コロナ禍 健常者が気づかない、視覚・聴覚障がい者らの不安・不便

「モノやヒトに気軽に触れられない」「マスクをしなければならない」「ソーシャルディスタンスをとらなければいけない」といったコロナ禍は障がい者に、健常者以上の大きな不安や不便をもたらしている。不安や不便だけではない。世の中全体がピリピリとした空気の中、店内をゆっくり歩く視覚障がい者に「どいてよ!」「のろのろしないで」と心無い言葉を放つ人も平時と比べて増えているという。

視覚障がい者、聴覚障がい者の不安

聴覚障がい者や視覚障がい者は、直にモノに触れることで「それが何なのか?」を認識したり、相手の口元を見て「何を話しているのか?」を認識する。聴覚や視覚に障がいがある人にとって、五感は健常者以上に重要な役割を果たしている。

だがこのコロナ禍で、五感の活用が難しくなっている。感染予防の観点から直にモノに触れることが難しくなり、また多くの人がマスクをしている状況で、実際にどのような不安・不便を抱えているのか。

ネット上の声を観察すると、健常者たちには思いもつかない不安・不便を抱えていることがわかる。視覚障がい者、聴覚障がい者本人のみならず、そういった人たちを心配する人たちの声からは、気づかされることが多い。

視覚障がい者

視覚障がい者には情報がなかなか届かない

視覚障がい者やお年寄り、タッチパネル操作はどうするの?

商品を触りながら説明を聞かないと、分からない

マスクしてると「皮膚感覚」による状況判断が難しい

社会情勢などを扱うメディア「ニューズウィーク」の記事「マスクの弊害 視覚・聴覚障害者にとってのコロナ禍社会(2020.4.21)」には視覚障がい者が実際に感じている不便や不安について次のように記載している。

佐藤由紀子さん(56)は、18歳で全盲になった。24歳でアイメイトを持つまでは、東京都内を白杖で通勤していた。「全盲で一人歩きする人は皆、多かれ少なかれ直接肌が空気に触れる頬やおでこの皮膚感覚を使っています。たとえば、駅構内などの風が吹いていない場所では、微妙な空気の動きによる『圧』を顔で感じて『ここは狭い通路なのか』とか、空間の広さを判断します。壁からどのくらい離れているのかも、それで概ね分かります」。

(中略)佐藤さんの場合、マスクをしていると、その「圧」がほとんど感じられなくなるという。「手袋で物を触るような感じ?」と聞くと、彼女は頷いた。引用:ニューズウィーク「マスクの弊害 視覚・聴覚障害者にとってのコロナ禍社会」

「お手伝いしましょうか?」と声をかけてくれる人が減っている

店での買い物や歩行時に「お手伝いしましょうか?」と声をかけられることも減っているという。視覚障がい者の買い物を手伝うということは、近くに寄ったり手を引いて案内するということ。”人にはなるべく近寄らない”というルールが人々の間で徹底されている中、他人の買い物を手伝うという意識は確かに低下しているだろう。

また、自治体やボランティアなどによるサポートも受けられない状況だという。

近年はインターネットを駆使する視覚障害者も多いが、高齢者の多くは地域情報の取得に自治体の広報紙などの朗読ボランティアに頼っている。この女性が住む台東区では、広報紙自体が人手不足で休刊となり、コロナ関係の地域情報も入らなくなっているという。各地の朗読ボランティアは、会場の公民館などの閉鎖と相まって、ほとんど活動休止となっている。視覚障害者の腕を引いて誘導するガイドヘルパーの同行援護も、一部の地域で「ヘルパーさんの安全のため」として、利用が難しくなっているという訴えも聞こえてくる引用:ニューズウィーク「マスクの弊害 視覚・聴覚障害者にとってのコロナ禍社会」

聴覚障がい

聴覚障がい者でコロナに患ったら…どうなるの?

日本の対応って遅くない?

聴覚障がいの生徒の学習支援に課題

2メートルの課題「何を言っているか分からない」

他にも「読唇で普段はコミュニケーションをとっている。いつもは『(読唇したいので)マスクを外してほしい』と相手に言えるが、今は言えない」「ウェブ会議では、画質があまりよくないので相手の口元を正確に読み取れない」といった声もある。

対策が始まる

コロナ禍における彼ら・彼女たちの声がマスメディアで大々的に報じられることはほとんどなく、そして多くの不便や不満が顕在化してきている状態ではあるが、対策は少しずつ始まっている。

透明のマスク

例えば、聴覚障がい者が読唇によるコミュニケーションがしやすいよう、透明マスクが広がり始めている。


透明マスクの作り方も公開されている。

コロナ感染症の検査・診察で遠隔手話通訳

長野県は、新型コロナ感染症の検査・診察が必要になった場合、県庁、県保健福祉事務所の手話通訳事務員が遠隔で手話通訳を実施する。

要望書を政府に提出

日本視覚障害者団体連合は、4月22日に新型コロナウイルスに関する要望書を厚生労働省と文部科学省に提出。要望書は、新型コロナウイルス・ホットラインに寄せられた意見等をまとめており、地域内でのヘルパーの調整、柔軟な支援方法(車両の利用等)の実施や、視覚障がい者も入手できる方法(点字、音声、拡大文字、テキスト等)で情報提供することなどを求める内容となっている。

「ダイバーシティ」「インクルージョン」言葉だけがひとり歩き…?

さまざまな企業や自治体、政府が声高に叫ぶようになったことで、「ユニバーサルな社会」「インクルージョン」「ダイバーシティ」という言葉がここ1~2年で盛んに使われるようになり社会に浸透してきた感があったが、実は言葉だけがひとり歩きしていたのか、社会生活への浸透は未だほど遠いようだ。有事によりそれが露呈される形となった。

社会的弱者は、上で紹介した聴覚・視覚障がい者だけではない。日本に住む外国人や、家族がいない後期高齢者、低所得のシングルマザーなどもそうだ。コロナ禍の今こそ、真の「ユニバーサルな社会」「インクルージョン」「ダイバーシティ」が問われている。

 

 

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