成人女性における「月経痛の重症度」と「生活習慣」の関連が明らかに
本稿は、東京西徳洲会病院小児医療センター小児神経科の秋谷進医師による寄稿記事です。月経痛と生活習慣の関連に焦点を当てた研究は思春期の女性を対象にしたものが多い中、本研究では成人女性を対象にしていることから、今回は本トピックを選定。成人女性における生理痛の重症度別に生活習慣との関連を明らかにした研究論文を解説します。
成人女性における“月経痛の重症度”と“生活習慣”の関連
順天堂大学の奈良岡佑南氏らは2023年4月に、朝食の摂取および浴槽にしっかりとつかる入浴習慣、魚や肉に含まれる動物性タンパク質を摂取することや、ビタミンD、ビタミンB12を欠乏しないことが月経痛の緩和につながる可能性を報告しました。
月経痛について
月経痛の主な原因は、月経に伴う子宮収縮によるプロスタグランジン、バソプレシン、ロイコトリエンの過剰分泌などと考えられています。そして女性の約80%が月経痛と月経前症候群(PMS)を経験しています。これらは、女性の生活の質と仕事の生産性を低下させることがわかっています。今では日本の女性の就業率は年々上昇し、44.1%にもなっています。これまでの研究では、生活習慣と月経痛や月経関連症状との関連性が報告されていますが、その研究の多くは中学生や大学生を対象としたものが多く、20代や30代の働く日本人女性に関する研究はほとんどありませんでした。さて、20代や30代の働く日本人女性が月経とうまくつき合っていくためにできることとは何があるのでしょうか?
研究方法
対象は2018年5月23日から6月6日まで、一般社団法人ラブテリのオンラインプラットフォームを通じて、この調査の参加者を募集しました。そのうち非ステロイド性抗炎症薬などの薬を使用している、摂食障害やアルコール依存症、妊娠中または授乳中、病気があり治療中(ホルモン療法を含む)や、経口避妊薬を服用している者などは研究から除外し、20〜39歳の健康な女性321人を対象としました。
月経痛のレベルについて「痛みで動けなくなる」「薬を飲まないと一日を乗り切れない」「痛みはあるが日常生活に支障がない」「痛みはほとんどない」の4つの項目で調査し、「痛みで動けなくなる」「薬を飲まないと一日を乗り切れない」と答えた人を「重い」、「痛みはあるが日常生活に支障がない」「痛みはほとんどない」と答えた人を「軽い」に分類しました。
結果
結果は76.19%が月経痛を経験し、1.90%が「痛みで動けなくなる」、30.16%が「薬を飲まないと一日を乗り切れない」、44.13%が「痛みはあるが日常生活に支障がない」、23.81%は「痛みはほとんどない」でした。
月経痛の「重い」グループでは、総タンパク質、動物性タンパク質、ビタミンD、ビタミンB12、魚の摂取量が有意に少ないことがわかりました。一方で、月経痛の「重い」グループにおいて砂糖、ラーメン、アイスクリームの摂取量が有意に多いことがわかりました。また、ほぼ毎日朝食を摂る割合は、月経痛が「重い」グループは64.4%であり、「軽い」グループの73.6%に比べて大幅に低くなっていました。
栄養・食事以外の生活習慣に着目すると、毎日浴槽につかり入浴する割合が、月経痛が「重い」グループは26.7%であり、「軽い」グループの40.5%に比べて大幅に低くなっていました。なお睡眠時間や1日30分以上の運動習慣のある人の割合については有意差がありませんでした。
考察
これまでの研究で、ビタミンDやビタミンB12サプリメントを摂取すると痛みが軽減されることは明らかにされており、また今回の調査では、朝食の食事頻度や入浴頻度、睡眠満足度は生理痛と関連していることがわかりました。一方で、睡眠時間や運動は痛みと関連していないことがわかりました。また、これまでの研究では、朝食を抜くことは体温と関連し月経痛との間に関連性があることが報告されています。入浴習慣も体温と関連している可能性がありますが、今回の研究では体温を測定していないため、体温と月経痛との関係についてと血液検査を実施するなどして、適切な食事摂取量を決定することは今後の検討課題にあるとしています。以上の結果から奈良岡佑南氏らは、日々の食事で魚、ビタミンB12、ビタミンDを中心とした動物性タンパク質を十分に摂取し、朝食や温かい浴槽につかるなど体温を上げる生活習慣を取り入れることが、生理痛やPMSの予防・改善に有効である可能性があると結論づけました。
月経痛の症状は、場合によって治療が必要な場合もあります。また、吐き気、頭痛、食欲不振、疲労・脱力感、いらいらといった症状が伴う場合には、婦人科系疾患等が原因となっている可能性も考えられます。このような場合には自己判断せずに婦人科の受診を検討することも必要です。
【提供】秋谷進
東京西徳洲会病院小児医療センター 小児神経科医師。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。
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