ヘルスケアマーケティングとは? 女性ヘルスケア市場で成果を出すための基本知識と6つの視点
女性ヘルスケア市場は拡大を続ける一方で、参入企業の増加や生活者の健康課題の多様化などを背景に、市場環境は年々複雑化している。さらにSNSや動画メディアの普及によって健康情報が溢れ、企業は従来以上に生活者との信頼関係の構築が求められるようになった。こうした中で重要性を増しているのが、ヘルスケア領域特有のマーケティングスキルだ。女性ヘルスケア市場で成果を出すために押さえておきたい、ヘルスケアマーケティングの基本知識と6つの視点を確認していこう。
目次
ヘルスケアマーケティングとは?
ヘルスケアマーケティングの定義
ヘルスケアマーケティングとは、健康・美容・医療・介護などのヘルスケア領域において、生活者の健康課題やニーズを理解し、商品・サービス・情報を適切に設計したり届けるためのマーケティング活動全般を指す。近年、女性ヘルスケア市場をはじめとするヘルスケア市場は拡大を続けている一方で、生活者の価値観や情報収集行動は多様化し、企業にはこれまで以上に生活者理解に基づいたコミュニケーションが求められるようになった。こうした中で、商品・サービスの認知施策だけでなく、健康課題への理解促進や行動変容、継続利用の支援までを含めたマーケティングの重要性が高まっている。
一般的なマーケティングとの違い
一般的な商品・サービスのマーケティングでは、認知向上や購買促進が主な目的となる。一方でヘルスケアマーケティングは、生活者の健康課題や健康意識が購買に関わるため、マーケティングの目的は行動変容や健康習慣の形成にまで広がる。
例えば食品や日用品は、品質や価格、利便性、容量、パッケージデザインなどが購買の決め手となりやすい。しかしヘルスケア領域では、こうした商品特性を訴求する前に、まず生活者に健康課題を認識させ、その課題を解決する必要性を理解させるプロセスが欠かせない。また、健康食品や運動プログラム、健康アプリなどは、継続的な利用によって初めてその価値が認識されるため、「認知」や「購入」だけでなく、「習慣形成」までを含めた中長期目線のマーケティング設計が必要になる。
さらに、健康や医療に関する情報は専門性が高く、生活者にとって理解が難しい場合もあるため、企業には、正確で信頼性の高い情報発信と、生活者視点に立ったわかりやすいコミュニケーションの両立が求められる。加えて、医薬品や医療機器、健康食品、化粧品などは法規制や制度の影響も受けることから、一般消費財以上に慎重な姿勢でマーケティング活動に臨む必要がある。
なぜ、ヘルスケアマーケティングは難しい?
ヘルスケア領域のマーケティングが難しい理由の一つは、生活者自身が健康課題を十分に認識していないケースが少なくないからだ。例えば、更年期症状や生理関連の不調、睡眠課題などは、「年齢によるもの」「体質だから仕方がない」と捉えられることが多く、解決策を探す行動に至りづらい。そのため、商品・サービスを訴求する前に、まずは生活者の課題認識を促す必要がある。また健康課題は個人差が大きく、同じ女性であっても年齢やライフステージ、体質、価値観、家庭環境、働き方、職業、経済状況などによってニーズが異なるため、一律のメッセージではターゲット層に刺さりづらい。
さらに、健康行動の変容に時間がかかることも、マーケティングを難しくしている要因だ。健康課題を認識しただけでは意識・行動の変容は難しく、理解、納得、実践、継続といった段階を経て初めて行動が変化し、習慣として定着する。
ヘルスケアマーケティングにおいては、生活者の健康意識の行動特性を深く理解した上で、中長期的な視点でコミュニケーションを設計することが重要だ。
女性ヘルスケアマーケティングで押さえたい6つの視点
プレイヤーが増え続ける女性ヘルスケア市場で、商品・サービスの機能だけで差別化するのは簡単ではない。鍵は、ライフステージや年齢に伴う健康課題の理解や、生活者の健康意識・健康行動・健康消費の特性や価値観などを丁寧に理解することだ。近年は、こうした理解を深めるためのさまざまな考え方やフレームワークの活用が広がっている。ここでは、女性ヘルスケアマーケティングを考える上で押さえておきたい6つの視点を整理した。
視点1:ライフステージ
女性の健康課題や関心ごとは、ライフステージによって変化する。例えば思春期には生理、20〜30代では妊娠・出産、40〜50代では更年期、高齢期にはフレイルや介護などに関心が向きやすい。以下は、ライフステージ別の主な健康課題。
■思春期(10〜18歳)
・月経痛
・PMS、PMDD
・摂食障害(拒食症)
・月経異常
など
■性成熟期前半(18〜29歳)
・月経痛
・PMS、PMDD
・摂食障害(過食症)
・性感染症
・望まない妊娠
・うつ病
・女性がん(子宮頸がん)
・栄養バランスの偏り
など
■性成熟期後半(30〜45歳)
・月経痛
・PMS、PMDD
・不妊症、不育症
・産後うつ
・早期閉経
・女性がん(子宮頸がん、乳がん)
・バセドウ病
・ダブルケアによる心身の不調
など
■更年期(45〜55歳)
・更年期症状
・生活習慣病
・女性がん(子宮体がん、乳がん、卵巣がん)
・子宮体がん
・関節リウマチ
・飲酒過多
・睡眠不足
・アラフィフクライシス
など
■老年期(55歳以上)
・更年期症状
・生活習慣病
・子宮脱
・骨粗鬆症
・女性がん(子宮体がん、卵巣がん)
・ロコモティブシンドローム
・低栄養
・オーラルフレイル
・認知症
など
このように女性はライフステージによって健康課題が異なるため、女性ヘルスケアマーケティングを設計する上では、「女性向け」と一括りにするのではなく、ライフステージごとの健康課題やニーズの理解が重要だ。商品開発やサービス設計、情報発信においても、それぞれのライフステージに応じたアプローチが求められる。
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視点2:性差
ヘルスケア領域では近年、「性差」に着目した研究が推奨されている。疾患の症状や薬の効き方などに性差があることを明らかにする研究で、それに基づいた医療が「性差医療」と呼ばれる。
ヘルスケア領域における性差というと、女性のみが有するもの(生理、妊娠、出産、更年期、女性特有がんなど)や、男性のみが有するもの(精巣、前立腺など)といった、どちらか一方の性が有するものを思い浮かべがちだが、男女共通で発症する疾患における性差もある。例えば、女性喫煙者は男性喫煙者よりも肺がんを発症しやすいといった性差や、認知症の症状は、女性は妄想状態の頻度が高いのに対し、男性は介護者に対する攻撃や暴力が問題になりやすいといった性差が報告されている。
こうした性差への着目は先行して医療分野で広がり、国内では2000年代はじめに医療現場に導入された。2020年代に入ると、女性の健康課題が社会的に議論されるようになりフェムテックが一大ブームとなったことで、ヘルスケア業界でも性差への関心が急速に高まった。
性差研究は世界的に発展途上にあり、性差に基づいた商品・サービスの開発は現状は限定的だが、性差への着目はヘルスケアマーケティングの世界でも広がっている。健康意識や健康行動、健康消費に関するさまざまな調査では、男女間で異なる傾向が確認されている。近年は多様性への配慮から、生活者調査を男女合算で実施する企業が増えているが、生物学的性差に由来する健康課題は根本的に異なることから、ヘルスケア領域では男女別に分析することが望ましい。より実態に即した示唆が得られる。
女性ヘルスケアマーケティングにおいては、こうした性差を踏まえた生活者理解も重要だ。
視点3:ライフコースアプローチ
ライフコースアプローチとは、人の健康を特定の時期だけで捉えるのではなく、生涯を通じた連続的な視点で健康課題を解決したり病気予防を行うことを指す。今の健康状態や将来の病気のリスクは、“今”だけではなく“過去”の生活習慣や環境が関係することから、“点”ではなく“線”で健康状態を捉えたり健康づくりを行おうということだ。この考え方はWHOが健康施策の基盤に据えており、国内では「健康日本21(第三次)」の中で言及されたことで認知が広がった。
では、「点ではなく線で健康状態を捉える」とは、具体的にどういうことか? 例えば以下が当てはまる。
- 若年女性の低栄養は妊娠期の胎児の健康に影響を及ぼす
→対策:将来の妊娠に備え、若いうちから栄養状態を整える - 親が喫煙する環境で育った子どもは、受動喫煙により将来のがんリスクが高まる
→対策:子どもの受動喫煙を防ぐために、親は子どもの近くで喫煙をしない - 運動不足が将来のロコモのリスクを高める
→対策:将来のロコモを防ぐため、若いうちから運動を習慣化する
このように、健康リスクの要因を中長期で捉える視点を持つことで、早い段階から適切な予防対策に取り組める。これが、ライフコースアプローチによる生活者側のベネフィットだ。
一方の企業側は、ライフコースの視点を持つことで精度の高い女性の健康支援を実現できることが利点。生活者の健康状態や健康リスクを、過去・現在・未来の線で捉えることで、より的確なケアを提供できるようになるからだ。また、LTVの最大化にも貢献する。ライフコースアプローチは、言い換えれば顧客の健康に生涯にわたり寄り添うこと。商品・サービスの形態によっては、ライフコースアプローチの考えを軸に、生涯にわたり継続的に顧客の健康づくりを支援できる。
視点4:行動変容
ヘルスリテラシーは一般的に男性より女性が高いことが知られているが、例えヘルスリテラシーがあり健康関心層にいる女性であっても、 仕事や家事などさまざまな生活上の理由などから、健康行動を継続させることは容易ではない。健康無関心層であれば、なおさら困難だ。そこで役立つのが、健康への関心度合いや健康行動レベルを5段階で示した「行動変容ステージモデル」。各ステージごとのマーケティング施策を設計する際に参考になる。

行動変容ステージモデル(編集部作成)
ちなみに、どのステージにいる女性をターゲットに据えるべきかは、各社のリソースや戦略にもよる。無論、多くの事業者が購入可能性の高い「実行期」の女性をターゲットにしたいと考えるが、 他社と見込み客を奪い合うことになるため、価格競争やPR合戦に巻き込まれる可能性がある。一方、あえて「無関心期」の女性をターゲットに策定する戦略をとる企業もいる。将来の見込み客へと育成することが狙いで、特にリソースが潤沢で、長期にわたる事業継続が確定している大手企業が取る戦略だ。
ターゲット層の行動変容ステージを事前に策定 することで、有効なアプローチ方法が明確になるばかりか、 中長期的なマーケティング戦略も見えてくる。
ほか、マーケティングに行動変容施策を組み込むにあたっては、エコロジカルモデルの視点も必要だ。人間の行動や価値観は、環境との相互作用によっても形成されると考える理論的枠組みで、ターゲット層を取り巻く環境に目を向けた施策の設計に役立つ。
個人の行動は、個人レベルの要因のみならず、家族や友人、学校や会社などの所属コミュニ ティ、居住場所の物理的環境や社会資源などの影響を受けるため、本人への直接的なアプローチだけが行動変容施策の正解とは言えない場合がある。ターゲットとする生活者が、どのような環境下にいて、何が健康行動の妨げになっているのか? 幅広い視点を持つことでも、効果的な行動変容施策を設計できる。

エコロジカルモデル(編集部作成)
視点5:女性ヘルスケア市場を横断的に捉える
女性ヘルスケア市場は、健康、美容、医療、介護、フィットネス、健康食品などの領域が明確に分かれているわけではない。例えば、更年期ケアは医療にも健康にも関わり、美容医療は美容と医療の両方の側面を持つ。近年は、テクノロジーの活用や異業種からの参入、企業同士の共創などを背景に、こうした領域間の境界はさらに曖昧になっている。そのため、マーケティング戦略を考える際には、自社が属する市場だけを見るのではなく、隣接市場も含めて横断的に捉える視点も必要だ。
例えば、自社の商品やサービスを「フェムテック市場」の中だけで位置付けると、市場機会を限定してしまうかもしれない。しかし、「美容室市場」や「リラクゼーション市場」「スポーツ市場」といったより広い市場の中で捉え直すことで、これまで接点のなかった顧客層へのアプローチや、新たな販路開拓の可能性が広がる。
女性ヘルスケア市場におけるマーケティングは、市場を細分化して理解する視点と同時に、市場全体を俯瞰しながら事業機会を探る視点も重要だ。
視点6:マーケティングの共創
女性ヘルスケア市場では、一社単独で生活者の課題を解決することが難しくなっていることから、企業同士の連携に加え、自治体、医療機関、大学、研究機関、メディアなど、多様な主体が協力するオープンイノベーションや共創の取り組みが広がっている。女性特有の健康課題は社会的な要素も大きく関わるため、商品・サービスの開発だけでなく、啓発活動や環境整備を含めた取り組みが重要となる。マーケティングにおいても、単独企業による発信ではなく、多様なパートナーとの連携が成果につながるケースが増えている。
女性ヘルスケア市場で求められるマーケティングとは
市場の成熟に伴い、商品やサービスの機能だけで差別化することは難しくなっている。特に近年は、一次予防領域を中心に参入企業が増加しており、ヘルスケアマーケティングの巧拙が事業成果を左右する場面も増えている。マーケティングというと、SNS活用やパーソナライズドマーケティングなどの手法に注目が集まりがちだが、女性ヘルスケア市場では、その前提として、ライフステージによって変化する健康課題や生活者の価値観、健康行動の特性、さらには性差などを理解することが欠かせない。本稿で紹介した性差視点、ライフステージの視点、ライフコースアプローチ、行動変容、生活者理解、市場の横断的な把握といった考え方は、いずれも女性ヘルスケア市場を理解するための基礎となるものだ。市場環境や生活者ニーズが変化し続ける中、こうした視点を踏まえながら市場を捉え、事業やマーケティング戦略に反映していくことが、今後ますます重要になるだろう。
女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動向予測」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください。レポート詳細・お申し込みはこちら。

























