第4次産業革命とは?日本社会に与える影響と今後のビジネスの可能性
世界で今話題となっている第4次産業革命。AI、ビッグデータ、ロボット、バイオテクノロジー、IoTなど、第4次産業革命の核となるこれら技術は産業構造を破壊的に変えると言われている。第4次産業革命ではどんな変革が起き、具体的にどのような技術の活用が進んでいるのか?日本社会に与える影響と今後のビジネスの可能性について整理した。
目次
産業革命の基礎知識
産業革命とは
産業革命とは、産業の分野に生じた技術革新により、経済や産業、社会の構造が大きく変わることをいう。 歴史的に見て従来の産業構造に大きな変革があると、産業革命と呼ばれる。すでに過去に第1~3次産業革命が起こっており、今後の社会では第4次産業革命が起こると言われている。
第1~3次産業革命の概要
第1次産業革命
18~19世紀にイギリスで起こった産業革命。これにより、近代資本主義経済が確立される基盤が作られた。第1次産業革命は、蒸気機関などによる技術革新が特徴。それまで手工業中心だったものづくりが機械化され、工場制生産へと移行した。これにより生産性が飛躍的に向上し、産業のあり方が大きく変化することになった。
第2次産業革命
19世紀後半~20世紀初頭に起こった産業革命。主に、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで起こり、エネルギーにおける技術革新が特徴。電力、化学、石油など、さまざまなエネルギーを利用できるようになったことで、大量生産が可能となった。
第3次産業革命
1970年代初頭以降に起こった産業革命。電気工学、情報技術などの技術革新が特徴。コンピューターによる生産の自動化が可能となり、従来の産業構造が大きく変化した。
第4次産業革命とは?
第4次産業革命の定義
第4次産業革命とは、2011年にドイツで提唱された政府主導の国家プロジェクト「インダストリー4.0」を日本語化したもの。第4次産業革命を理解するには、世界経済フォーラム創設者「クラウス・シュワブ」氏による以下解説が分かりやすい。
今日、私たちが直面している幅広で数多の興味深い諸問題のなかで、最も努力を必要とし、また最も重要となるのは、新しい技術革命をどのように理解し、実現するかだ。この技術革命は、必然的に「人類文明の大変革」を伴うものとなる。私たちは、生活や仕事の仕方、さらには他者との関わり方を根本から変える大変革の入り口にいる。これは人類がこれまで経験したことのない、規模、範囲、複雑さの大変革となり、まさに「第四次産業革命」と呼ぶにふさわしい(中略)
第四次産業革命は、今世紀に入ってから始まり、デジタル革命の上に成り立っている。第四次産業革命を特徴づけるのは、これまでとは比較にならないほど偏在化しモバイル化したインターネット、小型化し強力になったセンサーの低価格化、AI、機械学習である(中略)。
だが、第四次産業革命は、相互接続されたスマートな機械やシステムのことだけに限定される話ではない。範囲ははるかに広い。いま遺伝子配列解析からナノテクノロジー、再生可能エネルギー、量子コンピューターに至る分野で新たなブレイクスルーの波が同時に起きている。第四次産業革命がこれまでの産業革命とは根本から異なるのは、これらのテクノロジーが融合し、物理的、デジタル、生物学的領域で相互作用が生じたことである。(引用:「第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来(著者:クラウス・シュワブ)」pp.9-19)
「インダストリー4.0」では、「スマートファクトリー(Smart Factory、考える工場)」という新しい生産方式への取り組みが開始された。「スマートファクトリー」とは、IoT活用などで生産管理の効率化を高めようという取り組みで、IoT、ビッグデータ、AIなどの技術革新が特徴だ。IoTで生産プロセス上のさまざまな機器がインターネットに接続され、すべてがデータとして蓄積されることでビッグデータの取得が可能になる。さらにIoTをAIが制御するため、ビッグデータが自動的に集積される。
「スマートファクトリー」の中でも特に理想としているのが「マスカスタマイゼーション」である。「マスカスタマイゼーション」は少量多品種を効率的に大量生産することができる仕組みで、これによりさまざまな商品を小ロットから生産することが可能になる。たとえば、消費者が自由にカスタマイズした製品でも、インターネットに接続された製造工程上の各機械が自動的に判断して、製品を生産できる。「マスカスタマイゼーション」が実現すれば、付加価値の高い製品を大量生産できるようになる。
最近耳にすることが増えた「Society 5.0(ソサエティ5.0)」は、AIやビッグデータなどの第4次産業革命のイノベーションを、あらゆる産業や人々の生活に取り入れることで様々な社会課題を解決することを目指している。
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第3次産業革命との違い
第4次産業革命と第3次産業革命はともにコンピューターが関わる点は共通している。違いは、誰がコンピューターをコントロールするかだ。第3次産業革命より前までは人間がコンピューターを制御していたが、第4次産業革命では、AIがコンピューターを制御することになる。
この背景には、コンピューターが自ら学習して判断できるようになったことと、ロボット技術が向上し、より複雑な作業ができるようになったことがある。人間ではなくAIが機械を自動制御することで、たとえば自動車の自動運転が可能になる。
こうした流れを受けて、経産省では「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」をスタートさせた。AI、IoT、データサイエンス、クラウドなど、第4次産業革命に関連するIT・データ分野について、専門知識やスキルを身につけさせる教育訓練講座だ。この教育訓練講座のうち、厚生労働省が定める一定の要件を満たし、厚生労働大臣の指定を受けたものは「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」の対象講座となる。第4次産業革命に対応できる人材育成に向けた政府主導の取り組みの1つ。
第4次産業革命の特徴を表すキーワード
第4次産業革命の特徴を表す主要キーワードは「AI・IoT・ビッグデータ」の3つ。
AI
人工知能のこと。人の頭脳に近い知性を持ったコンピューターで、経験学習をさせることで判断能力のトレーニングが可能。ニューラルネットワークの構造を利用してラベル付けされた大量のデータを学習させることを「ディープラーニング」と呼ぶ。学習内容によって、AIがより難しい課題を解決できるようになる。学習したAIは、まるで人間のように自ら一定の判断を行えるようになるので、幅広いテクノロジーへの応用が期待されている。
IoT
英語で「Internet of Things」、「モノのインターネット」と訳される。日常生活で使用するさまざまな機器を、 ICT(情報伝達技術)を使ってインターネットに接続することを指す。パソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、スマートスピーカー、テレビ、エアコンなど、日常生活に関わるあらゆるモノをインターネットで繋ぐことで、機器の遠隔操作ができるようになったり、遠方から機器の状態を確認できるようになる。たとえば、従来はわざわざ人が現場に出向いてチェックする必要があったものを、遠隔でデータ収集してモニタリングすることが可能となる。玄関の鍵の締め忘れを外出先から確認したり、クーラーのスイッチを外からON/OFFすることができる。機器同士でデータのやり取りもできるようになり、生活利便性が大幅に向上する。
ビッグデータ
一般的なソフトウェアで取り扱える範囲を超えた膨大な量のデータのことをいう。データ量は数十テラバイト(TB)から数ペタバイト(PB)に及ぶとされている。1TB=1,000GB(ギガバイト)、1PB=1,000,000GB(ギガバイト)であり、一般的なノートパソコンのストレージ容量が256GB程度であるのと比較しても、データ量の大きさがわかるだろう。従来は扱えなかったような膨大なデータを集積・解析することができるようになることで、従来のデータ分析では得られなかったような有益な知見を得たり、さまざまな問題を解決したりすることが可能になる。業務効率を高めたり、未来に起こりうることを正確に予測したり、利用者のニーズに合致したサービスを提供するなどの施策に役立つビッグデータは、現在大企業を中心に活用されているが、今後は中小企業でも活用されていくだろう。ビッグデータ活用事例は以下。
- 【ダイドードリンコ】
アイトラッキング分析と購買データの組み合わせで売上が前年比1.2%増- 【スシロー】
皿にICタグをとりつけ、レーンに流れる寿司の鮮度や売上状況を管理し売上向上- 【GEO】
王道的なビッグデータのクラスタリングでテコ入れ- 【大阪ガス】
コールセンターの依頼内容から修理に必要な部品を割り出す- 【城崎温泉】
観光客のニーズをつかみ売上増- 【カルフォルニア州オークランド】
犯罪データを蓄積して、未然に予防- 【楽天】
レコメンドだけでなくランキングの更新頻度とジャンルの細分化で売上向上
※参考:LISKUL「ビッグデータ活用事例15選| 売上向上・コスト削減方法とは」
第4次産業革命によるインパクトと今後の予測
第4次産業革命による社会の変化と今後の予測
第4次産業革命の主役となる、「AI」「IoT」「ビッグデータ」「バイオテクノロジー」「ロボット」「バイオテクノロジー」などは、世界のあらゆる社会課題を解決すると期待されている一方で、社会を崩壊し既存のあらゆる制度を破壊する側面も持ち合わせていると言われている。その分かりやすい例の一つは、AI技術により雇用が大幅に減少するという予測だ。人間の代わりに考え、判断し、働くAIロボットが企業を支える“メインの人材”となれば、失業者があふれ、企業・仕事の在り方や働き方など労働市場に大きな変化が起きる。これを脅威と捉える人たちもいれば、「過去の産業革命でも同じことが指摘されてきたが、既存の職が失われた後には、新たな職が登場するものだ」と、好機と捉える人もいる。
第4次産業革命では、社会に与えるインパクトがこれまでにない程に大きいことから、個々が正しく第4次産業革命による影響を理解する必要があると指摘するのは、世界経済フォーラム創設者の「クラウス・シュワブ」氏。
すでにニューロテクノロジーとバイオテクノロジーの進歩は私たちに、人間であるとはなにかという問いをつきつけている。幸い、第四次産業革命は始まったばかりで、いまならまだ私たちが主導権をとることができる段階にある。最先端技術についての基準と規制は、いままさに生み出されようとしている(中略)
いま機会を逃してしまえば、そして新しい技術が人類全体を豊かにし、人間の尊厳を高め、環境を保護する方向に導くことに失敗すれば、現在の過酷な状況は悪化の一途をたどるかもしれない。システムの歪み、富の一極集中、不平等の拡大が正されることなく、あらゆる国で人権がないがしろにされるだろう。
第四次産業革命の重要性を正しく評価し、富や技術において特権的な立場の人々だけが恩恵をこうむることのないよう、すべての人々が利益を享受できる方向に進むためには、新しい考え方に切り替えるとともに、多様なテクノロジーが個人、コミュニティ、組織、政府に与える影響について十分に理解する必要がある。(引用:「『第四次産業革命』を生き抜く(著者:クラウス・シュワブ)」pp.7-8)
第4次産業革命により、近い将来実現されるだろうと予想されていることは以下の通り。いずれもプラスの影響、マイナスの影響が指摘されている。
- 10%の人々がインターネットに接続された服を着ている
- 米国で最初のロボット薬剤師が登場
- 3Dプリンタによる自動車第一号の生産
- 政府が国勢調査の代わりにビッグデータの情報源を活用する
- 体内埋め込み式携帯電話の販売開始
- 消費財の5%が3Dプリンタで生産される
- 10%が自動運転車になる
- 3Dプリンタ製の肝臓の初移植が実現される
- 法人の会計監査の30%をAIが実施
- 政府がブロックチェーンを介して税金を徴収
- 自家用車ではなくカーシェアによる移動や旅行が世界的に増加
- 世界GDPの10%がブロックチェーンのテクノロジーで管理される
- 取締役会にAIマシンが登場
- 計画的にゲノム編集された“デザイナーベビー”が誕生
- 人工的な記憶を埋め込まれた脳を持つ人間の登場
※参考「第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来(著者:クラウス・シュワブ)」
第4次産業革命を3分の動画で理解する
第4次産業革命に関する書籍
「第四次産業革命」を生き抜く ダボス会議が予測する混乱とチャンス
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