「男は女の涙に弱い」は本当だった、女性の涙に男性の攻撃性を抑制する化学物質が含まれていることが明らかに

本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による寄稿記事です。今回のテーマは、「女性の涙」。「男は女の涙に弱い」とよく言いますが、なんと、それは真実のようです。イスラエルの研究報告を解説します。

日常生活に多い「男は女の涙に弱い」を化学的に証明する

「男は女の涙に弱い」という言葉をよく耳にしますが、これは実際に化学的な根拠があるのでしょうか?興味深いことに最新の研究によって、女性の涙には男性の攻撃性を低下させる特殊な物質が含まれていることが明らかになりました。

日常生活でよくある場面を想像してみてください。男女で口論になり、感情が高ぶって女性が涙を流し始めると、それまで激しく言い争っていた男性の態度が一変して、慌てふためいて謝り始めたり、なだめようとしたりする様子を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。このような状況は、現実世界だけでなく、ドラマや映画などのフィクションの世界でもよく描かれる典型的なシーンの一つです。実は、この現象には化学的に説明できる可能性が出てきました。最新の研究により、女性の涙の中には、男性の攻撃性を抑制する特殊な化学物質が含まれていることが実証されたのです。今回は、女性の涙に関する興味深い研究についてご紹介します。

イスラエルのワイツマン科学研究所のShani Agron氏らによる研究で、「女性の涙には男性の攻撃性を40%以上も抑制する化学物質が含まれている」ことが、2023年に「PLOS Biology」誌に報告されました。Shani Agron,Claire A de March,Reut Weissgross,et al.A chemical signal in human female tears lowers aggression in males.PLoS Biol. 2023 Dec 21;21(12):e3002442. doi: 10.1371/journal.pbio.3002442. eCollection 2023 Dec.

 

女性の涙に含まれる化学物質は、男性の攻撃性にどう影響する?

研究の背景:涙が持つ化学的機能に着目

涙は単に眼球を潤すだけの生理的な機能を持つだけでなく、人間の感情表現において非常に重要な役割を果たしています。さらに近年の研究によって、涙には感情表現以外にも、さまざまな生理学的・化学的な機能が備わっていることが次々と明らかになってきています。特に涙に含まれる化学的成分がどのような働きを持っているのかという研究テーマは、人類の進化学的な観点からも非常に興味深い課題となっています。

今回紹介する研究では、特に女性の感情的な涙に含まれる化学的物質が、男性の反応や行動にどのような影響を及ぼすのかを詳細に解明することを目指しています。研究の主要な目的は、女性の感情的な涙に含まれる化学物質が男性の攻撃性にどのような影響を与えるのかを、厳密な科学的手法を用いて立証することです。この研究により、人間の感情コミュニケーションにおける化学的シグナルの重要性についての理解が深まることが期待されます。

研究の方法と結果:怒る男性に女性の涙の匂いを嗅がせ、攻撃性の変化を分析

本研究では、2つの実験が実施されました。第一の実験では、男性の実験参加者に、ある特殊なゲームをプレイしてもらいました。このゲームは金銭的な要素を含んでおり、参加者間でお金の奪い合いが発生する仕組みになっています。具体的には、相手のプレイヤーによる不正行為でお金を不当に奪われるなどの状況により怒りが誘発され、また相手からお金を奪い返すという復讐的な要素も組み込まれているため、参加者が自然と攻撃的な行動を取りやすい環境が作られていました。研究チームは、このゲームをプレイしている最中の男性被験者に女性の涙の匂いを嗅がせ、その行動変化を詳細に分析しました。実験には25名の男性が参加し、ゲームの最中に攻撃的な行動が出てきたところで女性の涙の匂いを嗅がせたところ、男性の攻撃性が平均して43.7%も減少するという結果が得られました。

第二の実験は、より詳細な生物学的メカニズムを解明するために、実験室での細胞実験として実施されました。研究チームは62種類の人間の嗅覚受容体をHana3A細胞という特殊な細胞に発現させ、これらの細胞に女性の涙と対照実験用の偽の涙を接触させた後、嗅覚受容体の活性化状態を観察しました。その結果、人間の嗅覚受容体のうち4種類が女性の涙に特異的に反応することが判明しました。私たちの鼻では無臭に感じる女性の涙でも、実は嗅覚受容体レベルでは確かな反応を示していることが証明されたのです。

最後に、第一の実験と同様の実験を行いながら、女性の涙と偽の涙を嗅いだ時の脳の活動変化をMRIで詳細に観察しました。その結果、攻撃性が高まりやすい内容のゲームをプレイしている最中には、脳の左島皮質前部と両側前頭前皮質という特定の領域が活性化することが確認されました。さらに女性の涙の匂いを嗅いでいる状態では、これらの脳領域の活性化が明確に抑制されることが示されました。

 

男が女の涙に弱いのは、れっきとした生物学的な反応

この研究により、女性の涙には男性の攻撃性を効果的に低下させる作用を持つ特殊な化学物質が含まれているということが立証されました。女性が涙を流している場面で男性の攻撃性が低下するのは、単に視覚的な刺激や社会的な要因だけではなく、実際に化学物質を介した生物学的な反応であることが示されたのです。この研究の結果は人間の感情コミュニケーションにおいて化学的シグナルが予想以上に重要な役割を果たしているという事実を示しており、人間の感情と行動の関係についての理解を大きく前進させるものとなっています。

 

実は多い大人の女性の涙、両親の喧嘩や看護師が受けるカスハラ

私が子どもの頃は、「女の子が嫌がることは絶対にしてはならない」と教わりました。口論になって女の子が泣くとうろたえてしまい、謝ることしかできませんでした。だから女の子の涙はほとんど見たことがありませんでした。しかし過去を思い起こすと、両親がけんかをした時には母が泣いており、今は、職場の女性看護師が理不尽なカスハラに合って涙を流すなど、むしろ大人の女性の涙を目にすることが多く、悲しく胸が痛みます。彼らは子どもの頃、そのような教育を受けてこなかったのでしょうか?それとも大人の女性はもう子どもではないから、泣かせるような嫌がることを平気でするのでしょうか。理解に苦しみます。

 

 

【執筆】秋谷進

 

小児科医・児童精神科医・救命救急士。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。

 

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