【世界糖尿病デー】糖尿病合併症のリスクが低いのは男性より女性、予防行動者率の性差が影響か
\11月14日は世界糖尿病デー/
本稿は、東京西徳洲会病院小児医療センターの小児神経科医師・秋谷進氏による寄稿記事です。世界糖尿病デーに合わせ、糖尿病の合併症における性差を明らかにした、興味深い研究論文を解説します。
糖尿病合併症のリスクに性差
今回紹介する論文は、糖尿病についてです。もともと糖尿病の有病率自体には男性と女性とで大きな差はありませんが、合併症の罹患率については性別によって異なる可能性があることがこれまで報告されています。Alice Gibson先生らによって、2024年5月16日「Journal of Epidemiology & Community Health」に報告された今回の研究では、糖尿病合併症が生じるリスクの高さは男女ともに変わりないが、これまでの報告通り糖尿病の合併症、特に心血管疾患(CVD)や腎臓、下肢合併症のリスクは男性の方が高いことがわかりました。これは女性は自分の健康に配慮してライフスタイルを変えたり、検査を受けたり、薬を定められた用法用量で使用するといった自分の体を労わる要素が大きいからではないかと結論づけています。
糖尿病について
世界的に、糖尿病の有病者数は増加し続けています。2021年には20歳から79歳の推定5億3,700万人が糖尿病を患っており、2045年には7億8,300万人に増加すると予測されています。日本では2021年における糖尿病人口は1,100万人と推定されており、世界第9位の糖尿病大国となっています。そして糖尿病の有病率は男性と女性でほぼ同じです(全世界の有病率はそれぞれ8.9%と8.4%)。糖尿病では、全身の細い血管や神経の障害が出てきます。 その結果、「三大合併症」である糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害以外にも様々な合併症が生じます。しかし糖尿病関連合併症の発症率と進行は性別により特異的です。これまでの報告では、心血管疾患に関してのリスクの高さは、糖尿病のある女性よりも糖尿病のある男性の方が高いことは確立されています。しかし、網膜症、神経障害、腎症などの微小血管合併症における性差に関する報告は乏しく、明確にされていません。そこで、微小血管合併症における性差に着目した研究が行われました。
研究方法
オーストラリアのある地域における45歳以上の成人2万5,713人(男性57%)を追跡調査しました。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、野菜・果物の摂取量、喫煙・運動習慣、教育歴、保険の種類、糖尿病の家族歴、心血管疾患の既往歴、高血圧・高コレステロール血症の治療歴など)を調整したCox比例ハザードモデルにより合併症のリスクを解析しました。
結果
心血管疾患発症率は男性が1,000人/年当たり43、女性が30で、女性に対する男性のハザード比(HR)は1.51(95%信頼区間1.43-1.59)、糖尿病性腎症の発症率は男性36、女性26でHR1.55(同1.47-1.64)、下肢合併症は男性25、女性18でHR1.47(1.38-1.57)であり、いずれも男性が有意にハイリスクでした。眼合併症の発症率は男性52、女性53で、ほぼ同程度であるものの、糖尿病網膜症の発症率については、男性10、女性9でHR1.14(同1.03-1.26)で、男性がわずかに高い結果となりました。
考察
糖尿病のある方は、男女ともに全体的に合併症のリスクが高いことがわかっていますが、疾患によってはリスクに性差が見られ、中でも心血管疾患、糖尿病性腎症や、下肢合併症においては男性の方がハイリスクであることがわかりました。これは、成人男性は成人女性と比べ、喫煙率、BMI、腹囲、収縮期および拡張期血圧、HDLコレステロール比、中性脂肪、HbA1cが高いといった、ライフスタイルを起因とした健康状態の性差が関係していると考えられ、合併症のリスクが男性の方が高いのは、女性は自分の健康に男性よりも配慮しているからであるからと推測されます。なお、糖尿病の罹病期間が長い人は合併症のリスクが高いため、性別を問わず、糖尿病診断後からは合併症予防のための治療戦略と検査が必要であると研究者らは結論づけました。
【提供】秋谷進
東京西徳洲会病院小児医療センター 小児神経科医師。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。
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