エビデンスベースとは?科学的根拠の重要性と事例(1/3)
「エビデンスベース」という言葉がビジネスシーンで使われることが多くなってきている。従来から医療の現場ではエビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine(EBM))が重視されてきたが、最近では政策立案においてもエビデンスを求める動きが強まっており、内閣府は2019年度新規予算事業からエビデンスに基づく立案「Evidence-Based Policy Making(EBPM)」を推進する。BtoB商品のマーケティングや消費者へのプロモーションでも、エビデンスが重視される流れが今後さらに強まると考えられる。
目次
エビデンスベースとは?
エビデンスベースの意味
エビデンスベースとは「根拠に基づいた」という意味で、英語では「evidence-based」と表記する。「evidence」は「根拠」や「証拠」、「based」は「基づく」という意味。日本では「エビデンスベースド」、あるいは「エビデンスベースト」と表記することもある。
医療現場でエビデンスベースが重視される背景
医療現場では「Evidence-Based Medicine(EBM)」が提唱され、従来から活用されてきた。一部の医師の個人的で偏った経験を根拠にした臨床判断を行うのではなく、多くの人間を対象に行う医学研究(疫学研究)の成果を重視して臨床判断を行うのがEBMだ。
EBMが世界的規模で注目されるようになったのは、次のようなことが影響している。
- 科学的な根拠に基づいた臨床判断の必要性に対する医療者側の意識が高まってきたこと
- 患者や家族がインターネットを利用して医療情報を入手しやすくなったことにより、医療の内容・質に対する患者側の意識が高揚してきたこと
- インターネットを利用して、コクラン共同計画などのエビデンス・データベースから、質の高い臨床研究の結果を効率よく入手できるようになったこと
- 臨床疫学や統計学の進歩により、根拠となる臨床研究のデザインや方法論、妥当性・信頼性を判断するため基準が整備されてきたこと
- 医療の標準化と効率化を求める行政側からの要求が高まってきたこと
(引用:公共社団法人日本理学療法士協会「EBMとは」)
EBMは、このような社会の要求と技術革新を背景にしているが、EBM自体の有効性・効果を証明するエビデンスは乏しいとの指摘もある。医療の標準化と効率性はEBMの本来の目的ではないものの、EBMが医療の質向上と医療費の削減の両面に貢献できるかどうかについて議論がなされている。
EBMに求められること
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学の中山健夫氏はEBMを次のように解説している。
「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、「患者の希望・価値観」、「(個々の)臨床の状況」を考え合わせて、より良い医療を目指そうとするものです。決して臨床家の専門性を否定して、「根拠」となる研究論文だけを頼りにするものではありません。「根拠」を基に、患者さんやご家族が医療者と話し合いながら治療方針を決めていきます。(引用:厚生労働省委託事業「EBM(根拠に基づく医療)普及推進事業Minds」)
また同氏は、エビデンスは一般論として参照にしつつも、患者の個別の状況や医療の行われる場の特性も考慮する必要があると言及する。
EBMは「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、そして「患者の希望・価値観」を考え合わて、より良い医療を目指そうとするものです。近年、この3つの要素に「個々の患者さんの状態や置かれている環境」が追加されました。肥満している糖尿病の患者さんでも、変形性膝関節症を持っていたら(併存症)、膝の痛みのため、一般的には勧められる運動療法を行うことが難しい場合もあります。同じ患者さんでも地域の診療所と大学病院、または医療制度の異なる日本と米国では、期待される医療、行われる医療は変わってきます。今日では、このような視点から、研究の成果である根拠(エビデンス)やそれをまとめた診療ガイドラインを一般論として参照しつつ、患者の個別の状況や、医療の行われる場の特性も考慮して、より良い医療を考える必要があると言えます。(引用:厚生労働省委託事業「EBM(根拠に基づく医療)普及推進事業Minds」)
EBMの広まりに対し、看護現場におけるEvidence-Based Nursing(EBN=エビデンスに基づく看護)に関しては、情報が少ないという課題がある。EBNは、患者に対して最善のケアを提供する手段であり、看護熟練者の経験と知識に基づいて行われてきた従来のケアに代わり、最善の科学的なエビデンス(根拠)を活用して個々の患者にとって最善のケアを提供しようとするもの。「エビデンス」「患者の意向」「臨床経験」「資源」の4要素を総合的に判断して最善のケア内容が決定される。看護現場でも、EBNが重視されるようになっており、例えば1998 年から雑誌「Evidence-Based Nursing(BritishMedicalJournal 社)」が発刊されているものの、いまだ多くは医学関係のもので、看護に関する論文は数少ないと指摘されている。
エビデンスをつくる主な4つの試験
エビデンスをつくるためには主に以下4つの試験がある。
- ランダム化比較試験
RCTと略されることもある。対象をランダムに選び、介入(薬・検査・看護など)を行うグループ(実験群)と介入を行わない群(対照群)に分け、評価を行う方法 - コホート研究
ある集団(コホート)を追跡し、コホート内の人々の間で喫煙、運動、食生活などのイベント発生がどのように異なるのかを調べ、その違いでその後どのような経過をたどるかを見る方法 - 症例対照研究
症例(患者)と「なるべく性別や年齢、住所などが似ている、病気でない対照」の2群を選び、過去にその病気の要因となる状況にどれくらい当てはまっていたかを調べる方法 - 記述的研究
「この患者さんにこのような治療を行ったら回復した」といったデータを記述する方法
さらに試験の用い方で「エビデンスレベル」が以下のように変わってくる。この「エビデンスレベル」とは、信頼の程度とも言える。エビデンスレベルは1が最も高く、5に移行するにつれ信頼の程度が低くなる。
- 1つ以上のランダム化比較試験
- 1つ以上の非ランダム化比較試験
- 1つ以上の分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)
- 症例報告などの記述的研究
- 患者データに基づかない専門家・委員会の報告や意見
(引用:看護ネット「エビデンスがある」とはどういうことか?(聖路加国際大学運営)」)