医師の性別で治療成績に差(死亡率・再入院率・合併症発症率)、女性医師と男性医師を比較 患者1,340万人を研究
本稿は、東京西徳洲会病院小児医療センター小児神経科の秋谷進医師による寄稿記事です。医師は男性が多い一方で、患者の転帰に与える影響は女性の方が良いという研究報告。女性医師が担当した患者の方が死亡率は優位に低いというから、なんとも衝撃的です。”医師の性差分析”からは、多様な課題と解決策が見えてきそうです。今回は、医師の性別と患者の転帰への影響について研究した論文を解説します。
目次
医師は男性に多いものの、女性医師の方が優秀?
みなさんは医師を思い浮かべる時、男性、女性のどちらを思い浮かべるでしょうか。医師の世界はまだまだ男性社会で、男性医師と比較すると女性医師はまだまだ少ないのが現状です。もともと医師の世界は男性社会で、2018年に10大学の医学部入試において男性受験者が女性受験者より優遇されていたという事件があり、それが浮き彫りとなりました。厚生労働省の調査では、医師における男女比は8:2とまだまだ男性が多くなっています。2022年の調査では初めて女性医師の数は8万人を超えて、調査を開始した1982年以降最多とり、今後女性医師の数は増えることが望まれます。
そのような時代の流れの中、女性医師が治療した患者は男性医師が治療した患者よりも転帰が良く、医療費も低くなる可能性などが報告されていますが、これまでの研究では有意差については結論が出ていません。そこで今回は医師の性別が患者に与える影響について米国・メイヨークリニックのKiyan Heybati氏らが研究した論文を紹介します。(Kiyan Heybati,Ashton Chang,Hodan Mohamud,et al.The association between physician sex and patient outcomes: a systematic review and meta-analysis.BMC Health Serv Res. 2025 Jan 17;25(1):93. doi:10.1186/s12913-025-12247-1.)。
医師の性別が患者の転帰にどう影響を与えるかを研究
研究の背景:医師の性別による患者への影響は議論中
医師の性別が患者にどのような影響を与えるかについては、今まで多くの議論がなされてきました。これまで様々な研究が行われてきたものの、個別の研究で評価の方法が異なり、明確な結論が出ていないのが現状です。そこで今回の研究では、今までに行われた研究の結果を統合して解析するメタアナリシスを行い、医師の性別が患者に与える影響を調べました。
研究の目的:医師の性別が患者さんの死亡率などに与える影響を評価
研究の目的は、医師の性別(男性医師 vs 女性医師)が患者の転帰に与える影響を評価することです。具体的には、医師の性別が死亡率、再入院率、合併症の発生率、入院期間といった患者の転帰にどのように関連しているかを調査しました。
研究方法:データベースを用いてメタアナリシス
医学文献の主要なデータベースのうち「MEDLINE」と「EMBASE」を用いて、2023年10月4日までに発表された観察研究を対象に調査を行いました。対象とする研究は、成人患者(18歳以上)を対象としており、患者の治療における医師の性別(男性医師または女性医師)がどのように患者の転帰に影響を与えるかを調べたものです。主要な評価指標は、患者の死亡率でした。ほかの評価指標として、再入院率、合併症の発生、入院期間が使用されました。
研究結果:患者さんの死亡率などは女性医師が担当する方が低い
35件の観察研究が解析の対象となり、合計で13,404,840人の患者が研究の対象となりました。この研究のうち、20件は外科医の性別に関連するもの、15件は内科医および麻酔科医の性別に関連する研究でした。これらの論文を解析することで以下のようなことがわかりました。
<死亡率>
女性医師による治療を受けた患者は、男性医師による治療を受けた患者に比べて死亡率が有意に低いという結果が得られました。これは、外科医および内科医の両方で一貫して見られました。
<再入院率>
女性医師による治療を受けた患者は、男性医師による治療を受けた患者に比べて、入院後の再入院率が有意に低いことが示されました。
<合併症や入院期間>
女性医師による治療は、合併症の発生率や入院期間にも良い影響を与える傾向がありました。
<患者と医師の性別一致>
患者と医師の性別が一致する場合には治療の成績がより良いことがわかりました。特に、女性医師―女性患者の組み合わせでは、より患者さんの治療結果が良好でした。
この研究からわかったこと
この研究から、女性医師は男性医師に劣るどころか、患者さんの死亡率が男性医師より少なく、女性医師の優れた特性を表していると言えます。女性医師の細やかな配慮や、コミュニケーションが患者のストレスを軽減することが要因として挙げられます。
私が、目の手術を名医ではなく若手の良医にお願いした理由
さて、皆さんは病気になった時、どのような医師にかかりたいでしょうか?私は2023年に、糖尿病性網膜症で手術することになりました。1型糖尿病になり、血糖値管理を厳密に行い、普段の食生活も節制していましたが、病気となり30年ともなると、仕方がないことです。かかりつけの眼科医から、名医のいる大学病院での手術を勧められ、早速、紹介受診しました。すると名医は検査結果を見るなり、「あんた悲惨だね。失明するよ。若いのに悲惨だよ。すぐ手術しないとダメだよ」と言いました。私は50歳ですが、今までの人生が否定されたようで、言い返すこともできず、泣くことをこらえるだけで精一杯でした。
一方で、術前検査の担当だった若手医師は、「小児科医の仕事をしていて1型糖尿病とは、大変だったでしょう。検査もあと少しですから手術頑張りましょうね」と言ってくれました。聞けば、手術は名医に依頼すれば3カ月後ですが、この若手医師であれば3週間後に可能とのこと。私としては、できれば名医にかかりたい。大事な眼のことだからそう思っていましたが、この若手医師に手術してもらいたいと心から思ったのでした。「私、来月6月に眼科専門医試験を受けるぐらいですよ」と、彼は言っていましたが、20歳も年下の良医に受けた手術は見事うまくいきました。名医の手術であればもっと良かったのかもしれません。でも、自分の身は気持ちに寄り添ってくれた医師に預けたいと、心の底から思いました。医師となり25年。患者さんの気持ちを身をもって知った出来事でした。そして、治療成績だけでは、優れた医師とは言えないのではないだろうか、と思いました。
この研究結果から、単に男性医師より女性医師が優れていると結論づけられるものではないことには、注意が必要です。担当患者数や勤務体系、担当の患者の重症度など、様々な条件が患者死亡率には関係しておらず、すべての条件が一致させることは難しいためです。ただ、この研究により、医師の世界を男性優位のままにしていくよりも、女性の医療業界への進出を推進・支援し、医師になるチャンスを男女平等に与えることが重要であることが、わかりました。医師には男性が多い、というイメージだけで医師を男性の職業と決めつけるのではなく、女性医師の優れた特性に目を向けることが重要です、その上で男女の違いについても考え、男性医師も女性医師も自らの能力を十分に生かして診察にあたることができるような仕組みを作ることが大切であると言えるでしょう。女性医師は今後増えていく傾向になると思われます。男女が平等に医師になるチャンスを掴むことができる社会の到来が待ち遠しいですね。
【提供】秋谷進
東京西徳洲会病院小児医療センター 小児神経科医師。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。
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