運動による死亡リスク低下に男女間で有意差、生物学的性差に応じた対策の必要性が明らかに

本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による寄稿記事です。今回のテーマは、運動効果の性差。女性の方が男性より運動量が少ないことは、よく知られている話ですが、運動による死亡リスク低下の効果にも性差があることは、初耳という人が多いのではないでしょうか。性差に応じた運動の必要性が示唆された、興味深い研究報告を解説します。

女性の運動量は男性より6〜10%低い

運動をすると健康になる。多くの人はなんとなく分かっていると思いますが、なかなか十分な運動量を確保するのは難しいでしょう。医療現場でも、生活習慣病予防のための運動の指導が日々行われています。特に女性の運動量が少ないことが課題とされ、女性は男性より6〜10%ほど運動量が少ないとされています。女性に運動を促すことに難しさを感じている医療者や企業の方は多いかもしれませんが、女性の運動意欲が高まるかもしれない研究報告があります。運動による死亡リスクの低下効果は、女性ではより高いという研究結果が出ているのです。

今回は運動の死亡リスク低下効果の男女比較を行った研究を紹介します。北京清華大学付属北京清華長庚医院のHongwei Ji氏らによるJournal of the American College of Cardiology誌に2024年2月27日掲載の研究ですHongwei Ji,Martha Gulati,Tzu Yu Huang,et al.Sex Differences in Association of Physical Activity With All-Cause and Cardiovascular Mortality.J Am Coll Cardiol. 2024 Feb 27;83(8):783-793. doi: 10.1016/j.jacc.2023.12.019.

 

運動による健康増進効果、男女差はある?

研究の背景:運動と健康増進効果における性差に着目

米国疾病予防管理センター(CDC)および米国心臓協会・米国心臓病学会が推奨する身体活動の基準を満たす米国人は、全体の4分の1以下となっています。そのような現状で、同じ運動量で男女間で健康増進効果の差はあるのか?という疑問を解決するために、今回の研究が行われました。

研究の方法:男女41万人のデータを解析

この研究はCDCと米国国立保健統計センターの統計データを用いて行われました。米国の成人41万2,413例のデータを解析し、1997~2019年の身体活動の指標(頻度、継続時間、強度、種類)と全死因死亡率および心血管疾患死亡率との関連を、性別ごとに検討しました。

研究の結果:運動による死亡リスク低下、女性の方が顕著

運動習慣に関して定期的に有酸素運動を行っている人の割合は男性で43.1%、女性は32.5%と、男性の方が多いという結果でした。追跡期間中の死亡は39,935例で、そのうち心血管関連による死亡は11,670例でした。死亡例の中では、「定期的に運動している人」は「運動不足の人」に比べて明らかに死亡率が低下していました。また、運動による死亡率の低下には男女差があり、男性では15%の死亡率低下、女性では24%の死亡率低下が見られました。さらに、死亡率低下効果が最大になる運動時間にも男女で差が見られ、男性は週300分の運動で死亡リスク低下効果が最大になったのに対し、女性では週140分で同様の効果が得られました。

死亡リスク低下効果、なぜ女性の方が大きい?

研究の結果、女性は男性と比較して、同じ運動量でより大きな死亡リスク低下効果が得られることが判明しました。女性の方がより高い効果が得られた理由としては、もともと女性の方が男性より筋肉量が少ないため、同じ運動でも筋力強化の効果が相対的に高いこと、女性の方が筋肉の毛細血管の密度が高く、運動量の血流効果が高いことなどが考えられています。現在、世界的にみると女性の方が男性より運動習慣を持つ人の割合が少ないですが、この研究結果は、運動量を増やすことを女性にすすめるための根拠にできると考えられます。

生物学的性差に応じた運動の必要性

この研究では、単位運動量の男女差を埋めることを目指すのではなく、男女それぞれの生物学的な特性に応じて運動の種類や方法を検討する必要性が示されました。今後、研究が進んでいくことで、それぞれの性別でより効果的な運動の種類や取り組み方が判明していく可能性があり、そうなれば、運動による健康効果をより効率的に享受できるようになるかもしれません。もちろん男性にも、運動による死亡リスク低下効果があることははっきりしています。健康寿命を伸ばすために、まずは少しでも運動してみることは、今後の人生にとって大きな変化をもたらすのです。

 

妻・子どもたちと「週末散歩」で運動を習慣化

運動をすれば記憶力が高まる、認知症予防になる、良好な睡眠がとれる…。運動のメリットを示す論文は数多くあり、私自身も運動が健康に良いことはわかっていますが、中学生の時は陸上部で、高校生の時はサッカー部でしごかれ、スポーツは十分にやり切った感が強いこともあって、大人になってからは運動から距離を置きがちでした。そのような私も、50歳を超えてから週末は、妻そして子どもたちと散歩をするようにしています。7,000歩も歩けば体が軽く感じられ、気分がリフレッシュすることを実感できます。家族で会話を楽しみ散歩をし、美味しい食事をして、家族の健やかな寝顔を見ることができると、自分自身の健康はもちろん、家族が健康になることにも幸せを感じます。散歩帰りにはすっかりバテている私よりも、この論文の通り、妻と娘たちの方が運動による効果は高いのでしょう。それでも、この「週末散歩」は、今後も続けていこうと思っています。

【執筆】秋谷進

 

小児科医・児童精神科医・救命救急士。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。

 

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