「美容離れ」は本当か? 「自分基準」で変わる女性消費から読み解く、インナービューティ市場の新たな商機

近年の消費者データでは、一般的な美容やファッションへの関心が低下し、アニメやゲーム、推し活への関心が高まっています。ところが、美容医療やプチ整形を行う女性はむしろ増加。一見矛盾する動きの背景には、女性たちのどんな価値観の変化があるのでしょうか。女性の健康・美容領域の市場調査を手がけるTPCマーケティングリサーチが、最新のデータから、「美容離れ」の正体を解き明かします。

女性消費の変化、「他人基準」から「自分基準」へ

近年、インナービューティ市場が新たな盛り上がりを見せています。この背景を読み解くには、まず女性たちの「美容」に対する価値観がどう変化しているのかを捉える必要があります。生活者の根底にある意識の変化に目を向けることで、市場の真の姿が見えてきます。

当社の調査によると、2019年から2026年にかけて、女性の関心事に明確な変化が現れています。具体的には、「旅行(-10.3pt)」「ファッション(-8.4pt)」「一般的な美容(-6.3pt)」「外食・グルメ(-6.1pt)」といった項目の出現率が低下しました。一方で、「推し活(+2.4pt)」「アニメ・漫画(+7.8pt)」「ゲーム(+3.7pt)」といった項目が増加しています。

図1: TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

 

旅行やファッション、美容などは、依然として女性の関心事の上位を占めているものの、その割合は明確に低下しています。こうした変化の背景には、何にお金や時間を使うかという消費の優先順位だけでなく、消費を通じて何を得たいのかという価値観そのものの変化があるのではないでしょうか。従来のように「周囲からどう見られるか」を意識した消費だけでなく、「自分が何を楽しみ、どうありたいか」という、自分自身の満足や納得感を重視する傾向が強まっていると考えられます。つまり、価値観の重心が、いわば「他人基準」から「自分基準」へとシフトしつつある可能性を示唆しています。

 

美容の変化、「きれいに見られたい」から「自分が納得したい」へ

一般的な美容への関心が低下しているというデータを見ると、女性の「美容離れ」が進んでいるように思えます。しかし一方で、美容医療やプチ整形など、より踏み込んだ分野への投資はむしろ活発化しています。当社の調査では、プチ整形・美容整形を行っている割合は全体で19.7%(2020年比+10.7pt)にのぼり、特に20代では37.1%(同+16.9pt)に達するなど、若い層を中心に急増しています。

一見すると、「美容への関心低下」と「美容医療・美容整形の増加」は矛盾しているようにも見えます。しかし、前述した「他人基準」から「自分基準」への消費価値観の変化を踏まえると、両者は必ずしも矛盾しません。従来の美容が「人からどう見られるか」を意識したものだったとすれば、現在は「自分が納得できる自分でありたい」「自分の理想とする美を追求したい」という、よりパーソナルな動機から美容に向き合う傾向が強まっていると考えられます。

実際に、美容に求める価値にも、こうした「自分基準」への移行がはっきりと表れています。インナーケアに求めるベネフィットを見ると、「美しく歳を重ねたい(66.1%)」「自分に自信を持ちたい(63.5%)」「鏡を見たときに気分があがる自分でいたい(54.2%)」が上位を占めています。反対に、「異性から魅力的に見られたい(2020年比-8.2pt)」「他人の評価を気にする(同-5.6pt)」といった他者評価の数値は年々低下傾向にあります。

図2: TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

 

こうした結果から、美容は「人に褒められるためのもの」から、「自分が納得するためのもの、理想の自分を追求するためのもの」へと変化しつつあることがうかがえます。

 

インナーケアの変化、「美容を補いたい」から「なりたい自分を実現したい」へ

こうした「自分基準」の高まりを背景に、インナーケアの役割も変化しています。従来のように「美容を補うもの」にとどまらず、自分がなりたい姿や、送りたい毎日を実現するための手段として捉えられるようになっています。

① 理想の美を追求するため

美容医療や美容整形のユーザーは、食品によるインナーケアを「化粧品と併せて使うことでより高い効果を得るもの」や「肌悩みの改善を内側からサポートするもの」として捉える傾向が、全体より約10pt高くなっています。コスメや美容医療とインナーケアを掛け合わせ、自分が納得する美を追求する動きがみられます。

図3: TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」  美容医療は、医療技術を用いて、肌や見た目の美しさを改善する施術全般(レーザー治療、ボトックス注射、医療脱毛など)。美容整形は、手術などによって、顔や体の形・輪郭を変える施術(二重まぶたの手術、鼻の整形、脂肪吸引など。

 

② やりたいことを楽しむため

さらに、インナーケアの役割は「理想の美を追求すること」から、「自分がやりたいことを楽しむこと」へも広がっていると推察されます。インナーケアの目的として「きれいな自分になって推しに会いたい」と回答した推し活ユーザーは、20代で約3割にのぼります。また、美容重視から健康重視へ切り替わる年齢(ターニングポイント)は、2024年の27歳から2026年には24歳へと若年齢化しました。

興味深いのは、「健康=美」と考える理由です。全体では「腸内環境」や「睡眠」といった身体的・機能的な因果関係で捉えるのに対し、推し活ユーザーは「健康は美しさの土台」「元気な人は活き活きとした印象を与える」など、「生命力・オーラ」といった情緒的価値で捉える傾向が全体を約10pt上回っています。こうした結果からは、若年層において「美しさ」を外見だけでなく、自分らしく楽しめる活き活きとした状態まで含めて捉える傾向がうかがえます。

図4: TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

【出典】 TPCマーケティングリサーチ「2026年 インナービューティの実態とニーズ(第4弾)」

 

インナーケアは、「美容のために補うもの」から、「なりたい自分」や「送りたい毎日」を実現するためのコンディショニング手段へと、その役割を広げつつあるのです。

 

年齢を重ねても同じ、「若く見られたい」から「自分らしく生活したい」へ

では、こうした「自分が納得したい」という自分基準への変化は、若年層に限ったものなのでしょうか。更年期・シニア世代のデータからも、年代によって表れ方は異なるものの、美容や健康を通じて「自分らしい生活を楽しみたい」という意識が、若年層と共通して見られます。

求められているのは「若返り」ではなく「自分らしく過ごすこと」

更年期・シニア世代にとって、美容や身体の変化は見た目だけの問題ではありません。自信を失ったり、人に会うことや美容・おしゃれを楽しめなくなったりするなど、日々の生活や気持ちにも影響を及ぼします。

当社の更年期世代の調査では、「肌の老化」に悩む人は、更年期症状による日常生活への支障として「自分に自信がなくなる(61.8%)」「人に会いたくなくなる(49.9%)」「美容やおしゃれが楽しめない(32.8%)」を挙げる割合が全体より10pt以上高くなっています。 また、シニア世代を対象とした足腰の衰えに関する調査では、日常生活への影響として「立ち姿や歩き姿が老けた」と回答した人が34.4%にのぼりました。さらに、66.1%が「骨密度低下が老け顔につながる」と認識しています。これらの結果からは、シニア世代にとって、身体機能の変化と見た目の変化が密接に結びついていることがうかがえます。だからこそ、求められているのは単なる若返りではなく、「自分らしく生活を楽しむための美容・健康」なのではないでしょうか。

「美容寿命」、自分らしい生活を叶えるための美容と健康

ここで注目したいのが、「美容寿命」という考え方です。これは、「自分が納得できる見た目とコンディションを保ちながら、自分らしい生活を楽しめる期間」を表す視点です。

若年層では「やりたいことを楽しむための健康」、更年期・シニア世代では「自分らしく人と会い、外出するための美容」。一見異なるニーズに見えますが、共通しているのは、美容と健康そのものを目的とするのではなく、「自分らしい生活を実現するための手段」として捉えている点です。こうした意識の変化は、美容と健康の境界が曖昧になり、その先にある「自分らしい生活」を支えるものとして両者が捉えられるようになっていることを示しています。

 

企業も変わる、「何を売るか」から「どんな自己実現を支えるか」へ

こうした生活者の価値観の変化を踏まえ、企業にも新たな発想が求められます。重要なのは、「何を売るか」だけでなく、「誰の、どんな実現したいことを支えるのか」という視点です。

① 「属性×目的」で生活者を捉え、ニーズを細分化する

「30代女性」といった属性だけでターゲットを捉えるのではなく、「どうありたいか」「何を楽しみたいか」といった目的まで掛け合わせて捉えます。「30代女性×自分らしい美を追求したい」「20代女性×推し活を全力で楽しみたい」「60代女性×人と会うことを楽しみたい」など、「何を実現したい人なのか」から市場を捉え直します。商品企画においても、単に年代別に商品を分けるだけでなく、同じ年代の中でも目的や悩みによってニーズを細分化することが求められます。

② 「成分」から「実現したい状態」まで価値を広げる

「〇〇成分配合」という成分訴求にとどまらず、その成分によって「どんな状態になりたいのか」「どんな毎日を送りたいのか」まで含めて、価値を伝えます。 例えば、推し活層向けには美容成分の訴求に加え、「大切なイベント当日を、自信を持って迎える」という利用シーンを提案する。更年期・シニア層向けには、単なる若返りだけでなく「人と会う・外出する・おしゃれを楽しむ」といった生活上の目的から商品価値を設計することが有効です。

③ 「美容寿命」を支える、美容×健康の提案へ

美容と健康を分けて考えるのではなく、コスメやインナーケア、ライフスタイルなどを組み合わせ、一人ひとりの「美容寿命」を支えるような提案へと広げていきます。年代を問わず「なりたい自分」や「送りたい毎日」を長期的に支える、横断的なトータルソリューションが求められています。

 

「美容離れ」の正体は「自分基準」への転換、顧客の“ありたい姿”から商機を捉える

インナービューティ市場の本質は、「美容か健康か」というカテゴリーの選択ではなく、「自分はどうありたいか」を起点に商品を選ぶ時代へと変化していることにあります。企業に求められるのは、成分や機能を伝えるだけでなく、その先にある「どんな自分になれるのか」「どんな毎日を楽しめるのか」まで提案することです。若年層の推し活から、更年期・シニア世代の自分らしい生活まで、実現したいことは異なっても、その根底には共通するニーズがあります。「何を摂るか」から「どうありたいか」へ。この視点から美容と健康を捉え直すことが、インナービューティ市場の新たな商機を切り拓く鍵となるでしょう。

 

TPCマーケティングリサーチ

【提供元】 TPCマーケティングリサーチ株式会社

 

TPCマーケティングリサーチは企業理念に「リサ・リューション(Resear-lution)」を掲げ、創業から30年以上にわたり、「食品」「化粧品」「医薬品」「化学」の4つの業界に特化した調査を一貫して手がけてきました。業界に精通し、顧客の課題に応じて最適な調査設計を行う「業界×リサーチのプロ」が、市場規模や競合動向だけでなく、生活者ニーズ、商品・技術トレンド、企業戦略まで多角的に分析します。調査結果をただ報告するのではなく、そこから見えてくる「次に何をすべきか」まで導き出し、商品開発や事業戦略における確かな意思決定と、その先のアクションにつなげます。

 

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