「病院食」の可能性 北海道の病院の画期的な取り組み
大田記念病院(広島・福山市)が病院食を基にした健康レシピ本「大田記念病院が心をこめて贈る91のレシピ」を2016年4月に発売した。健康食や減塩食、生活習慣病予防のための多彩なメニューが紹介されている。また北海道のある病院では、健康レシピを動画で紹介する画期的な取り組みが行われている。糖質制限食がダイエッターを中心に一般的に広く認知された例があるように、表立って登場することのなかった病院食が近年になって書籍やサイトを通じて生活者の間でも知られるようになってきた。しかし、糖質制限食に続く「ブーム」を巻き起せるほどの勢いはあるか?と言うと、まだまだのようだ。現在人気のレシピサイトを参考に、病院食レシピにスポットライトが当たるヒントについて考えたい。
目次
人気レシピサイトから学ぶ「病院食」
病院食レシピの説得力は一般的な健康系レシピと比較しても群を抜く。病院食だけあり、「本格的な健康食」というイメージは強く、効果という点で抜群の説得力があり、最大の強みだ。しかし、病院食レシピは今のところ書籍を通じた提案が一般的で、web上ではひっそりと影を潜めている。web上の提案が活発化すれば、年齢や病気の有無関係なく病院食が拡散され注目度が高まりそうだが現状、病院食レシピは書籍が一般的、というのはもどかしい。
参考にしたい人気レシピサイトの特徴
クックパッドやティスティのようなレシピ投稿サイトやレシピ動画サイトで「病院食」の投稿が一般的になり多くの人に認知されるようになれば、病院食がヘルスケア食として日常的に、そして手軽に食されるようになるのではないか。女性の間で大人気の2サイトからは学べることが多い。
クックパッド人気の理由の一つは「食材ファースト」
単純なレシピ紹介の書籍やサイトが敬遠され、クックパッドのような投稿型レシピサイトが大人気サイトへと成長した理由の一つは、食材ファーストで料理できる点。「メニューAを作るために、素材はこれを準備しよう!」というようにメニュー主導のレシピ本やレシピサイトとは異なり、「食材別にレシピを検索できる」という食材主導で料理ができる。メニュー主導で料理をする場合、レシピの通りに作ろうと思ったらスーパーへ出かけて新たに調味料や食材を購入しなければならないが、食材主導であれば「今、手元にある食材で何がつくれるかな?」のスタンスで料理に取り掛かれるので、新たに食材や調味料を用意する必要がない。時短で節約ができる上に、毎日の日常的なレシピとしては現実的だ。
ティスティ人気の理由は「分かりやすさ」「おしゃれ」
そして、今クックパッドと並ぶ勢いの人気を集めているのは、レシピ動画サイトのTASTY。いずれのレシピもわずか1分以内で料理の始まりから終わりの盛り付けまでを簡潔に動画で解説してくれている。忙しい女性たちにとっては、わずか1分以内でレシピの全体像をつかめるのは非常にありがたい。時短を求める女性ニーズに応えているサービスの一つだ。見ているだけで楽しい点や、SNS映えする仕上がりの見た目の良さも人気の理由。
病院食レシピが生活者のキッチンで「当たり前」になるために
日頃から食生活に気を付けることは健康のために良いと分かっていても、実際は継続が難しいのが現実だ。食材ファーストでの料理なら手軽にできても、健康ファースト(健康効果を目的としたレシピ)で料理をしようと思ったら、信ぴょう性の確認とともにあちこちに散らばっている情報をかき集めて調べることから始めなくてはいけない。手元にレシピ本があったとしても、そのバリエーションには限りがある。しかし、病院食に特化した投稿サイトが多くの人に一般的に活用されるようになれば、食による健康維持・疾病予防はもっと身近なものになっていくはずだ。そのスタートを切ったのが北海道の病院だ。
北海道恵愛会札幌南一条病院はYoutube上で、「病院が考えた健康レシピ」をティスティのような構成で、音楽つき・1分以内目安でレシピを公開している。暗くなりがちな病院食のイメージも、見せ方にトレンド要素を盛り込むことで女性との親和性も高くなっている。見せ方のセンスや完成度という点ではテイスティに劣る印象もあるが、病院が柔軟な発想を取り入れてこのような取り組みを発信するのは画期的ではないだろうか。一見、病院食レシピは計量や食材準備が難しく面倒な印象に思われがちだが、1分動画で分かりやすく解説してくれていることで、心理的ハードルは一気に下がるだろう。
残念なのは、せっかくの画期的な取り組みであるにも関わらず、視聴回数が少ない点。同動画に限らず病院食レシピそのものが、書籍であれサイト上であれ、今のところ世に登場しても爆発的な注目を集めづらい。「病院食に特化したヘルスケアレシピ」というコンセプトのおしゃれな投稿型サイトや、各既存の人気料理投稿サイトから「病院食シリーズ」が確立されたら、病院食は広く知られるようになるかもしれない。しかしそもそも論、「病院食」のネーミングや「病院が考えた」という響きそのものに敬遠要素がある可能性はある。「病院食」に変わる何か新しい言葉が誕生すれば、またそれも拡散の可能性を引き上げるかもしれない。同医院の取り組みが更に広がることを期待したい。
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