広がるライフコースアプローチ、女性の健康を捉える視点は“点”から“線”へ 

女性のライフコースに起因する健康課題やライフコースに沿った健康支援への関心が、急速に高まる気配だ。いわゆる「ライフコースアプローチ」で、感度の高い各業界のマーケターが2010年代に女性マーケティングの指針としていた「ライフコースマーケティング」の復権とも言える動き。今回はヘルスケア業界に限定した広がりになるとみられるが、販促やPRのみならず研究開発のセクションも関心を寄せるのが当時との違い。昨今話題のPHRとの相性が良いことからも、業界人の関心は加速度的に高まりそうだ。ライフコースアプローチのコンセプトに沿ったヘルスケア製品・サービスの登場や、新たなマーケティング手法としての広まりが期待される。

ライフコースアプローチとは?

ライフコースアプローチとは、胎児期・幼少期・思春期・青年期・壮年期・高齢期に至る生涯の健康を経時的に捉え、人生の各ライフステージで抱える健康課題を解決したり、将来の健康のために病気予防を行うことを指す。健康状態や病気のリスクは、“現在”だけではなく“過去”の生活習慣や環境が大きく関係しているため(図34)、的確な健康支援により病気を予防する方法として、“点”ではなく“線”で健康状態を捉えるライフコースアプローチの考え方が注目されている。

女性の社会進出や育児・介護との両立など、生き方・働き方の多様化による新たな健康課題が生まれていること、また、人生100年時代の到来による社会課題の増幅や多様な健康ニーズが顕在化していることも、ライフコースアプローチの必要性が高まっている理由で、特定の集団や個々の特性をより重視するヘルスケアのあり方を実践する上で、重要な役割を担う概念になる。

現時点では、エビデンス構築に向けたライフコースアプローチの研究がアカデミアを中心に行われているが、過去の生活習慣や環境は、現在や将来の健康行動や健康消費の意思決定にも影響することから、今後はヘルスケアマーケティングへの応用に向けた企業による研究も活発化するだろう。なおライフコースアプローチは、女性マーケティングの指針としてさまざまな業種のマーケターが’10年代に採用していた「ライフコースマーケティング」と同様の考え方になる。ライフコースアプローチはその“ヘルスケアビジネス特化版”と考えると、理解しやすいかもしれない。

ライフコースアプローチ視点で浮かび上がる女性の健康課題

【出典】女性ヘルスケア白書2024(ウーマンズ作成)

 

 

WHOや国の健康施策、基盤は「ライフコースアプローチ」

ライフコースアプローチは世界的に採用されている考え方で、WHOや国も健康施策の基盤に据えている。国内においては’24年度から運用が始まった「健康日本21(第三次)」の中で言及されたことで認知が広がった詳細。健康日本21は国が主導する国民健康づくり運動で、00年に始まった。第三次となる今回は24年から35年までの12年間の健康施策の基盤として機能する。

今回の目標設定にあたっては、第二次で残された課題を踏まえ、性差と年齢とライフコースを加味した健康づくりの必要性からライフコースアプローチの視点が重視され、幼児期・思春期の健康状態や生活習慣が成人期の健康に影響すること、妊婦の健康状態や生活習慣が胎児の健康に影響すること、若年期の健康行動が高齢期の健康に影響すること、高齢期の行動が介護予防につながることなどにも言及した。

今後の12年間において特に強化される一つは女性の健康づくり。女性は生理・妊娠・更年期・閉経時に女性ホルモンの影響を受けることから、各ライフステージごとの対策が必要であり、また、自身の健康が次世代の健康にも影響することから、重点目標として今回初めて女性を切り出した目標設定がされた。

健康日本21(第三次)が重視する「ライフコースアプローチ」のコンセプトは各ガイドラインにも反映され、24年度に改訂された「健康づくりのための睡眠ガイド2023詳細」「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン詳細」「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023詳細」においても、女性のライフコースアプローチを踏まえた指針が明記された。今後、国・自治体をはじめ各所でライフコースアプローチを重視した情報発信がされるとみられ、概念そのものも女性生活者の間で広がっていくだろう。

 

ライフコースアプローチ視点を事業に取り入れるメリット

精度の高い女性の健康支援を実現

ライフコースアプローチの視点を事業に取り入れるメリットは、 精度の高い健康支援を実現できることだ。ターゲット層の健康状 態を現状の“点”で見るのではなく過去から現在までの“線”で捉え ることで、現在の健康状態を引き起こしている原因や、その解決 にあたって障壁になっているものを明らかにしやすいため、より 適切なケアを顧客に提供できる。特に女性は、女性ホルモンの変 動により健康状態が変わりやすい上に症状の個人差が大きく、ま た、妊娠・出産という生物学的役割や、家事・育児・介護といっ た社会的役割を背景に生き方・働き方が男性と比べ変化しやすい ことから、“線”で捉える考え方がより重要となる。その時々に選 択した生き方・働き方によって変化するライフコース特有の健康 課題に対応する目線も持てるようになる。患者が医師に既往歴を伝えることで、医師が適切な診断と治療法
の選択ができるのと同じ考え方で、製品・サービスの開発においても、ライフコースアプローチの視点を持つことで、ターゲット女性の健康課題をより的確に捉えた解決策を発想できる。的を得た適切な機能を設計できるだろう。

ただ実際は、製品・サービスで診療のように個別対応することは容易ではなく、いわゆるプレシジョンヘルスケアは技術面でもコスト面でも実現のハードルは高い。そもそも、過去からこれまでの健康状態・生活習慣・生活環境のみならず、本人が生まれる前の母親の健康状態や、本人が生まれてからこれまでの医療・健康データのあらゆる情報を集めることそのものが、現時点では現実的ではない。健康を形成する要素は、本人の遺伝的体質やヘルスリテラシー、医療へのアクセス状況、経済状況、居住地域の物理的環境や社会資源など多岐にわたるため、実現までの道のりは険しいだろう。

現時点でできることは、自社製品・サービスのターゲットとなる属性の女性に共通するライフコースを突き止める視点を持つことだ。「過去と今」「今と未来」の健康状態の因果関係を突き止めた研究報告はすでに多数見つけることができるので、それを製品・サービス開発に応用することもできるし、資金体力があれば、自社で調査研究を進めることもできる。製品・サービスに搭載する機能の選定はもちろん、見込み客とのコミュニケーションにおいても具体性が高まり、より刺さるマーケティングを設計できるだろう。

LTVの最大化

ライフコースアプローチの視点を持つことは、LTVの最大化にも貢 献する。ライフコースアプローチは言い換えれば、顧客の健康に 生涯にわたり寄り添うということ。今抱えている健康課題のみな らず、未来の健康状態や病気のリスクにまで踏み込むため、製品 ・サービスの形態によっては長期スパンで継続的に顧客の健康づ くりを支援できる。結果的に、LTVを高めることにつながる。

PHRの普及による女性生活者の意識変化に対応

ライフコースアプローチの視点を持った事業開発やマーケティン グをPHRが広く普及する前に設計することで、女性たちの意識変 化や行動変化に備えることもできるだろう。過去からこれまでの 個人の医療・健康に関するさまざまな情報を一元化して閲覧でき るPHRは、個々が自身の情報を把握することで健康管理しやすく なるのが利点で、健康に対してより主体的になったり、健康意識 が高まったり健康行動が起きるなど、行動変容促進の面でも期待 されている。ヘルスリテラシーが向上し、治療法の選択に積極的 に関わり自己決定を行う人も増えるだろう。健康状態の経時的変 化を踏まえて“今”と“未来”の健康状態を自身で分析・予測すると いった意識や行動も一般化するかもしれない。女性は男性よりも 一般的に健康意識が高く健康情報の収集にも積極的なため、UIや ウェブアクセシビリティ次第ではあるが、PHRが広く普及すれば 女性の方がいち早くそういったアクションを起こす可能性があ り、健康消費や健康行動にも大きく影響すると考えられる。普及 による女性たちの健康意識の変化や、健康・医療における消費基 準の変化を見据え、今から、開発やマーケティングの設計にライ フコースアプローチ視点を取り入れると良いだろう。

 

女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート

2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書 市場動向予測2026  〜健康トレンド・業界動向・女性ニーズ〜」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください。

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