エリアマーケティングに役立つ無料ツール・データ・事例
特に若い世代を中心に地方回帰が進んでいることもあり、地域ブランドを前面に押し出した商品やサービスに注目が集まる昨今、地域特性を活かす「エリアマーケティング」を強化する企業が増えている。エリアマーケティングに役立つ無料ツールを紹介。
エリアマーケティングとは?
エリアマーケティングとは「地域に特化した販売戦略」
エリアマーケティングとは地域を意味する「エリア」と市場活動を指す「マーケティング」を掛け合わせた造語で、地域に特化した販売戦略のこと。特定の地域の人口分布、世帯構造、需要、環境、伝統文化、価値観などの地域特性を分析し、その地域に合わせた販促(マーケティング活動)を行う。
エリアマーケティングの手順
- 1.出店場所/販売エリアの現状把握
・人口分布や世帯数に対して自社の顧客数はどのくらいか?
・商圏は?
・出店場所/販売エリアにおける自社事業の市場規模はどれくらいなのか?成長性はあるか? - 2.ターゲットの明確化
・世帯や年齢層などの視点から地域特性を見るとどんなニーズがあるか?
・ターゲットが多いエリアと少ないエリアはどこか? - 3.競合調査
・自社と競合それぞれの商圏を確認する
・(例えば店舗の場合)競合の店舗面積や、自社店舗からの距離はどれくらいか - 4.営業強化エリアの選定
・広告戦略のコストはどれくらいかかるか
・新たに店舗展開/販売できる地域はどこか - 5.出店後/販売開始後の投資対効果の確認
・数値目標は達成しているか
・新規顧客の増加数はどれくらいか
・既存顧客は固定化しているか
エリアマーケティングを行う上で大切なこと
- 地域を知る
気候、特産物、人口分布、地元の祭事、伝統文化、交通環境、その地域で人気の店舗や施設、他周辺環境などはニーズを知る手掛かりとなる - 住民を知る
世帯の特徴、家族構成、住民特性、住民の“足”、住民の平均年齢、平均所得、就労状況などを把握することで、より正確な消費動向予測や販売戦略設計が可能になる
エリアマーケティングに使える無料ツール・GIS・データ
エリアマーケティングには、人口分布や世帯数などのデータが必須。それらデータの収集に役立つ無料ツールやGIS(地理情報システム)を以下にピックアップ。用途にあわせて複数のツールを利用するのがおすすめ。
国勢調査
日本に居住している全ての人及び世帯を対象に総務省統計局が行う、国の最も重要かつ基本的な統計調査のこと。人口に関するエリアマーケティングに役立つ情報が網羅されている。特にチェックしておきたいのは「年齢別人口構成」と「昼間人口と夜間人口」。
e-Stat
政府統計のポータルサイト。各府省が集計した統計データを地図や地域などジャンルごとに確認することができる。「地図で見る統計」「都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系)」
統計ダッシュボード
総務省統計局による統計データの簡易的な利活用を目指したWebサイト。各データはグラフや図解に加工されているため分かりやすい。「地域の見える化」の項目では、都道府県から市区町村までを選択し、人口増減率をはじめ納税義務者一人あたりの課税対象所得などを確認することができる。
人口移動調査
国立社会保障・人口問題研究所が将来の人口移動の傾向を見通すために行っている、人口移動に関する調査。この調査報告書は移動理由や出身地へのUターン状況、将来移動する可能性や親や子の居住地などについてまとめられている。
jSTAT MAP
「e-Stat」内で提供されている統計GIS機能をもつソフト。地図上で商圏を自由に設定することができ、出店地域の人口や、人口増減傾向など、商圏情報を得ることができる。人口や世帯数などの基本分析から、商圏内の産業別事業所数や従業員数まで確認することができるため昼間人口の購買力や周辺環境の見直しまで検討することが可能。
地域経済分析システムRESAS
地方自治体の取り組みを支援することを目的に作られた、各地域における産業構造や人口動態などのデータを集約し可視化したシステム。「人口マップ」では人口増減や人口構成、将来人口推計を確認できる。「地域経済循環マップ」では地域経済循環図や労働生産性の動向を確認できる。
地域経済循環分析
市町村ごとの複合的な分析により「生産」「分配」「支出」の三方向から、該当する地域の経済状態を把握するとともに、産業の実態を可視化する分析手法を提供するサイト。市町村毎の詳細な解析に加えて、いくつかの市町村をまとめて一つの経済圏として分析することもできる。
地域包括ケア「見える化」システム
都道府県・市町村における介護保険事業(支援)計画の策定・実行の総合的な支援を目的として、介護保険情報や地域包括ケアに関する情報をグラフなどの見やすい形にして一元化した情報システム。各地域における取り組み事例や活動事例を参照することができる。
わがマチ・わがムラ
農林水産省による統計データサイト。都道府県や市町村ごとの農林水産業のデータについて確認でき、市町村ごとのデータ検索やランキング表示を行うことができる。耕地面積や農家数、林業経営体数や漁港数など、農業や林業、漁業に関する統計データが中心。
都市構造可視化計画
都市の現状把握のため人口や就業構造などのデータを地図上に表示。統計データの表示にGoogleEarthを使用しており、直感的な課題発見や現状把握が可能。「経年変化」では人口や販売額などを確認することができる。「公共機関の利用状況」では通勤通学や買い物など用途別の利用状況を確認できる。
経済・財政と暮らしの指標「見える化」ポータルサイト
内閣府が推進する歳出改革の基盤として、経済や財政における地域差や各種データを集約。閲覧、検索、分析までを一元化し、そこに住む人々の暮らしを「見える化」するポータルサイト。固定地域の行政改革の取り組みや実施内容も確認することができ、その地域の運営方針や抱える課題を知ることができる。
地域の農業を見て・知って・活かすDB
農業集落を単位に農林業の実態調査とそれに関連した各種データを組み合わせて、農林水産省が独自に加工し再編成したデータを提供している総合データベース。農業経営体の経営規模や雇用労働力、農業労働力などが可視化され、地域農業や地域コミュニティについての多角的な分析をすることができる。
土地情報総合システム
国土交通省が運営する、土地に関する総合ウェブサイト。不動産取引価格や地価公示、都道府県の地価調査を見ることができる。不透明性が課題とされてきた不動産取引において、不動産市場の信頼性向上や不動産取引の円滑化を目指し、平成18年4月よりスタートした。
観光予報プラットフォーム
「地域の活性化」や「サービス事業者の生産性向上」を目指す自治体や企業に対して、宿泊を基軸に観光に関する各種ビックデータをエリア単位でまとめて提供するプラットフォーム。「エリアごとの宿泊予測」「宿泊、旅行購買データ」「地域観光資源データ」など、宿泊や観光に基づくデータから、地域活性化施策に役立てることができる。
国土数値情報 ダウンロードサービス
国土数値情報とは国土政策の推進に役立てるために、地形、土地利用、公共施設など国土に関する基礎的な情報をGISデータとして整備したもの。このサイトではそれらのうち、公開に差し支えないものに限定し無償で提供を行っている。
国土情報ウェブマッピングシステム
国土数値情報についてテーマに分けて簡単に確認することができる。公共施設や宿泊施設、物流拠点に関する施設表示をはじめ1kmメッシュで示される小売全体従業者数や駅別乗降客数などの産業統計表示と、見たい情報に合わせたマッピング表示が可能。
エリアマーケティングの事例
ここからは、エリアマーケティングの事例を3つ紹介。
【事例1】観光促進を目指したエリアマーケティング
事例1つ目は、青森県八戸市の「地域資源を生かした魅力ある観光創造に関する研究」。八戸市は青森県内第二の都市であり観光入込客数は青森県内市町村の中で第一位を誇る観光都市であったが、人口減少による地域経済への影響が懸念されていた。そこで対策を検討するにあたりエリアマーケティングを実施。RESASを用いた観光客の実態把握を行うにあたり「観光客数」「観光消費額」「地域事業者の稼ぎ」の三つの切り口から分析した結果以下の課題が発見された。
- 観光客の満足度の不十分・リピーター率の少なさ
- 観光地としての認知度の低さ
- 宿泊、土産、飲食にかける消費が他の観光地に比べて相対的に低い
- 宿泊者は観光客よりも「一人一泊」のビジネス客が圧倒的に多い
- 食料品製造業や飲食料品卸売業、飲食店の労働生産性が全国平均を下回っている
エリアマーケティングにより見つかった課題を受けて、地域特性の強みに則った以下の改善対策が検討された。
- SNSを活用した情報発信と客層ごとのニーズの把握
- 星野リゾートなど既存コンテンツとの提携や新規コンテンツの提案
- 地元食材を活用した地域ブランドの確立や市内ホテルと協力した市内周遊性の向上化
- グループ客の長期滞在を目指した体験型観光サービスの強化・充実
- 地域資源を取り扱う事業者への支援など生産効率を促す意識改革の実施
【事例2】既存サービス×地域特性で成功したエリアマーケティング
事例2つ目は、キリンビール「47都道府県の一番搾り」。「47都道府県の一番搾り」は、周到なマーケティング計画のもと目覚ましい成果を上げたプロジェクトとして第9回日本マーケティング大賞を受賞した。地域の特性と魅力を既存の商品に付加価値としてプラスし、開発から販売、プロモーションに至るまで地域活動を展開した点が評価された。成功のポイントは以下。
- 共創ワークショップの実施
地元住民と社員が一丸となって、地元の商品コンセプトや楽しみ方を構想 - 地元の気質と風土に合わせた47の味覚設計
ワークショップで得た着想をもとに地元の気質や風土に合わせた味覚を追求 - エリア特性に合わせた営業戦略
地域特性やチャネル特性に合わせてその地域に最適な販促、営業活動を展開 - 製造体制の早期構築
全国9工場の製造設備を最大限に活用し、47種の新商品の製造ラインを確立
【事例3】時代のニーズをキャッチ 女性特化型のエリアマーケティング
事例3つ目は、JR新宿駅直結の新たな商業施設「NEWoMan」。商業施設がひしめく新宿で新しい価値観を生み出したのがNEWoMan。「あたらしい時代を生きる、すべてのあたらしい女性のために」をコンセプトに女性に特化した営業戦略を打ち出した。NEWoManの戦略は以下。
- 明確なターゲット層の選定
10代20代の女性をメインターゲットにする「ルミネエスト」「ルミネ1」「ルミね2」とは一線を画しNEWoManは30代以上の女性に絞っている。これにより他の商業施設との差別化が図られ、よりニーズに狙い打ちしたマーケティングが可能となる - 新宿の地域特性の活用
平日は通勤や通学の通り道となり、休日はショッピングやアクティビティの場所となる新宿では、幅広いニーズに対応した店舗構成が鍵となる。女性ファッション雑貨がほとんどを占めるルミネに対し、NEWoManは物販と飲食の構成比が同率であり、またメンズとレディース双方のブランドが出揃っていることが特徴だ。施設内の回遊性を高め、男女ともに楽しめる新規の商業施設となっている - 駅直結の認可保育所の導入
NEWoManには乳児専用の保育園も備わっている。働く女性を全面的にバックアップする意図が込められており、新宿の立地特性と女性のニーズに沿った試み
エリアマーケティングに役立つ調査結果
以下記事では、「富裕層シニアの分布」「体型メリハリ度」「通販利用ランキング」など47都道府県のランキング各種を掲載。
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