担がない。健康習慣が途切れることもないので、継続的な健康管理が可能だ。
売れるフェムテックの開発と販売戦略 17の障壁と対策
\フェムテックビジネス特有の、多くの事業者に共通する「失敗パターン」と「対策」/
フェムテックの一大ブームが後押しとなり、言葉の認知は生活者の間でも業界の間でも広く進みました。先行していたスタートアップのみならず、最近は大手や中堅企業による商品投入も相次いでいます。一方で、期待していたほど売上が伸びず早々に撤退を決めた事業者の存在も顕著になり、業界内では、”話題性の高さ”と”売り上げ”に相関がないことを実感している人が増えているのも事実です。この市場に商機は本当にあるのかー?すぐに軌道に乗る事業者と、失敗に終わる事業者(撤退・解散・休止など)の違いはどこにあるのかー?レポートにまとめました。詳細・レポートのお申し込みはこちら。
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