女性の偏頭痛は減量が有効か、顕著な性差が見られた「体脂肪率」と「偏頭痛」の関連

本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による寄稿記事です。偏頭痛の性差といえば有病率。女性の方が男性より高いことがよく知られていますが、それだけにとどまらず、体脂肪率と偏頭痛の相関にも性差があるようです。今回は、これまで詳しく明らかにされてこなかった体脂肪率と偏頭痛の関連についてまとめた論文を解説します。

女性の偏頭痛は男性の3.6倍、近年指摘される肥満との関係

片頭痛がつらい…そんな悩みを持っている人は実はたくさんいます。何と、実に日本人の3人に1人が一次性頭痛に悩んでいると言われています。一次性頭痛とは、他の病気が原因で起こる頭痛ではなく、頭が痛いことそのものが病気である頭痛のことをいいます。代表的な一次性頭痛である「片頭痛」は女性に多く、片頭痛の有病率は、男性3.6%に対し女性は実にその3.6倍の12.9%と報告されています。中でも20〜40代の女性に多く、30代で20%と報告されています。

この片頭痛はストレスや天候、栄養、睡眠、ホルモンバランスなどさまざまな要因が関連していると言われています。近年は肥満と片頭痛の関連も指摘されており、また世界的に肥満の人は増えていることから、肥満と片頭痛に関連があるとすると、さらに片頭痛の人は増えていく可能性があります。今回は、脂肪率が高いことと、片頭痛の発症についての関連を研究した論文を紹介します。中国・重慶医科大学のRongjiang Xu氏らによる、オープンアクセス医学誌Cureus,2024年10月26日号での報告です。(SRongjiang Xu,Liang Dong,Xiaonuo Xu, et al. The Association Between Body Fat Percentage and Severe Headache or Migraine: A National Cross-Sectional Survey. Cureus. 2024 Oct;16(10);e72446. pii: e72446.)

 

明らかになっていなかった体脂肪率と片頭痛の関連

研究の背景:体脂肪率と片頭痛の関連に着目

片頭痛は、脳の血管が拡張することで起こると言われる頭痛で、ストレスや、天候、睡眠など様々な要因が絡んでいます。光や音に過敏になったり、頭の片側に起こるという特徴があり、何度も頭痛が起こるため、つらい思いをする人が多い疾患です。この片頭痛は有病率が高く、片頭痛が起こる要因についてより詳しく調べる必要があります。これまで肥満は片頭痛に関係していることが指摘されていましたが、体脂肪率と片頭痛の関連について詳しく調べられてはいない状態でした。そこで、体脂肪率と片頭痛の発症率、片頭痛の重症度に関連があるか調べることを目的として研究が行われました。

 

研究の方法:5,060例のデータを解析

1999年から2004年の米国国民健康・栄養調査を用いて、研究が行われました。この調査から男女5,060例のデータを対象に解析を行い、性別、所得、学歴、喫煙状況、身体活動の有無、高血圧といったデータに大きなばらつきがないように調整したあとに、体脂肪率と片頭痛の発症率・重症度について調査を行い、その関連性を調べました。

 

研究の結果:体脂肪率と片頭痛の相関は女性特有の結果に

対象となった人のうち、重度の頭痛や片頭痛を認めた人は1,289例でした。重度の頭痛や片頭痛を持つ人は、女性の割合が高く、身体活動量が少なく、学歴・世帯収入が低く、喫煙・アルコール摂取率が高く、糖尿病や高血圧罹患率が高い傾向がありました。また全体としては体脂肪率が高いと、重度の頭痛や片頭痛の発症率が高い傾向が見られました。男女別で見てみると、男性では体脂肪率と片頭痛の間に相関は見られなかったものの、女性では体脂肪率と片頭痛に明らかな相関が見られました。

 

この研究からわかること:減量が片頭痛の予防に

肥満では、片頭痛の発症が多くなることがわかりました。肥満では炎症性物質の放出が増加することがわかっています。これが片頭痛を悪化させる可能性が示唆されています。今回の研究では、特に女性において肥満は片頭痛に関連していることが示されました。つまり、体脂肪率を減らすことが片頭痛の予防に役に立つ可能性があります。また他の研究において、肥満患者で片頭痛を持つ人に対して減量のための食事・運動療法を行ったり、肥満に対する減量手術を行うと、片頭痛の頻度や強度が改善することがわかっています。片頭痛に悩んでいる人で、体重が標準体重よりも重い場合には、減量に取り組むことが片頭痛から解放される第一歩であるということが明らかになりつつあるのです。

 

私自身も苦しんだ片頭痛

片頭痛はシャワーが厳禁、知らずに風呂場で嘔吐

私は高校生のときに片頭痛に悩んでいました。決まって痛くなるのは、月曜日や金曜日の夕方。こめかみ辺りがズキンズキンと痛み始め、やがて目がカチカチとして、立っていられなくなります。こうなると寝こむしかなく、予定していた勉強もやりたかった読書も進まないのでした。「今日は頑張ったから休め」ということだと理解してシャワーを浴びて寝るようにしていました。実は、片頭痛のときにシャワーは厳禁だと知らなかったので、思い返せば決まって風呂場で嘔吐していました。その片頭痛も、高校を卒業してからまったく無くなっていたのですが、研修医のときに再び出るようになりました。上級医には「頭痛は我慢しなさい」と言われていたのですが、同僚の看護師は皆優しく、「すごく痛いときにはこれが効くわよ」「保冷材もあるわよ」「つらいわよね」と、頭痛薬を渡してくれました。看護師は全員、頭痛薬を持っていたのです。頭痛のつらさはわかる人にはわかりますが、そうでない人には伝わりにくいかもしれません。

 

真面目な子どもに多い「慢性連日性頭痛」

私が専門とする児童精神科外来には、真面目な子に多いと言われる慢性連日性頭痛の子どもが来ます。治療が効いて頭痛が和らぐと、子どもたちにとても喜ばれます。頭痛はないのが普通です。頭痛に悩んでいる人に対しては、ぜひ、頭痛外来での相談を促してください。

 

片頭痛には、治療と並行して生活習慣の見直しを

今回の研究では体脂肪率と片頭痛の発生には正の相関があり、特に女性において、この傾向は顕著でした。また体脂肪率以外にも身体活動や、アルコール喫煙などが関与しており、体重を減らし、禁煙・アルコール摂取の制限を行い、身体活動を増やすといった健康的な生活習慣を身につけることが片頭痛を改善することに有効であることが示されています。片頭痛に悩んでいる人に対しては、医師に相談して頭痛の治療を行うのと並行して、今までの生活習慣を見直して健康に悪い生活習慣になっていないかを見直すよう促すことが重要と言えるでしょう。

 

【提供】秋谷進

 

小児科医・児童精神科医・救命救急士。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。

 

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