遺伝子組み換えの現状と懸念点|今後の市場動向
1996年に遺伝子組み換え作物の商業栽培がスタートし20年以上が経過するが、この作物の是非に関する議論は未だ決着がつかない。米国科学・工学・医学アカデミーの報告書では「遺伝子組み換え食物が従来の作物より有害であることを示す証拠は見つからない」と結論づけているが、日本の消費者の多くは「なんとなく不安」という印象を持っている。遺伝子組み換えの現状と今後の市場動向を紹介。
目次
遺伝子組み換えの基礎知識
遺伝子組み換えとは
遺伝子組み換えとは「生物の遺伝子の一部を異なる生物の細胞の遺伝子に入れること」で、人為的に新しい品種を作ること。生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、他の生物の細胞の遺伝子に組み込むので、新しい性質を持たせることができる。
あらゆる生物が持っており親から子へと受け継がれていく遺伝子は、形、色、味、性質などの特徴を決定づける。遺伝子はデオキシリボ核酸(DNA)という物質からできており、タンパク質を作り出す働きを持つ。
遺伝子組み換え技術が実現したことで目的に合わせた優良な性質を持つ作物を、品種改良するよりも効率的に作れるようになった。日本は人口が減少しているが世界では人口が急増し、異常気象も頻発している。食料を安定的に供給するために、農業生産において遺伝子組み換え技術は大きく貢献している。
日本で認められている遺伝子組み換え食品
現在、日本で安全性が確認され販売・流通が認められているのは食品8種類(169品)、添加物7種類である(平成30年2月時点)。
- 作物
・大豆
・じゃがいも
・なたね
・トウモロコシ
・わた
・てんさい(砂糖大根)
・アルファルファ
・パパイヤ - 添加物
・キモシン
・α-アミラーゼ
・リパーゼ
・プルナラーゼ
・リボフラビン
・グルコアミラーゼ
・α-グルコシルとランスフェラーゼ
(出典:厚生労働省「遺伝子組み換え食品の安全性について」)
日本で流通している遺伝子組換え食品は「①遺伝子組み換え農作物とそれから作られた食品」「②遺伝子組換え微生物を利用して作られた食品添加物」の2種類がある。「遺伝子組み換え食品」や「遺伝子組み換えでない食品と分別していない食品」を原料とする場合は、消費者に対する表示義務があり(消費者庁管轄)、食品ラベルの原材料名または名称の所に、その旨を記載しなければならない。
- 分別生産流通管理 (※)された遺伝子組み換え農作物
→「遺伝子組換え」と表示 - 分別生産流通管理されていない遺伝子組み換え農作物
→「遺伝子組換え不分別」と表示 - 従来のものと組成、栄養価などが著しく異なる遺伝子組換え食品を原材料とする場合
→「(例)ダイズ(高オレイン酸遺伝子組換え)」と表示
(※)分別生産流通管理:遺伝子組換え作物と非遺伝子組換え作物を生産、流通及び加工の各段階で混入が起こらないよう管理し、そのことが書類などにより証明されていること
(出典:消費者庁 遺伝子組み換え食品)
ただし油や醤油など、遺伝子組み換えによるDNAやたんぱく質が検出されない食品については上記の表示は義務づけられていない。また「非遺伝子組換え農作物」または「それを原料とした加工食品」についても表示義務はなく、一般的に見られる「遺伝子組み換えでない」といった表示は任意表示となっている。
分別生産流通管理によって「非遺伝子組換え農産物」を分別しようとした場合でも、遺伝子組み換えのものが最大で5%程度混入する可能性は否定できないため、分別生産流通管理が適切に行われていればダイズ及びトウモロコシにおいて混入率5%以下の意図しない混入については認めている。
遺伝子組み換えと品種改良の違い
そもそも遺伝子組み換え技術は従来から存在していた品種改良技術の一つといえる。品種改良とは育種技術と言って、「掛け合わせ」の技術によって農作物の異なる遺伝子を組み合わせることで、人為的に新しい品種を作る。例えば「味の良い品種」と「乾燥に強い品種」を掛け合わせることで「味が良く乾燥に強い品種」を作ることが可能になる。
遺伝子組換え技術では、生産者や消費者の求める性質を効率よくもたせることができる点、組み込む有用な遺伝子が種を超えていろいろな生物から得られる点が違います。(略)遺伝子組換え技術が用いられる前から、 「掛け合わせ」の手法によって農作物の遺伝子の組合せを変えることにより品種改良が行われてきました。(引用:厚生労働省「遺伝子組み換え食品の安全性について」)
例えばよく知られているものにキャベツの原種がある。キャベツの原種は時間をかけて現在のキャベツやカリフラワー、ブロッコリーに品種改良された。その際に用いられる技術は「人工授粉栽培」といって、ある品種のめしべに他の品種の花粉をつけて交配させるものであった。しかしこの品種改良にはデメリットがある。目的の個体を安定した種として確立するまでには、何度も何世代も交配を繰り返す必要があり、時間もコストも莫大にかかる。しかも掛け合わせによって受け継がれる性質をコントロールするのは難しい。
そこで登場したのが遺伝子組み換え技術だ。遺伝子組み換えであれば、有用な遺伝子を異なる種族の生物から組み込むことができ、品種改良よりも効率的に目的の種を作ることができる。遺伝子操作によって新しい組み合わせの遺伝子を作るという点では、遺伝子組み換えと品種改良は同じだとも説明できる。
しかし遺伝子組み換え技術が品種改良と大きく異なる点は「種の垣根を超えられる」という点にある。例えば、除草剤の影響を受けないようにした、遺伝子組み換えされた農作物は、除草剤を分解するバクテリアからDNAを取り出し、それを植物のDNAに組み込むことによって誕生している。つまり「トウモロコシ」に「バクテリア」といった自然では起こりえない操作を人為的に行えるのが遺伝子組み換えの技術だ。
遺伝子組み換えが行われる背景
遺伝子組み換えは世界各国で行われている。遺伝子組み換え作物の栽培国は2013年時点で世界27か国。栽培面積は1億7,520万haで、全作物栽培面積15億haの12%とされる。
遺伝子組み換えの栽培量は年々拡大している。遺伝子組み換えの農作物を使用することで「農作物の生産コストを抑えることにつながる」「農作物の収穫量が増加し、食糧問題の改善につながる」ことが期待されているからだ。
例えば害虫に強い作物が誕生すれば、農薬の使用量を減らし生産コストを抑制することができる。除草剤に強い作物(除草剤耐性)が誕生すれば、従来よりも収穫量を増やすことが可能になる。他にもこれまで農作物の栽培に適さなかった乾燥地で栽培できる作物の開発や、塩害に強い作物、特定の栄養成分を多く含む作物など、さまざまなメリットのある農作物が研究開発されている。
また食用農作物だけでなく、環境浄化、工業、医薬利用などの分野でも遺伝子組み換えの研究や実用化が進められている。例えば国内で開発が注目されているものに「スギ花粉症治療イネ」がある。
遺伝子組み換えの現状
ただし遺伝子組換え農作物は、自然界での交配や従来の育種法では得られない形質を人為的に付与していることや、食経験や栽培経験が短い農作物となることから、安全性や環境への悪影響がないかといった懸念・不安が多くの消費者から持たれている。
遺伝子組み換えに関する法律
日本では遺伝子組換え食品を利用する上で基準となる法律がある。
- 「食品」としての安全性を確保するために「食品衛生法」及び「食品安全基本法」
- 「飼料」としての安全性を確保するために「飼料安全法」及び「食品安全基本法」
- 「生物多様性」への影響がないように「カルタヘナ法」
これらの法律に基づき、それぞれ科学的な評価を実施し、問題ないことが確認されたものだけが栽培や流通できる仕組みになっている。平成30年2月時点で、日本で安全性が確保され流通されることが認められている遺伝子組み換え食品は8品のみ。
遺伝子組み換えの安全性
日本では一つ一つの遺伝子組換え農作物ごとに科学的根拠に基づいた厳格な安全性評価が行われており、遺伝子組み換え食品を食べ続けても問題がないとしている。安全性評価は厚生労働省と内閣府の食品安全委員会、及び遺伝子組み換え食品等専門調査会が中心となり、具体的に以下のようなことを評価・確認している。
- 組み込む前の植物、及び組み込む遺伝子がよく解明されたものか、人が食べた経験はあるか
- 組み込まれた遺伝子がどのように働くのか
- 組み込んだ遺伝子からできるタンパク質はヒトに有害ではないか、アレルギーを起こさないか
- 組み込まれた遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性はないか
- 食品中の栄養素などが大きく変わらないか
日本の遺伝子組換え食品安全性評価基準は、食品の国際基準を作成しているコーデックス委員会のガイドラインに沿ったものになっている(コーデックス委員会には日本を含む187カ国とEUが加盟)。また、安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品が市場に出回らないよう、安全性審査を受けていない遺伝子組換え食品またはそれを原材料に用いた食品は、製造・輸入・販売が法律によって禁止されている。
遺伝子組み換え食品が輸入される際には、検疫所において「抜き取り検査」が行われる。対象となるのは輸入される遺伝子組換え食品で、日本では安全性の審査が終了していないもの。
- 米
- パパイヤ
- なたね
- 亜麻
遺伝子組み換えの懸念点
安全性は高いとされる遺伝子組み換え食品であるが、日本だけでなく世界では遺伝子組み換えという行為そのものについて批判的な意見も多い。主な懸念点としては健康への影響と環境に与える影響。実際、海外では花粉が飛んで野生植物と交配してしまったケースがある(遺伝子汚染)。
- 食品として従来の作物とは違い、本当に安全か不明
- 組み換え遺伝子が拡散することで、生態系を撹乱する恐れがある
- 特に有機栽培など周囲の農業生産への影響がある
- 遺伝子多様性の喪失
- 特定企業による農業支配が起こる可能性がある
特に健康被害のリスクや危険性について、新しい品種が人体に悪影響を及ぼす有害物質を生み出すおそれがあるとして心配する人もいる。実際、遺伝子組み換え食品の割合が高い米国では遺伝子組み換え食品の登場とともにアレルギーや自閉症といった慢性疾患が増えているという指摘もある。
遺伝子組み換え技術を用いた食品の例と今後
遺伝子組み換え技術を用いた食品の例
国内では商業用遺伝子組み換え作物は作られていない。しかし生活者が日常的に口にする食品の原料には遺伝子組み変え作物が利用されている可能性が十分ある。そのうちの一つが醤油だ。醤油の原料であるダイズ・小麦などは、多くをアメリカやカナダなどの海外から輸入している。
「国内の醤油メーカー11社に調査を行なった『醤油の遺伝子組み換え原材料について』」によれば、回答のあった10社いずれも醤油の原料となる小麦については、遺伝子組み換え小麦を使用していないと回答。ダイズについては10社のうち9社がアメリカ・カナダからの輸入ダイズが中心であるが「遺伝子組み換えでない」ダイズを利用していると回答。残りの1社のみ「一部遺伝子組換え不分別」のダイズ使用と回答している。醤油にはこれら主原料の他に添加物や調味料が含まれるが、添加物や調味料においても遺伝子組み換えでない原料を使用しているのは10社中4社のみで、残りの6社は遺伝子組み換え不分別の原料(遺伝子組み換えのもの)を使用している。
日本はダイズの90%以上を輸入に頼っている。さらにそのうちの70%はアメリカから輸入している。アメリカで栽培されるダイズの90%以上は遺伝子組み換えであるため、日本で流通しているダイズの多くは遺伝子組み換えダイズの可能性が高い。義務表示ではないが、原料に遺伝子組み換え作物が使用されている可能性の高い食品には醤油、油の他に遺伝子組み換えの餌を食べて育った家畜の肉や乳製品、マーガリン、マヨネーズ、液糖、みりん、コーンフレーク、醸造酢などがある。
遺伝子組み換え食品の今後
遺伝子組み換え作物は基本的には高品質で低価格なので、正しく活かされれば食糧難や栄養失調などの問題解決に役立つと考えられる。特にアメリカ・カナダは遺伝子組み換え作物を積極的に生産していて、海外にも大量に輸出したいとしている。しかし安全性についての慎重論は日本だけでなく世界各国で挙がっており、遺伝子組み換えの安全性を調査する機関や関連ビジネスの市場が急成長すると見込まれている。
広がる「アグロエコロジー」
遺伝子組み換え技術に限らず、新しい技術には不安や懸念がつきまとう。特に遺伝子組み換えに反対している人の間では「アグロエコロジー(生態系や農民などの権利を守る農業のあり方、実践、社会運動のこと)」という考え方が拡大している。今後、遺伝子組み換え作物は広がりを見せるのか、それとも一部主要作物のみにとどまるのか。遺伝子組み換え作物の是非については決着がつかない。
遺伝子組み換え(GM)には、将来の食料需要増加への対応や飢餓対策の切り札になるとの期待もある。しかし、『ファーマゲドン』の著者、フィリップ・リンベリー氏は「それは詭弁(きべん)にすぎない」と断じ、遺伝子組み換え作物の栽培は、生態系に大きな打撃を与え、食料供給において必ずしも効率向上には結びつかず、さらに農業の持続性も脅かしかねないと指摘する。(引用:NIKKEI STYLE「遺伝子組み換えは世界を飢餓から救うのか? 」)
遺伝子組み換え食品に関する情報
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