ヘルスケアビジネスとは?市場規模と国の政策コンセプト

市場規模が33兆円にまで成長すると見込まれているヘルスケア産業。今後、国内のヘルスケアビジネスの市場チャンスはどこにあり、どのようなポイントで事業を進めていけば良いのか?ヘルスケア産業の定義、政策、注目のヘルスケア企業を見ると参考になる。ヘルスケアビジネスの全体像を確認したいビジネスパーソンに向け、ヘルスケア産業を網羅的に解説。本稿の最後では、女性向けヘルスケアビジネスの市場チャンスと考え方を紹介。

ヘルスケアビジネス、拡大する市場規模

ヘルスケア産業の市場規模は33兆円へ

高齢化率の上昇、平均寿命の延伸、健康ブーム、IT技術の発展を背景に拡大を続けるヘルスケア産業の市場規模は、2016年の約25兆円から2030年は約33兆円にまで成長すると予測されている(経済産業省推計)。これまでヘルスケアとは関連のない企業がヘルスケア事業に参入する事例や、ヘルスケアを軸にコラボレーションし新しいヘルスケアビジネスを創出する事例が増え、ヘルスケアベンチャーも次々に誕生している。成長市場として熱い視線が寄せられているヘルスケアビジネスだが、そもそも、その領域とは?国はヘルスケア産業の領域を「直接健康に働きかけるもの」と定義し以下2カテゴリーに分類している。

  • A)健康保持・増進に働きかけるもの
  • B)患者/要支援・要介護者の生活を支援するもの

これはさらに分野別に分類される。各分野の定義と各分野の市場規模を見てみよう(以下画像をクリックすると拡大します)。

なお現時点で定義されているヘルスケア産業の中には、健康志向住居、健康関連アドバイスなど、” 今後新たに産業化が見込まれるが、現時点では定義されていない商品・サービス ” や、” 化粧品・美容グッズといった美容関連商品 ” は含まれていないので、それらも含めると市場規模はさらに大きくなる。ヘルスケア産業の各分野の定義・市場規模・商品・サービス事例は、「平成29年度健康寿命延伸産業創出推進事業 調査報告書(平成30年3月)(p.482〜493)」から確認できる。

ヘルスケアビジネスとは?女性のヘルスケア領域

国が定義・分類しているヘルスケア産業は上述の通りだが、女性のヘルスケアビジネスを考える際はここに美容領域も加えたい。健康ブームにより健康的な生活が美容に良い影響をもたらすという考えが広まったことで、美容と健康をセットで考えるのが一般的になってきた。また企業も、美容商品・サービスをヘルスケアと捉えマーケティングを行う事例が増えている。健康と密接に関係している美容領域も広義ではヘルスケア領域と捉える空気が醸成されていることを考えると、美容関連ビジネスもヘルスケアビジネスに含めることができる。

経済産業省によるヘルスケアビジネス加速に向けた政策

国内の現状と課題

国がヘルスケア産業の加速に力を入れている背景には、国内の以下の状況がある。現状と課題を見てみよう。

1.高齢化率の急激な上昇

高齢化率の急速な上昇により、将来的に労働力が減少し経済活動が停滞することが懸念されている。労働力を確保する施策が急務。

2.社会保障給付費の増加

社会保障給付費は年々増加し、2016年度は118兆円(経済産業省)。医療給付費は、現在の36兆円から2025年は54兆円へ、介護給付費は現在の9兆円から2025年に20兆円にまで増える見込み。増大する社会保障給付費を抑える施策が必要だ。

3.1人あたりの年間医療費、65歳以降で増加

1人あたりの年間医療費は65歳以降で急速に増加し、80歳以降は入院にかかる費用の割合が高くなる。高齢者の医療費を抑える施策が必要だ。

4.医科診療費の3分の1以上が生活習慣病

医科診療費の3分の1以上は生活習慣病関連で、次に多いのが老化に伴う疾患。生活習慣病の予防と健康寿命延伸の施策が必要だ。

5.特定健康診査の未受診者数2,790万人

40〜74歳の人を対象にしたメタボ健診「特定健康診査」の未受診者数は2,790万人にのぼる。男性は定年退職の時期にあたる60歳以降で未受診者の割合が高くなり、女性は全年代において半数以上が未受診者という状況だ。専業主婦やパートタイマーで働く女性たちが健診機会を逃していると考えられる。医療費抑制と高齢期の健康づくりのためには、特定健康診査の受診者数を増やし、未病の早期発見・早期治療を促すことが重要だ。

6.平均寿命と健康寿命の差が約10年

平均寿命と健康寿命の差は、男性9.02年、女性12.49年。長生きをする女性の方が要支援・要介護の期間が長い。健康寿命を延伸させ、平均寿命との差を小さくすることが重要。

ヘルスケアの政策コンセプトは「生涯現役社会の構築」

上記に挙げた現状から見えてくる問題点は、高齢化による労働力の減少と医療費の増大による国内の経済活動の停滞や財政破綻。そこで、この高齢化の進展に対応できる社会経済システムの再構築が急務とされ、掲げられたのが、「生涯現役社会(誰もが生涯にわたり健康で自立した生活を送れる社会)」の構築。生涯現役社会によって以下を実現することを目指す。

  • 労働力の確保
  • 医療費の抑制
  • ヘルスケア産業の発展・新産業の創出=社会経済の基盤をつくる

政策概要

生涯現役社会の構築に向け、具体的には以下7項目の政策が進められている。

1.健康経営

企業の健康経営を推進することで国民の健康とQOLの向上を図る。具体的な施策として、健康経営の顕彰制度である「健康経営銘柄の選定」と「健康経営優良法人の認定」が毎年実施されている。自治体独自の顕彰制度も全国で増えている。

2.地域におけるヘルスケア産業の創出

地域の人が病気の予防から治療まで切れ目なく健康サービスを受けられるようにする仕組みの構築が、各地域の「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」により進められている。各地域で新しいヘルスケアサービスの創出が求められ、平成29年度は「生活習慣病予防」「フレイル・認知症予防」をテーマにした地域のヘルスケアビジネス10件が支援を受けた(事業総額上限3,000万円、補助率2/3)。支援事業は以下。

3.健康・医療情報の活用

ビッグデータよりもクオリディテータ(品質が担保されたデータ)を重視した健康・医療情報の利活用が進められている。具体的には、IoTデバイスで取得したデータの連携、クオリティデータをもとに医療分野での使用に耐えられるレベルのAI構築、ヘルスケアソリューションを提供するビジネスモデルの構築など。実際に近年はデータの利活用を通じて、医薬品・医療機器などの既存技術やサービスとIoT・AI・ビッグデータを組み回せて新たなヘルスケアソリューションを構築する企業が登場してきている。

4.医療の国際展開

日本のヘルスケア産業のインバウンドとアウトバンド両方の取り組みが進められている。日本の優れた医療技術・サービスの国際展開を通じて、世界的な社会課題の解決に貢献するとともに、世界的なヘルスケア需要を国内に取り込むことを目的に、海外展開するプロジェクトや事業を支援している(アウトバンド)。日本国内での外国人患者の受け入れ体制も整えている(インバウンド)。

5.認知症・介護予防の取り組み

認知症対策として、予防・治療、ケア・介護、実証研究、取り組みが進められており、例えば病院や介護施設などと連携したオレンジプラットフォームなどが行われている。諸外国とも連携。

6.ヘルスケアビジネスコンテストの開催

ヘルスケアの課題解決に挑戦している優れた企業・団体を表彰する「ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト」を開催。2016年に始まった。ヘルスケアビジネスの社会への周知とビジネスマッチング、企業・団体の成長を促すことを目的としている。

7.医療機器市場の拡大

医療機器の世界市場は拡大しているものの、日本の医療機器企業の売り上げ規模は小さい。この分野の国際競争力を高めるため国は医療機器産業を支援、海外市場の獲得を目指している。特に重点が置かれているのは以下5分野。

  • 手術支援ロボット・システム
  • 人口組織・臓器
  • 低侵襲治療
  • イメージング(画像診断)
  • 在宅医療機器

ヘルスケアビジネスの注目企業

次に、国内のヘルスケアビジネスの注目企業を紹介。以下は経済産業省が2016年より開催している「ヘルスケアビジネスコンテスト」の2019年のグランプリ。IT技術を活用したサービスや、近年のヘルスケアキーワードである「人生100年」「脳の健康」「遠隔」「企業の健康経営」を軸にしたサービスが受賞を果たした。ヘルスケア分野のコンテストや大手企業とのコラボを前提としたアイデア募集は、国・各種団体・各大手企業が頻繁に開催している。受賞・採択されるメリットは大きいので、中小企業こそ積極的にトライしたい。

ヘルスケアビジネスコンテンスト2019 グランプリ

  • 電子薬歴システム「Musubi」(株式会社カケハシ)
    調剤薬局の薬剤師向け服薬指導支援ツール。患者の疾患・年齢・性別・アレルギー・生活習慣・検査値、季節、過去処方、過去薬歴を参照して、ひとりひとりの患者に適した指導内容を提示する。一方で、薬剤師の業務効率化による薬局経営改善にも寄与する。

ヘルスケアビジネスコンテンスト2019 他、受賞企業

  • 株式会社ウェルモ
    人工知能と介護サービス情報プラットフォームを融合したケアマネジメントシステム開発事業
  • 株式会社T-ICU
    集中治療専門医集団による病院向け遠隔集中治療支援サービス(Tele-ICU)
  • 式会社NeU
    人生100年時代を拓く“脳機能維持”のための未病ソリューション
  • 株式会社ニューロスペース
    国内初「日中の眠気の改善・マネジメント」で企業成長を支援。組織と個人を両面から支援する「唯一無二のハイブリッド式睡眠改善プログラム」
  • 株式会社リモハブ
    自宅でできる。遠隔管理型心臓リハビリテーションシステム「リモハブ」

ヘルスケアビジネス関連情報

ヘルスケア産業政策の概要

経済産業省のホームページで、ヘルスケア産業政策の概要をまとめている。

ヘルスケア関連の展示会

ヘルスケア産業の市場拡大で、近年、ヘルスケア関連の展示会が増えている。食、スポーツ、美容、介護、医療機器、予防医療、統合医療などヘルスケア関連の専門展示会の他、AI・ロボット、デジタルマーケティング、広告、PB開発などヘルスケアビジネス周辺の展示会まで、主要展示会を以下ページで紹介。

ヘルスケア関連書籍

2019年、チェックしておきたいヘルスケア関連の書籍は以下4冊。

ヘルスケアビジネス成長戦略研究


ヘルスケア産業のデジタル経営革命


医療4.0

医療白書2018年度版  AI,IoT,ビッグデータがヘルスケアの未来を変える

女性市場におけるヘルスケアビジネスの考え方

事業を推進する上でのポイント

女性向けのヘルスケアビジネスに取り組む際は、ライフコース視点で女性をセグメントし、各セグメント特有の健康問題、価値観、消費行動、ライフスタイル、ニーズを捉えることが重要。わかりやすい例で言うと、同じ30代女性でも、妊娠中の専業主婦と未婚の働く女性では、日々考えていることも行動も健康悩みも全く異なる。前者で健康問題をあげるなら、マタニティーブルーや産後うつ。後者の場合はPMSや仕事によるストレス、慢性疲労。

このように、ライフコースが違えば直面している健康問題も違うので、購入する商品・サービスや興味を持つモノ・コトは当然異なる。女性は結婚・妊娠出産・離職・夫の転勤・家族の介護などの各ライフイベントで都度ライフコースが変わりそれに伴い価値観も大きく変わるため、女性を対象にビジネスを創出する場合はライフコース視点を持つことが大切。詳細は以下。

ライフコース

おすすめのヘルスケア市場

働く女性の増加や女性の方が長生きすることを考えると、女性市場は今後さらに盛り上がりを見せると予測できる。国内ではまだまだ商品・サービスが充実しておらず成熟していないブルーオーシャン市場の例は以下。

ヘルスケア市場のブルーオーシャン戦略事例

近年、医師によるヘルスケアベンチャーも次々に立ち上がっており、革新的で明確な差別化がされたヘルスケア&医療関連の商品・サービスが相次いで登場している。上記で紹介の書籍「医療4.0」に多数事例が掲載されているのでそちらもぜひチェックを。

ヘルスケア市場は課題山積み

ここまで見てきた通り国内のヘルスケア市場で課題はまだまだ山積みだ。ビジネスチャンスは多い。社会情勢、政策、日本の健康問題、女性市場の動向を踏まえた上でヘルスケアビジネスに取り組みたい。

 

 

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