女性の健康市場をどう読む? 10年の変遷を踏まえて提示する2026年の事業機会(編集長コラム)
本年度の女性ヘルスケア市場動向を予測する市場分析レポート「女性ヘルスケア白書2026」を、今年も無事4月に発刊しました。女性の健康意識や行動、消費に影響を与える関連市場を横断的に分析し、本年度の有望市場や事業機会を読み解く構成としているのが特徴で、woman’sが発刊するレポートの中で最も人気のレポートです。本稿では、なぜ本白書が「事業機会の発見」を重視するようになったのか、そして、トレンドや情報が過剰に行き交う時代に企業は何を見極めるべきなのかについて、この10年の市場の動きを振り替えながらお話ししたいと思います。
女性ヘルスケア市場は想像以上に“複雑”に、10年で勝ち筋は変化
「ヘルスケアビジネスの高度化」と「レポート制作期間」は相関関係
本白書は編集部が1年の中で最も力を入れて制作するもので、他のレポート以上に企画・制作に時間を投じているのですが、今回はトータル約5ヶ月に及び、例年以上に時間を要しました。制作期間は年々長期化しているため、編集部としては”課題”として認識を強めているわけですが、この状況を他の側面から説明すると、ヘルスケアビジネスの難易度が上がっていることが大きく影響していると、本年度分の制作を通じて改めて痛感しています。
10年前は戦略もスキルも「シンプル」、今は全てが「複雑」
健康づくりがおしゃれなライフスタイルや自己表現として、女性たちの間で世界的トレンドとして広がり始めたのは、2010年代前半のこと。当メディアはそんな時代の新しい空気感の中で誕生し、同時に業界に向けて、女性ヘルスケア市場の動向予測の発表を開始しました。当時は女性向けのヘルスケア製品・サービスがこれほどまでに多様化していなかったこともあり、各社にとって事業機会は今よりずっと見つけやすい環境にありました。企業ごとの棲み分けも割と明確に線引きされていて、例えば健康食品メーカーは健康食品の開発、化粧品メーカーは化粧品の開発というように、異業種による食い合いのない穏やかな市場でした。
マーケティングの設計もシンプルで、当時の事業担当者が注目する戦略と言えば、「女性マーケティング」「ライフコース」「SNS」あたりと限定的で、マスターすべきSNSは、Twitter(現X)、Instagram、Facebook。加えて当時は「働く女性」「ママ」「アクティブシニア」が存在感を高めていたこともあり、“女性向け”という切り口そのものが、ヘルスケア市場でも十分な差別化要素となっていました。この辺りを戦略として押さえておけば、十分に競争力を持つことができていたのです。
それから一変、この10年ほどで環境は様変わりしました。プレイヤーの激増に加え業種間の壁は急速に曖昧になり、例えばフィットネス企業が遺伝子解析、化粧品メーカーが健康食品の開発、マーケティング支援企業が化粧品の開発など、以前なら発想できなかった競争が次々と生まれるようになりました。加えて、一般化しつつある共創やアライアンスを入り口にヘルスケア市場に新規参入する事例も増えています。
そして事業担当者に求められるスキルや役割も、以前とは比較にならないほど高度化しました。AIやデータ活用、制度対応、成熟市場における持続可能な事業機会の探索、他社との連携推進、BtoC事業とBtoB事業の両立など、とにかく今は多岐にわたります。マーケティングチャネルやコミュニケーション手法も多様化し、TikTok、note、YouTube、LINE、Voicy、Substackなど、気づけばマーケティングに活用できる媒体は大幅に増えました。今や「SNS疲れ」や「ツール疲れ」「発信疲れ」は、企業にも起きています。
こうした複雑化は、女性生活者側も然りです。人生100年時代がトレンドワード化したことで、この10年の間で「長生き不安」や「備え」が広がったほか、顕著な非婚化・晩婚化・晩産化や単身高齢女性の増加、夏の長期化による健康不安などを背景に、女性を取り巻く健康課題や健康ニーズは以前にも増して多様化しています。さらに今後は生成AIの普及によって、健康情報へのアクセス構造そのものが変化すると予測され、企業のコミュニケーション戦略やマーケティング設計、行動変容施策も、近い将来で大きな転換期を迎える可能性があります。
「販促の競争」から「市場発見の競争」へ
こうした市場変化を受け、本白書に求められる業界での役割も、この10年で大きく変わりました。
2010年代中盤〜後半は、市場環境が比較的穏やかだったこともあり、女性ヘルスケア市場では「何をつくるか?」よりも「どうやって届けるか?」に、より重心を置く企業が多かった印象があります。当時、当社のコンサルティング部署に寄せられる相談も、「CMを出したが成果につながらない」「ターゲット女性の間で話題を広く醸成したい」「リブランディングを行いたい」など、認知形成やPR施策に関するテーマが中心でした。少々大雑把な整理になりますが、当時は「販促の競争」が市場での勝ち筋を左右していたと言えます。
翻って今、企業から聞こえてくるのは「どこに未充足の需要があるのか?」「何がこれから新市場になり得るのか?」「どの健康課題が優先的に社会課題化するのか?」といった、市場や事業機会そのものに関する話が中心です。日々の取材や企業人との雑談の中でも、よく上がるトピックになりました。
この10年の変化を一言で表すなら、「販促の競争から市場発見の競争へ」でしょうか。新しい市場を誰がいち早く発見するか―― つまり「市場を発見する力」そのものが、今後の勝ち筋を左右するようになったという見方ですが、この背景にあるのは、単純なプレイヤー増加による競争激化だけではありません。特に2010年代以降で、ヘルスケア市場の主戦場が「治す(2次予防)」から「健康維持増進・予防(1次予防)」へと急速に広がったことで、これまで市場化されてこなかった健康課題が次々に新市場として立ち上がったという、業界全体の成功体験も大きく影響しているように思います。
ただ、こうした“次の新市場”は、今や容易に立ち上げられるものではなくなっています。生活者調査や過去の成功事例から読めるものでもありません。食事、運動、睡眠といった人間の健康の土台づくりとも言える領域や、生活習慣病対策の領域は、2010年代以降で急速に市場形成が進み、例えば「健康食品市場」「睡眠市場」「フィットネス市場」といった基本的な健康づくりに関わる市場カテゴリーでは、女性たちのニーズは大方満たされるようになりました。中には、市場成長が鈍化しているカテゴリーも出てきています。
これからは、以前のように新しい市場が次々に立ち上がることはないでしょう。もちろん、特定の不調や疾患を対象にしたニッチ市場を攻める考え方もありますが、今後、大型市場として立ち上がりを期待できるのは、従来のように「一健康課題を解決する市場」ではなく、明確に社会課題化された健康課題で、かつテクノロジーの活用により広範に社会実装できる市場なのではないかと見ています。
話は戻りますが、このように企業人のニーズが「販促の競争から市場発見の競争へ」と変化したことを受け、本白書の制作チームの役割認識も、「企業の認知施策の意思決定を支える存在」から「事業機会発見の意思決定を支える存在」へと移行しました。そこで2023年に構成を大幅に見直し、女性ヘルスケア市場の中でも特に成長が期待される有望領域を特定し、中長期視点で事業機会を提示する方向へと舵を切りました。
市場予測で捉えるべきは「何が流行る?」より「なぜその市場が動く?」
以上の背景から、本白書の「5つの最新動向」では、単年度の話題や短期的な流行は取り上げていません。女性ヘルスケア市場を長年にわたり定点観測してきた編集部の知見や、日々の取材活動、国内外の市場・政策・生活者動向の分析をもとに、中長期視点で構造的な成長が見込まれる領域を選定しています。
市場環境の変化が激しくなる中、目先のトレンドや話題だけでは、持続的な事業機会を見極めることは年々難しくなっています。特にヘルスケア市場は、人口動態の変化や女性の生き方・働き方の多様化といった社会構造の変化による影響を受けやすい上に、テクノロジーの進展や各種制度も需要に影響するため、適切な市場の解釈が必要です。そのような認識のもと、本白書では「なぜその市場が生まれているのか?」「どの社会変化や社会課題と連動しているのか?」「今後どのように広がる可能性があるのか?」といった背景までを含めた分析に重点を置いています。
最近は、2020年前半で爆発的に盛り上がったフェムテックのブームがピークアウトしたことを受け、「女性ヘルスケア市場全体も縮小しているのではないか」といった声も聞かれます。しかし、フェムテックを含めた女性ヘルスケア市場全体を俯瞰すると、これからの成長が期待される有望領域は数多く存在していることがわかります。フェムテックについても、単独市場として捉えるのではなく周辺市場との接続を前提にすることで、新たな事業機会が見えてきます。
さらに現在は、ヘルスケア産業の国際展開が国策レベルで強化され、現政権も女性の健康課題への対応を重要テーマとして位置付けています。こうした流れも踏まえると、日本の女性ヘルスケア市場には、まだ多くの成長余地と可能性が残されていると、改めて気付かされます。この可能性を、女性ヘルスケア事業に取り組む皆様にも大いに感じてほしいと思っています。
市場環境が複雑化している今だからこそ、より広い視点から、そして中長期目線からも市場構造を読み解くことの重要性が高まっています。このような時代だからこそ、女性の健康を取り巻く関連市場を横断的に分析した本白書の有用性を感じていただけるのではないかと思います(※)。ぜひ、皆様の女性ヘルスケア事業の意思決定にお役立ていただけましたら嬉しいです。
女性ヘルスケア白書2026制作責任者
ウーマンズラボ編集長
星ノ矢子
(※)本白書では、予防・医療・介護・美容・食・運動・睡眠・メンタルヘルス・健康経営・ウェルビーイングなど、女性の健康意識・行動・消費に影響する関連市場を含めて横断的に分析しています
女性ヘルスケア市場2026年、5つの最新動向
“母親” が成長を牽引、人口動態と社会環境の変化が生む新市場
少子化や働く女性の増加、テクノロジーの普及に伴う生活環境の変化が、新たな需要と事業機会を生み出しています。世界的な成長が見込まれる中、その鍵を握るのが”母親”。この新市場の事業機会を、国内外の最新動向や規制議論から整理し、先行して取り組む企業の成功事例や、最新のテクノロジーの活用事例を紹介。2026年度に講じるべき市場開拓のポイントまでを徹底解説します。
“働く女性” を起点に連動する2大需要、広がる事業機会
高齢化で深刻化する社会課題への対応が急ピッチで進められる中、新市場と既存市場が相互に需要を押し上げる構図が鮮明になり始めています。この課題の影響を特に受けやすいのは”働く女性”であり、市場拡大を支えるコアターゲットとして注目されています。両市場の構造、政策動向、先行事例からそのメカニズムを読み解き、最新の事業機会を提示します。
“外国人女性” が広げる市場機会、訪日・在留需要が生む新たな海外展開モデル
縮小する国内市場を補完する需要として、”外国人女性”の存在感が急速に高まっています。政府が掲げる目標「訪日客による消費額を2030年に15兆円」の達成が迫り、同時に医療のインバウンド・アウトバンドの戦略的な両輪が進められる中、健康・美容・医療・介護領域で新たなビジネス機会が生まれています。大きな消費パワーを持つ”訪日女性”と、安定的な需要を生む”在留女性”の動向に注目しながら、国内需要への対応から広がるグローバル展開という新たな事業モデルを見ていきます。
ブーム後に問われる本質的価値、市場で定着するフェムテックの条件
ブーム収束を経て転換期を迎えたフェムテック市場。淘汰と再編が進み、市場で求められるものが”話題性”から”実用性”へと変化した今、普及・定着させられるフェムテックの条件とは何なのか?堅調な成長が見込まれるものの市場の熱量が低下しているというギャップは、どのように乗り越えればいいのか?持続可能な収益化に向けた最適解を、政策動向、関連データ、キーパーソンへの取材などから探っていきます。
ヘルスケアビジネスの高度化で標準化が進む事業戦略、競争力の新たな源泉に
平均寿命の延伸に伴う健康課題の複雑化、先端テクノロジーの目覚ましい進化、社会実装プロセスの多層化などを背景にヘルスケアビジネスの難易度が高まる中、女性ヘルスケア業界では新たな成長戦略が標準化しつつあります。競争力の源泉として注目が高まる背景として、業界特有の7つの課題を確認しながら、同戦略が有効に機能する要因を解説。合わせて、先行する事例を3タイプに分類して紹介します。
「女性ヘルスケア白書22026 市場動向予測」の詳細はこちら!
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