子どもの時の肥満が、PMSの早期発症やPMDDのリスクに 女性6,524人を調査
本稿は、東京西徳洲会病院小児医療センター小児神経科の秋谷進医師による寄稿記事です。大人の肥満が健康に良くないことは誰もが認識していますが、子どもの肥満が健康に与える悪影響については広く注目されていません。しかし近年、子どもの生活習慣が生涯にわたって健康に影響を与えることがわかってきました。今回は、子どもの頃の肥満がPMS・PMDDと関連していることを明らかにした研究論文を解説します。ライフコースアプローチの視点で読み進めると、新たなソリューションの発想につながるかもしれません。
目次
三子の魂百まで、子どもの時の生活習慣は生涯の健康に影響
三つ子の魂百まで、ということわざがあります。これは3歳の子どもの特性は100歳になっても変わらない、生まれ持った特性は生涯変わらないことを指したものです。この諺は、性格などの精神的なものを表したものと思われがちですが、実は小さい時の生活習慣も大人になってから影響を及ぼし続けるのです。特に子どもの肥満は大人になってからも様々な影響を残します。子どもの生活習慣が、生涯にわたって健康に影響を与えるのです。今回はその例として、ストックホルムのカロリンスカ研究所のDonghao Lu医学博士が、2022年に小児期のBMIと月経前症候群の関係について発表した研究論文を紹介します(Association Between Childhood Body Size and Premenstrual Disorders in Young Adulthood. .JAMA Netw Open. 2022; 5: e221256.)。
小児期の体格と若年成人期の月経前症候群との関連に着目
この論文を理解するのに必要な前提知識
まずはこの論文を理解するために必要な前提知識について解説します。
<BMI>
BMIは、Body Mass Indexという言葉の略です。身長と体重から算出される体格指数で、やせ、標準体重、肥満などの体格を分類するために使用される指標です。同じ体重でも身長が違うと痩せているか太っているかが変わるので、単に体重を比べるのではなくBMIを比較するのです。計算式は体重kg ÷(身長m×身長m)で、WHOの分類では25を超えると前肥満状態、30以上で1度肥満、35以上で2度肥満、40以上で3度肥満となります。
<PMS>
PMSは、月経前症候群(premenstrual disorders)の略です。月経の3〜10日前ごろからお腹や腰が痛むなどの体の不調や、イライラするなどの心の不調がおこり 、月経の開始と共に徐々に症状が和らぐ状態の総称を指します。はっきりとした原因はわかっていませんが、排卵後の黄体ホルモンに対する体の感受性の変化が関連している可能性が指摘されています。症状が強いと日常生活や社会活動に支障をきたす場合もあり女性の生活の質に大きく関わります。
研究の背景:子どもの肥満が将来のPMSに影響?
月経前症候群(PMS)は多くの女性の生活の質に影響を与える問題となっています。これまでの研究では主に成人期のBMIとPMSに関連があり、過度な肥満やダイエットは悪影響であるということがわかっています。近年、子どもの頃の肥満もPMSに関連している可能性が指摘されており、小児期からの影響を検討する目的でこの研究が行われました。
研究の方法:米国の女性6,524人を調査
この研究はアメリカの6,524人の女性(平均年齢26歳、93.6%が白人)を対象とした研究です。1996年から2013年にかけて行われました。参加者は9歳から18歳までの期間に身長と体重を自己申告し、そのデータをもとにBMIを計算して、肥満の程度をスコア化しました。2013年に、質問紙を用いて参加者のPMSの評価を行い、肥満とPMSの関係を調査しました。
研究の結果:11〜18歳の肥満がPMSの早期発症やPMDDのリスクに
調査の結果、参加者のうち15.4%に当たる1,004名がPMSの基準を満たしていました。思春期前期(平均12.7歳時)のBMI上昇が、PMSリスクの増加と有意に関連していることが示されました。PMSの発症リスクが交絡調整相対リスクは1.09(95%CI: 1.03-1.15)となり、PMSによる負担も0.06上昇しました(95%CI : 0.04-0.08)。
BMIの経時的な変化を解析すると、思春期を通してBMIが高かった女性では、BMIが適正だった女性よりPMSの負担が0.17上昇することもわかりました(95%CI: 0.08-0.27)。特に、PMSの中でも重症とされるPMDD発症リスクとBMIの関連が強く見られ、相対リスク1.17という結果が得られました。また、年齢について詳しくみてみると、20歳より前の早期のPMS発症と、高いBMIとの関連がより顕著でした。具体的には、11〜18歳の期間のBMIと症状重症度との間に明確な正の相関が認められ、この時期の体格管理の重要性が示唆されました。特に、思春期を通じて高BMIを維持していた群では、症状がより重症化する傾向が確認されました。
この論文を読む上で注意すべきこと:人種による体質の違い
この研究では小児期の体重とPMSの関係が示されましたが、自己申告データに基づく限界や、人種的多様性の不足などの制限があることには留意が必要です。また人種が異なると体質なども変わることがあり、日本人で完全に同じ結果になるかについては検討が必要です。しかし、これほど大規模な研究でBMIとPMSの関係が示されたことは、日本でも同様の傾向となる可能性は高いと思われます。
「子どもは太っていても大丈夫」はNG、健康な人生を送るための生活習慣を教えることも教育の一部
この研究は小児期のBMIと若年成人のPMSのリスクとの関連を示しました。この研究の結果から、小児期の体重管理の重要性が明らかとなったのです。子どもは太っていても大人になったら自分で管理すればいいという考え方をしていると様々な疾患のリスクとなることが指摘されており、今回の研究でPMSもその1例であることが示されたのです。子どもの教育は勉強だけではなく、健康な人生を送るための食事や運動などの生活習慣を学ばせることも重要であるということが、この論文では示されています。
子ども診療をする児童精神科医である私は、親御さんから、「うちの子は、電車の中など公共の場や状況をわきまえず騒いでしまう時があり、困っています」と言う質問をよく受けます。子どもにとっては自分自身をコントールすることはとても難しいですから、この質問の回答は非常に難しいです。私なりの回答としては、「どうすべきかを、本質を論理的に教えることが大切です」と答えています。例えば、「診察室の待合室で子どもを騒がせないために、ただスマホを与えるのではなく、「病院の待合室は病気の方もいらっしゃるので、静かに待ちましょう。静かに待つのが退屈であれば、この時間はスマホを渡しますよ、といった一言を添えることも、教育です。たとえ今はわからなくとも、後々、理解できるようになります。そうしないのであれば、病院の待合室で静かに待つことの意味すら、教育していないことになりますよ」と話すようにしています。今回の論文は子どもへの教育はどうすべきかと考えさせられる研究だと考えます。みなさんも、親として子どもの教育をどうすべきかを一緒に考えていただけますと幸いです。
【提供】秋谷進
東京西徳洲会病院小児医療センター 小児神経科医師。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。
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