1988年生まれの製品を“フェムケア”で訴求、その狙いは? LIXIL

以前から販売している女性向けのヘルスケア製品を、「フェムテック」「フェムケア」としてリブランディングを図るのは、特に中堅・大手が取る戦略。それまでのブランドイメージを毀損しないか、その点は要注意だが、フェムテック市場への参入類型の中で最も強いタイプだ(※)。すでに一定の市場認知があり、販路も開拓済み。その上、関連法規を遵守したマーケティングノウハウも蓄積されているため、広告宣伝をスムーズに進行できるスピード感も強みで、PR次第ではこれまで以上の認知拡大を目指せる。そんな戦略でフェムテック市場に参入した一社、LIXILに話を聞いた。※フェムテック市場への参入類型は全4タイプで当ケースはAに該当。詳細はこちらのレポートに掲載

ビデ専用ノズル、1988年に誕生

LIXILが製造・販売する「シャワートイレ」は、「お尻専用ノズル」と「ビデ専用ノズル」の2本を搭載した温水洗浄便座。他社の温水洗浄便座が「お尻」と「ビデ」を兼用で1本のみのノズルとしている中、温水洗浄便座の全機種で2本のノズルを搭載しているのは業界で唯一、同社だけだ(2023年6月時点,LIXIL調べ)

「ビデ専用ノズル」は女性用の局部洗浄機器で、主に生理の時に経血を洗浄するのに使われる。だがそれ以外にも利用シーンは多岐に渡り、おりものの洗浄、産後の悪露の洗浄、尿漏れでリフレッシュしたい時、風邪や介護で入浴が難しい時のシャワーの代用、夏場のムレを解消したい時など、年齢問わず生涯にわたりデリケートゾーンをケアできる。

 

ビデ専用ノズルから水が噴射している様子。お尻とビデ、それぞれ専用ノズルが1本ずつあり、お尻洗浄時にはビデ専用ノズルは隠れているため、便のはね返り汚れが気にならない。たくさんの穴から空気を含んだやわらかい泡沫水を出すことで、やさしい洗い心地を実現。経血の洗浄に便利な、より広い範囲を洗える機能も搭載。

 

そもそも温水洗浄便座が国内で誕生したのは、遡ること1967年。LIXILの前身、伊奈製陶が洗浄便座付きの便器を発売したのが始まりで、その後1981年に、業界初となるビデ機能を搭載した温水洗浄便座を商品化した。発売当初ノズルは1本で、「お尻」と「ビデ」は兼用。レバーの操作でノズルの位置を移動させることで、お尻とビデの機能を使い分けるというものだった。だが同社の女性社員から、「お尻とビデは本来洗う部分が違うし、洗い方も違う」「お尻を洗ったノズルで、デリケートゾーンを洗うのは気になる」という声が挙がったことから、ビデ専用ノズルの開発に着手。力強い水流のお尻専用ノズルに対し、ビデ専用ノズルはやさしい洗い心地やシャワーの角度にこだわり、1988年に商品化。以降、全機種で2本のノズルを搭載している。

 

2023年から「フェムケア」でブランディング

ビデ専用ノズルが誕生してから35年。昨今のフェムテックの盛り上がりを受け、市場での受容性に変化を感じているという。「ビデについて公の場で話すことはこれまで避けられてきたが、最近は話しやすくなってきた。フェムケア関連のイベントでは、女性が興味を持って話を聞いてくれるようになり、ビデの使用状況についても躊躇なく話してくれる」とのこと。

同社がビデ専用ノズルを「フェムケア」としてPRを始めたのは、昨年。35年以上も前から搭載している機能だが、フェムテック市場の成長と共に女性たちのデリケートゾーンケアへの意識が高まっていることから、今こそ2本ノズルの価値が受け入れられるのではないかと、ビデ専用ノズルをフェムケアアイテムと再定義することを決めた。

昨年9月に公式サイトで、同社が開発するトイレを「女性にやさしいトイレ」として、ビデ専用ノズルの魅力を紹介。同年12月には、フェムテックジャパンアワード2023(主催:フェムテックジャパン)の銀賞を受賞。今年3月には、体の仕組みやプライベートゾーンなどについて学ぶ子ども向けのイベントで、ビデ専用ノズルを紹介する教育絵本を参加者に配布した。

 

3月に開催したイベントの様子。対象は小学3〜6年生。参加した親子は、体の仕組みや男女の違いなどを学んだ。

イベントで配布した教育絵本。プライベートゾーンの場所と、プライベートゾーンをキレイにする方法を掲載。女児向けには、経血が出た時の対処法として、シャワートイレの活用を紹介。「女の子には、赤ちゃんの通り道と出口があって、成長していくと黄色いお水や赤い血が出るよ。優しくふいて、血が出たときはシャワートイレで洗うことが大切だよ」

 

予告映画風のプロモーション動画も3月に公開した。温水洗浄便座の全機種に2本のノズルを搭載しているのは業界唯一であるにも関わらず、この事実が多くの人に認知されていないことを逆手に取り、エンタメ性の高いストーリー展開で制作した。読者の皆さんも、ぜひご覧あれ。全世界が感動した衝撃の真実とはーー?

 

 

 

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