「からだの自己決定権」がない女性たち、国連報告
国連人口基金(UNFPA)は今月14日、「世界人口白書2021」を発表し、その中で、57の開発途上国において約半数の女性がパートナーとの性交渉、避妊薬・避妊具の利用、ヘルスケアの 3 つの分野において自己決定権が制限されているとの報告をまとめた。国連の報告書で「からだの自己決定権」に焦点をあてたのは今回が初めて。
目次
女性の「からだの自己決定権」とは?
世界人口白書は世界の人口問題の進捗や潮流についてまとめた報告書で、UNFPAが1978年から毎年発表している。毎年テーマを選んで特定の問題を取り上げており、今年は「私のからだは私のもの 〜からだの自己決定権を求めて〜」。
女性における「からだの自己決定権」とは、自分の身体に関することを“自分自身で”選択したり、選択する力を意味する。これを行使できないというのは例えばこういうことだ。
- 自分で結婚相手を選べない
- 自分で結婚のタイミングや子どもを産むタイミングを選べない
- 古い慣習を背景に女性器を切除される
- 性交渉を拒否できない
- 性交渉時に避妊具・避妊薬を使えない
- 妊娠人工中絶が認められない(例えレイプによる妊娠であっても)
- 適切な医療サービスを受けられない、アクセスできない
など
女性の「からだの自己決定権」が損なわれ上記が蔓延すると、個人と社会、その両方がダメージを受けることになる。女性は心身への深刻なダメージを受けるだけでなく、教育や就労の機会をも奪われる。社会には経済的生産性の低下がもたらされ、結果的にヘルスケアや司法制度に余分なコストをかける必要性が出てくる。
「からだの自己決定権」有無、調査結果
57カ国、ワースト3
今回の報告書の対象となったのは開発途上国57カ国の15〜49歳の女性で、国別に以下3項目で割合を出した。
- 性交渉を断ることができる
- 避妊するかを自ら決められる
- 健康管理を自ら決定できる
いずれの項目も国によってばらつきがあり、項目別のワースト3は以下の国だった。
<性交渉を断ることができる>
- ワースト1位:セネガル(19%)
- ワースト2位:マリ(31%)
- ワースト3位:ニジェール(35%)
<避妊するかを自ら決められる>
- ワースト1位:コモロ(71%)
- ワースト2・3位:マリ、ニジェール(77%)
<健康管理を自ら決定できる>
- ワースト1位:ニジェール(21%)
- ワースト2位:マリ(22%)
- ワースト3位:セネガル(31%)
男性都合の社会が浮き彫りに
その他、今回の報告書で明らかにされたのは以下。いかに男性優位・男性都合で作られた社会の中で女性たちが差別を強いられているのかを理解できる内容だ。
・20 の国や地域で「強姦犯との結婚」に関する法律が定められており、男性がレイプした女性や少女と結婚した場合、刑事訴追を免れることができる
・43 の国々では、配偶者間におけるレイプの問題を扱う法律が存在しない
・30 を超える国々で、女性が家の外で活動する権利が制限されている・障害を持つ少女や少年は、性暴力の標的になる可能性が約 3 倍高く、中でも少女は最も大きなリスクに晒されている
・ヘルスケア、避妊、性交渉に対して完全な自己決定権を持っている女性は、全体の55%
・マタニティケア(妊娠・出産・中絶)へのアクセスを保障している国は、全体の71%
・避妊への完全かつ平等なアクセスを保障している国は、全体の75%
・性に関する健康とウェルビーイングを支援する法律を制定している国は、全体の約80%
・包括的な性教育を支援する法律と政策がある国は、全体の約56%
(source:UNFPA)
自分の体をコントロール、するということ
今回のテーマ「からだの自己決定権」は、いわゆるSRHR向上に主眼を置いたもので、開発途上国における女性たちの「性と生殖に関する健康と権利」がいかに侵害されているのか、その現状が改めて可視化された。報告書の発表にあたりUNFPA事務局長のナタリア・カネム氏は、からだの自己決定権が否定されることはジェンダーの不平等拡大と暴力が固定化することを指摘し、次のように述べた。
「自分のからだをコントロールできる女性は、彼女の生活におけるその他の領域でも力を発揮する可能性が高まります。つまり、自己決定権だけでなく、自らの健康状態や教育水準、収入や安全性も向上します。その結果、彼女だけでなくその家族も健康的に生活できる可能性が高まるのです」(source:UNFPA)
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