ヘルスケアベンチャーの基礎知識 サミット・業界知識・注目ベンチャー(1/3)

ヘルスケアベンチャーに多額の投資が行われ、官民一体となった支援策が強化されている。2019年6月には経済産業省が世界に通用するベンチャー企業の発掘・育成を目的に「J-Startupプログラム」の開始を表明。選ばれた企業の中には多くの「医工/バイオ」領域の企業が含まれ、「IoTデバイス/ICT/アプリ」領域でもサービス提供先がヘルスケア関連である企業が数多く存在する。ベンチャー企業のけん引役としてヘルスケア領域の存在感が高まっている。厚生労働省もヘルスケア領域のベンチャーを支援するイベントを展開するなど、活発な動きをみせている。

ヘルスケアベンチャーが知っておきたい、ヘルスケア産業基礎知識

ヘルスケアビジネスの市場規模と国の政策コンセプト

ヘルスケアビジネス市場は拡大している。経済産業省の推計によると、2016年の市場は約25兆円で2025年には33兆円にまで拡大すると予想されている。市場拡大の背景にあるのは高齢化によってターゲット層が拡大することに加え、新しいテクノロジーを生み出すIT関連企業がヘルスケア領域に続々と参入していることも大きい。

ではヘルスケア産業とはどのような枠組みを指すのか。日本総合研究所は経済産業省助成による事業による報告書「平成29年度健康寿命延伸産業創出推進事業 調査報告書」の中で、以下のように定義している。

  • A)健康保持・増進に働きかけるもの
  • B)患者/要支援・要介護者の生活を支援するもの

A)には、「情報提供サービスや健康状態を知るための検査関連」「健康経営につながる企業向けサービス」「食」「運動」「睡眠」「予防」「癒し」「住まい」「衣服」などのカテゴリーが入る。今後さらに新たなサービスが誕生する可能性もあり、それにより市場規模は予想以上に大きくなる可能性がある参考:日本総合研究所「平成29年度健康寿命延伸産業創出推進事業 調査報告書」

ヘルスケアベンチャーが押さえておきたい、国内イベント

ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット(厚生労働省)

厚生労働省はヘルスケアベンチャーの活動を支援し、研究開発が促進されることを目的に「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2018」をパシフィコ横浜で開催した(平成30年10月10~12日)。イベントへの出展応募資格は以下の通り。

  • 医薬品や医療機器、再生医療等製品ベンチャー企業
  • 創薬技術のプラットフォームベンチャー
  • 医薬品のシーズを持つ大学や研究機関、 医療系ベンチャー向けに支援プログラムを実施する製造販売業者、金融機関、ベンチャーキャピタル

2017年の出展企業からは高評価の声が挙がった。

  • 「3日間で19社から面談の要請があり、そのうち前向きな話があった会社が7社あった」
  • 「資金調達に回る 非効率性が改善された」
  • 「直接、臨床医から話を聞く機会になった」

2017年の開催実績は以下の通り。

  • 出展者数:63団体
  • マッチング成立数:418件(面談が成立したもの)
  • 出展会場のプレゼンテーション聴講者
    ①創薬オープンイノベーションモデルの検証と展望:110人
    ②創薬ピッチセッション:83人
    ③若手ベンチャーセッション:96人
    ④医療機器ピッチセッション:61人
    ⑤再生医療ピッチセッション:66人

ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(経済産業省)

経済産業省はヘルスケア分野の優れた企業を表彰する「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」を行っている。ヘルスケア分野の課題解決に取り組む企業や団体を表彰することで、企業・団体の自立的な成長を促進し、ヘルスケア分野におけるエコシステムを作ることを目的としている。応募資格は、ヘルスケア分野で社会課題を解決すると考えられる試作品もしくは発売済みの製品・サービスを持っていること。それらを実現する計画を持っていること。

2019年のビジネスコンテスト部門グランプリは、(株)カケハシの「調剤薬局の薬剤師向け服薬指導支援ツール『Musubi』提供による患者さんの健康意識の増加、および薬剤師の業務効率化による薬局経営改善に寄与する事業」。他、アイデアコンテスト部門優秀賞は以下の6社に贈られた。

  • アンター(株)
    オンライン医療相談サービス「AntaaQA」(医師同士)
  • (株)ウェルモ
    人工知能と介護サービスを融合させた情報プラットフォーム、ケアマネジメントシステム開発事業
  • (株)T-ICU
    病院向け遠隔集中治療支援サービス(Tele-ICU、集中治療専門医集団による)
  • (株)NeU
    “脳機能維持”への未病ソリューション(~人生百年時代を拓く~)
  • (株)ニューロスペース
    国内初「日中の眠気の改善」は企業成長も支援する~組織と個人両面からの支援「ハイブリッド睡眠改善プログラム」
  • (株)リモハブ
    自宅でできる遠隔管理型の心臓リハビリシステム

ヘルスケアベンチャー大賞

「医学会からイノベーションを」をキャッチフレーズに、2019年に6月に「ヘルスケアベンチャー大賞」が開催された(主催:特定非営利活動法人日本抗加齢協会/共催:一般社団法人日本抗加齢医学会/後援:厚生労働省,経済産業省,日本医師会)

実行委員長の坪田一男氏(慶應義塾大学医学部眼科学教室教授)は「日本抗加齢医学会もイノベーションに協力をしたい。抗加齢医学がビジネス化することはヘルスケアイノベーションを作ることにもつながる」と創設の背景を説明している。アンチエイジング領域がヘルスケアビジネスの中で重要な位置づけを担うとの自負が垣間見られる。

応募テーマはアンチエイジングに貢献するヘルスケア分野のビジネス計画。医薬品や食品、化粧品のほかIT関連も含まれる。応募者のうち最低1名は学会員、協会員であるか、もしくは協会賛助企業、事業協賛企業であることを条件としている。2019年は以下の通り、企業応募3件、個人応募3件がファイナリストに選ばれた。

  • <企業の部>
    ①アンチエイジングペプタイド(株)
    機能性ショートペプチドによる化粧品材料の開発
    ②(株)イグニス
    バーチャルリアリティーを活用した慢性疼痛の緩和の開発
    ③(株)レストアビジョン
    網膜色素変性症を治療する遺伝子治療薬の開発
  • <個人の部>
    ①小橋英長氏
    緑内障患者が自分で測定可能な簡易型眼圧計の開発
    ②武田朱公氏
    顔認証機能を活用した認知機能の簡易スクリーニング法の開発
    ③藤澤昌司氏
    嗅覚機能の回復機器開発(認知症予防につながる)

ヘルスケアベンチャーカンファレンス京都

ヘルスケアベンチャーのグローバル展開を支援する「ヘルスケアベンチャーカンファレンス京都」。初期の技術インキュベーションに特化しているのが特徴。主催は1989年に全国初の民間運営リサーチパークとして開設された京都リサーチパーク、日本貿易振興機構(JETRO)、京都府、京都市。地元産業界と連携し、日本から世界への展開を目指すイノベーターを支援するコミュニテイづくりを志向している。

ピッチ登壇希望者は選考で選ばれると事前に英語ピッチの作成を支援してもらえるほか、パートナー企業との面談・交流会を通して、資金調達や人材確保につながる機会を得ることができる。2019年は7月1日に開催された。

ヘルスケアベンチャーフォーラム

「ヘルスケアベンチャーフォーラム」は諏訪内浩紹氏(東京大学医学部附属病院助教、糖尿病・代謝内科)らによって設立された任意団体。2017年4月に3年ぶりとなる6回目が開催されている。2017年のイベントは「keynoteスピーチ」と「ビジネスプランピッチ」で構成され、Keynote スピーチでは在宅介護事業所向けのICTサービスである「カイポケ」を展開する株式会社エス・エム・エスが登壇したほか、ビジネスプランピッチでは堀江貴文氏(一般社団法人予防医療普及協会理事)をはじめ、Mistletoe株式会社やハイズ株式会社、MRT株式会社、株式会社キャピタルメディカがビジネスプランを紹介した。

ヘルスケアベンチャーフォーラム

出典:キャピタルメディカ

デジタルヘルスベンチャー祭り

デジタルヘルスベンチャー祭りは、「日経デジタルヘルス(日経BP社)」が書籍「日経デジタルヘルス年鑑2019」の発行を記念し、2019年2月に開いたイベント。同書の購入者が参加できる。ベンチャー企業のネットワークづくりを目的に開催されたもの。「VCが見る国内デジタルヘルス業界の現状と展望」と題してIF Lifetime Venture 代表パートナー/インキュベイトファンド アソシエイトの木村亮介氏による講演が行われた。またデジタルヘルスベンチャー ピッチでAGREE社など10社が登壇した。


日経デジタルヘルス年鑑2019

ベンチャーアワード

ベンチャーアワードは、革新的で潜在成長力の高い事業や社会的課題の解決に資する事業を行うベンチャー企業を表彰するもの。主催は(独)中小企業基盤整備機構。2019年2月に表彰式が行われた。応募資格は創業しておよそ15年以内で、高い志があり、自立している中小企業とされている。2000年以来これまで、279人の経営者を表彰。新たな日本のリーダーとなれる起業家を広く紹介することで、創業機運の向上を目指している。

ライフサイエンス関連のセミナー(LINK-J)

ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)は、三井不動産(株)がアカデミアや産業界と協力して設立した一般社団法人。医薬品産業を中心としたライフサイエンス関連企業が多い東京・日本橋に3つのオフィス(日本橋ライフサイエンスビルディング、日本橋ライフサイエンスビルディング2、日本橋ライフサイエンスハブ)を持ち、「人と交流のプラットフォーム」を目指している。200以上の企業・アカデミアの会員・提携先があり、テナントとして活用したり、ネットワーキングイベントやシンポジウムの開催を行っている。さらには無料相談などの支援や事業会社とベンチャー企業のマッチングなども展開している。

ヘルスケア関連の展示会

2019年に国内で行われるヘルスケ産業とその周辺の展示会開催スケジュールは以下の記事をチェック。

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